全国地域医療教育協議会監修の,地域医療の必携書!令和4年度改訂版のコアカリに対応し情報もアップデート.へき地医療,多職種連携,地域包括ケアシステムなど基本的要素を網羅し,現在・未来の日本医療に欠かせない地域医療を体系的に学べます.医学・医療系学生の皆さんの学習や,教員・指導医の皆さんの実習指導など幅広く活用いただけます.問題文も豊富に収録し、医学部を目指す受験生にも面接・小論文対策としておすすめです.
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目次
発刊によせて 井口清太郎
執筆者一覧
本書の使い方
第1章 地域医療学総論
1 超高齢社会と日本の医療 前田隆浩
2 地域医療の定義と歴史的変遷 岡山雅信
3 地域医療の現状分析
A 地域社会と地域医療 阿波谷敏英
B 医師の偏在 松本正俊
C 自治医科大学と地域枠 松本正俊,小谷和彦,岡崎仁昭
D へき地医療 小谷和彦
E 遠隔医療 原田昌範
4 人類学と地域医療・地域医療学 宮地純一郎
5 地域医療をめぐる社会的課題と将来像 永井良三
問題にチャレンジ!
第2章 システムとしての地域医療
1 行政の役割と関連法規 小池創一
2 地域における多職種連携 春田淳志
3 地域医療を構成する人的要素
A 医療・保健・福祉の職種と資格 大脇哲洋
B 医 師 大脇哲洋
C 看護職 八木街子
D 他のメディカルスタッフ
① 薬剤師 佐藤一生
② 歯科医師 角 忠輝
③ 地域運営組織(自治振興区) 矢吹正直
④ リハビリテーション専門職 蔵重雄基
⑤ 介護福祉士 蔵重雄基
⑥ ケアマネジャー(介護支援専門員) 竹本龍二
⑦ 社会福祉士 大庭亜希子
4 医療計画・医療連携・地域医療構想
A 医療計画 赤井靖宏
B 医療機関の連携 川本龍一
C 地域医療構想 天辰優太
D 地域医療と働き方改革 小池創一
5 医療保険と介護保険 郡山千早
6 外来診療 鈴木綾香,稲葉 崇
7 入院診療 山本 祐
8 在宅医療 永井康徳
9 地域包括ケアシステム
A 地域包括ケアシステムの概念 畑野 悠,沖田光昭
B 地域包括ケアを支える施設や組織 中村精吾,畑野榮治
C 地域における保健活動 根路銘安仁
問題にチャレンジ!
第3章 地域の安心安全を守る医学
1 地域における予防医学 上原里程
2 生活習慣とリスク 上原里程
3 医療に関連した人文・社会科学領域 松山 泰
4 地域社会と健康 小曽根早知子,高屋敷〈堀内〉明由美
5 災害医療と地域医療 井口清太郎
問題にチャレンジ!
第4章 地域医療実習・研修とキャリア形成
1 低学年における地域医療実習-地域医療体験のポイント- 永田康浩
2 臨床実習における地域医療実習-学習のポイントと教育体制について- 永田康浩
3 初期臨床研修での地域医療研修 中桶了太
4 地域医療におけるキャリア形成 前野哲博
問題にチャレンジ!
第5章 地域医療における調査研究
1 practice based researchの理念と実践 井上和男
問題にチャレンジ!
索 引
おわりに 松本正俊
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序文
発刊によせて
「地域医療」という言葉ほど,さまざまな解釈をもって使われている言葉はないのではないか,そう思うことがある.英語でいうならばcommunity-based medicineなのだが,日本語の「地域医療」がもつ意味合いは,人によってはrural medicineやlocal medicineであったり,あるいはgeneral medicineであったりもする.また政策のなかで用いられている「地域医療」は時にruralやlocalの意味合いが強いようにも思われる.地域医療の担い手として期待され設定された「地域枠」についても,医師不足地域への対応を求められている部分もあることは否めない.しかし本書においては地域医療とはcommunity-based medicineであることを明確に示し,そのうえで種々の論を張っていくこととした.なぜなら地域医療として学ぶ医療は,医師不足地域のみならず,世界最先端の高齢化が進展するわが国にあって介護や福祉分野を巻き込みながら,社会の安定に資する医療にほかならないからだ.現在,わが国では人口構成が大きく変化し,さらにそれにあわせて疾病構造も変化している.そしてそれに呼応して地域医療構想が進められようとしている.地域医療は個々人の疾病管理という範囲を超えて,広く社会全体を俯瞰する社会医学の視点をもつことが求められているのだ.わが国で働くすべての医療者が,多少の差はあったとしても地域医療にかかわることを求められているといえよう.
