年々増加してきている低侵襲の脳血管内治療で実際に遭遇したトラブルを再現し,リカバリーするための対処法を解説した脳動脈瘤編の続編.トラブルシューティング法の選択肢を紹介することで施術者の判断力を養い,また,さらに知識を深めるための解説やコツやピットフォール,ワンポイントアドバイスなど,臨場感あふれる紙面構成で,トラブル対処の方法を身につけることができる格好の書.
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目次
はじめに
総論
トラブルシューティング総論
Ⅰ 頚動脈ステントにおけるトラブル
Case1 ガイディングカテーテルが上がらない,安定しない
Case2 デバイスが狭窄部を通過しない
Case3 狭窄が拡張しない
Case4 ステントが移動してしまった
Case5 術中,フィルターが閉塞した
Case6 デバイスがステントと干渉して挿入できない
Case7 デバイスがガイディングカテーテルに回収できない
Case8 ステント遠位で閉塞を来した
Case9 ステント内に陰影欠損を認める
Case10 末梢塞栓を来した
Case11 術後に頭痛を訴えた
Case12 術後に急性閉塞を来した
Ⅱ 急性閉塞におけるトラブル
Case13 閉塞部にアクセスできない
Case14 どこまで再開通させるか
Case15 再開通が得られない場合にどうするか
Case16 急性期にステントを留置するか
Case17 血栓回収後,解離を来した
Case18 マイクロカテーテルで血管を穿孔した
Case19 血栓回収後,別の血管が閉塞した
Ⅲ 頭蓋内/外病変におけるトラブル
Case20 拡張後,extravazationを認めた
Case21 呼吸性変動でステントの位置が決められない
Case22 穿刺部が腫脹してきた―穿刺部合併症への対応―
索 引
あとがき
◇さらに極める!
ステント用ガイドワイヤーを知る
バルーンカテーテルを知る
頚動脈用ステントを知る
吸引カテーテルを知る
プロテクションデバイス(EPD)を知る
MO.MA ultraを知る
IVUSを知る
CAS後の血栓症と抗血栓療法
頭蓋内血管の基本
過灌流の予測と対応を知る
急性閉塞を避けるには
再開通用ガイディングシステムを知る
Penumbra システムを知る
ステントリトリーバーを知る
頭蓋内動脈用バルーンを知る
頭蓋内ステントを知る
最新エビデンスと出血合併症の考察
ENT(embolization to new territory)を知る
術中出血を避けるには
頭蓋外椎骨動脈狭窄に対する血管内治療の適応について
鎖骨下動脈狭窄・鎖骨下動脈閉塞に対するステント留置術
仮性動脈瘤の治療とエコーガイド下圧迫法のポイント
◇Dr.吉村のワンポイントアドバイス
血管内治療をスキルアップするには?
合併症ゼロを目指したCAS
ステントの選択について
GuardWireがdeflationできない,抜去できない時の対応
MO.MA ultra誘導のコツ
CASにおける準備
時間短縮の工夫
脳底動脈の枝をどこまで開通させるか?
エビデンスをどう考えるか?
緊急避難処置と倫理的な問題について
血管穿孔時の対応について
血管破裂の予防と対応について
椎骨動脈起始部のステント留置術にプロテクションは必要か?
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序文
虚血性脳血管障害に対する血管内治療は,外科的治療に比べ低侵襲であり,超高齢化社会を迎えて年々増加傾向にあります.ただし冠動脈や末梢血管と違い,頚動脈や脳血管においては独特の合併症を来しうることも知られています.例えば血管を拡張した際にプラークや血栓が末梢に飛ぶことによる脳梗塞,バルーンやワイヤーによる血管損傷や頭蓋内出血,さらには過灌流症候群などもあります.これらは対応を誤ると重度の合併症となってしまいますので,トラブルシューティング法の習得は治療医にとって必須といえますが,そもそもトラブルを避けることも重要です.
そこで,まず本書の『総論』では,頚動脈ステント留置術,頭蓋内血管形成術,急性期血栓回収療法の代表的な3手技において来しやすい合併症を列挙し,それぞれを避けるための工夫を紹介しました.
次に『各論』では実際のトラブル事例を呈示しました.「あなたならどうする?」のところでは,治療現場にいるつもりになって,どうしたらよいかじっくり考えてみて下さい.そしてページをめくったら,自分の想定した方法との相違点について考えてみて下さい.この作業を繰り返し行うことでトラブルシューティングの引き出しが増えていきます.また「さらに極める」ではその治療やシューティングに関わるデバイスや技術の知識を掘り下げられるようになっています.正しい知識を持ち,機器の操作法を知っておくことはこの治療において極めて重要です.ぜひしっかりと読み込んで,機会があるごとにデバイスに触れてみて下さい.
さて,虚血性脳血管障害に対する血管内治療においては,その標準的手技を習得するのは比較的容易です.しかし動脈硬化の高度な患者を治療するため,実際には様々なピットフォールが存在し,治療合併症は決して少なくありません.したがって,治療前にそれぞれの治療におけるトラブルシューティング法を再確認し,スタッフと知識を共有しておく必要があります.ぜひ皆さんで本書を活用していただき,明日からの治療成績を向上させていただきたいと思います.
本書においては記載に慎重を期したつもりですが,お気づきの点やさらなる対処法があれば,ぜひ私までお知らせ下さい.皆さんの治療の成功を心から祈っています.
2015年6月 兵庫医科大学脳神経外科学講座主任教授
吉村紳一