副腎皮質ホルモン薬は,本当に朝に投与するのが好ましいのか.近年,体内時計のメカニズムと疾患との関連性の解明が進み,薬物の治療効果を高め有害作用を抑えた適正使用を図るための時間治療の考え方が確立してきている.本書では,実臨床で応用できるよう,体内時計の仕組み,時間薬理の基礎から時間栄養,時間運動などの理論と考え方,30疾患におよぶ生体リズムの破綻による病態形成と時間治療の実際を解説.自然災害など,非常時の対処法にも触れた.時間治療を実践するための決定版.
関連書籍
ページの先頭へ戻る
目次
序文
執筆者一覧
CONTENTS
第1章 体内時計のなぞ-生存するための戦略だった-/ 大戸茂弘
① 体内時計の起源と意義
② 体内時計の同調・発振・出力
③ 体内時計と疾患
④ 体内時計と薬物活性
⑤ 体内時計と薬物動態
⑥ 体内時計の分子機構と創薬
⑦ 体内時計とこれからの治療戦略
第2章 時間薬理学/藤村昭夫
① 腸管からの薬物吸収-脂溶性薬物は昼間のほうが夜間に比べて吸収されやすい
② 全身への薬物分布-薬物の蛋白結合に日内リズムがある
③ 肝における薬物代謝-薬物代謝酵素CYP3A活性は夕方に亢進している
④ 体外への薬物排泄-薬物の尿中排泄は昼間のほうが多く,胆汁中排泄は夜間のほうが多い
第3章 時間治療の実際-生体リズムとの上手な付き合い方-
Ⅰ 時間栄養/田原 優
① なぜ朝食は大事なのか
② 時間栄養学とは
③ 食事タイミングと肥満
④ 食・栄養による概日時計の調節メカニズム
⑤ 概日時計を調節する機能性食品成分
⑥ 睡眠を調節する機能性食品成分
⑦ 食事,腸内細菌叢と体内時計
⑧ 食欲の概日時計制御
⑨ 時差ボケへの対処法
Ⅱ 時間運動/宮崎 亮
① はじめに-現代社会の夜型化と運動
② 運動に適した時間帯-朝練は効果的か
③ 運動は食前あるいは食後
④ 骨格筋,骨と体内時計
⑤ 時間運動と脂肪燃焼
⑥ その他-朝型夜型嗜好性
Ⅲ 光の作用と照明効果/岡島 義
① 朝日を浴びる
② 照明の光色
③ スマートフォンなどの悪影響
④ 行動は「○○しない」ではなく「○○する」
Ⅳ 夜勤交代勤務/高橋正也
① 生活習慣病
② 悪性腫瘍
③ 精神疾患
④ 仕事中のケガや事故
第4章 時間治療の実際-生体リズムと薬の使い方-
Ⅰ 悪性腫瘍
生体リズムの破綻による病態形成/大戸茂弘
1 大腸がん,胃がん/田中邦哉
2 乳がん/中小路絢子,木下貴之
3 卵巣がん/細野 隆,藤原 浩
4 前立腺がん/鷲野 聡
5 口腔がん/野口忠秀
Ⅱ 循環器疾患
生体リズムの破綻による病態形成/藤村昭夫
1 高血圧(治療抵抗性高血圧,糖尿病合併高血圧を含む)/加藤 徹,野出孝一
2 心筋梗塞/前村浩二
Ⅲ 代謝性疾患
生体リズムの破綻による病態形成/安藤 仁
1 糖尿病(薬物療法)/森 豊
2 糖尿病(運動療法)/勝川史憲
3 脂質異常症/山室大介,石橋 俊
Ⅳ 脳疾患
生体リズムの破綻による病態形成/牛島健太郎
1 脳梗塞/小澤忠嗣,藤本 茂
2 不眠と睡眠障害/ 水木 慧,小曽根基裕,内村直尚
3 うつ病/平川博文,寺尾 岳
4 自閉症/内匠 透
Ⅴ 肺疾患
生体リズムの破綻による病態形成/大戸茂弘
1 気管支喘息・COPD/鰤岡直人
Ⅵ 腎疾患
生体リズムの破綻による病態形成/安藤 仁
1 CKD合併高血圧/鶴岡秀一
2 血液透析のタイミング/鶴岡秀一
Ⅶ 骨・関節疾患
生体リズムの破綻による病態形成/藤村昭夫
1 骨粗鬆症/鶴岡秀一
2 関節リウマチ/藤 秀人
3 変形性膝関節症/高徳賢三
Ⅷ 腸疾患
生体リズムの破綻による病態形成/牛島健太郎
1 消化性潰瘍/大久保裕直
2 炎症性腸疾患/髙木智久,内山和彦,内藤裕二
Ⅸ アレルギー性疾患
生体リズムの破綻による病態形成/安藤 仁
1 蕁麻疹/中尾篤人
2 アトピー性皮膚炎/神谷浩二
3 アレルギー性鼻炎/吉田尚弘
Ⅹ 片頭痛
生体リズムの破綻による病態形成/牛島健太郎
1 片頭痛/清水利彦
ⅩⅠ 緑内障
生体リズムの破綻による病態形成/藤村昭夫
1 緑内障/坪田一男,綾木雅彦
ⅩⅡ 夜間頻尿
生体リズムの破綻による病態形成/藤村昭夫
1 夜間頻尿/根来宏光
ⅩⅢ 感染症
生体リズムの破綻による病態形成/安藤 仁
1 感染症/吉山友二
ⅩⅣ ICU-Critical Care Medicine
生体リズムの破綻による病態形成/藤村昭夫
1 NICUとICU/太田英伸,竹島正浩
第5章 時間治療の実際-非常事態時の対処法-/藤村昭夫
① 自然災害
② 感染症パンデミック
③ 環境汚染・気候変動
索 引
ページの先頭へ戻る
序文
序 文
多くの生体機能には,約24時間を周期とするリズム(サーカディアンリズム)を認めますが,長年,その本体は謎でした.しかし,20世紀末に哺乳動物で時計遺伝子が発見され,それを契機に多くの科学者が体内時計の解明に取り組みました.その結果,体内時計のメカニズムおよびサーカディアンリズムに及ぼす光や食事等の環境因子の影響が解明され,さらに疾患との関連性も明らかになりつつあります.
しかし,このような生体リズムの重要性は医療の現場では十分認識されていません.特に,生体リズムを考慮した時間治療は医療の質を高めるものでありますが,医療現場への導入は遅れています.そこで時間治療の普及および時間治療研究の推進を目的に,「適正使用のための臨床時間治療学―生体リズムと薬物治療効果-」を編纂することになりました.
本書は以下の5章から成っています.
第1章と第2章では,生体リズムを理解するために必要な基本的な事項(体内時計および時間薬理学)を取り上げました.第3章では,時間非薬物療法の主体となる4項目(時間栄養,時間運動,光の作用と照明効果,夜勤交代勤務)を取り上げ,具体例を示しながら解説しました.第4章では,時間薬物療法が行われている30疾患を取り上げました.疾患毎に,最初に生体リズムの破綻による病態形成を説明し,次いで,各疾患の専門医が時間薬物療法の現状および今後の展望について解説しました.第5章では,大規模災害や感染症パンデミックのような非常事態時における時間治療の役割について述べました.
以上のように,本書はこれまでにない非常に独創的なものです.本書が医療や教育の場で時間治療の情報元として活用され,医療の質の向上に役立てば幸いです.
最後に,本書の企画・編集にご協力いただきました診断と治療社編集部の荻上文夫氏ならびに皆様にお礼申し上げます.
2021年12月
藤村 昭夫