本書は,フィジカルアセスメントや病歴聴取をしっかり行って,関節の痛みや臓器障害から,➀リウマチ・膠原病を疑い,そして適切な検査をして,➁リウマチ・膠原病を診断することの2本柱で構成となっています.また,リウマチ・膠原病疾患に苦手意識のある若手医師や非専門医がリウマチ・膠原病疾患の疑いのある患者を診る際に,スムーズに診断まで進められるアプローチの方法など,すぐに役立つ知識がちりばめられています.
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目次
序 藤田芳郎
まえがき 滝澤直歩
まえがき 志水英明
執筆者一覧
略語一覧
1 総論
1 リウマチ・膠原病診療の考え方
2 診断編
section0:診断への近づき方
1 リウマチ・膠原病疾患へのアプローチ
section1:痛みから考える
1 関節痛・関節炎のアプローチ
2 頸の痛み
3 肩の痛み
4 肘の痛み
5 手の痛み
6 腰の痛み
7 股関節の痛み
8 膝の痛み
9 足の痛み
10 全身が痛い
section2:障害臓器から考える
1 眼病変
2 皮疹
3 肺病変
4 胸水
5 腎臓
6 尿の色・量
7 ネフローゼ症候群か腎炎症候群で腎での異常を疑うとき
8 ネフローゼ症候群か腎炎症候群以外での異常を疑うとき
9 肺高血圧症(PH)
10 心嚢水
11 中枢神経障害
12 末梢神経障害
13 消化器疾患
14 リンパ節腫脹
section3:不明熱を考える
1 不明熱の原因になりうる膠原病
section4:検査の考え方
1 自己抗体の使い方・考えかた
2 尿検査の診かた・考えかた
3 検尿の診かた―定性検査と沈渣
4 腎機能の診かた
5 画像検査の診かた
6 関節穿刺の方法・解釈
7 腎生検を行うべき病態は?
section5:診断をつけにいく
1 全身性エリテマトーデス(SLE)
2 全身性強皮症(SSc)
3 筋炎―皮膚筋炎/多発性筋炎(DM/PM),封入体筋炎(IBM),壊死性筋症(NM)
4 Sjogren症候群(SS)
5 混合性結合組織病(MCTD)
6 関節リウマチ(RA)
7 血管炎
8 大型血管炎―高安動脈炎(TA),巨細胞性動脈炎(GCA)
9 結節性多発動脈炎(PAN)
10 ANCA関連血管炎(AAV)
11 多発血管炎性肉芽腫症(GPA)と顕微鏡的多発血管炎(MPA)
12 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)
13 脊椎関節炎(SpA)
14 リウマチ性多発筋痛症(PMR)
15 IgG4関連疾患(IgG4-RD)
16 結晶性関節炎
17 成人Still病(ASD)
18 Behcet病
19 抗リン脂質抗体症候群(APS)
20 再発性多発軟骨炎(RP)
21 クリオグロブリン血症
22 化膿性関節炎
23 ウイルス性関節炎(PBV19,HBV,HCV,風疹ウイルス)
24 膠原病で起こる腎疾患
3 治療編
1 薬剤の使い方
1 ステロイドの使い方
2 非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)の使い方
3 免疫抑制薬の考え方(ステロイドスペアリング)
4 薬剤性腎障害
5 腎障害時の薬剤使用―薬剤投与時のeGFRの正しい使い方
6 高血圧の診かた・降圧薬の使い方
7 慢性腎臓病(CKD)の管理
Column
フォローアップで診断が変わったケース
皮膚は内臓の鏡?
Rheum-Nephrologyとは―その強み
ステロイドを投与したら多尿になった!?
しびれを訴える患者さんへのアプローチ
膠原病疾患の治療薬に伴う消化管病変
不明熱へのアプローチの変遷
腎生検のトリビア
抗CCP抗体とリウマトイド因子(RF)の位置づけ
こんなときは,膠原病科と腎臓内科との間で意見が異なるかもしれない?
病棟での非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)の活躍場面
ステロイドをなぜ減らすべきなのか?
薬剤性腎障害の診断Q&A
索引
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序文
序
しあわせhappyの語源は「偶然の出会い」「仕合わせ」であると大学入学直後にイギリスの詩人ウイリアム・ブレイク研究第一人者である文学者の恩師に教えられ年令を重ねるごとにその語源の真実が身に染みている.初期研修医になりたての希望に燃えた頃に教えていただいたことは多くあるが中でも脳に刻まれた言葉は「医師は自分に何ができないかを知っていることこそが重要だよ」という研修した大学病院の多くの内科研修医に敬愛されていた小西孝之助先生の教えであった.「自分がわからないのに知ったかぶりをしてはいけない,自分の無力さを素直に認めてわからないことはわからないと言ってわかる人を探して尋ねそしてわかるようになろうと努力しなければならない」すなわち患者さんのために働くには「これは自分の科ではない」とか「分類不能」とかを簡単に発しない粘り強く謙虚な態度を維持することが必要だという教えだと理解した.
1999年ごろに始まった当院の膠原病・リウマチ科は当時の伊藤恭彦部長(前愛知医科大学教授)の指揮のもと「これは自分の科ではない」を禁句にまさに0からの出発となった.その数年前からすでに米国感染症専門医の青木眞先生から「感染症」の教えを受けているという大きな「仕合わせ」が背景にあり,さらに自分たちにとって全く未知であった米国の膠原病・リウマチ診療を経験された上野征夫先生,岡田正人先生,岸本暢將先生に出会い教えを請う「仕合わせ」を得て素晴らしい環境に恵まれることとなった.「膠原病診療は総合診療である」と上野征夫先生から教えられた.総合診療は鑑別診断が重要だ.青木眞先生著書の「感染症診療マニュアル」もまず鑑別診断を考える総合診療の書である.そして「専門家」というものはその境界領域を熟知しようとしなければならないと岡田正人先生や岸本暢將先生からも繰り返し教えられてきた.「感染症」も「膠原病」も炎症性疾患であるためその表現は一見そっくりである.簡単に「うちの科ではない」といって「典型的な膠原病」を見逃すと大恥をかくばかりか患者さんに大きな不利益を与えることになりその逆も真となる.だから感染症科医も膠原病科医も「専門医」になるためには幅広く両方を多少なりとも勉強しなくてはならず米国の医師問題集では境界領域の問題が必ず出題されている.どの疾患に属するかわからない境界不明な症例にあたった場合の対処方法をも知って置かなければならない.そして常に「自分はひょっとしたら間違っているかもしれない」という謙虚に見直しをすることの重要性やその他言い尽くせない多くのことを岡田正人先生から教えていただいてきている.
このように素晴らしい出会いからさまざまな教えをうける「仕合わせ」な環境のもとで自分の無知を謙虚にさらけ出しながら自由に討論しあった後で再び一流の先生がたの教えを請うという常に「セカンドオピニオン」が存在する環境で日々臨床を重ねてきた中でできた本書が「うちの科ではない」とか「分類不能」と断言された患者あるいはその患者を診療しなければならない医療者の方々の少しでもお役に立つことができれば望外の喜びである.
2023年6月
監修者を代表して
中部ろうさい病院 副院長/リウマチ・膠原病科,腎臓内科部長 藤田 芳郎