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書籍詳細

脳性まひの療育と理学療法診断と治療社 | 書籍詳細:脳性まひの療育と理学療法
上田法およびボツリヌス療法による筋緊張のコントロールと評価

新潟県はまぐみ小児療育センター 所長

東條 惠(とうじょう めぐむ) 著

初版 B5判 並製 88頁 2015年01月05日発行

ISBN9784787821317

定価:2,860円(本体価格2,600円+税)
  

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1988年に上田正先生が発表した「上田法治療」を,20年以上にわたって施術・検討し続けてきた著者による,脳性まひ・痙直型まひの療育記録.上田法を行った脳性まひ症例の長期間かつ継続的な検討結果を多数紹介,その具体的施術方法からボツリヌス療法など他理学療法との比較・併用まで,上田法の有用性と治療効果を解説する.理学療法士・作業療法士はもちろん,整形外科医や小児神経科医にもおすすめの一冊.

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目次

はじめに 

第1章 脳性まひの(リ)ハビリテーション治療——日本における流れ
1.療育の歴史の概略 
2.療育の現状と今後 

第2章 上田法の登場と普及
1.上田法の登場 
2.新たな理学療法登場の必然性,必要性 
3.上田法の追試 

第3章 上田法治療手技と効果や利点・強み
1.治療手技 
2.治療効果 
3.治療効果持続時間 
4.治療機序(仮説) 
5.利点・強み 
第4章 筋緊張の評価としてのfastとslow stretch spasms―angle計測
1.具体的な評価方法 
2.測定結果のばらつき 
3.spasms―angleの内容 
4.fast stretchとslow stretchの意味 
5.spasms―angle計測による筋緊張評価での注意点 
第5章 上田法治療の経験
1.脳性まひ乳児の病的筋緊張が激変し,左右差・姿位・原始反射が変わった 
症例1 生後5か月女児,痙性主体例  
症例2 生後7か月男児,固縮と痙縮の混在例  
2.脊髄炎後痙性対まひ幼児の下腿で痙縮は消失し,SLR spasms―angleは健常化した 
症例3 4歳女児,痙性主体例  
3.強度の後弓反張姿勢・全身板状硬の状態が改善できた 
症例4 2歳6か月男児,強度の後弓反張姿勢を示した例  
4.後弓反張姿勢を示し坐位がとれない重症脳性まひ児が座れるようになった 
症例5 5歳4か月女児,著しい後弓反張姿勢を示し,坐位がとれない脳性まひ(混合型)例  
5.体調不良で不穏状態の児がリラックスし泣きやんだ 
症例6 10か月男児,反り返りつつ泣き叫ぶ,発熱・下痢で点滴中の乳児例  
6.尖足を示し独歩不能に至った10歳児が歩行再開をした 
症例7 10歳男児,尖足を示し独歩不能になり,後に再度独歩した脳性まひ(痙性両まひ)例  

第6章 脳性まひや健常人における筋緊張の定量的評価の試み
1.健常児のfast stretchと slow stretchによるROM角度 
2.脳性まひの診断スクリーニングとして有用なROM角度 
3.上田正先生が提唱したBig toe test 
4.痙縮・固縮以外の理由によるROM角度の低下 
5.脳性まひ児における同一検査者の測定間差 
6.脳性まひにおけるspasms―angleの年齢変化と運動機能 
7.痙直型まひ児におけるSLRとHAM spasms―angleの推移の関連とその意義 

第7章 SLR, HAM, ABD, S―O, DKE, DKF spasms―angle値の意味や限界
1.spasms―angle値を使用する上での留意点,不明点 
2.脳性まひにおける,股・膝関節周囲筋群のfast stretch,slow stretchによる
  spasms―angleの相互関係 

第8章 痙縮,機能的拘縮,器質的拘縮
1.痙縮とは何か? 
2.加齢によりspasms―angleの悪化が起こる 
3.spasms―angleの悪化についての適切な考えに向けて 
4.spasms―angle計測は病的筋緊張の評価 

第9章 上田法治療で,脳性まひのfast stretchやslow stretchによる
     spasms―angle値,症状はいかに変化したか?
1.上田法(全四肢法)施行時のspasms―angle値の推移 
症例1 10歳8か月女児,脳性まひ(痙性両まひ)例  
2.上田法(肩―骨盤法,下肢法)施行によるF―SLR spasms―angle値の推移 
3.上田法(肩―骨盤法,下肢法)を約50日間施行後に,上田法治療を中断した
  2例における F―SLR spasms―angle値の経過 
4.脊髄炎後痙性対まひ例の,上田法治療による各種F spasms―angle値の推移 
5.溺水後徐皮質硬直を示す痙直型四肢まひ例の,上田法治療による症状改善と
  F spasms―angle値の推移 
6.痙性まひに対して上田法を含む各種治療を施行したときのspasms―angle値の
  改善の検証 

