日本人類遺伝学会,日本遺伝カウンセリング学会の共同運営による,臨床遺伝専門医制度委員会が監修した,臨床遺伝専門医テキストシリーズ.本シリーズは「臨床遺伝学総論」「臨床遺伝学生殖・周産期領域」「臨床遺伝学小児領域」「臨床遺伝学成人領域」「臨床遺伝学腫瘍領域」の5冊からなり,今回,第4弾となる「各論Ⅲ 臨床遺伝学成人領域」が満を持しての刊行となりました.臨床遺伝専門医を目指す医師,必読の書です.
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目次
発刊にあたって 小崎健次郎
発刊にあたって 櫻井晃洋
『臨床遺伝専門医テキスト』総編集の序 蒔田芳男
『各論Ⅲ 臨床遺伝学成人領域』編集の序 矢部一郎/岩﨑直子
本書における用語について
執筆者一覧
Ⅰ.総論
1.はじめに
A 成人期発症遺伝性疾患のオーバービュー 櫻井晃洋
Column 認知症におけるゲノム医療展望 池内 健
2.成人期における遺伝カウンセリング
A 情報提供と社会心理学的支援 柴田有花
B 遺伝カウンセリングのアウトカムと今後の課題 柴田有花
Column 遺伝性プリオン病の感染対策~未発症病的バリアント保持者およびアットリスク者への感染予防対策は必要か? 田村智英子
3.成人期における社会保障制度
A 指定難病,障害手帳,介護保険等 松島理明
Ⅱ.各論
1.神経疾患
A 神経疾患の成因と病態 吉田邦広
B おもな疾患の臨床像と特徴 吉田邦広
C 神経疾患の診断 吉田邦広
D 治療と新規治療法開発の現状 吉田邦広
E 遺伝カウンセリングのポイント/家族会・患者会情報 吉田邦広
2.筋疾患
A 筋疾患の成因と病態 杉江和馬
B おもな疾患の臨床像と特徴 杉江和馬
C 筋疾患の診断 杉江和馬
D 治療と新規治療法開発の現状 杉江和馬
E 遺伝カウンセリングのポイント/家族会・患者会情報 杉江和馬
Column 遺伝子治療時代の脊髄性筋萎縮症患者への対応 浦野真理
3.循環器疾患
A 循環器疾患の成因と病態 久保 亨
B おもな疾患の臨床像と特徴 久保 亨
C 遺伝情報に基づく循環器疾患の診断 久保 亨
D 治療と新規治療法開発の現状 久保 亨
E 遺伝カウンセリングのポイント/家族会・患者会情報 久保 亨
4.腎疾患
A チャネル異常を伴う腎疾患の成因と病態 塚口裕康
B おもな疾患の臨床像と特徴 塚口裕康
C チャネル異常を伴う腎疾患の診断 塚口裕康
D 治療と新規治療法開発の現状 塚口裕康
E 遺伝カウンセリングのポイント/家族会・患者会情報 塚口裕康
5.遺伝子異常による代謝疾患―糖尿病
A 糖尿病の成因における遺伝学的要因 堀川幸男
B おもな疾患の臨床像と特徴 堀川幸男
C Monogenic Diabetes 堀川幸男
D 治療の現状 堀川幸男 82
E 遺伝カウンセリングのポイント/家族会・患者会情報 堀川幸男
6.その他の代謝疾患
A 家族性高コレステロール血症 野原 淳
B 尿酸代謝異常 谷口敦夫
C 銅代謝異常 大門 眞
D 遺伝性アミロイドーシス 関島良樹
7.遺伝性結合組織疾患
A 遺伝性結合組織疾患の成因と病態 古庄知己
B おもな疾患の臨床像と特徴 古庄知己
C 遺伝性結合組織疾患の診断 古庄知己
D 治療と新規治療法開発の現状 古庄知己
E 遺伝カウンセリングのポイント/家族会・患者会情報 古庄知己
8.皮膚疾患
A 遺伝性皮膚疾患の成因と病態 久保亮治
B おもな疾患の臨床像と特徴,臨床診断 久保亮治
C 皮膚徴候をもつ遺伝性腫瘍症候群 久保亮治
D 皮膚疾患の遺伝学的検査 久保亮治
