五大疾患とされている精神疾患は,その中でも有病率第2位を占めており,国民病ともいえる.日本医師会雑誌の生涯教育シリーズとして発行された『精神疾患診療』では,子どもから高齢者まで,ライフサイクルを通じて目にする精神疾患について,うつ病・不安症,発達症,認知症などを中心に概説した.症状から考えるポイントや,場面ごとに遭遇しやすい疾患などを挙げ,学校医や産業医ほか,実地医家の先生方が一般診療の中で使いやすいように工夫している.
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目次
カラー口絵 目でみる精神疾患
口絵1 うつ病の脳画像 村井俊哉
口絵2 うつ病に対するneuromodulation(mECT) 竹林 実
口絵3 うつ病に対するneuromodulation(rTMS療法) 鬼頭伸輔
口絵4 発達障害者へのロボット支援診療 熊﨑博一
口絵5 自閉スペクトラム症と統合失調症のゲノム解析 尾崎紀夫
口絵6 睡眠障害の画像(睡眠時無呼吸に関する機器や画像,検査所見など) 岩本邦弘
口絵7 精神疾患のPET所見 高畑圭輔
口絵8 認知症の脳画像 川勝 忍
口絵9 高次脳機能障害 三村 將
口絵10 精神疾患をAIで診断する 岸本泰士郎
口絵11 病跡学 小林聡幸
口絵12 アール・ブリュット 平野羊嗣
序 松井吉郎
監修・編集のことば 三村 將
監修・編集・執筆者紹介
第1部 精神疾患を理解するための基礎知識
I 精神疾患の動向
ストレスと精神疾患 岡本泰昌
精神科診断学の変遷 染矢俊幸
精神疾患の画像診断の進歩 里村嘉弘
遺伝学は精神科臨床に何をもたらすのか? 岩田仲生
リカバリー,レジリエンス,共同意思決定(SDM) 渡邊衡一郎
II 精神疾患の診察にあたって
精神疾患の診察のポイント 福田正人
医療面接のコツ 石原武士
精神症状の捉え方 針間博彦
簡易構造化面接 大坪天平
神経学的所見の取り方 神田 隆
病診連携に際しての工夫 井上幸紀
精神科入院が必要となる場合 大澤達哉
対応に苦慮する患者への注意点 成瀬暢也
III ヒントとなる症状と鑑別診断のポイント
趣味や余暇を以前のように楽しめない 川嵜弘詔
気が大きくなって分不相応の宝石を買った 寺尾 岳
数字や配置に異常にこだわる 原井宏明
電車のつり革につかまれない 中尾智博
学校の宿題や道具の忘れ物が多い 小坂浩隆
突然意識が途切れることがある 兼本浩祐
誰もいないのに人の声が聞こえる 鈴木道雄
職場で上司が嫌がらせをしてくる 兼子幸一
身体の痛みを強く訴えるが,いくら調べても異常が見つからない 西原真理
何をするのもおっくうでやる気が出ない 中川 伸
もの忘れを自覚するようになった 粟田主一
部屋の中に知らない人がいる 新井哲明
IV 診断・治療のための検査
自己記入式心理テスト 松井三枝
精神科領域で使われる他覚的評価尺度 稲田俊也
認知機能検査・神経心理学的検査 數井裕光
神経画像検査 川﨑康弘
電気生理学的検査 鬼塚俊明
精神疾患診断に必要な身体面の検査 金沢徹文
V 精神療法と精神科リハビリテーション
精神療法の意義と役割 池田暁史
支持的精神療法 福田倫明
認知行動療法 中川敦夫
グループ認知行動療法 久我弘典
遠隔医療:オンライン認知行動療法 菊地俊暁
トラウマ焦点化認知行動療法 飛鳥井 望
眼球運動による脱感作および再処理法(EMDR) 菊池安希子
対人関係療法 宗 未来
森田療法 中村 敬
精神分析的(力動的)精神療法 藤山直樹
社会生活スキルトレーニング(SST) 安西信雄
認知矯正療法 中込和幸
VI 精神科薬物療法アップデート
精神疾患への薬物療法の意義と役割 古郡規雄
抗うつ薬の分類と特徴 松尾幸治
抗精神病薬の分類と特徴 久住一郎
抗不安薬の分類と特徴 稲田 健
睡眠薬の分類と特徴 三島和夫
抗てんかん薬の分類と特徴 岡田元宏
抗認知症薬の分類と特徴 中村 祐
