厚労省研究班と日本先天代謝異常学会の協働によるエビデンスに基づくガイドライン.ファブリー病が治療可能となった今日において,症状からファブリー病を疑い,病状が進行する前に診断し,早期に治療を開始することが課題となっている.本ガイドラインは先天代謝異常症を専門としていない医師を読者対象とし,全国にいるファブリー病患者さんが標準的な治療を受けられるよう企画された.
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目次
序文
診療ガイドラインの刊行にあたって
診療ガイドラインの編集にあたって
診療ガイドラインの作成方法に関して
作成組織
使用上の注意
対象となる患者
利益相反
I ファブリー病の概要
疾患概要
病態
臨床症状および臨床病型
臨床検査および診断
治療
フォローアップ
II 治療に対するクリニカルクエスチョン(CQ)
CQ1 ファブリー病に対する酵素補充療法は,QOLおよび生命予後を改善させるか?
CQ2 ファブリー病に対する酵素補充療法は,疼痛を改善させるか?
CQ3-1 ファブリー病に対する酵素補充療法は,被角血管腫を改善させるか?
CQ3-2 ファブリー病に対する酵素補充療法は,発汗障害を改善させるか?
CQ4 ファブリー病に対する酵素補充療法は,消化器障害を改善させるか?
CQ5 ファブリー病に対する酵素補充療法は,循環器合併症を改善させるか?
CQ6 ファブリー病に対する酵素補充療法は,腎合併症を改善させるか?
CQ7-1 ファブリー病に対する酵素補充療法は,脳卒中の頻度を軽減させるか?
CQ7-2 ファブリー病に対する酵素補充療法は,大脳白質病変の進行を抑制させるか?
CQ8 ファブリー病に対する酵素補充療法は,耳鼻科的合併症を改善させるか?
CQ9 ファブリー病に対する対症療法は,疼痛を改善させるか?
CQ10 ファブリー病に対する対症療法は,循環器合併症を改善させるか?
CQ11-1 ファブリー病に対する薬物による対症療法は,腎合併症を改善させるか?
CQ11-2 ファブリー病に対する腎移植は,腎合併症を改善させるか?
CQ12 ファブリー病に対する対症療法は,耳鼻科的合併症を改善させるか?
III 治療開始基準と海外のガイドライン
IV 診断や診療のための参考事項
治療評価のための臨床検査
新生児スクリーニング
酵素製剤に対する抗体
遺伝カウンセリング
公的助成制度
ファブリー病の診断・患者支援に関する情報
索引
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序文
序文
日本先天代謝異常学会編『ファブリー病診療ガイドライン2020』をお届けいたします.本ガイドラインは,厚生労働省難治性疾患等政策研究事業「ライソゾーム病(ファブリー病含む)に関する調査研究」班(研究代表者:衞藤義勝)が2019年に作成し,その後,日本先天代謝異常学会による審査,パブリックコメントの募集,修正,承認を経て出版に至りました.
ファブリー病は,ライソゾーム病の中で最も患者数の多い疾患です.X連鎖性遺伝性疾患ですが,保因者女性が高率に罹患者になるという特徴を有します.男性患者と女性患者で診断のアプローチが異なるということも他の疾患にはない特徴です.治療に関しては,他のライソゾーム病とは異なり,酵素補充療法だけでなく,シャペロン療法や基質合成抑制療法といった新しい薬物療法の開発も進んでいます.さらに,遺伝子治療の臨床試験も行われています.
本ガイドラインでは,このようなファブリー病の様々な特徴を理解し,正しい診断と適切な治療法の選択ができるように配慮されています.多くの医療従事者が,本ガイドラインを活用することによって,ファブリー病患者とそのご家族の生活の質が向上することが期待されます.
最後になりましたが,本ガイドラインの作成に多大なるご尽力をいただいた厚生労働省難治性疾患等政策研究事業「ライソゾーム病(ファブリー病含む)に関する調査研究」班の研究代表者である衞藤義勝先生,同研究班のファブリー病診療ガイドライン作成委員長の小林正久先生ならびに執筆に携わられた同研究班の分担研究者および研究協力者の先生方に深謝いたします.また,日本先天代謝異常学会の診断基準・診療ガイドライン委員長の村山 圭先生,同副委員長の野口篤子先生,同庶務幹事の小須賀基通先生に感謝申し上げます.
2020年11月吉日
日本先天代謝異常学会
理事長 奥山虎之
(国立成育医療研究センター)
診療ガイドラインの刊行にあたって
ファブリー病(Fabry disease)はX連鎖の遺伝病です.男女とも幼少期から症状を呈することが多く,特に男性では四肢の激痛,無汗,腹痛等による不登校などをきたし,精神的な問題として捉えられることがあり,また女性も四肢の疼痛等があり,成長痛などと間違われることがあります.20歳代以降になると,タンパク尿,腎不全,胸痛,不整脈,心不全,若年性脳卒中,めまい,難聴など多彩な症状を呈し,小児科のみならず循環器内科,腎臓内科,神経内科,耳鼻科,眼科,皮膚科,精神科など多様な診療科を受診することも少なくありません.
