国立病院機構京都医療センター臨床研究センター
成瀬 光栄(なるせ みつひで) 編集
公益財団法人先端医療振興財団先端医療センター病院
平田 結喜緒(ひらた ゆきお) 編集
国立研究開発法人国立国際医療研究センター病院糖尿病内分泌代謝科
田辺 晶代(たなべ あきよ) 編集
筑波大学医学医療系臨床医学域スポーツ医学・検査医学
竹越 一博(たけごし かずひろ) 編集協力
聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院代謝・内分泌内科
方波見 卓行(かたばみ たくゆき) 編集協力
国立病院機構京都医療センター内分泌・代謝内科
立木 美香(ついき みか) 編集協力
改訂第3版 B5判 並製 160頁 2017年11月30日発行
ISBN9784787822628
定価:4,950円(本体価格4,500円+税)冊
わが国初の褐色細胞腫の専門書としてその診療方法を詳説し,好評を博したマニュアルの第3版.様々な原因遺伝子の発見や新しい各種画像診断法の登場,各種分子標的薬の臨床試験に131I-MIBG内照射治療の先進医療の実施など,褐色細胞腫の診療における大きな変化を最新情報として追加,わかりやすく解説した.
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目次
推薦のことば 三浦幸雄
『内分泌シリーズ:褐色細胞腫診療マニュアル』改訂第3版刊行にあたって 成瀬光栄
序文 (改訂第2版) 成瀬光栄
序文 悪性褐色細胞腫の課題と動向(初版) 成瀬光栄
執筆者一覧
1 カテコールアミンの発見と歴史 野城孝夫
2 カテコールアミンの合成・分泌・代謝調節 野城孝夫
3 カテコールアミンの生理作用 野城孝夫
4 細胞内情報伝達系 竹越一博
5 遺伝子変異による腫瘍形成の成因・発症機序 竹越一博
第1章 褐色細胞腫
A 総論
1 発見の歴史と病態の概要 三浦幸雄
2 わが国における褐色細胞腫の疫学調査―厚生労働省研究班(竹田班)― 宮森 勇
3 わが国における褐色細胞腫の疫学調査―厚生労働省研究班(名和田班)― 髙栁涼一
4 わが国における褐色細胞腫の疫学調査―厚生労働省研究班(成瀬班)― 成瀬光栄
B 診療ガイドライン
1 褐色細胞腫診療指針2012の改訂方針:診療ガイドライン2018に向けて 成瀬光栄
2 米国内分泌学会:褐色細胞腫・パラガングリオーマの診療ガイドライン2014 成瀬光栄他
C 診断
1 スクリーニングの対象と方法 柴田洋孝
2 機能検査 方波見卓行他
3 カテコールアミン測定法 竹越一
4 画像診断 織内 昇
5 MIBGシンチグラフィにおける甲状腺ブロック 萱野大樹他
6 悪性と良性の鑑別点 成瀬光栄他
7 症候性褐色細胞腫(MEN,VHL,NF1) 平田結喜緒
8 偽性褐色細胞腫 宗像正徳
9 代謝異常と心血管系臓器障害 田辺晶代
D 治療
1 薬物療法 橋本重厚
2 褐色細胞腫クリーゼの治療 立木美香他
3 外科的治療 奥野 博
4 術後予後・経過観察法 横本真希他
E 病理組織診断
病理診断と悪性度 木村伯子
F 遺伝子解析
1 遺伝性褐色細胞腫・パラガングリオーマ症候群の遺伝子解析 竹越一博他75
2 遺伝子解析実施の留意点 櫻井晃洋他
3 遺伝子解析による利益と課題 櫻井晃洋他
第2章 悪性褐色細胞腫
A 悪性診断に必要な画像検査
CT,MRI,MIBGシンチグラフィ,FDG PET 織内 昇
B 治療
1 薬物療法①:骨転移の薬物療法① 髙橋克敏
2 薬物療法②:骨転移の薬物療法② 横本真希他
3 薬物療法③:カテコールアミン合成阻害薬,α-methylparatyrosine 方波見卓行他
4 薬物療法④:慢性便秘に対する治療 難波多挙他
5 薬物療法⑤:化学療法―CVD療法を主とする― 田辺晶代
6 薬物療法⑥:分子標的薬(臨床),CVD療法以外の抗悪性腫瘍薬 方波見卓行他
7 131I-MIBG内照射療法―現状とMIBG内照射療法ガイドライン― 萱野大樹他
8 骨転移病巣に対する外照射療法および内照射療法 萱野大樹他
第3章 特殊な条件下における診断と治療
1 妊婦における褐色細胞腫 立木美香
2 小児の褐色細胞腫 室谷浩二他
1 血中遊離メタネフリン測定法および血中遊離メトキシチラミン測定法 竹越一博
2 68Ga標識オクトレオタイドによるPET/CT診断 野橋智美他
