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臨床遺伝に関わる人のためのマイクロアレイ染色体検査診断と治療社 | 書籍詳細:臨床遺伝に関わる人のためのマイクロアレイ染色体検査

東京女子医科大学 統合医科学研究所 准教授

山本 俊至(やまもと としゆき) 著

初版 A5判 並製 318頁 2012年01月16日発行

ISBN9784787817921

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定価:本体5,500円+税
  

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マイクロアレイ技術と最新のデジタル解析を用いて明らかになってきた染色体の微細な異常に伴う数々の疾患と問題点を,わかりやすい図と平易な解説で紹介する.前半部分では遺伝学の基礎知識や遺伝性疾患のメカニズムを解き明かし,初学者にも配慮している.また,後半は実際に見つかってきた染色体異常とその疾患を具体的な例をあげて解説している.各所にはより理解を深めるコラムをちりばめた.臨床遺伝に関わる方,必読の書.

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目次

まえがき
はじめに-マイクロアレイ染色体検査の威力-

第1章 遺伝学の基礎知識
1.染色体と遺伝子
A.染色体とは?
B.染色体解析の歴史
2.DNAと染色体のかたち
A.DNAの構造
B.染色体の構造
3.遺伝子の構造と機能
A.転写と翻訳
B.エクソンとイントロン
C.遺伝子の発現
4.遺伝子変異
A.ミスセンス変異
B.ナンセンス変異
C.サイレント変異
D.欠失/挿入
E.フレームシフト/インフレームシフト
F.スプライシング変異
5.ヒトのDNA配列の多様性
A.マイクロサテライトマーカー
B.一塩基多型
C.ゲノムコピー数多型
6.遺伝情報とデータベース

第2章 遺伝性疾患の基礎知識
1.遺伝性疾患とは?
2.遺伝形式
A.常染色体優性遺伝形式
B.常染色体劣性遺伝形式
C.X連鎖劣性遺伝形式
D.メンデル遺伝で説明できないその他の単一遺伝子による遺伝性疾患
E.遺伝形式と遺伝子機能
3.単一遺伝子病
A.常染色体優性遺伝性疾患
B.常染色体劣性遺伝性疾患
C.X連鎖劣性遺伝性疾患
4.ミトコンドリア病
5.多因子遺伝
A.先天奇形
B.精神疾患
C.生活習慣病
6.多発奇形症候群
A.染色体異常による多発奇形症候群
B.常染色体優性遺伝形質を示す単一遺伝子異常による多発奇形症候群
C.X連鎖劣性遺伝形質を示す単一遺伝子異常による多発奇形症候群
D.常染色体優性遺伝による多発奇形症候群

第3章 染色体異常のメカニズム
1.染色体のどのような変化が疾患の原因となりうるか?
2.細胞分裂と染色体異常
A.体細胞分裂
B.細胞周期
C.DNA複製機構
D.DNA複製障害
E.減数分裂
F.相同染色体間での組換え
G.染色体組換えのエラー
H.染色体不分離
3.染色体レベルの異常
A.染色体の数的異常
B.染色体の構造異常
C.その他の染色体異常
4.染色体異常とその頻度
5.染色体転座による染色体の構造異常
A.染色体均衡型転座
B.染色体不均衡型転座
C.ロバートソン転座
D.腕間逆位・腕内逆位
E.染色体の微細欠失による隣接遺伝子症候群
6.ゲノム刷り込み現象
A.ゲノム刷り込みが関連する疾患
B.DNAのメチル化
C.片親性ダイソミー
7.X染色体不活化

第4章 遺伝学的検査
1.染色体・遺伝子の検査法
2.細胞遺伝学的検査法
A.標本の作製方法
B.G-band法
C.染色体所見の記載方法
D.染色体解析のための検体
E.FISH法
F.BACクローン
G.M-FISH法
3.分子生物学的検査法
A.PCR法
B.サンガーシークエンス法
C.MLPA法
D.リアルタイムPCR法
E.その他の方法
4.検査法と解像度

第5章 マイクロアレイ染色体検査
1.マイクロアレイ染色体検査とは?
A.マイクロアレイの使用目的
B.マイクロアレイ染色体検査への応用
C.マイクロアレイ染色体検査の長所
D.マイクロアレイ染色体検査による成果
E.マイクロアレイ染色体検査の2大原理
F.比較ゲノムハイブリダイゼーション法(アレイCGH法)の原理
G.マイクロアレイ染色体検査におけるアレイデザイン
H.ゲノムコピー数多型
2.マイクロアレイ染色体検査の実際
A.プラットフォーム
B.DNA抽出
C.サンプル調製
D.ラベル化DNAの精製
E.ハイブリダイゼーション
F.スライド洗浄
G.スキャン
H.解析
I.マイクロアレイ染色体検査結果の表記方法