E 治療と新規治療法開発の現状/家族会・患者会情報 久保亮治
9.眼疾患(網膜色素変性症)
A 網膜色素変性症の成因と病態 山田教弘
B おもな疾患の臨床像と特徴 山田教弘
C 網膜色素変性症の診断 山田教弘
D 治療と新規治療法開発の現状 山田教弘
E 遺伝カウンセリングのポイント/家族会・患者会情報 山田教弘
10.ライソゾーム病
A ライソゾーム病の成因と病態 田中藤樹
B おもな疾患の臨床像と特徴 田中藤樹
C ライソゾーム病の診断 田中藤樹
D 治療と新規治療法開発の現状 田中藤樹
E 遺伝カウンセリングのポイント/家族会・患者会情報 田中藤樹
Column 副腎白質ジストロフィーにおける造血幹細胞移植療法 松川敬志
11.ミトコンドリア病
A ミトコンドリア病の病態 後藤雄一
B おもな疾患の臨床像と特徴 後藤雄一
C ミトコンドリア病の診断 後藤雄一
D 治療と新規治療法開発の現状 後藤雄一
E 遺伝カウンセリングのポイント/家族会・患者会情報 後藤雄一
12.その他疾患
A 消化器疾患 野村文夫
B 自己炎症性疾患(家族性地中海熱など) 谷口敦夫
C 内分泌疾患(性分化疾患) 田島敏広
D 血液疾患(ヘモグロビン疾患,溶血性疾患,血栓止血性疾患など) 内山由理
E 精神疾患 黒滝直弘
13.ファーマコゲノミクス
A 薬物代謝と遺伝学的検査 渡邉 淳
Column 多因子疾患ゲノムコホート研究の現況 石川欽也
索 引
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序文
発刊にあたって
臨床遺伝学は人類遺伝学の原理を診療に応用する分野です.近年のゲノム解析技術の飛躍的な進歩を受けて,難病やがんの診断に大きく貢献しています.今後は遺伝子編集技術や遺伝子治療ベクターの発展を受けて,さらに治療学分野として発展することが期待されます.数千を数える遺伝性疾患の発症時期は胎児期・新生児期から老年期にわたり,罹患臓器は全身におよび,臨床遺伝学の知識体系は既に膨大です.新規疾患の発見や多因子疾患分野での臨床応用の進展など,今後も拡大を続けることでしょう.出生前診断や着床前診断,網羅的遺伝子診断に伴う二次的所見の開示など生命倫理上の課題も増え,患者さんごとに提供すべき遺伝カウンセリングのあり方も変わってゆくと予期されます.
全方向に発展を遂げる臨床遺伝学分野において,新しい医療の先導者となる専門医を育てるためには,基礎となる理論を提示したうえで,診療現場での理論の実践を促し,応用力の涵養を図る以外の良法はありません.本書は臨床遺伝専門医をめざす各診療科の医師に対して,学習上の明確な里程を示すことを目指して編纂されました.臨床遺伝専門医が,自身の臓器別・年齢別・性別の専門領域を問わずに共有すべき理論と知識について,各分野で診療と研究に邁進される気鋭の臨床遺伝専門医の方々に解説をいただきました.
臨床遺伝専門医を目指される医師が,本書を手がかりとして,経験された遺伝性疾患についてOMIMやGeneReviewsなどの網羅的な知識ベースをひもとかれ,一次文献を精読され,最新の臨床遺伝学を遺伝性疾患の患者さんやご家族の診療に生かされること,さらには研究を通じて新しい知見や理論を生み出され,次世代の臨床遺伝学を切り拓かれることを願ってやみません.
最後になりますが,本書の企画・制作に情熱を捧げられた,日本人類遺伝学会前理事長の松原洋一教授,臨床遺伝専門医制度委員会委員長・本シリーズ総編集 蒔田芳男教授,同じく総編集 櫻井晃洋教授,遺伝医学セミナー実行委員会委員長 佐村修教授をはじめとするすべての関係者の方々に感謝を申し上げたいと思います.
