発達障害の診断と治療 ADHDとASD診断と治療社 | 書籍詳細:発達障害の診断と治療 ADHDとASD
お茶の水女子大学 名誉教授
榊原 洋一(さかきはら よういち) 編著
神尾陽子クリニック 院長/お茶の水女子大学 客員教授
神尾 陽子(かみお ようこ) 編著
初版 B5判 並製 252頁 2023年04月28日発行
ISBN9784787825346
定価:5,720円(本体価格5,200円+税)冊
小児科医×児童精神科医のコラボ!発達障害(ADHDとASD)の診断と治療,疫学や併存症,ライフコースに沿った経過や生物学的病態,障害概念の歴史的経緯などを,最新のエビデンスに基づいてわかりやすく解説.さらには,著者らの熱い思いが詰まったコラムも必見!発達障害研究・臨床の最前線をいく著者らによる,渾身の一作です!
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目次
序 文 榊原 洋一
執筆者一覧
第1章 総 論 榊原 洋一
1 発達障害総論
第2章 ADHD 榊原 洋一
1 障害概念の歴史的経緯と今日の診断分類
2 ライフコースに沿った臨床症状とその経過
a)乳幼児期
b)学齢期
c)青年期
d)成人期
3 疫学と併存症
4 生物学的病態
a)神経生理学
b)脳機能画像
5 アセスメントと診断
6 治 療
a)総論,薬物治療概論
b)薬物治療各論
c)心理社会的治療
d)長期治療,合併・併存症のあるADHDの治療
7 事例紹介
第3章 ASD 神尾 陽子(5 a)~c)を除く)
1 障害概念の歴史的経緯と今日の診断分類
2 ライフコースに沿った臨床症状とその経過
a)乳幼児期
b)学齢期
c)青年期
d)成人期
3 疫 学
4 併存症
5 生物学的病態
a)ゲノム・エピゲノム 内匠 透
b)神経生理学 飛松 省三
c)脳画像研究 義村 さや香,村井 俊哉
d)発達認知神経科学:エンドフェノタイプを探して
6 アセスメントと診断
7 治 療
a)治療総論
b)治療各論:幼児期
c)治療各論:児童青年期
d)治療各論:成人期
8 事例紹介
第4章 今後の発達臨床の行方 神尾 陽子
1 今後の発達臨床の行方
おわりに 神尾 陽子
索 引
Column
発達障害の邦訳診断名の混乱
2e(twice exceptional)
過剰検査・過少検査
女性のASD
グレーゾーン
きょうだいを育てている親のための3つのヒント
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序文
序文
本書のテーマであるADHDとASDを含む発達障害は,近年その医学的,心理学的研究が大きく進展し,同時にその有病率の高さから,社会的認知も飛躍的に広がった障害である.
そうした状況にもかかわらず,いくつかのすぐれたモノグラフはあるものの,発達障害についての系統的な医学的テキストが存在していなかった.その背景には,発達障害という概念が新しいことと,医学,心理学,教育学という複数の異なる分野にまたがる障害概念であることなどが想定される.
筆者はこれまで発達障害に関する一般向けの啓発書を書いてきたが,以前ある教員向けの講演会で参加者から,その啓発書を大学での教職コースの参考書として使っていることを聞かされた.一瞬うれしく思ったが,次第にわが国には専門職向けの標準的なテキストがないことに思い至って愕然とした記憶がある.
発達障害の英文の教科書は,たとえばBarkleyの『Attention-Deficit Hyperactivity Disorder』やHollanderの『Autism Spectrum Disorders』などの定番がある.それぞれ898ページ(4版),701ページ(2版)の大冊である.信頼できる座右の書として参考にしながら,日本語の教科書がないことを寂しく思っていた.とはいえ筆者にそのような教科書を書く能力も経験もないことはわかっていた.
そんなときに,ある大学の企画で,本書の共著者の神尾陽子氏と保育者や教員向けの発達障害の解説書を一緒に監修する機会があった.神尾氏はわが国を代表する自閉症の研究者であると同時に臨床家である.以前にも海外でのシンポジウムでご一緒したこともあり,発達障害全般に関して,筆者と共通の視点をもっておられることを知っていた.二人とも現在も小児神経科医と児童精神科医として現役の臨床医であること,またわが国の発達障害の医療に対して共通の問題意識をもっていることが明らかになるにつれて,神尾氏と二人三脚であれば,発達障害の教科書が書けるかもしれないという想いが去来し提案したところ,ご快諾をいただき本書執筆の構想に繋がったのである.
多数の著者による執筆の基本的な発達障害観や語り口の違いを避けるために,基本的に筆者がADHDを,神尾氏がASDを担当して執筆することにした.これまでの発達障害についての成書では,著者の考えが前面に押し出されることが多かったが,本書では標準テキストであるべく,筆者の考えをできるだけ控え,最新のエビデンスに基づく研究成果に準拠した内容を中心にすることとした.筆者の考えを出すときにはそのことを明記し,読者にわかるように記述するよう心がけた.なお個人的な意見はコラムとして表明する工夫をした.
最新の研究所見をできるだけ反映するために,多数の文献を参照したが,読者の負担を避けるために1項目あたりの参考文献数は最小限にするようにした.実際に本書執筆にあたって読み込んだ参考文献数は数百編になると思う.
発達障害を構成する障害をどこまで含めるか迷ったが,有病率が高くまた医学的エビデンスの積み重ねが十分にあるADHDとASDに絞った内容とすることにした.学習障害はそうした理由で割愛した.
ADHDとASDの臨床で最も重要なのは診断と治療である.執筆方針を明らかにするために,書名は『発達障害の診断と治療 ADHDとASD』とした.出版はこれまでに雑誌や書籍の出版でお世話になっている診断と治療社に提案したところ快く引き受けていただいた.奇しくも書名と出版社名が一致したことは,何かのご縁ではないかと思っている.
今全章の執筆,編集作業を終え,ささやかな達成感を感じているが,前出のBarkleyやHollander の教科書を思うと,まだ日暮れて道遠しの感がある.
最後に日進月歩の脳科学,神経生理学と遺伝子医学の専門家としてASDの脳科学,遺伝学の最新の知見についてご執筆をお引き受けくださった飛松省三先生,義村さや香先生,村井俊哉先生,内匠透先生と,丁寧な編集作業で粘り強く執筆を支えてくれた診断と治療社の島田つかささん,土橋幸代さんの両氏に感謝したい.
本書がADHDやASDにかかわる多くの方々の一助となれば幸いである.
2023年2月
榊原洋一