「地域医療学入門」の初版は令和元年8月に全国地域医療教育協議会と日本医学教育学会地域医療教育委員会の協働作業により上梓された.その内容は平成28年度に改訂された医学教育モデル・コア・カリキュラムに準拠した形で実践的なものとして作られた.その後,令和4年度に新たに医学教育モデル・コア・カリキュラムが改訂されたことを踏まえ,この度,第2版を作成することとなった.変化する状況にあわせて適切な改訂を適切な時宜に行えたことを「診断と治療社」にはまずもって御礼申し上げたい.
本書においては総論のなかで「地域医療」の定義を示し,その定義に従って続く各論において地域医療を支えるシステム全般を,さらに地域の安心安全に資する方略を,さらには全国の医育大学において行われている地域医療教育の実際について,最後に地域医療における調査研究について解説を加えた.本書は平易ながら地域医療に関するエッセンスが凝集された良書といえよう.医学生はもちろん,地域医療にかかわる医療系の学生,受験を控えた高校生,そして何より地域医療教育(臨床実習)を担当する指導者に是非ご一読いただきたい.
本書を執筆するにあたっては現場の多くの方々からご協力いただいた.また診断と治療社の担当者には改訂に関する企画段階からの関与とその後のフォロー,精緻なチェックと懇切丁寧なアドバイスをいただいた.かかわってくださった方々に心より御礼申し上げるとともに,本書が地域医療教育の発展に資することを祈念し,第2版発刊の挨拶としたい.
2024年9月吉日
新潟大学大学院医歯学総合研究科地域医療確保・地域医療課題解決支援講座地域医療分野 特任教授
一般社団法人 全国地域医療教育協議会 理事長
井口清太郎
おわりに
太古の昔から病人と,それを治そうとする人は存在し,人が暮らす場所には常にその地に根差した医療があった.つまり地域医療の歴史は医療の歴史そのものであり,大昔から綿々と続けられている由緒ある社会的営為である.ただし学問としての地域医療学は他の医学領域に比べてずっと新しい.たとえば,大学医学部・医科大学の一必修科目として確立したのはせいぜいこの20年程度の話である.
したがって国民も医療従事者も地域医療という言葉は知っているし漠然としたイメージももっているが,それが学問分野として一体何を包含しているのかをほとんど知らない.そもそも地域医療学を教える立場であるわれわれ大学教員の間でもこの学問領域をどのように定義するか,あまりコンセンサスがあるわけではない.そうではあっても,社会における地域医療の必要性は昔も今も将来も何ら変わらないし,医学教育における地域医療学の重要性は,今後増す一方であろう.
そのような背景から本書は誕生した.本書は医学生,その他の医療系の学生,あるいはそれらを志望する高校生に向けて,地域医療学とは何かという問いに対する答えを示したほぼ最初の教科書といえる.この答えというのは,地域医療現場の医師,メディカルスタッフ,行政関係者,研究者である執筆陣が集まって,「この内容ならば地域医療学として差し支えないであろう」というものを最大公約数的に集めたものである.したがって本書をざっと通読してもらえれば,地域医療学の全体像を俯瞰でき,それによって地域医療という言葉の意味する範囲と深さを感じることができるはずである.本書を通して若い人達が地域医療および地域医療学に少しでも興味をもち,将来地域医療に携わるきっかけになってくれれば,著者一同にとって望外の喜びである.
2024年9月吉日
広島大学医学部地域医療システム学講座
松本正俊