近年の婦人科がん薬物療法は従来の殺細胞性抗悪性腫瘍薬に加え,分子標的薬の登場により,治療法は多岐にわたります.本書は薬物療法を実践的に学べるテキストとして,レジメン選択,投与スケジュール,有害事象の管理などを網羅的にまとめ,執筆陣には婦人科腫瘍のエキスパートのみならずメディカルスタッフや患者会を迎え,よりよい治療・管理のあり方を目指しました.婦人科がんと向き合う医療従事者のお手元に置いていただきたい1冊です.
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目次
序…渡部 洋
執筆者一覧
略語一覧
第1章 がん薬物療法 総論
1 化学療法薬…下平秀樹
2 分子標的薬―PARP阻害薬…坂井美佳,平沢 晃
3 分子標的薬―血管内皮増殖因子阻害薬…京 哲
4 分子標的薬―チロシンキナーゼ阻害薬…織田克利
5 分子標的薬―免疫チェックポイント阻害薬…中井英勝,松村謙臣
6 がん薬物療法と卵巣機能…久慈志保,鈴木 直
7 高齢者に対するがん薬物療法…吉田好雄,井上大輔
8 がん薬物療法と漢方療法…武田 卓
9 がん薬物療法とサイコオンコロジー(精神腫瘍学)…松岡弘道
第2章 婦人科がん薬物療法
1 卵巣がん薬物療法…田畑 務,本橋 卓
2 子宮頸がん薬物療法…三上幹男
3 子宮体がん薬物療法…山上 亘,青木大輔
4 子宮肉腫薬物療法…竹原和宏
5 絨毛性腫瘍薬物療法…井箟一彦
6 術前化学療法・腹腔内化学療法…温泉川真由
7 開始基準・減量基準・中止基準…板持広明
第3章 治療レジメンの実際…渡部 洋,中西 透,松澤由記子,村岡由真
1 併用化学療法
① パクリタキセル・カルボプラチン療法
② dose-dense パクリタキセル・カルボプラチン療法
③ パクリタキセル・カルボプラチン・ベバシズマブ療法
④ パクリタキセル・シスプラチン療法-パクリタキセル3時間投与-
⑤ パクリタキセル・シスプラチン療法-パクリタキセル24時間投与-
⑥ パクリタキセル・シスプラチン・ベバシズマブ療法
⑦ ドセタキセル・カルボプラチン療法
⑧ ドセタキセル・シスプラチン療法
⑨ リポソーム化ドキソルビシン・カルボプラチン療法
⑩ ゲムシタビン・カルボプラチン(±ベバシズマブ)療法
⑪ パクリタキセル・カルボプラチン療法-週分割投与-
⑫ ドキソルビシン・シスプラチン療法
⑬ シクロホスファミド・シスプラチン療法
⑭ シクロホスファミド・ドキソルビシン・シスプラチン療法
⑮ イリノテカン・シスプラチン療法
⑯ ブレオマイシン・エトポシド・シスプラチン療法
⑰ ゲムシタビン・ドセタキセル療法
⑱ エトポシド・イホスファミド・シスプラチン療法
⑲ イホスファミド・シスプラチン療法
⑳ ノギテカン・シスプラチン療法
㉑ エトポシド・メトトレキサート・アクチノマイシンD・ シクロホスファミド・ビンクリスチン療法
㉒ メトトレキサート・エトポシド・アクチノマイシンD療法
㉓ エトポシド・シスプラチン/エトポシド・メトトレキサート・アクチノマイシンD療法
2 単剤化学療法
① シスプラチン(ネダプラチン)療法
② パクリタキセル療法-週分割投与-
③ ゲムシタビン療法
④ リポソーム化ドキソルビシン療法
⑤ ドキソルビシン療法
⑥ イリノテカン療法
⑦ ノギテカン療法
⑧ メトトレキサート療法
⑨ アクチノマイシンD療法
⑩ エトポシド療法
⑪ イホスファミド療法
⑫ エリブリン療法
⑬ トラベクテジン療法
⑭ 経口エトポシド療法
⑮ 経口高用量黄体ホルモン療法
⑯ 経口シクロホスファミド療法
⑰ 経口フッ化ピリミジン療法
⑱ 経口レトロゾール療法
3 分子標的薬療法
① ベバシズマブ療法
② オラパリブ療法