3 クロモグラニン測定の意義 早川惠理
4 SDHB免疫染色 木村伯子
5 わが国の褐色細胞腫対策PHEO-J 成瀬光栄
6 患者会「褐色細胞腫を考える会」の取り組み 立松秀樹
7 米国患者会pheo para TROOPERSの動向 成瀬光栄
Column
代謝経路の異常は発癌と密接に関連している(意外にして重要な関連性) 竹越一博
血中遊離メタネフリンについて 竹越一博
Information
国際褐色細胞腫シンポジウム
Topics
内分泌代謝専門医のアンケート結果から①:褐色細胞腫の診療の実態 成瀬光栄
内分泌代謝専門医のアンケート結果から②:褐色細胞腫の診断面での課題 成瀬光栄
内分泌代謝専門医のアンケート結果から③:褐色細胞腫の治療面での課題 成瀬光栄
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序文
『内分泌シリーズ:褐色細胞腫診療マニュアル』改訂第3版刊行にあたって
褐色細胞腫は希少・難治性疾患である.①カテコールアミン測定法,②画像診断,③腹腔鏡下手術,などの基本的な診療技術が確立されてきた反面,副腎偶発腫瘍としての発見の増加,高血圧クリーゼや腫瘍破裂による緊急症の発症,約10%以上における転移性病変の出現,遺伝性疾患としての側面など,従来とは異なる臨床的課題が注目されてきている.著者らは2008年以降,厚生労働省難治性疾患克服研究事業研究班,日本内分泌学会臨床重要課題検討委員会などの活動を通じて,褐色細胞腫の診療水準向上のための様々な対策に取り組んで来た.その一貫として,2008年に刊行したのが診断と治療社の「内分泌シリーズ」の一つ『褐色細胞腫診療マニュアル』である.本書は,本シリーズのなかで『原発性アルドステロン症診療マニュアル』『クッシング症候群診療マニュアル』とともに副腎シリーズの一つとなり,好評を博したと聞いている.その後,3年間の進歩を踏まえて2011年に改訂版を発刊したが,それ以降は現在まで改訂を行っていなかった.
しかしながら,わが国の褐色細胞腫診療指針2012,米国内分泌学会褐色細胞腫・パラガングリオーマ診療ガイドライン2014などの発表に続き,診断における遊離メタネフリンの臨床応用,各種画像診断の進歩と普及,様々な原因遺伝子の発見,遺伝子検査の臨床的位置付けの変化,カテコールアミン合成阻害薬メチロシンの治験実施,悪性例における131I-MIBG内照射治療の先進医療の実施,各種分子標的薬の臨床試験など,この数年間で顕著な進歩が見られ,褐色細胞腫の診療は大きく変化している.
そこで今回,診断,治療面で最新の情報を追加すべく本書を改訂することとなった.前回の改訂に際して執筆いただいた先生方に加えて,新項目ではこの分野で活躍されている気鋭の先生方にも執筆をお願いした.改訂第3版『褐色細胞腫診療マニュアル』が,褐色細胞腫の診療水準向上に貢献できることを祈念するととともに,執筆にご協力いただいた先生方に改めて深謝申し上げる次第である.
2017年10月
国立病院機構京都医療センター
臨床研究センター 特別研究員
成瀬光栄
序文(改訂第2版)
褐色細胞腫は,①カテコールアミン測定法,②画像診断,③腹腔鏡下手術,の進歩により,その診断と治療が確立したと思われた時期がある.しかしながらその後,重要な臨床的課題として注目されてきたのが悪性褐色細胞腫である.悪性褐色細胞腫は単に悪性で治療法が未確立であることのみならず,初回診断時には良性と診断されていた例で,術後1~20年もの長期経過後に骨転移や局所再発が出現するという極めて異例の経過をとる点が,その臨床的課題の困難さを増強させている.治ったと思っていた病気が転移というかたちで再発することは,患者自身にとっても,また治療を担当した医師にとっても,重大な問題である.さらに,本疾患への対策を困難にしている背景として,患者数が少なく,全国の多施設の多様な診療科で治療されている現状がある.このことが情報の共有や診療水準の向上における障壁となっている.そこで筆者らは,診断と治療社の「内分泌シリーズ」の一つとして『褐色細胞腫診療マニュアル』を2008年に刊行した.本書は,本シリーズのなかで『原発性アルドステロン症診療マニュアル』『クッシング症候群診療マニュアル』とともに副腎シリーズの一つとなり,好評を博したと聞いている.