注意欠如・多動症治療薬・精神刺激薬の分類と特徴 岩波 明
アルコール依存症治療薬の分類とその特徴 松下幸生
第2部 さまざまな場面で遭遇する精神疾患
I 小児期によくみられる精神疾患
自閉スペクトラム症 本田秀夫
注意欠如・多動症 岡田 俊
限局性学習症/限局性学習障害 稲垣真澄
吃 音 酒井奈緒美
知的障害 立花良之
選択性緘黙/場面緘黙 宮尾益知
チック症 金生由紀子
インターネット依存 樋口 進
てんかん 中川栄二
II 思春期から成人期によくみられる精神疾患
統合失調症 糸川昌成
双極性障害 加藤忠史
うつ病 岩田正明
適応障害(適応反応症) 中尾睦宏
強迫症/強迫性障害 松永寿人
パニック症 塩入俊樹
恐怖症 平野好幸
心的外傷後ストレス障害(PTSD) 金 吉晴
社交不安症 清水栄司
解離症 岡野憲一郎
身体症状症 富永敏行
アルコール依存症 杠 岳文
摂食障害 西園マーハ文
パーソナリティ障害 林 直樹
薬物使用症 松本俊彦
ギャンブル障害・ゲーム障害 曽良一郎
不眠症 小曽根基裕
III 高齢者でよくみられる精神疾患
老年期うつ病 馬場 元
老年期の非器質性幻覚・妄想状態(老年期妄想性障害) 古茶大樹
アルツハイマー病 繁田雅弘
軽度認知障害 布村明彦
レビー小体型認知症 水上勝義
前頭側頭型認知症 池田 学
血管性認知症 冨本秀和
いわゆるtreatable dementia 下畑享良
その他の認知症 髙尾昌樹
高齢者のてんかん 吉野相英
第3部 特定の場面で遭遇する精神科的問題
I 学校医として目にする病態
不登校 小平雅基
いじめ 内山登紀夫
ひきこもり 斎藤 環
虐 待 西澤 哲
II 産業医として目にする病態
産業医と精神科医の連携 田中克俊
アブセンティーズムとプレゼンティーズム 佐渡充洋
職場の管理や対応で気をつけること 宇都宮健輔
精神障害と労働災害の申請・認定 吉村玲児
III 女性に特有の病態
月経前不快気分症 山田和男
周産期メンタルヘルス 鈴木利人
周産期の向精神薬の使い方 根本清貴
更年期障害 平島奈津子
IV 他科からみた精神科的問題
心身症と心身医学 吉内一浩
担がん患者の心身医学 内富庸介
呼吸器系・循環器系の心身医学 西村勝治
消化器系の心身医学 福土 審
内分泌・代謝系の心身医学 深尾篤嗣
神経疾患の心身医学 福武敏夫
小児科領域の心身医学 永光信一郎
整形外科領域の心身医学 谷川浩隆
産婦人科領域の心身医学 相良洋子
泌尿器科領域の心身医学 堀江重郎
皮膚科領域の心身医学 羽白 誠
眼科領域の心身医学 若倉雅登
耳鼻咽喉科領域の心身医学 五島史行
歯科・口腔外科領域の心身医学 豊福 明
老年科領域の心身医学 太田大介
V 高齢者に特有の問題
医療選択と意思決定支援 成本 迅
成年後見制度 小賀野晶一
社会的孤立 斉藤雅茂
高齢者の自動車運転 上村直人
VI 入院患者でよく遭遇する問題
リエゾン・コンサルテーション 明智龍男
せん妄とその対策 稲垣正俊
緩和ケアと痛みへの対応 橋口さおり
精神科医療と終末期 樋口範雄
VII 社会的に注目される問題
COVID-19に伴うメンタルヘルス 藤井 猛
惨事ストレスとその対策 大塚耕太郎
自殺とその対策 河西千秋
司法精神医学 五十嵐禎人
性別違和 針間克己
索 引
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序文
序
わが国では近年,精神疾患患者は増加の一途を辿っている.2002年には精神疾患の患者数は258.4万人であったが,2017年には419.3万人と,4割も増加した.2013年度からは4疾病(がん,脳卒中,急性心筋梗塞,糖尿病)に精神疾患を加え5疾病とされ,精神疾患を重要疾患の1つとして,国をあげて医療福祉提供体制が整えられてきた.このような中,入院患者は過去15年間で減少傾向にあるものの,精神疾患を有する外来患者数は著増している.
