近年,治療成績の向上により増加している婦人科がんサバイバーに対して,QOLの維持向上をトータルサポートする3学会合同ガイドブック.卵巣温存のリスク,治療中・治療後に生じる諸症状・疾患の実際と対応について,卵巣欠落症状・更年期障害,セクシュアリティ, ボディイメージ,ホルモン療法やメンタルケアも含めたケアをさまざまな角度からまとめた1冊.サバイバーがよりよく生きるためのサポートとなる.
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目次
第1章 婦人科がんサバイバーの現状とヘルスケア上の問題点
日本における婦人科がんサバイバーの現状とヘルスケアの必要性
第2章 婦人科がん治療における卵巣温存(妊孕性温存を含む)とそのリスク
各がん種における治療時の卵巣温存の可能性と再発リスクへの影響
a. 子宮頸がん
b. 子宮体がん
c. 卵巣がん(境界悪性腫瘍を含む)
第3章 HBOC女性における卵巣摘出と乳がんリスク
HBOC女性におけるRRSOによる乳がんリスクへの影響
第4章 婦人科がん治療後に生じる諸症状・疾患とその実際
1)総論
2)各論
a. 卵巣欠落症状・更年期障害
b. セクシュアリティ
c. ボディイメージ
d. 代謝系(脂質異常症・心血管疾患・メタボリック症候群・糖尿病)
e. 運動器系(骨粗鬆症・ロコモティブ症候群・フレイル)
f. 中枢神経系(抑うつ・不安・認知症など)
g. 泌尿器系(尿漏れなど)
h. 皮膚(爪の変化など)
i. リンパ浮腫
第5章 婦人科がん治療後の諸症状・疾患への対応
1)総論
a. 女性医学的観点から考える婦人科がん患者のフォローアップ方法
b. 婦人科がん治療後のフォローアップ時にチェックすべき項目
2)各論
a. HRT
i. 婦人科がん治療後のHRT
ii. リスク低減卵管卵巣摘出術(RRSO)後のHRT
b. 漢方療法
c. 向精神薬
d. 心理療法
e. 婦人科がん患者へのカウンセリングの実際
Appendix 資料集
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序文
婦人科がんサバイバーの
ヘルスケアガイドブックの発刊に寄せて
がんの医療に際しては,旧来はがんの治療ばかりが重視され,日常生活の様々な活動を制限し,好ましくない諸症状があっても治療を最優先させてきました.しかし近年,がん治療成績の全般的な向上ととともにがん患者のサバイバーシップの概念についても広く認識され注目されるようになってきました.子宮頸がんや子宮体がんは,現在では比較的早い進行期での発見が十分に見込める疾患として知られるようになり,同時により低侵襲の治療が推進されるようになりました.また新たな治療法や治療薬の登場に伴い,子宮頸がん,子宮体がんに加えて,卵巣がんでも長期生存が見込める患者を経験するようになってきています.
こういった治療成績の向上から,わが国の婦人科がん診療では,単に対象がんの治療のみに目を向けるのではなく,治療中および治療後の患者のQOLや健康状態にも配慮が求められる状況にあります.しかもその対応には治療前の説明やある程度の計画性,スケジューリングが必要であることから,婦人科がん診療に携わるものは包括的な知識を有していることが求められるようになりました.
そして,そういった情報については前向きの臨床試験などによりエビデンスを構築することが困難な場合も多く,したがって高いレベルでの科学的な根拠を示すことが難しい.こうした状況下で,多数の専門諸氏の高い専門的見地から本邦の婦人科がんをとりまく医療の現状に即して執筆された本書の価値は高いと考えられます.婦人科がん患者の全身の健康状態に配慮する診療はすでに始まっていますが,現在までのところ,婦人科がん治療をテーマとして系統立ててまとめられたものがありません.このガイドブックは,婦人科がん治療に伴う女性特有の内分泌学的変化への対応を中心に当該分野における正しい医療提供のあり方を紹介するというチャレンジングな試みでもあります.今後,本書の内容が検証を受け,将来ガイドラインの記載内容へと結びつくことへの期待も込めたいと思います.
最後に,本書の取り纏めにご尽力いただいた,日本婦人科腫瘍学会・日本女性医学学会・日本産婦人科乳腺医学会合同ワーキンググループの編集委員長 髙松 潔先生をはじめ,本ガイドブックの執筆にご尽力いただいた編集委員や執筆者の諸先生方に心から深甚なる敬意を表します.本書が婦人科がん患者の診療に従事するものに広く活用され,サバイバーシップの向上に大きく寄与することを心から願い巻頭の言葉とさせていただきます.
2020年3月
日本婦人科腫瘍学会理事長 青木大輔
婦人科がんサバイバーの
ヘルスケアガイドブックの刊行にあたって
日本産婦人科乳腺医学会は2002年に設立され18年目を迎えました.この間,産婦人科医に乳がん検診を中心とした乳房疾患の最新の知識や検診技術を得ていただくための学会として,学術集会の開催,マンモグラフィーや超音波読影試験受験のサポートを行うなど,教育・研修に力を入れて参りました.また,「乳房疾患認定医」を認定することにより,産婦人科領域における医療水準の向上にも取り組んできました.そして,2014年には一般社団法人として認可され,現在1,000名を超える会員数を擁する学会に発展してきました.本会の使命は,産婦人科の立場から乳房疾患全体のケアを担当する医療関係者を育成し,産婦人科領域で適切な乳房管理の在り方を確立することにあります.
