国立循環器病研究センターにて長年積み重ねてきたFontan循環の治療実績をもとに,病態など基礎的内容から,小児期から成人期に至る内科・外科治療,管理など専門的内容まであますことなく解説.循環器専門医をはじめ,成人先天性心疾患を学ぶ若手医師,看護師,検査技師,臨床工学士など,幅広く手に取っていただきたい国内初のFontan循環についてまとめた成書.
関連書籍
ページの先頭へ戻る
目次
口 絵
発刊に寄せて 八木原俊克
序 文 市川 肇/大内秀雄/黒嵜健一/白石 公
執筆者一覧
第1章 Fontan循環の基礎
概説
a.Fontan循環の解剖と生理 大内秀雄
Fontan手術の適応疾患
a.基礎疾患の発生異常 白石 公
b.基礎疾患とその解剖・血行動態 白石 公
Fontan手術の過去・現在
a.Fontan手術の歴史的変遷 市川 肇
b.Fontan循環に向けた段階的手術 白石 公
第2章 小児期における診断・管理・治療
胎児期
a.診断と管理 黒嵜健一
新生児期
a.診断と術前管理 廣田篤史
第1期手術
a.肺血流制御術 島田勝利
b.各疾患の第1期修復術-Norwood,Starnes,TAPVC repair 帆足孝也/市川 肇
Glenn手術
a.Glenn手術までの管理と内科的治療 黒嵜健一
b.両方向性Glenn手術の実際 帆足孝也/市川 肇
Fontan手術
a.Fontan手術までの管理 黒嵜健一
b.不整脈の管理と治療 加藤愛章
c.カテーテル治療 北野正尚
d.Fontan手術の適応 北野正尚
e.Fontan手術の実際 帆足孝也/市川 肇
Fontan手術の諸問題
a.術後の小児期の管理 藤本一途
b.小児期にみられる発達の問題 松尾加奈
c.成人期に向けた移行医療 白石 公/笹川みちる
d.Fontan手術非到達例 津田悦子
第3章 遠隔期(成人期)の管理と治療
概説
a.遠隔期(成人期)以降にみられる多臓器の問題 大内秀雄
遠隔期に必要とされる検査
a.画像検査I-経胸壁心エコー,経食道心エコー,CT,RI 岩朝 徹
b.画像検査II-MRI 加藤温子
c.生理機能検査 坂口平馬
d.心肺運動負荷試験 大内秀雄
遠隔期の合併症とその診断・治療
a.心不全 大内秀雄
b.不整脈 坂口平馬
c.肺循環障害 岩朝 徹
d.蛋白漏出性胃腸症 大内秀雄
e.Fontan循環関連肝臓病 大内秀雄
f.腎機能障害 大内秀雄
g.呼吸器異常 大内秀雄
h.血液凝固異常・血栓塞栓症 大内秀雄
i.糖脂質代謝異常 大内秀雄
j.感染症 白石 公
遠隔期に必要とされる治療・処置
a.カテーテル治療の実際 藤本一途
b.遠隔期再手術 市川 肇
c.手術時の麻酔 下川 亮/大西佳彦
d.failing Fontanに対する補助循環,心臓移植 福嶌教偉
女性患者での諸問題
a.出血,月経不順 小永井奈緒
b.避妊,妊娠,出産 吉松 淳
成人期の心理社会的問題
a.成人先天性心疾患にみられる心理社会的問題 森島宏子
b.患者と家族のQOL 竹上未紗
c.心理士の立場から 松尾加奈
d.終末期の看護 河野由枝
索 引
ページの先頭へ戻る
序文
発刊に寄せて
三尖弁閉鎖,僧帽弁閉鎖,単心室,左心低形成症候群,臓器錯位症候群等々の一側心室の低形成や欠損を伴う重症先天性心疾患の外科治療では,2つの心室を用いた正常な血行再建が困難なため,唯一の心室を用いて体循環を確保し,血管抵抗の低い肺循環については心室を経由せずに右心房から直接肺動脈に静脈血を還流させる外科治療が検討されました.1970年にはF. Fontanが世界初の成功例を報告し,1973年にはG. Kreutzerが簡略化した術式を報告しました.翌1974年には,曲直部(大阪大学第一外科,国立循環器病センター総長)がKreutzer法を用いたわが国初の成功例を報告しています.