精神疾患は病気の状態が外から分かりにくいため,医師ひとりひとりが患者の精神状態を聞き取り,患者本人の意思が尊重される医療を提供するという信念の下,診断基準に則った医療的対応を行うことが重要である.本書では,患者に寄り添った適切な診断ができるよう,ケアを行うために必要な知識をその道のエキスパートの先生方にご執筆いただいた.日常診療の場で十分にご活用いただけるものとなれば幸いである.
最後に,監修の三村 將先生,編集の尾崎紀夫先生,中込和幸先生,村井俊哉先生,そして,日々の診療を行いながらご執筆いただいた先生方に深謝申し上げる.
2022年10月
公益社団法人 日本医師会会長
松本吉郎
監修・編集のことば
日本医師会雑誌では,これまで生涯教育シリーズとして2004年に『精神障害の臨床』,2013年に『神経・精神疾患診療マニュアル』を発刊した.今回また約10年が経過し,改めて『精神疾患診療』を発刊する運びとなった.精神疾患に対する基本的な考え方は以前と変わらないものの,この10年で精神疾患に関する診断,治療,対応といった面では大きく様変わりしてきている.厚生労働省は2011年に従来のがん,脳卒中,虚血性心疾患,糖尿病という4大疾患に精神疾患を加え,5大疾患として,その重要性を強調した.実際,精神疾患の有病率は五大疾患の中でも第2位を占めている.2011年3月の東日本大震災と続発する東京電力福島第一原子力発電所の事故の後は,急性ストレス障害や心的外傷後ストレス障害がにわかに注目された.また,現在は2019年末からのCOVID-19パンデミックがいまだ収束が見えない中,不安や抑うつ,社会的孤立,long COVIDの問題などが大きくクローズアップされている.考えてみれば,ほかの4疾患やCOVID-19を例に挙げるまでもなく,さまざまな身体疾患に伴い,心の平和は常に危機にさらされている.心の問題は身体と不可分であり,まさにPrinceらが2007年のLancet論文で提言したとおり“No health without mental health”(メンタルヘルス抜きで健康は語れない)ということである(Prince M, et al: Lancet 2007; 370: 859-877).
本書では『精神疾患診療』として,実地医家の先生方が座右に置いて使いやすいように配慮した.最近は精神疾患の診断基準もDSM-5,ICD-11とバージョンアップしてきているが,その中で精神科の用語はかえって分かりにくくなっている部分もある.本書では,用語の厳密性や最新性よりも一般に分かりやすいような平易な表記を心がけた.本書の特筆すべきポイントとして,実地医家の先生方が患者の特定の症状を目にしたときに,どのような鑑別診断を念頭におく必要があるかを逆引きできるような章を設けた.また,子どもから高齢者までの各ライフステージごとに遭遇しやすい精神疾患について記述し,さらに学校医として,あるいは産業医としてなど,特定の場面で遭遇する病態についても網羅するようにした.併せて,他科から見た精神医学的問題を挙げ,何科がバックグラウンドの先生であっても一般診療の中で使いやすいように工夫した.本書が実地医家の先生方の臨床の一助となれば望外の幸いである.
2022年10月
監修・編集者を代表して
三村 將