本邦初! 小児消化器科医・児童精神科医・小児神経科医・小児外科医の4つの視点から遺糞症・便失禁の臨床を徹底的に解説しました! 遺糞症・便失禁にかかわるあらゆる領域をカバーした啓蒙の書です!
本書が遺糞症(便失禁)の診療にかかわるすべての人の教科書でもあり,バイブルでもあり,マニュアルでもあり,物語でもあることを確信しております. ~本書「あとがき(十河剛先生)」より~
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目次
遺糞症とは 十河 剛
1 定義と用語の変遷
2 分類
1章 便失禁(遺糞症)の病態
1 便秘がある場合 十河 剛
1 正常な排便のメカニズム
2 便秘のメカニズム
3 便秘の悪循環と便失禁
4 溜め込み習慣と便失禁
2 便秘がない場合―基礎疾患がない 十河 剛
1 機能性非滞留性便失禁
2 尿失禁との関連
3 それ以外の場合―外科的疾患との関連 内田恵一
1 外科的疾患が基礎疾患にある場合の便失禁(遺糞症)
2 術後(合併症を含む)の便失禁(遺糞症)
4 それ以外の場合―発達障害との関連 角田智哉
1 発達障害と消化器症状
2 発達障害の特性からみた便失禁(遺糞症)
5 それ以外の場合―精神疾患との関連 角田智哉
1 児童精神科の実際
2 ICD-11とDSM-5における遺糞症
3 遺糞症のタイプ
Case 1 5歳 男児
Case 2 6歳 男児
Case 3 12歳 女児
4 遺糞症と併存する精神障害
6 それ以外の場合―神経筋疾患との関連 市川和志
1 神経筋疾患の便失禁
2 神経因性大腸機能障害(NBD)の病態生理
3 排尿の神経回路
4 神経疾患による排便障害の原因
2章 便失禁(遺糞症)の診断
1 小児消化器科医の視点 十河 剛
1 便秘がある場合
2 便秘がない場合
2 小児神経科医の視点 市川和志
1 問診のポイント
2 診察のポイント
3 検査のポイント
4 鑑別疾患
3 児童精神科医の視点 角田智哉
1 遺糞症と併存精神障害の診断に必要な特徴
2 背景に発達障害があると疑ったとき
4 小児外科医の視点 内田恵一
1 便失禁を起こす外科疾患の鑑別診断
2 鑑別診断に必要な検査(血液検査を除く)
3 重要な疾患を見落とさないための問診のコツ
4 重要な疾患を見落とさないための身体所見のとり方のコツ
3章 便失禁(遺糞症)の治療
1 小児消化器科医の視点 十河 剛
1 便塞栓がある場合
2 便塞栓がない場合
Case 4 7歳 女児
2 小児神経科医の視点 市川和志
1 便秘症の一般管理と治療
2 脊髄疾患の治療
3 児童精神科医の視点 角田智哉
1 遺糞症がある子の3つのゴール
4 小児外科医の視点 内田恵一
1 器質的疾患のない便失禁(遺糞症),または便秘症に対する外科的治療と術後フォローのコツ
2 器質的疾患のある便失禁(遺糞症),または便秘症に対する外科的治療と術後フォローのコツ
4章 便失禁(遺糞症)の予後
1 小児消化器科医の視点 十河 剛
1 便秘がある場合
2 便秘がない場合
Case 5 6歳 女児
2 小児神経科医の視点 市川和志
1 二分脊椎の治療成績と予後
3 児童精神科医の視点 角田智哉
1 児童精神科医に紹介される場合の注意
2 具体的な考え方
4 小児外科医の視点 内田恵一
1 器質的疾患のない便失禁(遺糞症),または便秘症に対する外科的治療後
2 器質的疾患のある便失禁(遺糞症),または便秘症に対する外科的治療後
附録
Dialogue 小児消化器科医と児童精神科医の対談 十河 剛,角田智哉
索引
あとがき 十河 剛
執筆者一覧
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序文
遺糞症とは
1 定義と用語の変遷
遺糞症(encopresis)とは,排泄機能が自立すべき4歳以上の小児(または4歳相当の発達水準の小児)において,不適切な場所で随意的または不随意的な排便がみられる状態です.当初,“encopresis”=遺糞という用語は,通常の排便と同じ程度の量の便を漏らしてしまう状態に用いられていました.その後,“soiling”=漏便という用語も生まれ,これは少量の便を漏らしてしまい,下着に色がつく程度の状態を指します.“soiling”は便塞栓(fecal impaction)を伴う便秘による“overflow fecal incontinence”=溢流性便失禁の特徴的な症状の一つです.
現在,機能性消化管疾患の国際的な診断基準として,「Rome IV診断基準」が用いられていますが,“encopresis”,“soiling”よりも中立的な用語として,“fecal incontinence”=便失禁という用語が採用されています.本書では,特別に区別して述べたい場合を除き,“fecal incontinence”=便失禁という用語を用いることとします.
2 分類
便失禁には,乳幼児期から症状が継続している一次性便失禁と,いったん,トイレでの排便が自立したあとに便失禁がみられるようになる二次性便失禁があります.
また,Hirschsprung病,肛門括約筋異常,二分脊椎などの器質的異常による便失禁と,器質的異常がない機能性便失禁とに分類することもできます.
さらに便秘による便の滞留(fecal retention)や便塞栓がみられる便失禁と,これらがない非滞留性便失禁(nonretentive fecal incontinence)に分類できます.「Rome IV診断基準」では,機能性便秘症と機能性非滞留性便失禁=“functional nonretentive fecal incontinence”は,機能性排便障害=“functional defecation disorder”として同じカテゴリーに分類していますが,別の疾患として明確に区別しています.
「便失禁」と述べた場合には,たとえば,急性胃腸炎による下痢のために便を漏らしてしまった,潰瘍性大腸炎の症状が増悪したために便を漏らしてしまった,などの一過性(急性)の症状を指すこともあります.「Rome IV診断基準」では,「少なくとも1か月症状が持続する」ことが,非滞留性便失禁の診断基準に含まれています.国際小児禁制学会(International Children's Continence Society:ICCS)による小児機能性非滞留性便失禁の管理に関する推奨でも,「Rome IV診断基準」に準じて「少なくとも1か月症状が持続する」こととしています.本書では,おもに1か月以上症状が持続する慢性の病態を扱い,必要に応じて,急性の病態に関して記載することとしました.
十河 剛