③ ベバシズマブ・オラパリブ療法
④ ニラパリブ療法
⑤ パゾパニブ療法
⑥ ペムブロリズマブ療法
⑦ レンバチニブ・ペムブロリズマブ療法
第4章 有害事象マネジメント
1 白血球減少・好中球減少…嶋田貴子,三浦清徳
2 貧血・血小板減少…中西 透
3 消化管障害―悪心・嘔吐・食欲不振…安部正和
4 消化管障害―下痢・消化管穿孔…岡留雅夫
5 皮膚・粘膜障害…葭葉貴弘,藤原寛行
6 肺障害…松元 隆
7 循環器障害(心血管障害)…小宮山慎一
8 高血圧・浮腫…工藤沙織,徳永英樹
9 肝障害…宮原大輔,宮本新吾
10 腎・膀胱障害…利部正裕
11 末梢神経障害…百村麻衣
12 アレルギー反応…中村隆文
13 電解質異常…清野 学
14 腫瘍崩壊症候群…石川光也
15 インフュージョンリアクション…河村美由紀
16 血管外漏出・曝露…本多つよし
17 治療関連骨髄性腫瘍(二次性白血病・骨髄異形成症候群)…横須幸太,田部 宏
第5章 チームで取り組む婦人科がん薬物療法
1 がん薬物療法実施体制の整備…園田顕三,齋藤俊章
2 遺伝カウンセリング…小畑慶子,福島明宗
3 インフォームド・コンセント…横山良仁
4 がん薬物療法と看護…髙子利美
5 服薬指導・アドヒアランス…齋藤裕子,渡邊善照
6 臨床検査…小堺利恵,髙橋伸一郎
7 がん相談支援センター…杉田匡聡
8 治験・臨床研究・先進医療…水沼周市
9 緩和ケア…藤村正樹
10 婦人科がん患者会の取り組み…片木美穂
索 引
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序文
序
進行婦人科がんの予後は,集学的治療の目覚ましい進歩と治療ガイドラインの展開などにより着実な改善傾向が示されている.特に進行・再発がんの中心的な治療法である薬物療法は,おもに卵巣がんを対象とした大規模臨床研究成績から殺細胞性抗悪性腫瘍薬を用いた治療レジメンの変遷が行われてきたが,1983年のシスプラチンの登場以前は無力感ばかりに苛まれる暗黒の時代であった.プラチナ製剤の導入によって進行がんに対する薬物療法の有効性がはじめて実感されることとなったものの,当時は5-HT3受容体拮抗薬や顆粒球コロニー刺激因子製剤などの効果的な支持療法薬はなく,投与当日は泊まり込みで繰り返す嘔吐の管理に追われ,白血球減少が出現すると緊急入院のうえ病室を準クリーンルーム化して回復を待ち,さらに一番の苦労は副作用からがん薬物療法の継続治療を拒否する患者を必死に説得することであった.大部分の治療レジメンが外来での投与が可能となり,複数の選択肢のなかから有効性を主体とした治療薬剤の提示が可能となった現況にはまさに隔世の感を禁じ得ない.また,これまでのがん薬物療法に関する基礎研究の焦点は,各種抗悪性腫瘍薬の有効性を細胞レベルあるいは組織レベルで確認する薬剤感受性試験の開発であったが,近年の分子標的薬の登場によって患者あるいはがん組織の遺伝子情報という客観的かつ科学的根拠に基づいた個別化治療(precision medicine)の適用が可能となってきている.すなわち,婦人科がん薬物療法は,薬剤の毒性に振り回され右往左往していた時代から,臨床研究の有効性検証成績による殺細胞性抗悪性腫瘍薬併用療法の変遷を経て,基礎研究と臨床研究の効果的な連携によって開発された分子標的薬を用いた新たな治療へと継続的かつ着実な進歩を遂げている.
本書は,婦人科腫瘍医の視点に立った婦人科がん薬物療法の総合的な解説書に対する多くの要望を受け,新時代に向けた実践的ガイダンスとして作成した.臨床の最前線で日々婦人科がんと向き合う医師およびメディカルスタッフの診療の一助となれば幸いである.
2021年8月
東北医科薬科大学医学部産婦人科学教授
渡部 洋