言語聴覚士を目指す学生向けの問題集『言語聴覚士ドリルプラス』シリーズ7冊目.今回は「高次脳機能障害」を取り上げています.幅広い症状,病巣となる脳との関連性など,覚えることも多い高次脳機能障害について,丁寧に解説した,実習や国試までずっと役立つ問題集です.まずは授業で学んだ内容を整理したり,復習したりする際にご活用ください.
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目次
刊行にあたって 大塚裕一
高次脳機能障害について臨床に出て思うこと 金井孝典
編集者・著者紹介
本ドリルの使い方
第1章 高次脳機能障害の歴史
1 神経心理学の歴史
2 日本における高次脳機能障害の経緯
第2章 高次脳機能障害の基礎
1 高次脳機能障害の定義
2 高次脳機能障害にかかわる解剖と生理
①脳の構造
②脳の機能(1)
③脳の機能(2)
3 高次脳機能障害の症状
①失行(1)
②失行(2)
③失行以外の高次運動障害
④失認(1)
⑤失認(2)
⑥失認(3)
⑦失認(4)
⑧失認(5)
⑨視空間障害
⑩記憶障害(1)
⑪記憶障害(2)
⑫注意障害
⑬遂行機能障害
⑭社会的行動障害
⑮半球離断症候群
⑯認知症(1)
⑰認知症(2)
第3章 高次脳機能障害の臨床
1 高次脳機能障害の評価
①標準高次動作性検査ほか
②日本版ウェクスラー記憶検査ほか
③標準注意検査法ほか
④前頭葉機能検査ほか
⑤改訂長谷川式簡易知能評価スケールほか
⑥コース立方体組み合わせテストほか
2 高次脳機能障害の訓練
①認知リハビリテーション
②失行,失認,視空間障害のリハビリテーション
③記憶障害,注意障害,遂行機能障害のリハビリテーション
④認知症のリハビリテーション
第4章 高次脳機能障害の環境調整
1 周囲へのアプローチと社会復帰
2 特定非営利活動法人日本高次脳機能障害友の会
文 献
採点表
索 引
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序文
刊行にあたって
現在わが国には,およそ70校の言語聴覚士の養成校が存在します.言語聴覚士法(1997年)の成立時にはその数は数校程度だったのですが,20年あまりで増加し,県によっては複数校存在しているという状況になっています.言語聴覚士の養成は,さかのぼれば1971年,日本初の言語聴覚士養成校である国立聴力言語障害センター附属聴能言語専門職員養成所での大卒1年課程の開設が記念すべきスタートになるかと思います.その後,開設された養成校の養成課程は,高卒3年課程や高卒4年課程の専門学校,大学での4年課程,大卒を対象とした2年課程などさまざまで,今後これらの課程に加え専門職大学での養成課程が加わろうとしています.
言語聴覚士法が制定されてから,この約20年間での言語聴覚士にかかわる学問の進歩は著しく,教育現場で修得させなければならない知識・技術は増大する一方です.しかしながら入学してくる学生は,千差万別で従来の教育方法では十分な学習が困難となってきている状況もあります.
今回,このような状況を改善する方策の1つとして,修得すべき基本知識を体系的に示したドリルを作成してみました.内容は,言語聴覚士の養成校で学ぶべき言語聴覚障害を専門領域ごとにまとめてシリーズ化し,領域ごとのドリルの目次は統一したものとし,目次を統一したことで領域ごとの横のつながりも意識しやすくなるようにしました.
特徴としては
①すべての養成課程の学生を対象にしたドリルであること
②日々の専門領域講義の復習のみならず,実習,国家試験にも対応できる基本的な内容を網羅していること
③専門領域ごとにまとめたドリルであるが目次が統一されており,領域ごとの横のつながりが意識しやすいこと
などがあげられます.
対象は学生ということを念頭においてシリーズ化したのですが,臨床現場で活躍されている言語聴覚士にも,基本的な知識の整理という意味で使用していただくことも可能かと考えています.
最後に,この『ドリルプラス』シリーズが有効活用され言語聴覚士養成校の学生の学びの一助となることを期待します.
令和2年11月
大塚裕一
高次脳機能障害について臨床に出て思うこと
朝起きて,顔を洗って歯を磨く.家族に「おはよう」と挨拶をする.友だちとの予定を思い出し,間に合うように家を出て,迷うことなく駅へ行く.このように日々の生活で何気なく行っている私たちの行動を支えているのが高次脳機能と呼ばれる脳の働きです.この働きは,病気や事故により,ある日突然失われてしまうことがあり,そのような方々にリハビリテーションを提供する職種がある,私が,そのことを知ったのは大学で認知心理学を学ぶようになってからでした.大学卒業後,2年間の養成課程を経て,言語聴覚士として臨床に携わり15年以上が経過しました.今回,恩師の一人である大塚裕一先生に本書の執筆という機会をいただき,あらためて高次脳機能障害について整理することができました.この作業を通じて感じたことは,学生時代に学んだことは,臨床に出てから本物の知識になっていくものであるということです.
本文では,十分に触れることができなかった,高次脳機能障害について臨床に出て思うことを,この場をお借りしてお伝えしたいと思います.日々出会う患者さんの多くは,自身の突然の変化,それまで当たり前にできていたことがそうでなくなってしまったことに戸惑っています.そのような患者さんは,自分の中で何が起きているのか,なぜ起きているのか,どうすればよいのか,どうなっていくのかなどの不安を抱えています.言語聴覚士として,正しい知識を持って,混乱や不安が軽減できるように支援しなければなりません.また,障害の本質についても考えなければなりません.記憶障害を例にあげると,記憶が障害されていることだけが問題なのではなく,そのことにより,その人の生活や人生が脅かされていることに障害の本質があります.そのため,その人の生活や人生に向き合うことが必要とされます.そこでは,知識や技術はもちろんですが,人間力が求められると感じています.
さて,臨床実習では高次脳機能障害が得意な学生よりも,どちらかというと苦手な学生に会うことが多い印象があります.その理由は,対象の幅広さ,症状や病巣など覚えることの多さ,病態の想像しにくさや理解しにくさなどのようです.本書は,高次脳機能障害を勉強する学生が,授業で学んだ内容を整理したり,確認したりするために活用することを念頭におき作成しています.この本を手に取った一人でも多くの方が,高次脳機能障害に対する知識を蓄え,興味や関心を高め,将来,臨床に携わっていただければと思います.そして,いつの日か,ともに言語聴覚士として高次脳機能障害について語り合えれば幸いです.
令和2年11月
金井孝典