虚血再灌流障害の病態・機序を解明し,その障害軽減の対策の最新知見を各臓器別に網羅的に,エビデンスに基づき詳述.初心者も理解できるように工夫された利用価値の高い一冊.
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目次
監修の序 森下靖雄
編集の序 竹吉 泉
I 臓器障害発生の機序と対策および臨床
A 心 大嶋清宏
B 肺 大谷嘉己,富澤直樹
C 肝 小林純哉
D 小腸 小林光伸,竹吉 泉
E 膵 杉谷 篤,山元啓文,井上重隆
F 腎 杉谷 篤,北田秀久,岡部安博
II 虚血再灌流障害の病理
A 心 松本光司
B 肺 松本光司
C 肝 松本光司
D 小腸 松本光司
E 膵 松本光司
F 腎 松本光司
III 虚血再灌流障害に関与する物質
A サイトカイン 吉成大介
B 活性酸素種(ROS) 高橋 徹
C エイコサノイド 橋本直樹,須納瀬豊
D カルシウム 佐藤泰史
E 血管弛緩調節因子 饗場正明,棚橋美文
F エンドセリン 川島吉之,岩崎 茂
G 接着分子 倉林 誠,前村道生
H 白血球 大木 茂
I イオンチャンネル 須納瀬豊
IV 臓器保存・保存液
(1)浸漬保存
A 心 茂原 淳
B 肺 鴨下憲和
C 肝 須納瀬豊,饗場正明
D 小腸 竹吉 泉
E 膵,腎 戸塚 統
(2)灌流保存
A 心 堤 裕史
B 肝 大矢敏裕
C 腎 小池則匡
V 虚血再灌流障害の抑制と治療
(1)ischemic preconditioning 川島吉之
(2)遺伝子治療 山田達也
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序文
監修の序
臓器が血液を十分に供給されない虚血下におかれると,虚血の時期に起きた障害は虚血後の血液再灌流により,さらに重篤な臓器障害が引き起こされる.この虚血再灌流という病態は,臨床的には各種臓器の梗塞巣における血流開通の際に惹起される.肝臓外科における血流遮断法や,心筋梗塞に対する経皮的冠動脈形成術,動脈血栓溶解療法などの治療手技の際にしばしば経験するところである.また,臓器移植に際しては,移植後のグラフト機能不全の一因として虚血再灌流障害が注目されている.虚血再灌流後に発生する臓器障害は,虚血の範囲が広範であれば虚血臓器そのものにとどまらず,そこから離れた遠隔臓器にもおよび患者の予後に重篤な影響をもたらす.それゆえ,虚血再灌流障害の病態を解明し,その対策を練ることは臨床の現場においてきわめて重要である.
最近,虚血再灌流障害の発生過程で好中球が重要なはたらきをしていることが注目されている.そこには,そのほかにも血管内皮細胞,マクロファージがはたらき,フリーラジカルやサイトカインをはじめとした炎症性メディエーターが複雑に錯綜,関与しており,再灌流障害の概念も,かつて注目された微小循環における “no-reflow phenomenon” といったものから大きく変化しつつある.再灌流障害の発生過程には好中球の関与にみられるように,炎症にきわめて類似した側面があり,再灌流臓器の範囲が広く,全身の臓器障害を伴ってくるならば,その病態はより包括的な概念である “systemic inflammatory response syndrome (SIRS)” の観点から捉え直すことも可能である.
このような新たな知見の集積とともに,再灌流障害に対する治療法についても多くの研究がなされている.すなわち,抗サイトカイン療法,フリーラジカルスカベンジャー,アラキドン酸代謝阻害薬,エンドセリン阻害薬など,その病態に即したさまざまなものが考案されてきたが,臨床的にはいまだに決定的なものはないのが現状である.
本書では,教室での実験データを通して教室員が心,肺,肝などの臓器を中心に虚血再灌流に伴う臓器障害の成因および障害軽減の対策について述べた.教室で実験を行っていない膵腎については九州大学医学部腎疾患治療部の杉谷講師に協力いただいた.また病理組織学的検査については以前より,共同研究をしていただいている日本医科大学第2病院病理部の松本講師に執筆をお願いした.内容的にはなるべく学生や初歩の研究者にも理解できるように工夫したつもりである.虚血再灌流障害に興味を持つ多くの方々の一助になればと願っている.
2002年8月
群馬大学医学部第2外科教授
森下 靖雄
編集の序
森下先生が群馬大学に教授として着任されて以来早11年が過ぎようとしている.森下教授は一貫して心臓移植・臓器保存・虚血再灌流障害をテーマとして研究を続けてこられた.群馬大学着任後も,われわれの先頭をきって移植・臓器保存の実験を自分で行うとともに後進の指導にあたってきた.10年を経過した昨年,今までの成果を本にまとめておこうという意志を表明し,私が編集を命ぜられた.
10年前,私は森下教授から先兵としてピッツバーグ大学移植外科に留学するように言われ,現在北海道大学大学院医学研究科消化器外科・一般外科講座教授の藤堂省先生に2年半の間指導を受ける機会を得た.当時のピッツバーグ大学では年間肝移植が600例前後行われており,日本からは約30人近い外科医が常時留学していた.そこで,小腸移植および肝移植を中心に移植に関するご指導をいただくとともに多くの知人を得ることができた.今回本書を編集するにあたって,できるだけ今まで一緒に研究を行ってきた多くの教室員に参加してもらうようにした.しかし,教室員のみで全ての分野を網羅することは困難なため,病理に関しては私がピッツバーグ時代からお世話になり,帰国してからも共同研究を続けている日本医科大学付属第2病院病理部の松本光司先生に執筆をお願いした.また,膵,腎についてはやはりピッツバーグ時代からお世話になっている九州大学附属病院腎疾患治療部の杉谷篤先生にお願いした.それ以外の項は,群馬大学第2外科の教室員で執筆することにした.教室では胸部外科,内分泌外科,消化器外科の3分野に分かれて診療を行い,移植・臓器保存の研究については胸部外科と消化器外科のグループが一緒になって実験を行っている.
今回の編集にあたり,まず各臓器の虚血再灌流障害の機序と対策および臨床について述べ,虚血再灌流障害の病理,次いで虚血再灌流障害に関与する物質,次の章で臓器保存と保存液,最後の章で遺伝子治療などについて述べている.自分たちのデータのあるところはできるだけそのデータを使うように努めたため,幾分偏った記載になってしまったり,重複部分や不足のところも多々みられる.本書がこれからの臓器保存・虚血再灌流障害の研究を目指す先生方に少しでもお役に立てれば幸いである.
2002年8月
群馬大学医学部第2外科講師
竹吉 泉