知ってほしい 乳幼児から大人までのADHD・ASD・LD
ライフサイクルに沿った 発達障害支援ガイドブック診断と治療社 | 書籍詳細:ライフサイクルに沿った 発達障害支援ガイドブック
母子愛育会愛育相談所所長
齊藤 万比古 (さいとう かずひこ) 編集
国立成育医療研究センター副院長,こころの診療部部長
小枝 達也 (こえだ たつや) 編集
信州大学医学部附属病院子どものこころ診療部部長
本田 秀夫(ほんだ ひでお) 編集
初版 A5判 並製 192頁 2017年06月10日発行
ISBN9784787822550
定価:3,300円(本体価格3,000円+税)冊
発達障害の代表的な領域であるADHD,ASD,LDについて,就学,就職,結婚,子育てなどライフサイクルに沿った課題を取り上げ,支援のポイントを具体的に解説.二次障害と関連問題への治療的アプローチ,制度や就労支援など現場で役立つ知識も盛り込み,医師をはじめとした医療関係者から学校関係者,福祉・行政関係の方にまで広く読んでいただきたい一冊.
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目次
序 文 齊藤万比古
執筆者一覧
●第1章 ADHD・ASD・LDの基本知識
1 注意欠如・多動症(ADHD) 齊藤万比古
2 自閉スペクトラム症(ASD) 本田秀夫
3 学習症(LD) 小枝達也
●第2章 ライフサイクルに沿った具体的な治療と支援
1 注意欠如・多動症(ADHD)
a 幼児期・学童期における課題と支援 宮島 祐
Case Report 1 幼児期・学童期ADHD
話を聞かず,忘れ物が多い小学1年生
b 思春期・青年期における課題と支援 根來秀樹,大西貴子
Case Report 2思春期・青年期ADHD
中学校入学後に自己管理の困難が露呈した16歳男性
c 壮年期・老年期における課題と支援 太田豊作,飯田順三
Case Report 3 壮年期・老年期ADHD
忘れないように書いたメモを見るのを忘れる42歳女性
2 自閉スペクトラム症(ASD)
a 幼児期・学童期における課題と支援 日戸由刈
Case Report 4 幼児期・学童期ASD
診断に葛藤がある母親への支援
b 思春期・青年期における課題と支援 髙橋 優,青木省三
Case Report 5 思春期・青年期ASD
友人関係が築けず,窃盗行為の認められる17歳男性
c 成人期における課題と支援 米田衆介
Case Report 6 成人期ASD
統合失調症と誤診された高機能ASDが,デイケアで成長して就労に至った一例
3 学習症(LD)
a 幼児期・学童期における課題と支援 小枝達也
Case Report 7 幼児期・学童期LD
学校と連携し音読が改善したdyslexia例
b 思春期・青年期における課題と支援 関あゆみ
Case Report 8 思春期・青年期LD
中学進学後,学習意欲が著明に低下した14歳男児
c 成人期に継続する課題と支援 若宮英司
Case Report 9 成人期に継続するLD
深い障害理解がキャリア開発につながった事例
●第3章 発達障害と二次障害・関連問題とその治療的
アプローチ
1 二次障害・関連問題とは何か 齊藤万比古
2 気分障害 岡田 俊
3 強迫症 岡田 俊
4 社交不安症 牛島洋景
5 チック 金生由紀子
6 摂食障害 田中恭子
7 不登校・ひきこもり 牛島洋景
8 うつ病 齊藤卓弥
9 暴力・衝動的行為 桝屋二郎
10 インターネット・ゲーム依存 作田亮一
11 アルコール・薬物依存 朝倉 新
12 パーソナリティ障害 松田文雄
13 睡眠‒覚醒障害群 岩垂喜貴
●第4章 支援に役立つ知識
1 発達障害に関する診断書・意見書の種類と書き方 小石誠二
2 特別支援教育時代の学校制度 田中裕一
3 発達障害のある大学生への支援 高橋知音
4 就労支援 梅永雄二
5 地域若者サポートステーションと発達障害者支援 池田彩子
6 児童精神科における入院治療 岩垂喜貴
7 精神科における入院治療 來住由樹
8 発達障害者支援のための福祉制度 日詰正文
索 引
Column
・新たなADHD治療の選択肢:グアンファシン塩酸塩徐放錠(インチュニブ(R)) 岡田 俊
・当事者の本の紹介:「読めなくても,書けなくても,勉強したい―ディスレクシアのオレなりの読み書き」
井上 智・賞子著,ぶどう社 小枝達也
・薬剤の使いはじめ,やめどきの見極め方 牛島洋景
・児童精神科医からみた発達障害 岩垂喜貴
・職場でのキーパーソンへのサポート 梅永雄二
・トランジション〜子どもはやがて大人になる〜 小枝達也
・精神科の救急対応 來住由樹
・就労関係のおもな相談支援機関 池田彩子
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序文
編者を代表して本書の上梓にかかわった編者や著者の思いについて述べることで,本書を手に取った読者の皆様へのメッセージとしたい.
