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不安とうつの統一プロトコル 診断を越えた認知行動療法 臨床応用編診断と治療社 | 書籍詳細:不安とうつの統一プロトコル 診断を越えた認知行動療法 臨床応用編

国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法センター研修指導部 研修普及室長

伊藤 正哉(いとう まさや) 監訳

国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法センターセンター長

堀越 勝(ほりこし まさる) 監訳

ボストン大学心理学・精神医学名誉教授

デイビッド H. バーロウ 原著編集

ボストン大学心理学・脳科学部研究准教授

トッド J. ファーキオーニ 原著編集

初版 B5判 並製 248頁 2020年04月06日発行

ISBN9784787824547

定価:6,050円(本体価格5,500円+税)
  

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感情の障害すべてに適用できる診断横断的なアセスメントと治療アプローチとして開発された統一プロトコル(UP)を,様々な障害や障害群に適用してきた事例紹介(大うつ病性障害,双極性障害,摂食障害など)に第3~第13章までを割き,臨床実践に焦点を当てている.第16章では文化を越えたUPの実践事例として,コロンビアとともに日本の事例が紹介されている.

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目次

日本版によせて
原著におけるシリーズ監修者による序文 ABCT臨床実践シリーズについて
原著におけるまえがき
原著編者一覧
訳者一覧


第1章 感情障害に対する診断を越えた治療のための統一プロトコル 序文
1 統一アプローチの理論的根拠
2 次元的な診断とアセスメント
3 統一プロトコルの開発
4 結論

第2章 診断横断アセスメントと事例概念化 統一プロトコルの理論的根拠と適用
1 精神障害の分類:改善の余地はあるか
2 新たな方向性:多次元感情障害質問票(MEDI)を用いた診断横断的分類

第3章 不安症に対する統一プロトコル
1 はじめに
2 臨床事例
3 目標を定め,動機づけを保つ
4 感情を理解する
5 感情へのマインドフルな気づき
6 認知的柔軟性
7 感情行動の逆をする
8 身体感覚を理解し向き合う
9 感情曝露
10 達成を認め,将来を見据える
11 結論

第4章 強迫症および関連障害群に対する統一プロトコル
1 OCDにおける神経症傾向
2 概説
3 事例概念化
4 治療
5 アセスメントデータ
6 治療上の課題
7 結論

第5章 大うつ病性障害に対する統一プロトコル
1 はじめに
2 治療への示唆
3 事例
4 感情を理解する
5 治療後
6 結論

第6章 双極性障害と併存症に対する統一プロトコル
1 はじめに
2 事例
3 結論

第7章 PTSDに対する統一プロトコル
1 PTSDへのUPの事例シリーズ
2 治療で共通して現れるテーマ
3 治療効果の要約
4 結論

第8章 アルコール使用障害と不安症の併存に対する統一プロトコル
1 アルコール使用障害と併存する不安症
2 併存を説明する仮説的理論
3 AUDと不安症の併存に対する診断を越えた治療
4 事例
5 診断を越えた概念化
6 治療
7 臨床上の成果
8 要約と結論

第9章 摂食障害に対する統一プロトコル
1 はじめに
2 感情へのマインドフルな気づきを高める
3 認知的柔軟性
4 感情行動の逆をする
5 身体感覚を理解し向き合う
6 感情曝露
7 結論と今後の方向性

第10章 不眠障害に対する統一プロトコル
1 はじめに
2 感情障害としての不眠障害
3 不眠症に対する診断を越えた治療の標的
4 事例
5 結論

第11章 非自殺的・自殺的な自傷念慮と自傷行為に対する統一プロトコル
1 非自殺的・自殺的な自傷念慮と自傷行為の定義とその発生
2 感情障害の枠組みにおける非自殺的・自殺的な自傷念慮と自傷行為
3 事例1:NSSI
4 事例2:自殺念慮と自殺行動
5 結論