しかし,発刊後3年が経過し,その間,従来保険適用のなかった123I-MIBGシンチグラフィが褐色細胞腫の診断に適用となったこと,18F-FDG PETが悪性褐色細胞腫での転移病変の検索に使用可能となったことなど,診断面で大きな変化がみられた.また悪性褐色細胞腫の治療においても,根本的な治療法は未確立であるが,患者QOL向上のための様々な薬物治療に関する経験が集積されてきている.そこで今回,診断,治療面で最新の情報を追加すべく本書を改訂することとなった.初版の執筆に尽力いただいた先生方に再度ご無理を申し上げるとともに,新項目ではこの分野で活躍されている気鋭の先生方に執筆をお願いした.改訂版『褐色細胞腫診療マニュアル』が,難治性疾患である褐色細胞腫の診療水準向上に貢献できることを祈念するととともに,執筆いただいた先生方に深謝申し上げる次第である.
2011年12月
国立病院機構京都医療センター
内分泌代謝高血圧研究部 部長
成瀬光栄
序文 悪性褐色細胞腫の課題と動向(初版)
褐色細胞腫は原発性アルドステロン症,クッシング症候群とともに,治癒可能な副腎性高血圧症の代表的疾患と位置付けられている.カテコールアミン測定法と各種の画像検査は確立しており,これらの組み合わせにより,その診断は比較的容易である.αブロッカーによる降圧治療を主とする内科的治療は確立しており,また内視鏡的副腎摘出術を主とする外科的治療も一般的となっている.しかし,褐色細胞腫がほかの疾患と比較して大きく異なる点は,悪性の頻度が高く予後が不良なことである(図1).厚生省副腎ホルモン産生異常症調査研究班(名和田 新班長)の全国疫学調査では,褐色細胞腫の推定患者数は約1,000例でその11%,約100例が悪性褐色細胞腫と推測されている.原発性アルドステロン症では0.2%が悪性であるので,明らかに褐色細胞腫における悪性例が多い.しかも問題は初回診断時に良性か悪性かの鑑別が極めて困難な点である.遠隔転移があれば診断は容易であるが,副腎やその近傍に一側性,単発性腫瘍を認めた場合,通常は「良性」とみなされ,術後は血圧とカテコールアミンが正常化すると長期に経過観察されることはまれである.しかし,数年後に骨転移などの遠隔転移で初めて悪性であることが判明することが少なくない(図2).一般に働き盛りの年齢層に多く,緩徐にかつ進行性に増悪することから,患者への身体的負担は長期に亘り,家族も含めた精神的,経済的負担は計り知れない.さらに診断されても治療法は未確立で明らかに難治性内分泌疾患といえる.
これまで原発性アルドステロン症と比較して注目度ははるかに低かったが,近年,関連した論文数は増加しており,注目度が高まっている(図3).事実,このような悪性褐色細胞腫の現状を打破するべく,国内外で新たな取り組みがみられる.海外では米国NIHのグループを中心とした褐色細胞腫に関する国際組織PRESSORが設立され,患者家族会も積極的に立ち上げられている.一方,わが国では日本内分泌学会により臨床重要課題に指定され,検討委員会の活動を始めている.悪性褐色細胞腫はまれな疾患であるため,現状を改善するには図4に示した様々な取り組みが必要と考えられる.検討委員会による「診療指針」は褐色細胞腫を経験し得るすべての医師を対象としたもので,実際に患者を経験した場合に実施すべき標準的な診断,治療法に加え,臨床的評価は確定していないが,治療成績の向上に貢献し得る診療技術を実践的にまとめるものである.これに対して,本書は主に内分泌代謝の診療に従事する医師,専門医を対象としたもので,個々の項目を専門医が担当し,より詳しい情報を提供している.特に,早期診断マーカーと考えられる病理組織診断やSDH遺伝子解析,治療選択肢としての131I-MIBG治療,CVD併用を主とする化学療法に関しては国内外の動向を踏まえて,実施の実際,検査の意義と課題,倫理的問題,成績の現状などに重点をおいた内容とした.本書がわが国における悪性褐色細胞腫の診療水準向上に貢献できれば幸いである.
国立病院機構京都医療センター
内分泌代謝高血圧研究部 部長
成瀬光栄