現在,乳がんは年間10万人以上が罹患し2万人が死亡する,女性で最も発生するがんになりました.いわゆるAYA世代の発生も多く,その後の妊娠・分娩に影響を及ぼしています.産婦人科領域の第4番の診療領域として「女性ヘルスケア」の充実が課題となっていますが,産婦人科の立場から乳がんサバイバーに適切な医療や情報提供を行うことは,女性ヘルスケア医療の充実の観点から極めて重要な課題です.本会の使命に基づいて女性ヘルスケア医療の充実に貢献する意味から,本会は率先して乳がんサバイバーへの取り組みを充実させたいと考えています.その観点から,この度の本書の刊行は待望久しいものであり,さらに刊行の一翼を担えたことはうれしい限りです.今後,本書が乳がんサバイバーの人たちへあたたかい対応をすることの一助となり,産婦人科医療に貢献してくれるものであることを期待しています.
最後になりましたが,本書の執筆を担当された諸先生方に深謝いたします.
2020年3月
日本産婦人科乳腺医学会理事長 苛原 稔
婦人科がんサバイバーの
ヘルスケアガイドブックの発刊に向けて
この度,日本婦人科腫瘍学会,日本産婦人科乳腺医学会,日本女性医学学会が合同で作成した「婦人科がんサバイバーのヘルスケアガイドブック」が発刊されることになりました.本ガイドブックの第1章では,日本における婦人科がんサバイバーの現状として,女性におけるがんの罹患率や5年生存率などについて,また婦人科がんサバイバーのヘルスケアの必要性が解説されています.若年齢における両側卵巣摘出は様々な疾患群の発症に関連して死亡率が上昇することが知られています.一方,婦人科がんの卵巣温存は卵巣転移のリスクもあります.第2章では,子宮頸がん,子宮体がん,卵巣がん治療時の卵巣温存の可能性と再発リスクへの影響についてエビデンスに基づいて詳細に解説されています.また第3章では,遺伝性乳がん卵巣がんの女性に対するリスク低減卵管卵巣摘出術の乳がん発症リスクや全死亡リスク,さらには術後のヘルスケアについても解説されています.第4章では,婦人科がん治療後に生じる症状や疾患について,第5章ではその対策について述べられています.対策のなかで婦人科がん治療後やリスク低減卵管卵巣摘出術後にホルモン補充療法が可能か否かは実地臨床の場で悩ましい問題点ですが,この内容についても詳細に解説されています.これまでがん治療は生存率の延伸に焦点が注がれ,がん治療によって生じうる様々な症状や疾患のヘルスケアについての議論はほとんどありませんでした.今回,領域を超えて3つの異なる学会が合同で本ガイドブックの作成にあたったことは極めて有意義なことだと思います.本ガイドブックが実地臨床の場で役立ち,婦人科がんサバイバーのQOL向上につながることを祈念致します.
最後になりますが,本ガイドブックの完成にあたり多大なるご協力を賜りました編集委員と執筆者の先生方に深甚なる謝意を申し上げます.
2020年3月
日本女性医学学会理事長 若槻明彦
婦人科がんサバイバーの
ヘルスケアガイドブックの発刊にあたって
近年の婦人科がん罹患率の上昇と治療成績の向上により,がんサバイバーは急増しており,年間約35万人が新たにサバイバーになるという推定もあります.すでに「命が助かったのだから,我慢しなさい」というような時代ではないことはいうまでもなく,再発・再燃の防止と早期発見はもちろんのこと,QOLの維持・向上へのサポートも重要な課題となっています.特に婦人科がんでは,原疾患の再発を低下させる目的で両側卵巣摘出や放射線照射・化学的去勢が必要となる場合があり,低エストロゲン状態による二次的な健康問題への対応も必要です.
一方で,医学の専門分野化により,サブスペシャリティ間の知識と意識の差が生じてきているのも事実です.婦人科腫瘍の治療に携わるものには,ヘルスケアの必要性は理解しながらも,最新の考え方をフォローしきれていない場合も少なくはありません.特にホルモン補充療法を始めとした治療に対する懸念や誤解から,治療の提示さえ行わない場合もあるようです.逆にヘルスケアに携わるものには,婦人科がん治療後に特有な特徴を十分に理解した対応が求められます.
このような背景のもと,各サブスペシャリティ間での知識の整理と共有を志向して,日本女性医学学会前理事長 水沼英樹先生のご発案により,日本婦人科腫瘍学会,日本産婦人科乳腺医学会,日本女性医学学会が共同で「婦人科がん治療後のヘルスケアを考える委員会」を立ち上げ,婦人科がんサバイバーのトータル・サポートを行うためのガイドブックの作成が企画されました.各学会から推薦された委員により,専門家の執筆者への依頼,さらに執筆者を交えて複数回の原稿チェックを行って完成したのが本書です.当初の予定よりは時間がかかってしまいましたが,日常臨床で遭遇する幅広いテーマについて,基礎的な考え方から実際の治療までわかりやすく解説されたものができたと自負しております.本書が日本におけるこの分野では初めての教科書として,婦人科腫瘍医,ヘルスケア担当医,メディカルスタッフ,さらには婦人科がんサバイバーご本人やご家族の座右の書となること,ひいてはQOLの向上に貢献することを期待しております.
最後になりましたが,お忙しい中,原稿を作成いただいた執筆者の先生方,貴重なご意見をいただき,頻回のやりとりに応じていただきました委員の先生方に心よりの謝辞を捧げます.
2020年3月
婦人科がん治療後のヘルスケアを考える委員会委員長 髙松 潔