第12章 境界性パーソナリティ障害の統一プロトコル
1 境界性パーソナリティ障害は感情障害である
2 現行のBPD治療
3 事例
4 実証的裏づけ
5 結論

第13章 慢性疼痛に対する統一プロトコル
1 慢性疼痛
2 事例
3 結論

第14章 併存症のある困難事例に対する統一プロトコル
1 はじめに
2 事例
3 結論

第15章 集団療法での統一プロトコル
1 はじめに
2 事例
3 アセスメント
4 グループの紹介
5 治療の実施
6 治療反応
7 結論

第16章 統一プロトコルの異文化への適用 日本とコロンビアの事例
1 なぜ文化的適応が必要なのか
2 そもそも文化とは何か?
3 UPでの文化的事例概念化
4 事例
5 結論

第17章 統一プロトコル 今後の方向
1 はじめに
2 今後の方向性
3 結論


参考文献
索引

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序文

日本版によせて

 気分障害・不安症・それらに関連する感情障害は,精神障害のなかで最も広くみられることが疫学研究で示されています(Barlow, Durand, &Hofmann, 2018;Kessler, Berglund, Demler, Jin, &Walters, 2005;Kessler, Chiu, Demler, &Walters, 2005).これらの広くみられ,損失をもたらし,機能を損なう障害群への最も有効な治療として,認知行動療法(CBT)や対人関係療法(IPT)などのエビデンスに基づく治療の有効性が示されてきました.『DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル』や国際疾病分類(ICD)の診断体系に従って,これら様々な不安・抑うつ・あるいは関連症候群のそれぞれに特化したマニュアル治療が数多く開発されてきました.その結果として,臨床家は各障害への治療のためにそれぞれ別個のハンドブック,ワークブック,プロトコルを用いるようになりました.これは極めて費用がかかるだけでなく,それぞれ別個の治療プロトコルを十分習得するためにかなり多くの訓練が必要となることを意味します.さらには,心理介入プロトコルはたいてい複雑であり,治療の普及の障壁となってきました(例:Barlow, Levitt, &Bufka, 1999;McHugh&Barlow, 2012).治療がより“ユーザーフレンドリー”であって,かつ費用対効果が高くなければ,感情障害に対するエビデンスに基づくこれらの技法は十分に理解されず,また,臨床家に届かなくなってしまうでしょう.
 気分障害や不安症の治療における最近の進展の一つとして,感情障害のすべてに適用できる単一の介入法が開発されてきたことが挙げられます.それらの診断を越えた治療の一つに,“感情障害に対する診断を越えた治療のための統一プロトコル”(Unified Protocol for Transdiagnostic Treatment of Emotional Disorders, UP;Barlow, Farchione et al., 2018;Barlow, Sauer-Zavala, et al., 2018; Ito et al., 2016;Barlow et al., 2012)があります.この治療は,認知科学と感情科学の最新の知見に基づいています(例:Barlow, 2002;Bouton, Mineka, &Barlow, 2001;Gross, 2014;Hofmann, Ellard, &Siegle, 2012).“感情障害とは何か(Bullis, Boettcher, Sauer-Zavala, Farchione, &Barlow, 2019)”と題した論文でも概説したように,不安・気分・トラウマ関連障害のすべてには,DSMやICDといった現行の診断基準で示されるよりも中核的で根底にある共有次元が認められます.このことは様々な研究領域における実証エビデンスとして示されてきました.UPはこの知見に基づき開発されました.感情障害間の高い併存割合,単一の障害に焦点を当てた治療でも併存症の臨床改善が認められること,そして,不安症や抑うつ障害において類似の構造・機能的な脳異常が認められること(Etkin&Wager, 2007;Holmes et al., 2012)から,これらの共有次元の存在が推測されます.さらには,神経症傾向という,すべての感情障害に共有される高次気質の存在を示唆する複数の知見があります.