第6章 マイクロアレイ染色体検査で明らかになる染色体微細構造異常
1.マイクロアレイ染色体検査で認められる染色体微細構造異常の分類
2.サブテロメアの異常
A.サブテロメア欠失
B.不均衡型転座に由来するサブテロメアの異常
C.サブテロメアの複雑構造異常
3.染色体中間部異常とその発生メカニズム
A.LCRによる新規染色体微細異常症候群
B.LCRによらない新規染色体中間部異常
4.染色体重複
A.LCRによらないゲノム重複
B.LCRによる染色体微細欠失症候群領域の重複
C.その他の染色体重複
5.モザイク
6.マーカー染色体

第7章 マイクロアレイ染色体検査における注意点
1.マイクロアレイ染色体検査の適応
A.米国のマイクロアレイ染色体検査に関するガイドライン
B.臨床現場における遺伝学的検査の適応アルゴリズム
2.結果検証のための3つのポイント
A.細胞遺伝学的検査としての検証の重要性
B.良性多型との鑑別の重要性
C.トリオ解析の重要性
3.マイクロアレイ染色体検査特有の事象
A.G-band法との齟齬
B.マイクロアレイ染色体検査による染色体異常の範囲の同定
C.突然変異による2ヵ所以上の染色体異常
D.両親から受け継いだ2ヵ所以上の染色体異常
E.unmasked mutation
4.マイクロアレイ染色体検査ではわからないこと
A.トリプレットリピート病
B.塩基配列の異常
C.ミトコンドリア病
D.低頻度モザイク
E.3倍体・4倍体
F.片親性ダイソミー
G.染色体の構造
H.セントロメアだけのマーカー染色体
5.マイクロアレイ染色体検査法の結果解釈の考え方
A.サブテロメアの異常
B.染色体中間部の異常
C.家族性変異
D.新規のde novo変異の問題点
6.日常診療におけるマイクロアレイ染色体検査
A.マイクロアレイ染色体検査と遺伝カウンセリング
B.費用の問題-誰が負担するのか?-