2021年12月
一般社団法人日本人類遺伝学会
理事長 小崎健次郎
発刊にあたって
臨床遺伝専門医を目指す医師のための,待望のテキストが刊行されました.
日本遺伝カウンセリング学会と日本人類遺伝学会が共同で運営する臨床遺伝専門医制度は,日本遺伝カウンセリング学会の前身である日本臨床遺伝学会による遺伝相談認定医師カウンセラー制度と,日本人類遺伝学会による臨床遺伝学認定医制度を発展的に再構築し,21世紀のスタートと同時に2001年から制度化されたものです.20年の歴史の中でこれまでに1,600名を超える医師が臨床遺伝専門医として認定され,各方面で活躍しています.ゲノム医療の急速な発展に伴い,臨床遺伝専門医に求められる医療は領域も内容も,ますます広く深くなっています.
これまで,わが国には臨床遺伝専門医を目指す医師のためのテキストがありませんでした.このため,両学会が主催するセミナーの資料や海外の臨床遺伝学領域の書籍などがテキストとして用いられる状況が長く続いていました.これは医学部卒前教育も同様で,もともと医学教育モデル・コア・カリキュラム(コアカリ)に臨床遺伝学領域の内容が記載されていなかったため,多くの大学では教員の熱意によってそれぞれ独自の臨床遺伝学教育が行われてきたという経緯があります.こちらは2016年度の改訂でコアカリに「遺伝医療・ゲノム医療」が追加され,これに基づいて日本人類遺伝学会による卒前教育のためのテキスト『臨床遺伝学テキストノート』が刊行されました.
臨床遺伝専門医についても,2019年度にその到達目標が改訂されたのを機に,日本のこれからの臨床遺伝学を支える人材を育成するための基盤となる教科書刊行が計画され,このたびこの5分冊からなる『臨床遺伝専門医テキスト』を皆さまにお届けすることになりました.
本書は,構想の段階から刊行まで,編集,執筆にあたられた日本の臨床遺伝学のリーダーである多くの先生方の並々ならぬ熱意,そして私たちの思いを共有し多くの難題に直面しつつも最後までご支援くださった株式会社 診断と治療社の方々の熱意の賜物です.本書の制作にかかわってくださったすべての方々に心から御礼申し上げます.
本書が,臨床遺伝学を学ぶ意欲ある方々の必携の書としてお役に立つことを願っています.
2021年12月
一般社団法人日本遺伝カウンセリング学会
理事長 櫻井晃洋
『臨床遺伝専門医テキスト』総編集の序
ここに,日本人類遺伝学会・日本遺伝カウンセリング学会員自らが執筆した『臨床遺伝専門医テキスト』をお届けします.
日本における医学生向け遺伝学教科書の金字塔である『医科遺伝学』(南江堂,1991年)の序文には,1979年にアメリカ人類学会誌の編者であるD. Comingsが,遺伝子研究開始以後の遺伝学に対して命名した造語である“New Genetics”が引用され「遺伝子診断,遺伝子治療などの先端技術が医療の中でどう扱われるべきか,その倫理面の検討が問題にされつつある」と記載されています.『医科遺伝学』から30年を経て,私たち医師は,この“New Genetics”を現実の医療の中で実際に扱う局面に立たされていると言えます.
日本人類遺伝学会では,すべての医師が,“New Genetics”の担い手としての臨床遺伝学を習得すべきであると考え2013年に「医学部卒前遺伝医学教育モデルカリキュラム」を共同で作成し公開しました.この内容は,平成28年(2016)改訂「医学教育モデル・コア・カリキュラム」に取り込まれることになり,2018年に『コアカリ準拠 臨床遺伝学テキストノート』(診断と治療社)の発刊に繋がっています.
