『先天性骨髄不全症診療ガイドライン2017』の改訂版! 厚労省難治性疾患政策研究事業「遺伝性骨髄不全症候群研究班」の研究成果に加え,集積した最新の臨床的な知見等を加えた.なお,「先天性血小板減少症」は独立して研究が行われ,別のガイドラインに収載となったため,遺伝性骨髄不全症と鑑別がむずかしい「先天性溶血性貧血」を新たに加えた.専門の先生をはじめ,小児科や一般内科の先生方にもご活用いただける1冊.
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目次
口 絵
第2版の発刊によせて
序 文
はじめに
発刊によせて(2017)
序 文(2017)
はじめに(2017)
遺伝性骨髄不全症の患者数
作成組織一覧
I 本ガイドラインについて
1.はじめに
2.本ガイドラインの基本的な考え方,記載方法
3.遺伝性造血不全症の診断,治療
4.利益相反
5.ガイドラインの検証と改訂
II Diamond-Blackfan貧血
診断のフローチャート
診断へのアプローチ
①疾患概念
②診断基準
③鑑別診断
④重症度分類
疫 学
①発症頻度
②自然歴・予後
病因・病態
臨床症状
①貧 血
②身体の先天異常
③悪性腫瘍の合併
治療法
①輸 血
②薬物療法
③造血細胞移植
フォローアップ,問題点・将来の展望
文 献
III Fanconi貧血
診断のフローチャート
診断へのアプローチ
①疾患概念
②診断基準
③鑑別診断
④重症度分類
疫 学
①発症頻度
②自然歴・予後
病因・病態
臨床症状
①身体の先天異常
②悪性腫瘍の合併
治療法・治療指針
①輸 血
②薬物療法
③造血細胞移植
フォローアップ
文 献
IV 遺伝性鉄芽球性貧血
診断のフローチャート
診断へのアプローチ
①疾患概念
②診断基準
③鑑別診断
④重症度分類
疫 学
①発症頻度
②自然歴・予後
病因・病態
臨床症状・検査所見
①身体の先天異常
②悪性腫瘍の合併
③検査所見
治療法・治療指針
①薬物療法
②輸血療法
③造血細胞移植
フォローアップ,問題点・将来の展望
文 献
V Congenital dyserythropoietic anemia(CDA)
診断のフローチャート
診断へのアプローチ
①疾患概念
②診断基準
③鑑別診断
④重症度分類
疫 学
①発症頻度
②自然歴・予後
病因・病態
臨床症状・検査所見
治療法・治療方針
①輸血療法
②除 鉄
③脾 摘
④インターフェロン
⑤その他の薬物療法
⑥造血細胞移植(HCT)
フォローアップ,問題点・将来の展望
文 献
VI 先天性角化不全症
診断のフローチャート
診断へのアプローチ
①疾患概念
②診断基準
③鑑別診断
④重症度分類
疫 学
①発症頻度
②自然歴・予後
病因・病態
臨床症状・検査所見
①身体の先天異常
②悪性腫瘍の合併
③検査所見
治療法・治療指針
①薬物療法
②輸血療法
③造血細胞移植
フォローアップ,問題点・将来の展望
文 献
VII Shwachman-Diamond症候群
診断のフローチャート
診断へのアプローチ
①緒 言
②疾患概念
③診断基準
④鑑別診断
⑤重症度分類
疫 学
①発症頻度
②自然歴・予後
病因・病態
臨床症状
①臨床症状ならびに身体の先天異常
②悪性腫瘍の合併
治療法・治療指針
①血液学的合併症
②膵外分泌異常,栄養
③骨異常
④歯科的合併症
⑤神経発達
フォローアップ
文 献
VIII 先天性好中球減少症
診断のフローチャート
診断へのアプローチ
①緒 言
②疾患概念
③診断基準
④鑑別診断
⑤重症度分類
疫 学
病因・病態
①SCN1
②SCN2
③SCN3
④SCN4
⑤SCN5
⑥SRP54欠乏症
臨床症状
①臨床症状,身体所見
②検査所見
治療法・治療指針
①対症療法
②根治療法
③その他の治療戦略
フォローアップ
文 献
IX 先天性溶血性貧血
診断のフローチャート
診断へのアプローチ
①疾患概念
②診断基準
③鑑別診断
④重症度分類
疫 学
①発症頻度
②自然歴・予後
病因・病態
①赤血球膜異常症
②赤血球酵素異常症
③ヘモグロビンの異常
臨床症状・検査所見
①貧血・黄疸
②検査所見
③身体の先天異常の合併
④悪性腫瘍の合併
治療法
①輸血と除鉄治療
②脾 摘
③薬物療法
④造血細胞移植
