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思春期の性の問題をめぐって診断と治療社 | 書籍詳細:思春期の性の問題をめぐって
現状とその対応から教育まで

Rabbit Developmental Research

平岩 幹男(ひらいわ みきお) 編著

神奈川県医師会神奈川県立汐見台病院産科

早乙女 智子(さおとめ ともこ) 著

岩手県立二戸病院産婦人科

秋元 義弘(あきもと よしひろ) 著

公益社団法人地域医療振興協会ヘルスプロモーション研究センター

岩室 紳也(いわむろ しんや) 著

独立行政法人国立成育医療研究センターこころの診療部

奥山 眞紀子(おくやま まきこ) 著

千葉大学医学部附属病院感染症管理治療部

佐藤 武幸(さとう たけゆき) 著

大阪府立大学人間社会学部社会福祉学科

東 優子(ひがし ゆうこ) 著

独立行政法人国立成育医療研究センター内科系専門診療部

横谷 進(よこや すすむ) 著

初版 A5判 並製 176頁 2011年03月28日発行

ISBN9784787818416

定価:3,080円(本体価格2,800円+税)
  

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「子どもたちが大人になってから,理想のパートナーを見つけて,産みたくなったときに安全に子どもを産み、幸せに子育てができることが理想」であるという立場から,性交渉の若年化やそれに伴う若年妊娠,性感染症などの問題と日々対峙し,考え続ける8人の著者が,それぞれの専門分野から現状とその対応,教育までを語りつくす。医師・コメディカル・保健師・教師と,さまざまな職掌の方々に役立つ知識と気づきを満載した必読書。

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目次

執筆者一覧
はじめに 平岩幹男

1 子どもたちの性の現状と問題点 /早乙女智子
 1 性交開始年齢は早まったのか
 2 「望まない妊娠」という表現は適切か
 3 大人の性は思春期のお手本になりうるか
 4 10歳代への妊娠・出産のリスクを考慮したアドバイス

現在の思春期の性交渉から妊娠出産についての動向だけではなく,これから大人たちが何をしなければいけないのか,また性の問題はその時期の社会的背景による影響が大きいが,子どもたちに伝えたいことは変らない,ということについて,著者の視点からこれまでの経験をふまえてまとめています.


2 産婦人科医の行う性教育
地方で地域基幹病院としての役割をもつ病院勤務医師としての立場から
                      /秋元義弘
 1 性教育を手がけるに至るまで
 2 地方における性教育の必要性とは
 3 「性教育」を使わない
 4 「伝える」ために心がけること
 5 避妊よりノーセックス
 6 産婦人科医が性教育を行う意味
 7 HPV,子宮頸がんと性教育
 8 性教育の有効性と課題
 9 リアルを知る――妊婦さんとのふれあい体験
 10 若者たちに贈る言葉

実際に若年人工妊娠中絶が高いとされる地域で,思春期の子どもたちの診療に取り組む一方,産婦人科医としての立場から性教育にも取り組んできた経験を述べています.「性教育」という言葉の代りに「ライフスタイル教育」を使うなど,アイデア満載です.


3 小児科医の性教育 /平岩幹男
 1 中学生を対象としたテキストを考える
 2 中学生への性教育ライブ
 3 高校生への性教育
 4 高校生への性教育ライブ

中学生や高校生への性教育を実際にどのように行ってきたかについて,著者の過去の講演のライブ版を掲載するとともに,現在の性教育が抱える問題や子どもたちに伝えたいこと,「産みたくなったときに安全に安心して産めること」などについて語っています.


4 男の子の性の変遷
これからの時代に求められている性教育の視点 /岩室紳也
 1 関係性拒否期の到来で10歳代の人工妊娠中絶率が減少
 2 深刻化する「関係性の喪失」
 3 アダルトビデオが作り出すインポテンツ
 4 「草食系男子」が生れる背
 5 マスターベーションの仕方を知らない
 6 さまざまな指標の相関に学ぶ
 7 激変した男子の思春期
 8 スローガンからIECの性教育へ
 9 映像は想像力を奪う
 10 事例に基く性教育の実際
 11 多様性が求められるのが「性」

性教育というと,とかく妊娠や出産を抱える女子が対象になりがちですが,男子への性教育も重要であることはいうまでもありません.泌尿器科医としての視点も含めて,男子に伝えるべきことについてもこれまでの経験をふまえて語っています.