私が国立循環器病研究センターで心臓外科を担当し始めた頃は,Fontan手術の術式は変遷の時代でした.われわれは試行錯誤を繰り返し,心房肺動脈吻合(atriopulmonary connection:APC)に始まり,側方トンネル(lateral tunnel:LT),心房内トンネル(intraatrial grafting:IAG)を経て,1991年より現在の心外導管型EC-TCPC(extra cardiac-total cavopulmonary connection)を導入いたしました.在任中400例弱のFontan手術を担当させていただきましたが,APCは約10%で,60%以上がEC-TCPCでした.早期からこの術式を導入したことで,臓器錯位症候群などの複雑な疾患でもこのシンプルな術式が可能となり,多くの外科医に執刀していただきました.現在では100%がEC-TCPCであると聞いています.
Fontan手術の件数の増加とともに成績は急速に向上し,現在,成人期に至るFontan手術後患者は年々増加しつつあります.しかしながら近年の課題として,小児期における運動・発達,そして成長期以降における心肺機能や高い静脈圧の影響による腹部臓器障害,不整脈,蛋白漏出性胃腸症,肝障害,女性では妊娠・出産時の循環への負担があげられています.国立循環器病研究センターでは,これら課題に対して早くから小児心臓外科,小児循環器内科,循環器内科,産婦人科,麻酔科,放射線科,精神科等の分野の専門家により長年にわたる多彩な研究が行われてきました.その蓄積が今回のこの興味深い書籍の発刊をもたらしたものと考えられます.
最後に,これまで数多くの患者の治療に携わってくださった国立循環器病研究センターの小児循環器内科,小児心臓外科,循環器内科,産婦人科,麻酔科,放射線科のすべての先生方,および看護師,検査技師,臨床工学士の方々に深謝の意を表します.
2020年11月
元国立循環器病研究センター心臓血管外科部長・副院長
八木原俊克
序 文
三尖弁閉鎖,肺動脈閉鎖,左心低形成,単心室,内臓錯位症候群などのFontan手術を必要とする単心室血行動態の疾患は,先天性心疾患の中でも最も重症な疾患群に属する.近年の医療技術の進歩により,患者の多くは胎児期から診断され,出生後には適切な治療計画に従いFontan手術に到達し,手術成績も安定するようになってきた.しかしながら,単心室血行動態であるFontan手術の術後長期には,新たに多臓器にわたる障害が発症することも明らかになってきた.Fontan術後患者が長期にわたり良好な生活の質を維持するためには,胎児期の診断に始まり,新生児・乳児期の内科的管理と外科手術,カテーテル治療,学童期から青年期にかけての生活管理指導,成人期の適切な管理と再手術,Fontan術後症候群の発症予防と治療など,生涯にわたる病態の変化をそれぞれの専門家を中心として集学的に管理する必要がある.
国立循環器病研究センターでは,開設以来数多くの複雑先天性心疾患の治療を手がけてきた.Fontan手術も早くからTCPC術を取り入れ,良好な成績を蓄積してきた.2020年現在,当院で経過観察しているFontan術後生存者は500名を超え,うち230名以上が成人期に到達している.本書では,われわれのこのような経験に基づき,単心室疾患およびFontan循環の病態,治療,管理の多様性を,小児期から成人期まで一貫して解説することを目的に編集した.これから成人先天性心疾患を学ぼうとする若手医師,看護師,検査技師,臨床工学士,薬剤師,学生の皆さんに役立ててもらえるよう基礎的な部分を充実させるとともに,Fontan循環患者のケアを日々行っている専門施設のスタッフの方々にも実践的に役立つよう,最新の高度な内容までを盛り込んで編集した.国内のみならず世界的にも類をみないFontan循環の解説書ができあがったと自負している.本書が広く使われ,生まれながらにして単心室循環というハンディを背負った多くの患者さんの生活の質と生命予後の改善に,少しでも役立つことを期待したい.
最後に,多忙な日常診療の中,各項目の執筆を担当してくださった国立循環器病研究センターのスタッフならびに関係者の方々に深謝します.
2020年11月
国立循環器病研究センター小児循環器部門
市川 肇/大内秀雄/黒嵜健一/白石 公