熊本保健科学大学保健科学部リハビリテーション学科言語聴覚学専攻 准教授
大塚 裕一(おおつか ゆういち) 編集
日本聴能言語福祉学院聴能言語学科・補聴言語学科 統括主任
土屋 美智子(つちや みちこ) 著者
初版 B5判 並製 80頁 2020年01月15日発行
ISBN9784787824387
定価:2,090円(本体価格1,900円+税)冊
言語聴覚士を目指す学生向けの問題集『言語聴覚士ドリルプラス』シリーズ4冊目.本ドリルは従来から存在している「吃音」と近年注目されるようになってきた「流暢性障害」をテーマとし,歴史から治療法,社会的な環境調整やセルフヘルプグループまでカバーした問題集になっています.もし初めて目にする用語があっても,主要用語は「読み解くためのKeyword」として解説!実習や国試,そして臨床に出てからもずっと役立つ問題集です.
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目次
刊行にあたって…大塚裕一
吃音臨床家として,言語聴覚士養成校教員として…土屋美智子
編集者・著者紹介
本ドリルの使い方
第1章 吃音・流暢性障害の歴史
1 吃音の古典的原因論
2 日本の吃音・流暢性障害における指導・訓練の歴史
第2章 吃音・流暢性障害の基礎
1 吃音・流暢性障害の定義
①吃音の定義
②吃音・流暢性障害の分類
③流暢性障害
2 吃音・流暢性障害にかかわる解剖・生理
①吃音の解剖・生理
3 吃音症状と進展段階
①吃音症状(非流暢性・二次的症状)
②吃音症状(心理的問題)
③吃音の進展段階(第1層~第3層)
④吃音の進展段階(第4層)
第3章 吃音・流暢性障害の臨床
1 吃音の評価
①評価の目的・概要
②情報聴取
③吃音検査法(対象年齢・枠組み)
④吃音検査法(検査場面)
⑤吃音検査法(分析)
⑥心理的評価と包括的・総合的評価
⑦吃音の鑑別
2 吃音・流暢性障害の指導・訓練
①吃音の指導・訓練(目標・種類・開始時期)
②保護者指導・環境調整法
③リッカムプログラム
④流暢な発話の促進・学齢期の環境調整
⑤言語訓練(1)
⑥言語訓練(2)
⑦言語訓練(3)
⑧認知行動療法・薬物療法とクラタリングの指導・訓練
第4章 吃音・流暢性障害の社会的な環境調整
1 社会的な環境調整(小児)
2 社会的な環境調整(成人)・吃音に関連する法律
3 セルフヘルプグループ
文 献
採点表
索 引
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序文
刊行にあたって
現在わが国には,およそ70校の言語聴覚士の養成校が存在します.言語聴覚士法(1997年)の成立時にはその数は数校程度だったのですが,20年あまりで増加し,県によっては複数校存在しているという状況になっています.言語聴覚士の養成は,さかのぼれば1971年,日本初の言語聴覚士養成校である国立聴力言語障害センター附属聴能言語専門職員養成所での大卒1年課程の開設が記念すべきスタートになるかと思います.その後,開設された養成校の養成課程は,高卒3年課程や高卒4年課程の専門学校,大学での4年課程,大卒を対象とした2年課程などさまざまで,現在これらの課程に加え専門職大学での養成課程が存在しています.
言語聴覚士法が制定されてから,この約20年間での言語聴覚士にかかわる学問の進歩は著しく,教育現場で修得させなければならない知識・技術は増大する一方です.しかしながら入学してくる学生は,千差万別で従来の教育方法では十分な学習が困難となってきている状況もあります.
今回,このような状況を改善する方策の1つとして,修得すべき基本知識を体系的に示したドリルを作成してみました.内容は,言語聴覚士の養成校で学ぶべき言語聴覚障害を専門領域ごとにまとめてシリーズ化し,領域ごとのドリルの目次は統一したものとし,目次を統一したことで領域ごとの横のつながりも意識しやすくなるようにしました.
特徴としては
①すべての養成課程の学生を対象にしたドリルであること
②日々の専門領域講義の復習のみならず,実習,国家試験にも対応できる基本的な内容を網羅していること
③専門領域ごとにまとめたドリルであるが目次が統一されており,領域ごとの横のつながりが意識しやすいこと
などがあげられます.
対象は学生ということを念頭においてシリーズ化したのですが,臨床現場で活躍されている言語聴覚士にも,基本的な知識の整理という意味で使用していただくことも可能かと考えています.
最後に,この『ドリルプラス』シリーズが有効活用され言語聴覚士養成校の学生の学びの一助となることを期待します.
令和元年12月
大塚裕一
吃音臨床家として,言語聴覚士養成校教員として
あなたは,どのような目的で本ドリルを手に取ったのでしょうか.国家試験対策,あるいは授業や実習での予習・復習のためでしょうか.
筆者と吃音のかかわりは,正直にいうと「目の前のことに必死に取り組んでいたら,ここまで来てしまった」といったところでしょうか.
筆者は養成校を卒業後,総合病院で1歳児~90代の方まで,さまざまな言語聴覚障害の患者様のリハビリテーションにかかわり,患者様やご家族と一緒に心から喜べる(落ち込むこともありましたが),忙しくも充実した日々を送っていました.
数年後,実家近くで転職先を探していた時,ひょんなことから母校の都筑澄夫先生にお誘いを受け教員として勤務することになったのですが,いつかまた臨床の現場に戻ろうと考えていた筆者は,どのような言語聴覚障害でも対応できる言語聴覚士を目指し,それまで経験したことのなかった吃音臨床を都筑先生から学ばせていただくことにしました.
すると,いろいろな所へ相談しても吃音の指導を受けることができなくて,何年も(中には十数年以上も)つらく苦しい日々を過ごされてきた方やご家族が非常に多いことを目の当たりにし,衝撃を受けました.吃音を診る言語聴覚士がほとんどいなかったのです.「これはもう経験がなかろうがやるしかない」と思い,可能な限りすべての臨床の時間枠を吃音の患者様のために空けて日々取り組みましたが,とても追いつきませんでした.
そこで,自分が現場に戻って一言語聴覚士として吃音の臨床をしても解決できる問題ではないと気付き,養成校の教員として,吃音臨床のできる言語聴覚士を育てなければならないと考えるようになったのです.
近年注目されるようになった流暢性障害などはもちろん,吃音は他の言語聴覚障害の領域に比べると,まだ解明されていないことが多いです.それが吃音・流暢性障害をむずかしいと思わせる要因の一つです.でも,「ここまではわかっている.ここからはまだわかっていない」と正しい知識をもち,患者様やご家族と向き合おうとするだけでも立派な言語聴覚士だと思います.
本ドリルは国家試験対策,授業や実習の予習・復習などにももちろん使えるようになっていますが,将来,吃音・流暢性障害の臨床に取り組むための基礎となるよう意識して書かせていただきました.ぜひ本ドリルを窓口として,吃音・流暢性障害に興味・関心をもって,将来,患者様やご家族のために第一歩を踏み出せる言語聴覚士となっていただきたいです.
令和元年12月
土屋美智子