5 特別支援学級での性教育
健常者こそ知っておきたい思春期の体・性欲・こころ /岩室紳也
 1 そもそも特別支援学級での性教育が目指すものは何か
 2 多大な労力が必要な障がい者のIEC
 3 「性」について学んでおきたいこと
   ――大人も知らない性知識(男の子の場合)
 4 性情報(とくにネットからの性情報について)
 5 関係性希薄期のメディアリテラシーとは
   ――アダルトビデオは5人以上で見よう
 6 二次性徴は自分が向き合う大事なストレス
 7 妊娠の成立で生理が止まることを知らない若者たち
 8 月経周期をチェックする習慣を
 9 ハイリスクアプローチとポピュレーションアプローチ
 10 事例に学ぶ障がい者の性の課題

知的障害を抱える子どもたちにとっても性の問題が重要であることには変りはありませんが,これまでは教育という見地からの介入は多くはありませんでした.伝えなければいけないこと,それをどのように伝えるかも含めて,著者の経験と思いを述べています.


6 発達障害における性の問題 /平岩幹男
 1 発達障害とは
 2 ADHDと性の問題
 3 高機能自閉症と性の問題
 4 学習障害と性の問題

高機能自閉症やADHDなどの発達障害を抱える子どもたちは,その障害特性に基づく性の問題をしばしば抱えます.知的障害を伴わない場合には通常の性教育を行うことに問題はありませんが,個々の障害特性に合せた介入が必要であることも多くなります.


7 思春期の性虐待 /奥山眞紀子
1 子どもへの性虐待とは
2 性虐待の種類
3 性虐待の頻度
4 性虐待による影響
5 性虐待の発見
6 性虐待を疑ったときの診察
7 性虐待を疑ったときの対応
8 加害者を罰する法律

性虐待はわが国では隠されている児童虐待のひとつですが,性虐待が将来にわたって子どもたちに心身ともに大きな影響を残すことはよく知られています.性虐待の現状,そして実際の性虐待にどのように対応するかも含め,著者の経験もふまえて語っています.


8 思春期の性感染(症)とその周辺 /佐藤武幸
1 思春期での性感染(症)の重要性
2 性感染の背景
3 性感染(症)の現状
4 おもな性感染(症)
5 性感染診断のプロセス 

思春期の性感染症は,一般に認識されているよりもはるかに頻度が高い疾患で,将来の妊娠や出産に影響を及ぼすこともあります.こうした性感染症の現状について,そして個々の疾患の診断と治療についてだけでなく,対策についても述べています.


9 HPVワクチンとその周辺 /佐藤武幸
1 HPVワクチンの現状と小児科医の役割
2 ヒトパピローマウイルス(HPV)
3 HPVワクチン
4 健康教育と子どもの権利

子宮頸がんの原因であるHPVのワクチン接種が可能になりましたが,このワクチンについての認識はまだまだ十分ではありません.しかし,将来の子どもの生活の質を保証することは子どもにとって守られるべき権利であり,こうした事情も含めてお話しています.


10 非典型的な性の発達と思春期における諸問題 /東 優子
1 セクシュアリティの多次元性
2 非典型的なジェンダーの発達
3 性の多様性と思春期の諸問題

性は単純に男女に分ければよいというものではなく,そこにはさまざまな多次元性が存在します.その多次元性を理解することなく,外見上の,あるいは生物学的な性を押しつけることは子どもの人権にも影響する,といったことについて語られています.


11 思春期の性の内分泌学的背景 /横谷 進
1 思春期の発来
2 思春期発来の時期の異常

思春期の性行動には性ホルモンが大きくかかわっており,思春期の性の内分泌学的な背景を知っておくことは,思春期におきてくるさまざまな体の変化を理解するためにも,そして性行動の理解のためにも欠かせませんので,これらについて述べています.