フォローアップ,問題点・将来の展望
文 献
索 引
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序文
【第2版の発刊によせて】
日本小児血液・がん学会は医師,看護師を中心に,現在2千名を超える会員数の一般社団法人であり,日本小児科学会の分科会です.2011年に小児血液(1960年設立)と小児がん(1985年設立)の両学会が合併して発足し,この領域の医学と医療の質向上をめざして活動しています.本学会では疾患委員会,ガイドライン委員会ほかの先生方にご尽力いただき,各種ガイドラインの作成と改訂に取り組んでまいりました.先天性骨髄不全症は血液疾患として,厚生労働科学研究費(難治性疾患等政策研究事業)「先天性骨髄不全症の診断基準・重症度分類・診療ガイドラインの確立に関する研究」により2017年度版「先天性骨髄不全症診療ガイドライン」が上梓されました.その後,ゲノム医療が実装され,がん素因や先天異常との重複から児の長期診療の重要性が認識されてきました.そのようななか,伊藤悦朗先生をはじめとするエキスパートの皆様のおかげで「遺伝性骨髄不全症診療ガイドライン」の2023年改訂に至りました.初版最終章の先天性血小板減少症は,本学会からの「小児免疫性血小板減少症診療ガイドライン2022」に記載されましたので,この改訂版では先天性溶血性貧血に変更されました.これは,溶血を伴う先天性赤血球形成異常性貧血(congenital dyserythropoietic anemia:CDA)などとの鑑別が必要となるためです.
遺伝性骨髄不全症はDNA 損傷修復障害,テロメア異常,リボソーム異常などを基本病態とする稀な単一遺伝子病群です.発症様式と時期は多彩ですが,原因遺伝子の増加とともに臨床情報も集積され,代表的疾患(Fanconi貧血,Diamond-Blackfan貧血など)のがん素因や免疫異常との関連も明らかになってきました.正確な診断に基づき造血細胞移植などの治療選択が適切に行えるよう長期フォローアップ,ご家族を含めた遺伝カウンセリングなどの対応が必要です.本症は成人の血液疾患やがん領域でも認識されるようになりましたので,今回の改訂は成人領域の先生方にもお役に立てていただけるよう配慮されています.
どのガイドラインも入念に最新情報を取り入れ,実臨床で最大限に活用することができるように改訂されます.しかし,個々の治療決定については,本人そしてご家族と十分に検討を重ね,本ガイドライン発刊以降の最新情報も考慮のうえで,ご判断されますようお願いいたします.児の長期診療においては,成長に伴う変化,新規治療薬・治療法の開発情報などに注意しながら,常に前向きかつ慎重に将来の理想的な移行期医療につながることを期待しております.
今回,第2版に改訂いただいた厚生労働省難治性疾患克服研究事業研究班及び日本小児血液・がん学会の中央診断事業と疾患登録事業の先生方に心より御礼申し上げます.日々,重症・難治の小児血液・がん疾患に取り組んでおられる専門医のみならず,日常診療において一般小児科医による本症の早期発見が根治と適切な治療管理につながることを祈念いたします.
2023年3月
一般社団法人 日本小児血液・がん学会理事長
大賀正一
【序 文】
骨髄不全症の代表的疾患は再生不良性貧血や骨髄異形成症候群であるが,小児においてはそれらの疾患のうちの約10%が遺伝性であるといわれている.遺伝性骨髄不全症はさまざまな遺伝的素因の関与によって造血細胞の分化・増殖が障害されて血球減少をきたす疾患群の総称である.原因遺伝子の関与はしばしば造血細胞のみにとどまらないため,血球減少に加えて特徴的な身体的所見を伴うことが多い.汎血球減少をきたす遺伝性骨髄不全症として,Fanconi貧血,先天性角化不全症,およびShwachman-Diamond症候群などが知られており,単一系統のみの血球減少を呈するものとして,Diamond-Blackfan貧血,遺伝性鉄芽球性貧血,congenital dyserythropoietic anemia,先天性好中球減少症などが含まれる.本ガイドラインではこれらの疾患に先天性溶血性貧血を加えて,診断,疫学,病因・病態,臨床症状,検査所見,治療およびフォローアップについて詳細に記載している.
