食物アレルギー児にかかわる専門家へのアンケートから,いま知っておきたい30症例を紹介する.診断や治療に工夫を要した症例,コメディカルや学校関係者との協働が必須であった症例を特に集め,様々な事情を抱えるアレルギー児を適切な治療と良好な経過につなげるための,流れを解説した.コラムには薬剤の使用や検査法の注意点,また患児と保護者へのよりよい対応のしかたを記載し,日常の診察にすぐに役立つ一冊となっている.
関連書籍
ページの先頭へ戻る
目次
序 文
執筆者一覧
Ⅰ 本書で取り上げる疾患概念
疾患概要1 食物アレルギーとは? 福田典正
疾患概要2 花粉-食物アレルギー症候群とは? 吉原重美
疾患概要3 ラテックスアレルギーとは? 松原知代
疾患概要4 アナフィラキシーとは? 山田裕美
疾患概要5 食物依存性運動誘発アナフィラキシーとは? 福田啓伸
疾患概要6 新生児-乳児消化管アレルギーとは? 熊谷秀規
Ⅱ アレルゲンコンポーネントと食物アレルギー関連疾患
概説1 アレルゲンコンポーネントの測定意義 吉原重美
CASE01 花粉-食物アレルギー症候群~ハンノキ関連バラ科による口腔アレルギー例~ 加藤正也
CASE02 ハンノキ関連マメ科(モヤシ)による花粉-食物アレルギー症候群例 宮本 学
CASE03 ラテックス-フルーツ症候群例 中山元子
CASE04 小麦による食物依存性運動誘発アナフィラキシー例~新規アレルゲンコンポーネントの有用性~
福田啓伸
CASE05 モモによる食物依存性運動誘発アナフィラキシー例~モモアレルゲンコンポーネント測定の有用性~
安藤裕輔
Ⅲ 診断に工夫を要した症例・難渋した症例
CASE06 複数回の食物経口負荷試験を要した消化器症状主体の鶏卵アレルギー例 亀田聡子
CASE07 ダブルブラインド法による食物経口負荷試験の有用例 齋藤真理,菊池 豊
CASE08 シングルブラインド法による食物経口負荷試験の有用例 福田典正
CASE09 アナフィラキシーと鑑別を要した頻拍発作例 石井とも
CASE10 パニック発作と診断されていたリンゴによる花粉-食物アレルギー症候群例 山田裕美
CASE11 未摂取食物(クルミ)の食物経口負荷試験によるアナフィラキシー例 北原 望
CASE12 初回摂取(ピーナッツ)による重症アナフィラキシーの幼児例 西田光宏
CASE13 複数食物(ニンジン,ホウレンソウ)同時摂取による食物依存性運動誘発アナフィラキシー例 山口禎夫
CASE14 釣ったサンマ摂取によるアニサキスアレルギー例 松原知代,荒川明里
CASE15 自宅調理のタコ焼きでアナフィラキシーとなったダニアレルギー親子例 松原知代,永井 爽
CASE16 微量摂取物(ゴマ,ピーナッツ)によるアナフィラキシー例 菅野訓子
CASE17 ウズラ卵による消化管アレルギー例 佐藤優子,熊谷秀規
CASE18 新生児-乳児消化管アレルギー例 佐藤優子,熊谷秀規
CASE19 ヒルシュスプルング病が合併した新生児-乳児消化管アレルギー例 福田啓伸
Ⅳ 治療に工夫を要した症例・難渋した症例
CASE20 急速経口免疫療法が有効であった鶏卵アレルギーの7歳例 福島啓太郎
CASE21 母が食物アレルギーを利用した代理ミュンヒハウゼン症候群例 吉原重美
CASE22 症状誘発閾値の上昇が困難だった牛乳アレルギー例 石井とも
CASE23 保護者の自己判断による摂取確認で除去解除を進めていった鶏卵アレルギー例 北原 望
CASE24 経口摂取増量中に好酸球性胃腸炎を発症した例 犬塚祐介,西田光宏
CASE25 牛乳アレルゲン除去調製粉乳(MA-mi®)によるアナフィラキシー例 三井直弥
Ⅴ 医療スタッフ・学校関係者等の介入が重要な症例
概説2 小児アレルギーエデュケーターによる介入と疾患教育の重要性について 福田典正