巻末付録1 Wolf-Kirschhorn症候群の成長プロファイル
巻末付録2 マイクロアレイ染色体検査の適応早見表
巻末付録3 参考図書・URL

あとがき

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序文

まえがき

染色体に関わる研究者や医師の世界で今,革命的な変化が起こっている.染色体異常は,これまで長らく顕微鏡で観察し,検査技師によって診断されてきたが,まったく新しいマイクロアレイを使ったデジタル解析の技術が発展し,これまでの方法ではみつけることが不可能であった非常に微細な染色体異常が次々と発見されるようになってきたのである.このマイクロアレイを使った染色体解析に関わっている医師・研究者として,この技術をもっと多くの小児科医,特にこれからの時代を担う若い医師に理解してもらわなければならない,そのためには,わかりやすい解説書が必要ではないか,と考え本書を企画した.
著者は1989年(平成元年)に医師の資格を得るとともに,母校である鳥取大学医学部附属脳幹性疾患研究施設脳神経小児科に入局し,小児神経疾患の診療および研究を開始した.この教室は,当時の国立大学医学部のなかで小児神経学に関係した専門教室として3つしか存在しないうちの1つである貴重な教室で,全国から勉強にきている先輩医師達がたくさん活躍していた.著者は学生時代から小児糖尿病の子ども達のサマーキャンプを切り盛りしたり,筋ジストロフィー症患者のためのキャンプに介助要員として参加したり,肢体不自由児施設の子ども達に勉強を教えに行くなどのボランティア活動を行っていたが,そのような活動を通じて脳神経小児科を主宰する竹下研三教授に師事していたので,母校に残るなら脳神経小児科と決めていた.
著者が入局した1989年というと,Duchenne型筋ジストロフィー症の原因遺伝子がKunkelらによって発見された時期であり,まさに遺伝子診療の幕開けの時代であった.それまで原因がわからなかった疾患が,遺伝子を調べることで原因が確定されるということは,当時としては非常に革命的なことであった.脳神経小児科では1年目から,筋疾患の子ども達を何人か担当した.そのなかの1人は女児であったが,筋生検の所見から,Duchenne型筋ジストロフィー症の症候性保因者であることが明らかになった.この患者で確認できた事実を日本で初めて明らかにし,日本小児神経学会の機関誌である「脳と発達」に掲載された症例報告(脳と発達 1991;23:384-388)が,著者が書いた最初の論文となった.
いろいろな疾患がウイルス感染によるものであることが明らかになってきたのもちょうどこの頃である.これより以前,アルコール性肝炎という病名が教科書に記載されていた.多くの肝炎や肝硬変は飲酒過多で発症すると考えられていたのである.しかし,その後,肝炎ウイルスがその原因であるということが判明し,血液を介した感染を防ぐことで予防できることがわかり,インターフェロンによる治療法なども確立してきた.AIDSの原因であるHIVが発見されたのもちょうどこの頃である.同性愛者の間で広まる謎の免疫不全症が,これまでまったく知られていなかった未知のウイルスの感染が原因であるということがわかり,はじめてその予防法が確立した.
さて,小児期に神経系の症状が現れる場合は,2つの大きな原因が考えられる.1つ目は分娩時のトラブル,つまり周産期脳障害による脳性麻痺である.この疾患に対する予防法や治療法は時代とともに著しく発展してきた.重篤な新生児黄疸の合併症の1つである核黄疸による脳障害を予防するための紫外線照射や血漿交換療法,早産児の呼吸不全を治療するための肺サーファクタント療法や人工呼吸器の進歩,さらに生まれる前からの母体・胎児集中治療管理としての胎児心拍数モニタリングなどがあげられる.これら後天的な原因がある一方,生まれて間もない時期から神経系の症状が現れるもう1つの重大な原因は先天性疾患である.Down症候群はそのなかでも最もよく知られており,患者は生直後から筋緊張低下,精神運動発達の遅れを示す.Down症候群以外にも,周産期の外的な要因ではなく,染色体や遺伝子の異常などの内的な要因によるものが多く存在しており,その種類は数え切れない.先にあげたDuchenne型筋ジストロフィー症などもこれに該当する.
障害をもった子どもの親は,どうしても原因が知りたいと思うものである.なぜ大変な思いをして産んだ子が障害をもつことになったのか,妊娠の経過が悪かったせいなのか,分娩がよくなかったのか,あるいは育て方がよくなかったのか,自分達に遺伝的な原因があるのか…….彼らがこのように思い悩むのも,原因がかわらないことにはその後の家族計画が成り立たないからである.著者は研修医時代に,入院を担当したある重度発達障害の幼い男児のことを忘れることができない.非常に重度な発達の遅れがあり,会話はおろか視線すら合わせることもできず,1日中部屋の中を徘徊し,しかもどんな治療薬を使っても毎日数回起こるけいれん発作を止めることができなかった.竹下教授の病棟回診のとき,「今は原因がわからないかもしれないが,この子にはきっと何か原因があるに違いないから,絶対にこの子のことを忘れてはならない」と指導された.著者は,そのような時代にこれら小児神経疾患の患者を診療の対象とする医師となり,好むと好まざるとに関わらず,遺伝的な原因で発症したかもしれない患者とその家族の要求に答えるために,遺伝的な検査や研究の道に進んでいくことになった.
医師になって7年目に,医局から離れて学内に新設された遺伝子実験施設に配置換えとなった.ここでは遺伝子組換え実験やアイソトープを使った研究とその管理,そして指導などが主な業務であった.そして医師となって14年目に,当時てんかんの原因遺伝子を次々と明らかにしていたオーストラリアの研究室に文部科学省長期在外研究員として赴任した.日本に戻ってからは神奈川県立こども医療センター遺伝科で主に染色体異常による疾患を有する患者の診療に従事し,そして18年目に現在の東京女子医科大学の研究所に移ってからは,本格的なゲノム研究に関わっている.本書に書いた内容の多くは,著者が東京女子医科大学に着任してから始めたマイクロアレイ染色体検査に関連するものである.
医学というのは多くの場合,過去の経験に基づいて積み重ねられていくものであるが,今まさに教科書を書き換えるような革命が染色体解析の現場で起こっている.では一体どのような革命が起こりつつあるのか,その実態を解説していきたいと思うが,マイクロアレイ染色体検査の原理や臨床応用の意味が理解できるように,前半では基礎編として染色体とは何か,遺伝とは何か,から解説したい.そして後半では,実際にマイクロアレイ染色体検査でみつかる疾患について解説し,最後にマイクロアレイ染色体検査を臨床応用する際の具体的な課題について述べてみたい.
平成23年12月
東京女子医科大学統合医科学研究所 准教授 山本 俊至