しかしながら,実際の“New Genetics”の担い手へのテキストは,「翻訳物が多い」「日本の実態にそぐわない」などの状態が続いており,日本の臨床遺伝専門医になるための必須の知識の整理を求める機運が高まってきました.折しも2019年に臨床遺伝専門医到達目標が全面的に改定され行動目標となったタイミングで,この『臨床遺伝専門医テキストシリーズ』が企画されることになったわけです.本書は,日本での臨床遺伝学の実践に関わる4つの領域(生殖・周産期,小児,成人,腫瘍)の別冊と総論の5冊で構成されています.臨床の現場と直結する内容を領域別の分冊とした理由は,時代とともに順次改訂され,常にアップデートな内容を維持するためです.今後のアップデートにも期待いただきたいと思います.
編集者と執筆者は,臨床遺伝専門医制度における専攻医のみなさんが,このテキストを用いることで,日本における臨床遺伝学の実践を肌で感じることができると信じています.専攻医が,研修を始め専門医取得に至るステップについては,臨床遺伝専門医制度委員会HP(http://www.jbmg.jp/examinee/index.html)「臨床遺伝専門医を目指す方へ」をご覧いただきたいと思います.
本書の構想から実現には,(株)診断と治療社の編集者の方々(堀江康弘/柿澤美帆/川口晃太朗/前原宏美/小林雅子/吉田洋志/坂上昭子/土橋幸代)に継続的でかつ多大な援助をいただきました.また,両学会の関係者のみなさまや,5分冊の編集を担当していただいた先生方の力添えがあってこそ,この本を世に問うことができたと思っております.合わせて感謝申し上げます.
2021年12月
臨床遺伝専門医制度委員会
委員長 蒔田芳男
『各論Ⅲ 臨床遺伝学成人領域』編集の序
臨床遺伝専門医が身につけるべき,知識,技能,態度は極めて広範囲で,学ぶべき領域も膨大です.その内容は臨床遺伝専門医到達目標に示されていますが,それに準拠した“教科書”は今までわが国には存在しませんでした.われわれは『トンプソン&トンプソン遺伝医学』に代表されるような欧米の教科書を手にして臨床遺伝を学んできましたが,日本の現状にそぐわない記述も多いことは,多くの方が気づかれていたことと思います.そのような背景のもとに作成された本書は,永きにわたり切望されてきた日本の臨床に寄り添った初めての臨床遺伝学の教科書です.本書は,①総論,②生殖,③小児,④成人,⑤がん,の5分冊から成り,本分冊は成人領域についてまとめられています.
成人領域の遺伝性疾患の特徴として,発症した時点ですでにat riskにあたる血縁者が複数存在することと,根治療法が確立していない疾患が多いことがあげられるかと思います.そのような観点から考えますと,成人領域の遺伝性疾患は,最も医療倫理を意識しなければいけない領域であるといえるかと思います.しかしその一方で,近年の新規治療法開発の進捗はめざましく,「遺伝性疾患なので治らない」と受け止められていた時代が終わり,希望の光がすぐそこに迫ってきている疾患も現れています.したがって,遺伝医療にかかわる医療者は常に最先端の情報にアクセスし,早期診断を目的とした発症前診断についても適切に考えていかなければならない時代に入ってきているともいえます.さらに,複数の疾患感受性遺伝子の解析による多因子疾患の発症予測も視野に入ってきていますし,薬理遺伝学の臨床実装の進展も期待されています.
本書では,そのような将来的な展望も踏まえ,各領域のわが国の第一人者に執筆を依頼致しました.また,コラム欄を設け,現在注目されている領域や,今後発展が予想される領域についても紹介するようにいたしました.
本書を通して成人領域における臨床遺伝を学んでいただくことにより,単に臨床遺伝の知識を得るのみならず,臨床遺伝リテラシーの向上にも役立てていただき,わが国の臨床遺伝医療やゲノム研究に携わる多くの臨床遺伝専門医の育成を通して,最終的に遺伝性疾患をもつ患者さんとそのご家族に還元されることを切に望んでいます.
2021年12月
『各論Ⅲ 臨床遺伝学成人領域』責任編集 矢部一郎
編集 岩﨑直子