知的障害や発達障害のある子どもとコミュニケーションをとる際に知っておきたいポイントや心がけておきたいことなどを,イラストでわかりやすく解説.子どもの気持ちを考慮に入れた具体的なことばがけの例も多く紹介している.障害のある子どもにかかわる仕事をする人や指導・支援職の方におすすめの一冊.
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目次
はじめに
執筆者一覧
イントロダクション ~合理的配慮にもとづくコミュニケーションとは
求められる合理的配慮
重要なコミュニケーションへの配慮
第1部 話すときの注意ポイント
1 ワーキングメモリへの配慮
2 子どもの気質,性格,思考
3 言語環境と子どもの関係
4 単語と二語文
5 多語文と助詞(1) 助詞と関係性の理解
6 多語文と助詞(2) 助詞の間違いと修正
7 感情の切り替え(1) 二つの感情
8 感情の切り替え(2) 切り替えことば
9 判断基準を教える(1) 教えたい判断基準
10 判断基準を教える(2) 子どもの社会性
11 判断基準を教える(3) 関わりことば―自分のことを知る
12 判断基準を教える(4) 関わりことば―誤解を解く
第2部 聞くときの注意ポイント
1 映像的な話,まわりくどい話(要領を得ない話の背景)
2 成長,発達する子ども(成熟の途上にある子ども)
3 記録の大切さ(成長を知るためには記録が必要)
4 保護者の話から子どもの姿を知る
(保護者の日常的な情報は重要なニュースソース)
5 関係者から情報を聞く(学校等との連携)
Point of View ~さらに理解を深めるために
① 知的発達障害とは
② 自閉症スペクトラム障害(ASD)
③ 注意欠如⁄多動性障害(AD/HD)
④ 発達性協調運動障害
⑤ 学習障害
⑥ 評価の難しさ
⑦ 神経心理学的な見方(1) 高次脳機能をみる
⑧ 神経心理学的な見方(2) ことばの働きをみる
⑨ 障害のある子への医療
⑩ 障害のある子と福祉
⑪ 障害のある子と教育
⑫ 働く
索 引
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序文
知的障害や自閉症の子たちと関わるようになったのは,大学で心理学を勉強している頃だ.当時,心理学の世界では子どもたちを「被験者(児)」と呼び,発語を促す方法など,さまざまな実験が行われていた.
その頃,1歳や2歳で「障害あり」と診断されたものの,社会の受け入れは不十分だった.幼稚園や保育所に,なかなか入れない状況だった.そこで,診断されたまま放置状態の親子に,自主保育グループなどが支援を行うようになった.筆者が関わるようになったきっかけは,この自主保育グループに参加したからである.40年前の話である.
1990年前後から,障害への見方が変わってきた.一つには,当事者の手記が読まれるようになったからだ.自閉症の感覚の問題は,それ以前から知られていたが,本人の手記により確認された.しかし,手記の影響はそれだけにとどまらなかった.障害があっても,私たちと同じに,「理解されたい」「表現したい」などの思いのあることがわかった.それまで,私たちとの違いにばかり目が行きがちだったのが,共通する部分の多さに気づくようになった.
その後,2000年頃から「本人の意思尊重や自己決定を促す」重要性が言われるようになった.国際的な組織である「世界育成会連盟(インクルージョン・インターナショナル)」の世界会議でも,意思尊重などがテーマとして取り上げられた.それらの動きが,2006年国連で,「障害のある人の権利条約」が採択されることにつながる.21世紀初めての,人権条約となった.
知的障害や発達障害への見方は,時代によって変わってきたし,これからも変遷を繰り返していくであろう.しかし,意思や自己決定の尊重の流れは変わることはない.また合理的配慮のもとに,本人とコミュニケーションを取ることが求められ続けるのは確かだ.
本書が,障害を持ちながらも懸命に生きる人たち,それから懸命に支援する関係者たち,双方の未来を切り開くために役立つことを祈る.
2016年10月
湯汲英史