本書は,新生児マススクリーニング対象疾患の診療と治療に焦点をあてた2015年版の診療ガイドラインに、疫学,臨床症状,新生児マススクリーニングの結果から診断へ至るまでの鑑別診断フローチャート,成人期の診療の課題,実診療の現場で役立つ情報をまとめたミニコラムなど、新しい要素を多く取り入れた.本書に登場する先天代謝異常疾患の診療に携わる医師必携の書である.
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目次
序 文 井田博幸
新生児マススクリーニング対象疾患等診療ガイドライン2019の発刊に際して 中村公俊
本書で使用される略語一覧
ガイドライン改訂にあたって―基本的な考え方― 大竹明,中村公俊,深尾敏幸
1 代謝救急診療ガイドライン
2 フェニルケトン尿症および類縁疾患
3 メープルシロップ尿症
4 ホモシスチン尿症
5 高メチオニン血症(メチオニンアデノシルトランスフェラーゼ欠損症
6 高チロシン血症1型
7 シトリン欠損症
8 尿素サイクル異常症
9 リジン尿性蛋白不耐症
10 ガラクトース―1―リン酸ウリジルトランスフェラーゼ(GALT)欠損症
11 先天性門脈―体循環シャントによる高ガラクトース血症
12 メチルマロン酸血症
13 プロピオン酸血症
14 イソ吉草酸血症
15 3―メチルクロトニルCoAカルボキシラーゼ欠損症(メチルクロトニルグリシン尿症
16 HMG―CoAリアーゼ欠損症,3―ヒドロキシ3―メチルグルタル酸尿症
17 複合カルボキシラーゼ欠損症
18 βケトチオラーゼ欠損症
19 グルタル酸血症1型
20 脂肪酸代謝異常症:総論
21 極長鎖アシルCoA脱水素酵素(VLCAD)欠損症
22 三頭酵素(TFP)欠損症
23 中鎖アシルCoA脱水素酵素(MCAD)欠損症
24 全身性カルニチン欠乏症(OCTN2異常症
25 カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼⅠ(CPT1)欠損症
26 カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼⅡ(CPT2)欠損症
27 カルニチンアシルカルニチントランスロカーゼ(CACT)欠損症
28 グルタル酸血症2型(複合アシルCoA脱水素酵素欠損症)
29―1 糖原病と糖新生異常症:肝型糖原病
①糖原病Ⅰ型,Ⅲ型,Ⅵ型
②糖原病Ⅳ型
③Fanconi―Bickel症候群
29―2 糖原病と糖新生異常症:筋型糖原病
筋型糖原病
29―3 糖原病と糖新生異常症:その他の糖原病
①糖原病0型(グリコーゲン合成酵素欠損症)
②糖原病0b型(筋グリコーゲン合成酵素欠損症)
29―4 糖原病と糖新生異常症:糖新生異常症
フルクトース―1,6―ビスホスファターゼ(FBPase)欠損症
索 引
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序文
序 文
先天代謝異常症は遺伝性の希少疾患であり,またその症状は非特異的であり,一般臨床現場ではその診断は困難です.一方,フェニルケトン尿症においては早期に食事療法で治療を行うことにより知能障害を防げることが実証されました.これらの臨床的背景から新生児マススクリーニングの有用性が認められ,海外において新生児マススクリーニングが開始されました.
わが国では1977年10月から全国レベルで先天代謝異常症5疾患(フェニルケトン尿症・メープルシロップ尿症・ホモシスチン尿症・ガラクトース血症・ヒスチジン血症〈その後対象外に〉)に対する新生児マススクリーニングが開始されました.その結果,新生児マススクリーニングにより毎年,約50名の先天代謝異常症4疾患の患者さんが診断・治療されていました.ところが2014年に全国都道府県・政令指定都市においてタンデムマスによる新生児マススクリーニングが開始され,対象疾患が6疾患から19疾患に拡大された結果,診断される先天代謝異常症の患者さんは毎年,約200名に増加しました.
前述したように先天代謝異常症は希少疾患のため,その診断・治療は専門的知識が要求されます.一方で新生児マススクリーニング体制の変化により患者数が増加し,一般臨床医もその知識が必要とされるようになりました.このような背景のもと日本先天代謝異常学会は『新生児マススクリーニング対象疾患等診療ガイドライン2015』を2015年11月に発行しました.その基本構成は疾患概要・代謝経路・疫学・診断の基準・新生児マススクリーニングで疑われた場合の対応・確定診断・診断確定後の治療・フォローアップ指針・成人期の課題で構成されていました.今回の2019年版ではこれらに鑑別診断(診断のためのフローチャート)を加えました.さらに高チロシン血症1型,高メチオニン血症,リジン尿性蛋白不耐症,門脈体循環シャントを新しい疾患として加え,ウィルソン病を削除しました.また,用語の説明や知っておいたほうが良い最新情報などをミニコラムとして随所に配置しました.これらの改訂により2019年版は2015年版に比べてページ数は100ページ以上増加し,また内容も充実しています.是非,本書を臨床現場で活用していただき新生児マススクリーニングで陽性になった患者さんの診断・治療に役立てていただければ幸いです.
最後になりましたが本書を作成するにあたり,ご尽力いただきました執筆者の先生方,多大なご尽力をいただきました日本先天代謝異常学会診断基準・診療ガイドライン委員会委員長の大竹明先生,副委員長の中村公俊先生,深尾敏幸先生に感謝申し上げます.
2019年6月
日本先天代謝異常学会 理事長
井田博幸