CASE26 PAEが介入した鶏卵アレルギーとアトピー性皮膚炎合併の自閉症スペクトラム例 飯村昭子
CASE27 PAE(看護師・栄養士含む)と連携対応した頻回誤食例 深谷亜矢
CASE28 PAEと連携して目標量に到達した経口免疫療法(緩徐法)例 廣田直子,福田典正
CASE29 PAE外来を活用して除去解除に至った鶏卵アレルギー例 安生佳津江,福田典正
概説3 教育現場の対応について 吉原重美
CASE30 主治医・学校・教育委員会の連携によりアナフィラキシーを持つ児童生徒への対応が改善した症例
中田智子,吉原重美
索 引
コラム
●正しい判断にもとづいた必要最小限の原因食物の除去のために 池田久剛
●アレルゲンコンポーネント特異的IgE検査
~検査に使用するアレルゲンコンポーネントの精製度の重要性~ 吉原重美
●アニサキスアレルギーの疫学 松原知代,荒川明里
●ダニ経口摂取によるアナフィラキシーについて 松原知代,永井 爽
●Bird-egg syndromeとは何か? 山口禎夫
●エピペン®誤射や,使用が見送られてしまったケース 宮本 学
●獨協医科大学の食物アレルギー教室について 齊藤克枝
●食物負荷試験の保護者の不安について 玉村尚子
●かかりつけ薬局の重要性 須田達也
●大規模災害で明らかになった食物アレルギー支援にかかわる被災地の課題と自治体などにおける防災対策
池内寛子
●獨協医科大学サマーキャンプの紹介 阿部利夫
ページの先頭へ戻る
序文
このたび,第54回日本小児アレルギー学会学術大会の会長という大役を仰せつかり,2017年11月,栃木県宇都宮市にて開催することとなりました.本学術大会では日光東照宮の三猿からヒントを得て,積極的に大会へご参加いただきたいという意味で「見る・言う・聞く」の「新三猿」をロゴといたしましたが,今回,学術大会を主催するにあたって,臨床の場で役立つさらなる情報をこの栃木の地から発信できないかと考えておりました.
そのような折,日本小児アレルギー学会から『食物アレルギー診療ガイドライン2016』が発刊されました.これは5年ぶりの改訂で,「正しい診断に基づいた必要最小限の食物除去」,「原因食品を可能な限り摂取させるにはどうすればよいか」という,いままで以上に積極的な診療の方向性を示しているといえます.さらに,「鶏卵アレルギー発症予防に関する提言」がプレスリリースされたことは,食物アレルギーとその診療についての社会的な関心の高まりを表しているといえるでしょう.
一方で,実際の現場ではどのようなことが起こっているかというと,診断や治療に苦慮する例,患者やその家族への対応に苦慮する例など,困りごとはまだまだたくさんあります.そこで,栃木県小児アレルギー研究会,栃木県小児アレルギーエデュケーターおよび獨協医科大学小児科学教室の教室員,
研究生,関連病院などの医師らによって,現在までの経験から,興味ある食物アレルギー診療に関する症例集を作成することにしました.事前に詳細な症例アンケートへご協力をいただきました先生方,またご執筆をいただきました先生方に心より感謝申し上げます.おかげさまで,知っておくと役立つであろう多くの症例を集めることができました.
本書の特徴として,それぞれの症例をケースファイル形式にて,診断・治療のポイント,患者支援のポイントを簡潔に記載しました.看護師,薬剤師,管理栄養士といった様々な職種のPAE(小児アレルギーエデュケーター),学校関係者,行政担当者にも執筆にご参加いただき,食物アレルギー診療におけるメディカルスタッフとのチーム医療,地域連携の必要性についても言及しました.理解いただきたい疾患概念やトピックスも適宜取り上げ,まさにいま知っていただきたいポイントをコンパクトにまとめました.
本書が,明日からの食物アレルギーの診療に役立つことを心から祈念しております.
2017年10月
獨協医科大学医学部小児科学講座主任教授
吉原重美