神経症傾向は,コントロール喪失感やネガティブな感情体験への対処不能感を伴う,強いネガティブ情動の頻繁な体験に特徴づけられます(Barlow, Sauer-Zavala, Carl, Bullis, &Ellard, 2014).実際,感情障害を抱える方は強いネガティブ情動を頻繁に体験し,その結果としてストレスを感じやすいことがわかっています.そのため,ネガティブな感情を避けようとして,逆にそのネガティブ情動をさらに頻繁かつ不快に体験しやすくなるという悪循環を引き起こすようになります(Sauer-Zavala, Wilner, &Barlow, 2017).ネガティブ体験に対処できないという知覚に基づく回避と抑制は,感情障害の発生と維持にかかわる中核機序として想定され,また,神経症傾向の現れとして理解できます.そのため,UPは神経症傾向そのものを治療します.
 現在では,多くの研究がUPの有効性を支持しています.最近完了した臨床試験では,不安症への単一障害治療プロトコル(SDPs)とUPとが比較されました(Barlow et al., 2017).この試験ではパニック症,広場恐怖,全般不安症,強迫症,社交不安症の参加者223名が,UP(n=88),SDP(n=91),待機群(n=44)にランダムに割り付けられました.UPもしくはSDPの参加者は最大16回のセッションを受け,ベースライン,治療直後,6か月後の評価を受けました.その結果,UPのほうがSDPよりも治療を完遂する傾向にありました(オッズ比, 3.11, 95% 信頼区間, 1.44-6.74).UPとSDPの双方ともに,治療直後の時点で待機群よりも有効でした(効果サイズCohen’s d :-0.93 and-1.08).さらには,UPとSDPは治療直後と6か月後において統計的に同等な臨床重症度の低下を示していました.これらの結果は,不安症治療における中等度の効果サイズを報告しているメタ解析の結果と一貫していました(Erickson, 2003;Erickson, Janeck, &Tallman, 2007;Garcia, 200 4;McEvoy&Nathan, 2007;Norton&Hope, 2005).
 この研究の参加者の一部(n=31)は,大うつ病性障害の基準も満たしていました.ハミルトン不安・うつ病評定尺度の構造化面接による,臨床家評価の不安症状とうつ症状の治療前後の群内効果サイズでは,UPを受けた参加者において不安症状で大きな低下( d :-0.90, 信頼区間:-1.17:-0.63),抑うつ症状で中程度の低下( d :-0.67, 信頼区間:-0.91:-0.44)が示され,これらは治療6か月後までおおよそ維持されていました.群間効果サイズの信頼区間に基づくと,待機群に比べてUPは不安症状( d :-0.71, 信頼区間:-1.09:-0.34)と抑うつ症状( d :-0.6, 信頼区間:-1.06:-0.31)でより大きな低下を示していました.治療直後のUPとSDPの群間効果サイズは不安症状( d :0.01, 信頼区間:-0.28:0.31)とうつ症状( d :-0.06, 信頼区間:-0.35:0.23)の両方で小さく,統計的に有意な差は認められませんでした.その信頼区間は事前に特定された同等性基準の範囲内にあったため,UPとSDPとの有効性が同等であるという仮説が支持されました.
 UPはこれまで幅広い障害に適用されるようになっており,本書で初めてその適用が紹介された障害も多くあります.本書ではまた,個人療法,集団療法,インターネット治療など,様々な治療モードの詳細が示されています.この診断を越えた治療を開発するうえで最も大事にしていたのは,社交不安症・うつ病・パニック症といった感情障害の様々な症状を同時に呈する患者に向き合う,最前線に立つ臨床家のお役に立つものとすることでした.これまでUPの中核にある診断横断技法を習得した臨床家の方々からは,感情障害の治療としてこれらすべてが欠かせないという声を聞くことができています.
 私たちは,日本のとても有能な臨床家の多くがすでにUPの実施に長けていることを知っています.というのも,私たち自身が日本人のUPセラピストへ英語を話す患者を紹介し,素晴らしい結果が得られたのを目の当たりにしているからです.日本語を母国語とされる臨床家の先生方にUPが役立つものと思っていただけるように,そして,本書で描かれた多様な臨床応用が日々の実践のお役に立てるようにと願っています.