ふと気づけば,現在わが国では「発達障害」という言葉が巷にあふれ,テレビでもインターネット上でも頻繁に取り上げられる話題となり,関連する書物が書店の驚くほど大きなスペースを占めている状況にある.私たち児童精神科や小児科,あるいは精神科の専門家にとって,それは以前から求め続け,ようやく到達することのできた喜ぶべき状況であるはずなのに,ここまで一般的な概念になり,臨床の現場で問題の背景にある発達障害を疑うのが当たり前になってきたことで,逆に何か大切なことが失われかけていないかという思いを禁じえないのである.
今あちこちで語られる発達障害の概念とは私たちがこれまで積み上げてきたそれと同じものだろうか.周知されることでスティグマから脱することを望んだのに新たなスティグマをつくっていないだろうか.わかったつもりになっている発達障害当事者の思いや思考を私たちは本当に理解できているのだろうか.周囲の勝手な思い込みでむしろ彼らを追い詰めていないだろうか.そもそも,本当に彼らのよき伴走者あるいは支援者として働けているのだろうか.日々発達障害にかかわる専門家として私はこのような疑問をいつも感じてしまう.おそらくこれらの問いは逃げ水のようなものであり,私たちは専門家としての命が続く限りその解答を求め続けるしかないのであろう.これらの思いを抱えて発達障害の当事者やその家族にかかわるなかで,何が必須かつ均衡のとれた情報であり,何が本質なのかと問い返す作業は,臨床家としての自己研鑽の道そのものなのであろう.
そのような思いでいるときに本書の編集に取り組む機会を与えられた.幸いにして,このような思いを共有できる3名の編集者で本書を組み立て編み上げる作業に臨むことができた.本書の「知ってほしい 乳幼児から大人までのADHD・ASD・LD ライフサイクルに沿った 発達障害支援ガイドブック」といういささか長い題名は,発達障害の代表的な領域であるADHDとASDとLDについて,子どもから大人に至るまでの各年代特有な課題を取り上げ,可能な限り具体的に解説することを目指すという意味で名づけられた.時の勢いのままに発達障害支援にかかわり,かかわることで初めてその多様さ,複雑さ,あるいは微妙さに気づき困惑した多くの専門家,とりわけ若き専門家にとって本書は絶好のヒントを提供する一条の光となることだろう.発達障害者の家族にとっても,わが子の,あるいはわが配偶者の特性を知り,どのような支援が必要であるかを考え,よりよき関係を築いていくうえでのよき指南書となるのではないだろうか.そして何よりも,発達障害の当事者に自らを知り,支援を見出し,明日の自分を信じることのできる手がかりと希望を提供する書の一つとなれたら望外の喜びである.
桜の花びらが舞う朝に
母子愛育会愛育相談所所長 齊藤万比古