第10章 ボツリヌス療法で脳性まひのspasms―angle値や症状はどう変化したか?
1.重症児へのボツリヌス療法の経験 
症例1 12歳9か月男児,後弓反張姿勢で泣いてつっぱる重症児例  
2.独歩している痙性まひ児へのボツリヌス療法の効果判定 
3.独歩している脳性まひ児(痙性両まひ)へのボツリヌス療法の経験 
症例2 9歳3か月男児,5歳2か月時開始のボツリヌス療法を通して独歩可能となった
     脳性まひ(痙性両まひ)例  
4.上田法治療とボツリヌス療法の対比 
第11章 痙縮の減少が得られた後にプラスする療育は何か? 
文 献 
索 引 
おわりに 


① 日本における早期療育の流れと上田法との出会い 
② 上田法手技を学ぶには 
③ 誰でもできる上田法 
④ 上田法治療者となっての喜び 
⑤ 動的システム論を考えさせてくれた上田法 
⑥ 上田法でうまくいくケース,いかないケース 
⑦ Heel gate cast(HGC)や「下駄ギプス」 
⑧ 上田法以外で,痙縮減少を目指す治療法 

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序文

はじめに

 脳性まひ・痙直型まひの療育・(リ)ハビリテーション・理学療法の療育現場において,「病的な筋緊張,痙縮抑制をまず最初に行うべきである」とは,あまり考えられてこなかったと思います.それは何より,この課題が困難だったからです.この考え,流れを一新したのが,上田正先生が開発した「上田法」治療です.上田法は,それまでの理学療法では困難であった病的筋緊張の改善=痙縮をある程度減少・抑制させることができること,またそのことが運動障害の改善に大いなる貢献をすることを,私たちに教えてくれました.これは,小児の(リ)ハビリテーションに関与する現場の私たちにとって朗報でした.
 本書は,「上田法を通し,何を学んだか」について,筆者の経験をまとめたものです.さらに,上田法後に登場したボツリヌス毒素による痙縮抑制療法の経験も述べつつ,上田法と比較します.これらを通して,脳性まひ・痙直型まひの療育に関して述べようと思います.

 さて,本書は,1988年の上田法発表後25年が経った2014年に作成しました.上田法はゆっくりとした歩みで,国内の関係者に認知されてきています.ドイツ,中国でも講習会が開催されるなど,諸外国でも認知が広がりつつあります.ドイツ人やイタリア人の受講者は,リハビリテーション関係の雑誌に自らの上田法治療の経験を報告しています1,2).開発者である上田正先生は2009年5月9日に亡くなりましたが,その後も理学療法士・作業療法士を中心に,一部の医師(整形外科医,小児神経科医など)が恊働して,リハビリテーションや療育分野での上田法の継承・進化を目指した活動をしています.教育の分野では,肢体不自由の特別支援学校教諭の一部が学校生活の中で,そして養育者の方々が家庭療育の一貫として,上田法治療を日々実践しています.また成人の脳血管障害による痙縮にも有用であるとの知見が得られていることから,成人領域でも利用されています(なお,インターネットのYou Tube上で,若干例における上田法治療の効果を見ることができます.Ueda methodで検索してみてください).本書が,療育・リハビリテーション現場における上田法治療の普及・定着に,リハビリテーションスタッフの方々の支援内容の豊富化に,そして当事者の方々のQOL の向上に役立つことを希望・期待しています.

 上田法の内容が真実であると確信してから,筆者の上田法に関する知見を残す作業がはじまりました.少ない症例数ではありますが,上田法治療の効果を医学論文3~5)に記載しました.また, spasms-angleと本書で呼称した「筋緊張を徒手的に評価する方法」を使っての脳性まひ多数例でのデータや,脳性まひにおける上田法の治療効果を「上田法治療ジャーナル」に掲載しました.未発表のデータを含め今回本書に納めましたが,本評価法で脳性まひを長期間に渡り継続的に検討した調査データは,本書以外にはないと思われます.そしてこれらのデータをもとに、̏当センターにおける̋という限定がつきますが,他の理学療法に比しての上田法の有用性を解説しています.「現場で役に立つ臨床データ」として評価,活用されることを期待しています.

 なお,上田正先生は「脳性まひ治療への新たなる道」6),「上田正論考集」7)や,上田法治療研究会会誌における論文・文章を遺しています.これらは,「上田正の脳性まひ学」8)にもまとめられており,上田正先生が学び,私たちに伝えようとしてきた脳性まひ運動障害の考え方,脳性まひ治療の考え方を知ることができます(問い合わせ:上田法治療研究会事務局).

 2014年10月 東條惠