厚生労働省難治性疾患等政策研究事業「ライソゾーム病(ファブリー病を含む)に関する調査研究」班(研究代表者 衞藤義勝)[現 「ライソゾーム病,ペルオキシソーム病(副腎白質ジストロフィーを含む)における良質かつ適切な医療の実現に向けた体制の構築とその実装に関する研究」班(研究代表者 奥山虎之)]では,ライソゾーム病31疾患,ALD,ペルオキシソーム病の診療ガイドライン作成事業の一貫として,平成29年度4月の班会議において小林正久先生(東京慈恵会医科大学)をファブリー病診療ガイドライン作成委員長に指名し,本分野の専門家24名に作成委員,システマティックレビュー(SR)委員,作成協力者として加わっていただき,『Minds診療ガイドライン作成の手引き2014』(以下,Minds)に示された手法に基づく,わが国初のファブリー病の診療ガイドラインである『ファブリー病診療ガイドライン2019』(非売品.当研究班ホームページにて公開中)を約2年の歳月をかけて作成しました.同ガイドラインの刊行目的は,科学的根拠に基づき,系統的な手法により作成された推奨をもとに患者と医療者を支援し,臨床現場における意思決定の判断材料の1つとしてお役立ていただくことです.ファブリー病という疾患の性質上,Mindsの手法に完全に則って診療ガイドラインを作成することは,文献数,症例数の少なさから評価,選定がむずかしいところもありましたが,可能なかぎりMindsの精神に沿うように努めました.
今回,同ガイドラインは日本先天代謝異常学会による学会審査・修正を経て,装いも新たに『ファブリー病診療ガイドライン2020』として書店に並ぶことになりました.『ファブリー病診療ガイドライン2019』から大幅な内容の変更はありませんが,より多くの先生方に本疾患について知っていただく機会が増えたことを嬉しく思います.
最後に,本ガイドラインの作成を主導していただいた当研究班ファブリー病診療ガイドライン作成委員会の小林正久委員長,Mindsの手法を絶えずご指導いただいた(公財)日本医療機能評価機構の森實敏夫先生,学会審査における過程でご尽力いただいた日本先天代謝異常学会の奥山虎之理事長,同 診断基準・診療ガイドライン委員会の村山 圭委員長,野口篤子副委員長,庶務幹事の小須賀基通先生をはじめ,多くの皆様に感謝申し上げます.
本ガイドラインが,難病診療に携わる難病指定医,さらには一般診療医の先生方,医療従事者の方々のお役に立つことを祈念いたします.
2020年11月吉日
厚生労働省難治性疾患等政策研究事業
「ライソゾーム病(ファブリー病含む)に関する調査研究」
研究代表者 衞藤義勝(東京慈恵会医科大学)
診療ガイドラインの編集にあたって
ファブリー病(Fabry disease)は,ライソゾーム酵素であるαガラクトシダーゼA(α-galactosidase A:GLA)の欠損により発症するX連鎖遺伝形式の先天代謝異常症です.本疾患は,古典型男性患者で典型的な四肢末端痛,発汗障害,被角血管腫,進行性の腎障害,心肥大,脳血管障害を発症しますが,小児期は客観的な症状に乏しいこと,軽症型の遅発型が存在すること,女性ヘテロ型では臨床的重症度に多様性があることから,発症から診断までに平均10年以上を要すると報告されています.また,新生児スクリーニングの研究から,ファブリー病の発症率はそれまで考えられていた頻度(40,000人に1人)より高いことが報告されています.
わが国においても,2004年からファブリー病に対する酵素補充療法(enzyme replacement therapy:ERT)が保険承認されました.ファブリー病のERTについては,臓器障害が進行した例では効果が乏しくなると報告されています.ファブリー病が治療可能となった今日において,症状からファブリー病を疑い,病状が進行する前に診断することが重要であり,発症後より早期に診断し,治療を開始することが課題となっています.
本ガイドラインは,先天代謝異常症を専門としていない医師を読者対象とし,全国にいるファブリー病患者さんが標準的な治療を受けられるよう科学的根拠に基づく医療(evidence-based medicine:EBM)に則って作成されました.まず,厚生労働省難治性疾患等政策研究事業「ライソゾーム病(ファブリー病含む)に関する調査研究」班において『Minds診療ガイドライン作成の手引き2014』の手法に基づいた『ファブリー病診療ガイドライン2019』を作成し,全国の大学病院等に配布しました.そして,全国の医療従事者に本ガイドラインを普及させるために,日本先天代謝異常学会と協働し,その承認を得て,『ファブリー病診療ガイドライン2020』としてこのたび上梓することとなりました.より多くの医療従事者の皆様に周知されることを期待しています.
最後に,本ガイドラインは別添の作成組織の先生方のご尽力により完成しました.ガイドライン作成委員会の先生方,論文の収集を担当してくださった阿部信一先生,ガイドラインの作成についてご指導いただいた森實敏夫先生,学会審査・承認にあたってご尽力いただいた日本先天代謝異常学会の奥山虎之先生,村山 圭先生,小須賀基通先生に深謝いたします.
本ガイドラインが臨床現場でのファブリー病の診断,治療の一助となり,ファブリー病患者さんや,そのご家族のQOL向上につながることを心より願っています.
2020年11月吉日
厚生労働省難治性疾患等政策研究事業
「ライソゾーム病(ファブリー病含む)に関する調査研究」
ファブリー病診療ガイドライン作成委員会
委員長 小林正久
(東京慈恵会医科大学)