第I部臓器別検査では肝・胆・膵・腎・副腎について,それぞれの検査手順と技術上のポイントを実際の画像に沿って丁寧に解説する.第II部ルーチン検査では,一般健診における効率的かつ堅実な超音波検査実施方法を具体的に指導する.2021年の腹部超音波検診判定マニュアルにも言及して,実質的かつ効率的な検査とは何かを考察する.まったくの新人から現役習熟のスタッフまで,腹部エコーに携わる放射線技師全員の必読書として,他の追随を許さぬ充実の内容である.
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目次
プロローグ
I 臓器別検査─テクニックとその理論
1 肝の観察
■肝病変-の見落としやすい部位
■一般的な検査の流れ(患者体位と走査法)
1 観察のための基礎知識
■キーポイント
■全般的注意
2 検査手順とテクニック
3 検査手順の大図解
4 テクニックとその理論
A 描出に適した拡大率/B 観察に有効な画面の見方/C プローブの振り方/
D 縦断・横断2方向による観察/E プローブを置く位置/F 左葉外側端を意識した走査/
G えぐり走査/H 右葉外側縁を意識した走査/I 体位変換の利用/
J 右葉の下端部(エッシ゛)の観察/K 直交する2方向での観察/L 呼吸の調節/
+1-1 腫瘤の存在部位の判断/+1-2 拡大と高周波数プローブの利用
2 胆嚢・胆管の観察
◇胆嚢の観察
■胆嚢病変の見落としやすい部位
■一般的な検査の流れ(患者体位と走査法)
1 観察のための基礎知識
■キーポイント
■全般的注意
2 検査手順とテクニック
3 検査手順の大図解
4 テクニックとその理論
A 長軸短軸2方向走査と多重反射の除去/B 体位変換による胆石とポリープの鑑別/
+1 高周波数プローブの利用
◇胆管の観察
■胆管病変の見落としやすい部位
■一般的な検査の流れ(患者体位と走査法)
1 観察のための基礎知識
■キーポイント
■全般的注意
2 検査手順とテクニック
3 検査手順の大図解
4 テクニックとその理論
A 左下側臥位での検査/B 解剖学的な走行に従って検査する/C 体位変換後,再度描出を試みる
3 膵の観察
■膵病変の見落としやすい部位
■一般的な検査の流れ(患者体位と走査法)
1 観察のための基礎知識
■キーポイント
■全般的注意
2 検査手順とテクニック
3 検査手順の大図解
-1普通体型
-2痩せ体型
-3肥満体型
4 テクニックとその理論
A 膵全体を観察する/B プローブの圧迫による消化管ガスの除去/
C 体位変換と呼吸の調節による消化管の移動/D 目安となる血管で膵体部を確認する/
E 体型によってアプローチ法を変える/F 呼吸の調節/G 縦断像による膵頭部の描出/
H 呼吸の調節/I 左下側臥位での検査/J 横断像による膵頭部の描出/K 膵尾部へのアプローチ/
L 経脾的観察/M 前腹壁からの観察と体位変換の利用/N プローブによる結腸ガスの圧排/
O 胃充満法/+1 高周波数プローブの利用
■膵体尾部の境界を大動脈左縁とする新たな定義の問題点
4 脾の観察
■脾病変の見落としやすい部位
■一般的な検査の流れ(患者体位と走査法)
1 観察のための基礎知識
■キーポイントと全般的注意
2 検査手順とテクニック
3 検査手順の大図解
4 テクニックとその理論
A 解剖学的位置関係/B 検査の限界
5 腎の観察
■腎病変の見落としやすい部位
■一般的な検査の流れ(患者体位と走査法)
1 観察のための基礎知識
■キーポイント
■全般的注意
2 検査手順とテクニック
3 検査手順の大図解
4 テクニックとその理論
A 横断・縦断2方向による観察/B プローブの可動範囲の確保/
C 呼吸の調節とプローブによる圧迫/D 体位変換による臓器の移動/
E 経肝的観察(音響窓の利用)/F 体位変換による腎の移動/G 体位変換による腸管の移動/
H 経脾的観察(音響窓の利用)
6 副腎の観察
■副腎病変の見落としやすい部位
■一般的な検査の流れ(患者体位と走査法)
1 観察のための基礎知識
■キーポイント
■全般的注意
2 検査手順とテクニック
3 検査手順の大図解
4 テクニックとその理論
A 左下側臥位での検査/B 肋骨弓下からのアプローチ/C 心窩部縦断走査による検査法/
D 心窩部横断走査による検査法(左副腎)/E 経脾左腎上極アプローチ
II ルーチン検査
7 ルーチン検査
■超音波ルーチン検査で見落としやすい部位
1 推奨するルーチン検査法
■ルーチン検査の流れ(概略)
2 ルーチン検査の流れ
3 検査手順の大図解
4 テクニックとその理論
A ルーチン検査法を定める/B 観察の範囲について合意を得る/C 上腹部ルーチン検査の要件/
D 体位変換の必要性/E体位変換の順序/Fルーチン検査にかける時間と件数
■Key画像一覧
■超音波学会および検診学会で撮像を推奨するKey画像について
膵描出上達の心得
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序文
▷ あなたの行っている超音波ルーチン検査法は,間違っていないだろうか?