資料
執筆者略歴

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序文

はじめに

 思春期の子どもたちの性の問題は,性交渉の若年化やそれに伴う若年妊娠,性感染症の問題を含めてしばしば取り上げられます.若年出産は,とくに望まない妊娠の場合には児童虐待につながりうることが明らかになってきていますし,性感染症もAIDSの広がりの問題だけではなく,クラミジア感染による将来の不妊の問題などもあります.
 こうした状況のなかで,大人たち,そして社会は何もしないで見ているだけでよいのかという危機感が,一部の医療や教育関係者にはあるものの,まだ社会として危機感を共有するには至っていません.その理由として,思春期の性の問題を考えるときに,その時代の社会的背景を避けては通れないということがあります.性教育一つをとっても,その必要性が叫ばれた1990年代には,正確な情報を与えることについて,社会からの追い風もありました.しかし2000年代に入ってからは,「教えることが性行動を誘発する.なぜそこまで教えるのか」という考えかたも主張されるようになっています.性教育をはじめとして,子どもたちに何をどこまで,どのように伝えるかということは,まだ模索の段階なのかもしれません.
 たとえば30歳の男女が性交渉をしても違和感はないと思いますが,これが15歳の男女の性交渉であれば,現実にはそうした事態は少なくないにもかかわらず,違和感を覚えることが多いと思います.しかしわが国でも,100年前には15歳同士の性交渉はごく一般的なことであり,世界には現在もそれが自然と受けとられている国や地域は少なくありません.10年ほど前のことになりますが,子どもたちの性行動をどう考えるかという調査を中学3年生の子どもをもつ母親を対象として行ったことがあります.提示した性行動の若年化のデータには驚きながらも,わが子の性交渉は認められないという回答が全員から寄せられました.その理由としては,経済的に自立できていない,体に負担がかかる,子どもが生れても責任ある社会生活が送れない,などがあげられました.しかしこれらの理由だけでは,子どもたちの性行動に歯止めをかけることは困難であると感じます.
 思春期の子どもたちが,性についてどの程度の知識をもっているかは実際にはわからないのですが,インターネットには性の情報があふれています.たとえば,Googleで「セックス」をキーワードにすると日本語のサイトだけで2,300万件がヒットしますし,それに「オーラル」を加えても36万件がヒットします.規制がされているとはいえ,「出会い系」をキーワードにすれば1,470万件ヒットしますし,性には関係ない部分も多いのですが,最近流行の「プロフ」をキーワードにすると1,570万件がヒットします.これらの情報のなかには,不正確な情報や金銭のやりとりにつながるサイトも多くみられます.自宅のパソコンあるいは携帯電話からインターネットに接続するだけで,このような情報に子どもたちが容易にアクセスできる時代です.コンビニエンスストアなどの雑誌コーナーでも「成人用」と表示されてはいますが,性の問題を時には興味本位に,あるいはスキャンダラスに取り上げたものを誰でも見ることができます.このように,性についての情報は真偽とりまぜて子どもたちの回りに溢れています.
 現在の思春期の子どもたちをめぐる性の問題は,実際に子どもたちへの相談事業を行ってきた経験によれば,若年妊娠の問題に始まりレイプやストーカーなど,成人の領域における問題とほとんど差がないといえます.しかし妊娠ひとつをとっても成人とは異なり,多くは希望した妊娠ではなく,偶発的,故意に近い偶発的,あるいは知識の不足による妊娠がほとんどであることから,望まれる出産に至ることはまれです.
 中学生や高校生の性の現状や性感染症について,本書で述べられていますが,性交渉は決してまれではなく,性感染症も日常的にみられるといっても過言ではありません.医療や教育を含め大人たちにできることは何なのか,それが問われつつある時代であると考えています.
 こうした流れのなかで,本書の執筆者である岩室紳也先生や早乙女智子先生は,以前から子どもたちの性の問題に積極的にかかわってこられましたし,秋元義弘先生も産婦人科医の立場から性教育にかかわってこられました.佐藤武幸先生は性感染症の問題に警鐘を鳴らすとともに,治療にも携わってこられましたし,奥山眞紀子先生も思春期の子どものこころの問題や虐待の問題についてかかわってこられました.私も性の問題には門外漢でしたが,思春期の子どもからの相談を受けるなかで,その対応や教育にもかかわらざるを得ませんでした.
 子どもたちに何をどう教えるべきかについて,日本小児科学会にも2005年から次世代育成プロジェクト委員会(委員長:五十嵐隆,副委員長:平岩幹男)が設置され,思春期と保育をテーマに掲げて2007年から思春期臨床講習会を行い,そこでは毎回,思春期の性についてもとりあげてきました.また委員会での検討をふまえて,巻末に示した社会と日本小児科学会への提言を2008年にまとめました.
 本書では,これまでの流れに加え,思春期の性を考えるうえでの基本的問題について,横谷進先生,東優子先生にご執筆いただき,私たちが何をどう考え,どう行動しようとしているかについてまとめました.冒頭でも述べましたが,性の問題をどのように子どもたちに伝えるかということについては,まだまだ社会として共通の認識ができているわけではありません.しかし,巻末に掲載した提言にもありますとおり,「子どもたちが大人になってから,理想のパートナーを見つけて,産みたくなったときに安全に子どもを産み,幸せに子育てができることが理想」であるという考えに基づいて編集しました.
 とくに多くのご指導をいただいた日本小児科学会会長の五十嵐隆先生をはじめとして,本書の刊行までには,さまざまな方のご協力をいただきました.厚く御礼を申し上げます.


2011年3月
Rabbit Developmental Research代表 平岩幹男