デイビッド H. バーロウ
トッド J. ファーキオーニ
ボストン,マサチューセッツ州,アメリカ合衆国


原著におけるまえがき

 本書は,感情障害の診断を越えた治療のための統一プロトコル(UP)の臨床実践に焦点を当てています.はじめに,本書がなにを意図していないのかをお伝えすることが役に立つでしょう.まず,本書はUPを深く掘り下げることを意図していません.セラピストガイドと,患者用のワークブックは最新の改訂版が近く出版される予定で,そこにUPに必要な要素のすべてが込められています(Barlow, Farchione, et al., 2018;Barlow, Sauer-Zavala, et al., 2018).加えて,本書ではUPの理論的・概念的基礎とそれにかかわる研究知見を深く論じてもおらず,各章で必要な分だけ触れるにとどめています.むしろ,とても複雑な併存症をもつ事例など,様々な事例においてUPを実践するうえでの細やかで実践的なアドバイスを示すことを重視しています.治療を通して多くの臨床家が直面する困難や,そんな困難をどう解決できるかを紹介していきます.
 大うつ病性障害(MDD),双極性障害,摂食障害といった,DSM診断(や障害群)から目次が構成されているのに戸惑う読者がいるかもしれません.私たちは感情の障害すべてに適用できる中核治療要素に焦点を当てた診断横断的なアセスメントと治療アプローチを提示してきました.なぜ,それを特定の疾患の文脈に落とし込もうとするのか? ここでまた,本書の意図が関係してきます.本書は,多様な感情障害(とその併存症)を気質的特徴という共通の枠組みからいかに概念化できるか,そして,これらの障害に対して五つの診断横断的な中核要素をいかに適用できるかを明らかにすることを意図しています.そのために,それぞれの障害に対してこの治療アプローチをどう適用できるかを段階的に描いています.各障害をもつ患者にどう治療原理を説明するかから始まり,中核モジュールがそれぞれどう適用されるかを描きます.
 この診断横断治療を開発するうえで大前提としてあったのは,臨床現場の最前線に立って,多様な感情障害を呈する患者と向き合っている臨床家の先生方に少しでも楽になってもらえないかという思いでした.社交不安症,うつ病,パニック症など,これまでエビデンスに基づく単一診断プロトコルが開発されてきましたが,その多くは治療によって内容がかなり異なります.すべてのプロトコルが手に入れられたとしても,それらすべて習得するなんて難しいと感じておられる臨床家もおられると想像します.一方で,UPの診断横断的な中核要素を習得された臨床家からは,これで様々な障害に十分対応できると感じるようになるという声を聞いています.
 本書は,過去数十年にわたるUPの開発過程,プロトコルの内容紹介,現時点までの研究知見の概要をお伝えする章から始めます.研究知見としては,アメリカ国立精神衛生研究所からの助成を得た最近の大規模な臨床試験があり,主要な不安症に対してUPは少なくとも単一診断プロトコルと同等の有効性があることが確認されています.第2章では,診断横断アセスメントと事例概念化を紹介します.UPでは感情の本質や,感情の機能不全がいかに臨床的問題につながっているかを患者に段階的に教育するアプローチを取ります.第3章から第13章までは,これまで私たちが経験してきた様々な障害や障害群への適用を紹介していきます.双極性障害(第6章),アルコール使用障害につながる感情障害(第8章),そして感情障害のなかでも最も重篤なものと捉えられる境界性パーソナリティ障害(第12章)や,ほかの主要な障害を取り上げます.第14章は,複雑な臨床像(最前線で実践をしている臨床家にとっては例外というより日常的に出会う臨床像)について取り上げます.この事例では,恥・罪悪感・羞恥心といったほかの感情不全が標的に含まれています.第15章ではグループ治療としての適用を紹介します.UPの強みの一つでもありますが,UPは診断横断的な治療であるため,同じグループに様々な感情障害をもつ患者を含めることができるので,クリニックなどでの効率的な運用が可能になります.また,世界中の様々な文化においてUPが展開しており,文化を越えたUPの実践を第16章で紹介します.この章では,コロンビアで長らく続く内戦の被害者の事例や,日本におけるUPの実践が含まれています.最後の第17章は,UPの将来の方向性で締めくくられています.ここでは,感情障害を予防するためにUP原則を活用する私たちの萌芽的な試みも紹介します.
 感情問題が様々な患者で洪水のごとく呈されていて,それらはDSMのカテゴリカル診断にはあいません.実地の臨床現場では,そのようなことが多いと思います.私たちは,本書の事例が,そうした日々の臨床実践のお役に立てればと願っています.UPをより広く,より深く体験されるにつれ,様々な適用のしかたが生まれてくると思います.私たちは,臨床家の先生方がどうUPを臨床適用されているか,ぜひ学んでいきたいと考えています.

トッド J. ファーキオーニ
デイビッド H. バーロウ