本書は 鎮痛薬・抗菌薬・免疫抑制薬・抗がん剤などの治療薬と造影剤を含め,薬剤性腎障害を起こしやすい薬剤の投与法と対処法および腎機能低下時の薬剤投与について,ガイドライン等のエビデンスを基に基礎から臨床までをQA形式でコンパクトにわかりやすく解説.また,臨床で活用できるよう,腎機能低下時の薬剤投与一覧(約1,500製剤)等を掲載.
腎臓内科専門医・研修医,一般内科医,薬剤師など必読の書.
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目次
編集にあたって
執筆者一覧
目 次
おもな略語一覧
総論
A 疾患概念・分類・定義
Q1 薬剤性腎障害とはどういう病気ですか?
Q2 薬剤性腎障害の分類を教えてください.
Q3 薬剤性腎障害と急性腎障害(AKI)との関連を教えてください.
Q4 非可逆的な薬剤性腎障害と慢性腎臓病(CKD)との関係を教えてください.
B 診 断
Q5 薬剤性腎障害の診断基準について教えてください.
Q6 薬剤性腎障害ではどのような症状がみられますか?
Q7 尿中好酸球検査はどのような薬剤性腎障害の診断に有用ですか?
Q8 尿細管障害マーカー検査(尿中NAG,L-FABP)は,どのような薬剤性腎障害に有用ですか?
Q9 炎症核医学検査(ガリウムシンチグラフィ)は,どのような薬剤性腎障害の診断に有用ですか?
Q10 腎生検はどのような薬剤性腎障害の診断に有用ですか?
C 疫 学
Q11 薬剤性腎障害の発生率・有病率・発症年齢・原因薬剤の割合について教えてください.
Q12 薬剤性腎障害の腎病理組織の特徴を教えてください.
D 治 療
Q13 薬剤性腎障害の治療において被疑薬の中止は有用ですか?
Q14 薬剤性急性間質性腎炎の治療において,副腎皮質ステロイドは有用ですか?
Q15 薬剤性腎障害での血液浄化療法の適応について教えてください.
各論
A 鎮痛薬
Q16 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)による腎障害にはどのようなものがありますか?
Q17 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)によるネフローゼ症候群の特徴を教えてください.
Q18 COX-2選択阻害薬は腎障害を起こしにくいですか?
Q19 アセトアミノフェンは腎障害を起こしやすいですか?
B 抗菌薬
Q20 抗菌薬による腎障害にはどのようなものがありますか?
Q21 バンコマイシンによる腎障害とはどのようなものですか?
Q22 バンコマイシンによる腎障害を予防するための治療薬物モニタリング(TDM)はどのように行いますか?
Q23 アミノグリコシド系薬による腎障害を予防するためのTDMはどのように行いますか?
Q24 腎機能障害時でも投与法の調整を必要としない抗菌薬はありますか?
Q25 スルファメトキサゾール・トリメトプリム(ST合剤)による電解質異常とはどのようなものですか?
Q26 結核治療中に発症した急性腎障害の鑑別診断をあげてください.
Q27 アシクロビルによる腎障害とはどのようなものですか?
C 生活習慣病治療薬
Q28 レニン-アンジオテンシン系阻害薬による腎障害,電解質異常とはどのようなものですか?
Q29 レニン-アンジオテンシン系阻害薬による腎障害のリスク因子は何ですか?
Q30 利尿薬による電解質異常にはどのようなものがありますか?
Q31 腎障害時の血糖降下薬の使い方と注意点を教えてください.
Q32 スタチンによる腎障害とはどのようなものですが?
Q33 腎障害時のフィブラート系薬の使い方と注意点について教えてください.
Q34 腎障害時の尿酸低下薬の使い方と注意点について教えてください.
D 抗がん薬
Q35 抗がん薬による腎機能障害にはどのようなものがありますか?
Q36 シスプラチン腎症とはどのようなものですか?
Q37 シスプラチン腎症の治療法と予防法について教えてください.
Q38 カルボプラチン投与の際に用いられるCalvertの式について教えてください.
Q39 メトトレキサートによる腎障害とはどのようなものですか?
Q40 メトトレキサートによる腎障害の予防法を教えてください.
Q41 メトトレキサートによる腎障害の治療として血液浄化療法は有用ですか?
Q42 VEGF阻害薬による腎障害とはどのようなものですか?
Q43 抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)はどのような抗がん薬で起こりやすいですか?
E 免疫抑制薬
Q44 カルシニューリン阻害薬による腎障害とはどのようなものですか?
Q45 mTOR阻害薬による蛋白尿はどうして出現するのですか?
F 造影剤
Q46 造影剤腎症の定義を教えてください.
Q47 侵襲的検査(心臓カテーテル検査)における造影剤腎症について教えてください.
Q48 非侵襲的検査における造影剤腎症について教えてください.
Q49 使用するヨード造影剤の種類による造影剤腎症の発症の差はありますか?
Q50 生理食塩液の経静脈投与は造影剤腎症の発症予防に有用ですか?
Q51 炭酸水素ナトリウムの投与は造影剤腎症の発症予防に有用ですか?
Q52 造影剤腎症が発症した場合,どのように対処したらよいでしょうか?
Q53 腎障害時のガドリニウム造影剤の投与方法を教えてください.
Q54 腎障害時のガドリニウム造影剤の投与においてどのような副作用に注意が必要ですか?