遺伝性骨髄不全症は特徴的な身体的所見,血球形態異常および検査所見から診断をつけることは可能ではあるが,必ずしも特徴的な所見が揃うわけではなく診断は容易ではない.近年,次世代シークエンサーによって網羅的な遺伝子解析が可能になり,遺伝性骨髄不全症の原因遺伝子を一挙に解析するターゲットシークエンスが未知の遺伝子変異の探索に用いられている.その結果,遺伝性骨髄不全症の診断精度があがり,後天性骨髄不全症と考えられていた症例のなかから,遺伝性骨髄不全症が診断されることもみられている.遺伝性骨髄不全症のなかには易発がん性を有するものがみられるため,正確に診断し,起こりうる合併症を認識したうえで適切にフォローアップすることが重要である.また,正確な診断は治療方針の決定や造血細胞移植を行う際に適切な前処置を選択するためにも重要である.
本ガイドラインが2017年に発刊されてから数年が経過し,それぞれの疾患の新たな原因遺伝子が明らかになり病態解明も進歩していることから,今回,改訂を行った.本ガイドラインを参照し,遺伝性骨髄不全症を有する患者の正確な診断,適切な治療方針の選択およびフォローアップが行われることを願ってやまない.
2023年1月
一般社団法人 日本小児血液・がん学会 再生不良性貧血・MDS委員会委員長
濱 麻人
【はじめに】
遺伝性骨髄不全症候群は,骨髄不全,先天的な身体異常,発がん素因を特徴とする遺伝性疾患の総称であり,臨床所見は極めて多彩である.おもな遺伝性骨髄不全症候群には,Diamond-Blackfan貧血,Fanconi貧血,遺伝性鉄芽球性貧血,先天性赤血球形成異常症,Shwachman-Diamond症候群,先天性角化不全症,先天性好中球減少症があるが,いずれの疾患も難治である.これらの疾患は共通点が多いうえに軽症例から最重症例まで広範な病像を示すため,臨床所見のみから診断することは専門医といえども容易ではない.遺伝性骨髄不全症候群で最も頻度が高いDiamond-Blackfan貧血でも日本においては年間10人前後,次に多いFanconi貧血は5~6人であり,その他の疾患はさらに少数である.
Fanconi貧血では,染色体断裂性試験がスクリーニング検査として確立されている.また,先天性角化不全症ではテロメア長の測定が,Diamond-Blackfan貧血では赤血球adenosine deaminase 活性や赤血球還元グルタチオンの測定が有用と考えられている. しかし,その他の多くの遺伝性骨髄不全症候群には簡便な検査法がなく,診断は臨床診断に委ねられてきたが,他の遺伝性骨髄不全症候群,先天性溶血性貧血や後天性再生不良性貧血との鑑別は必ずしも容易ではない.
わが国の遺伝性骨髄不全症候群の研究は,欧米に比べ大きく遅れていたが,2014年度から厚生労働省難治性疾患政策研究班「先天性骨髄不全研究班」(伊藤班)が発足し,組織的な研究体制が整い,新規原因遺伝子の発見や新たな分子病態の解明が進んだ.その研究成果を医療現場に還元するために,「先天性骨髄不全診療ガイドライン2017」を作成し,日本小児血液・がん学会の書籍として出版した.しかし,その後の5年間でこの分野では大きな進歩があり,改訂版の出版が必要になった.2022年度より新たに「遺伝性骨髄不全症候群研究班」(伊藤班)が発足し,その研究成果を医療現場に還元するために,これまでに研究班に集積された臨床的な知見を含め現状における最新の知見も整理し,「先天性骨髄不全診療ガイドライン2017」の改訂版「遺伝性骨髄不全症診療ガイドライン2023」を作成し,日本小児血液・がん学会の承認を受けた後,書籍として出版することにした.なお,先天性血小板減少症は,AMED「先天性血小板減少症研究班」(石黒班)で独立して研究が行われているため2023年改訂版には含まれていないが,遺伝性骨髄不全症候群と鑑別がむずかしい先天性溶血性貧血を新たに加えた.
遺伝性骨髄不全症候群は小児期に診断されることが多い.しかし,成人期に症状が顕在化して内科領域で診断される症例が報告されたり,成人への移行期医療が問題となったりするなど,内科領域の血液専門医も遺伝性骨髄不全症候群についての知識が必要とされる.本書が,血液の専門医ばかりではなく,一般の小児科医や内科医の日常診療に役立つ実践的な書籍として活用されることを期待したい.本ガイドラインは,研究班の総力をあげて取り組んだ成果であり,改訂作業に取り組んでいただいた多くの先生方に心から深謝する.
2023年1月
遺伝性骨髄不全症の登録システムの構築と
診断基準・重症度分類・診断ガイドラインの確立に関する研究班
主任研究者 弘前大学大学院医学研究科地域医療学
伊藤悦朗