▷ 見落としのない超音波検査ができているだろうか?
実際,いろいろな施設で,さまざまなルーチン検査法が行われている.ほとんどの施設では,こうしなさいと教えられたからという理由だけで,そのままの検査法が使用されているのが実状ではないだろうか? あなたは,本当にその検査法でよいと自信をもって言えるだろうか?
現在まで,入門書を含め多数の超音波検査法関連のテキストが出版され,いろいろなルーチン検査法が紹介されているが,残念なことに,これらのテキストで勉強しただけでは,なかなか十分なレべルの検査ができるようにはならない.形を真似ることはできる.しかし,なぜそうするのかがはっきりしていないため,細かい点が不十分であったり,自己流の検査技術に陥る怖れは否めない.
本書は,単に検査のテクニック(コツ)を紹介するだけでなく,なぜそのようにすると描出できるようになるのか,その理由を理解していただくことに焦点を当てている.優れた検査法にはそれなりの理論があることを知っていただきたい.病変の診断や評価ができることは重要であるが,まず病変を発見できなければ何も始まらない.ルーチン検査を行うからには,きちんと病変を拾い上げることができる,あるいは病変がないと診断できるような検査が行われなくてはならない.
2001年4月
著者
▶ スクリーニング検査で体位変換をしていますか?
▶ スクリーニング検査で十分膵尾部が描出できていますか?
「㊙腹部エコーテクニックとその理論」(ベクトル・コア社刊)
初版序文より改変
本書の前身「㊙腹部エコーテクニックとその理論」(ベクトル・コア社刊)の初版が出版されてから20年がたった.その2013年の改訂版の序でも書いたように,超音波検査における膵の描出能はだいぶ向上したように思う.膵体部は基本的に描出でき,頭部についてもかなりの施設で描出できるようになった.しかし尾部はどうであろうか.
近年,右下側臥位による膵尾部の描出について,学会でも膵の検査法のセッションでしばしば取り上げられるようになった.しかしスクリーニング検査では,仰臥位での観察が十分でない場合に適宜体位変換を追加するという主張がまだまだ多い.残念なことである.助かる膵癌を発見するためには,あくまでもスクリーニング検査の段階で膵全体を観察して小膵癌を見つけることが重要であり,このためには体位変換による消化管ガスの移動,膵尾部の描出深度の変化などによる膵の描出能向上が重要であることが,まだ十分理解されていない状況である.
下図は健診施設で発見された15mm大の膵尾部癌症例である(画像提供:新宿健診プラザ 伊藤正範氏).仰臥位横断走査で膵尾部がかなり広い範囲で描出されているが,膵癌は見えない.右下側臥位にして膵尾部を描出したら,いきなり低エコー腫瘤が目に飛び込んできたという.このように,精査ではなくスクリーニング検査で助かる可能性のある膵癌を発見することが,皆さんには期待されている.小さい膵癌の切除例は大病院で集計されることが多いが,発見の契機となっているのは診療所や健診施設での超音波検査であることが多く,今まさにこの本を手にしている方が,明日発見する機会に遭遇するかもしれない.くれぐれも『小さい膵癌を発見するなんて自分には関係ない』と思いこまないようにしていただきたい.
スクリーニング法に体位変換を入れる必要性,体位変換の順序の重要性を理解していただき,少しでも多くの助かる膵癌が発見されることを願っている.
2021年9月
著者