G 薬剤と水・電解質異常
Q55 下剤や利尿薬の乱用による腎障害にはどのようなものがありますか?
Q56 高マグネシウム血症を起こしやすい薬物を教えてください.
Q57 高カルシウム血症を起こしやすい薬物を教えてください.
Q58 腎性尿崩症を起こしやすい薬物を教えてください.
Q59 腎障害時の高カロリー輸液の注意点を教えてください.
H その他の薬剤
Q60 リウマチ治療薬による腎障害にはどのようなものがありますか?
Q61 抗甲状腺薬による腎障害とはどのようなものですか?
Q62 薬剤誘発性ループスはどの薬剤で起こりやすいですか?
Q63 悪性症候群を起こしやすい薬物を教えてください.
Q64 横紋筋融解症を起こしやすい薬剤を教えてください.
Q65 腎障害時の骨粗鬆症治療薬の使い方と注意点について教えてください.
Q66 腎障害時の認知症治療薬の使い方と注意点について教えてください.
Q67 腎障害時の消化性潰瘍治療薬の使い方と注意点について教えてください.
Q68 腎障害時の抗凝固血栓薬の使い方と注意点について教えてください.
I 腎機能障害時の薬物投与法
Q69 腎排泄性薬物の特徴を教えてください.
Q70 Giusti-Hayton法とはどのようなものですか?
Q71 イヌリン・クリアランスは最も正確な糸球体濾過量の測定法ですか?
Q72 薬物投与設計のための腎機能評価法として推算糸球体濾過量(eGFR)は適していますか?
Q73 透析患者の薬物投与法の注意点を教えてください.
J 高齢者・小児
Q74 高齢者の薬剤性腎障害の特徴を教えてください.
Q75 高齢者の腎機能障害時に慎重な投与を要する薬物にはどのようなものがありますか?
Q76 小児の薬剤性腎障害について教えてください.
付 録
表1:薬剤性腎障害原因薬物一覧表
表2:腎機能低下時の主な薬物投与量一覧
薬剤名索引
索 引
Column目次
薬剤性腎障害の各病型の実例
抗菌薬によるアレルギー性機序のAINの症例提示
PET検査
セレコキシブによる薬剤性腎障害(DKI)
アシクロビル脳症
腎移植後蛋白尿管理の重要性
Giusti-Hayton法を用いた投与量調節の実際
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序文
編集にあたって
わが国には末期慢性腎不全のために透析療法を受けている患者が32万人以上おり,新たに維持透析を要する患者,腎移植を要する患者はいまだ増加を続けている.その背景には悪い生活習慣に根ざした糖尿病,高血圧,動脈硬化など生活習慣病に長期に罹患したのちに,慢性腎臓病発症に至る患者の増加がある. 実際わが国には軽度から中等度の腎機能の低下した慢性腎臓病患者が1,300万人以上存在しており,その大半が中高齢者である.さらにこれらの中高齢の生活習慣病や慢性腎臓病患者は,糖尿病,高血圧,脂質異常症治療のために薬剤を服用すると同時に,経過中に発症する様々な合併症,偶発症に対しても適宜薬剤を処方される.
腎臓は様々な薬剤の排泄経路であり,代謝臓器でもある.腎機能障害があれば,腎臓を排泄・代謝経路とする様々な薬剤が容易に体内に蓄積し,血中濃度の上昇から様々な障害をもたらす.また正常な腎機能であっても排泄のために,ときに尿中で濃縮されて腎組織が暴露される.またアレルギー,免疫反応のために腎機能障害をきたす場合もある.
このように薬剤治療経過中に,新たに腎機能障害を発症する可能性や,腎機能障害を持った患者の適切な薬剤投与法を知ることで,薬剤副作用を回避する努力を怠ってはならない.
このような背景のもと,2016年2月に日本医療開発機構 腎疾患実用化研究事業「慢性腎臓病の進行を促進する薬剤等による腎障害の早期診断法と治療法の開発(研究代表者 成田一衛)」の薬剤性腎障害の診療ガイドライン作成委員会(委員長 山縣邦弘)のもとで「薬剤性腎障害診療ガイドライン2016」が発刊された.本書は「薬剤性腎障害診療ガイドライン2016」の内容をQ&A形式にして項目を分割し,わかりやすさを重視した解説書となるように作成されたものである.
各項目は薬剤性腎障害の概念,分類,診断と治療を概説する総論部分と薬剤性腎障害をきたす様々な薬剤群の解説や,腎機能障害時の薬剤投与設計に実践的に役立つ投与量,投与法の決め方,さらに腎機能低下時の薬剤投与量一覧(約1,500製剤)から構成されている.さらに本解説書では「薬剤性腎障害診療ガイドライン2016」で扱わなかったヨード造影剤やガドリニウム造影剤,抗がん剤化学療法も対象として加えた.
本書により,様々な病態時に使用する薬剤により発症する薬剤性腎障害の特徴,診断法,対処法を知ると同時に,腎機能障害時の様々な病態に合わせた適切な薬剤の選択,投与法,投与量の設定が可能となることを目指している.本書を参考とすることで,薬剤性腎障害を発症回避,早期発見による重症化予防を実現し,日常診療の一助となることを強く願う.
2017年1月
山縣邦弘,臼井丈一,成田一衛,寺田典生,平田純生