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書籍詳細

日本の未来を拓く医療診断と治療社 | 書籍詳細:日本の未来を拓く医療
―治療医学から先制医療へ―

京都大学名誉教授
先端医療振興財団理事長

井村 裕夫(いむら ひろお) 全体編集

科学技術振興機構 研究開発戦略センター(JST-CRDS)(かがくぎじゅつしんこうきこう けんきゅうかいはつせんりゃくせんたー) 企画

初版 B5判 並製 200頁 2012年12月24日発行

ISBN9784787819857

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定価:本体4,500円+税
  

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発症前に疾患を診断し,治療介入する“先制医療”の実現に重要な研究として,ゲノム,エピゲノムなどを取り上げた.また,先制医療の実現が期待されるアルツハイマー病,2型糖尿病,骨粗鬆症,乳がんについて解説.巻頭では,医療のこれまでの流れと今後の潮流,および先制医療のコンセプトを説明した.国民,医療従事者等に幅広く先制医療の考え方を普及・啓発することを目的とし,疾患予防を考える先駆的な書.

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目次

目 次
口絵カラー
はじめに  /井村裕夫
執筆者一覧

総 論
転換期を迎えた医学と医療
―今なぜ先制医療が必要か―  /井村裕夫

第1章 先制医療
先制医療とは
―その概念と施策の現状―  /井村裕夫,辻 真博,中村亮二

第2章 先制医療の実現に向けた課題(個別技術と政策面)
1.ゲノム情報  /鎌谷直之
2.エピゲノム  /牛島俊和
3.プロテオーム  /松山正佳,佐藤孝明
4.メタボローム  /清野 進,横井伯英
5.分子イメージング  /渡辺恭良
6.大規模ゲノムコホート研究  /松田文彦
7.医療政策,医療技術評価,リテラシー  /川上浩司

第3章 先制医療の実現に向けて
1.アルツハイマー病  /岩坪 威
2.2型糖尿病  /稲垣暢也
3.骨粗鬆症  /杉本利嗣
4.乳がん  /藤原康弘,清水千佳子

第4章 座談会
先制医療の実現に向けた,現状と今後の課題
  /稲垣暢也,岩坪 威,井村裕夫,永井良三

用語説明
索 引

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序文

はじめに
 科学技術振興機構研究開発戦略センター(JST-CRDS)は,国の科学技術・イノベーション政策に関する調査,分析を行い,中立的な立場に立って政策を国に提言するシンクタンクの一つであります.当初にとったアプローチは,対象とする分野を俯瞰して重要課題を抽出し,有識者を集めてワークショップを開催したうえで提言すべき内容を取りまとめ,戦略プロポーザルとして公表するという手法でありました.
 臨床医学の分野を俯瞰する作業を行ってみますと,改めて過去半世紀の間の疾病構造の顕著な変化に気づきました.人類を長い間苦しめ,多くの人命を奪ってきた感染症は次第に減少し,これらに代わって癌,脳血管障害,心臓病,および血管病変の基盤となる2型糖尿病,高血圧,肥満,脂質異常症,認知症などが増加しています.もちろん現在でも感染症は重要な課題であり,特にアジア・アフリカの発展途上国ではマラリア,エイズ,結核などの感染症が多くの人命を危機に曝しています.しかしこれらの国々でも,死亡の多くは癌,心筋梗塞,糖尿病などの非感染性疾患が占めるようになってきています.国連はNCD(non-communicable disease)という名称を用いてそれへの対策を立てるため,昨年公衆衛生関係の高級者会合を開催いたしました.わが国では生活習慣病という政策的用語が用いられており,それとNCDとは重なり合うところもありますが,もちろん相違もあります.本書では単に慢性疾患という言葉を用いていますが,それはNCDを意味していると理解していただきたいと思います.
 慢性疾患の多くは,遺伝素因と環境因子が相互作用し,さらに加齢という現象が加わって発症します.ゲノム研究の進歩によって,遺伝素因の研究も随分進みました.しかし慢性疾患の遺伝形式はほとんどが多因子遺伝で解析がむずかしく,まだ遺伝子の検査を日常の臨床に応用するまでには至っていません.しかし技術革新によって個人のゲノムの解読が安価かつ容易となり,近い将来臨床に導入されるようになると考えます.また遺伝と環境をつなぐものとして,遺伝子の発現に終生にわたって影響すると考えられるエピジェネティックな変化,すなわちエピゲノム研究も発展してきました.病気の成因を解明する病因研究は,新しい地平を開きつつあるのは確実であります.
 慢性疾患が注目されるのは,今後高齢化の進行と環境の変化によって全世界で増加すると考えられるからであります.たとえば2型糖尿病は現在東アジア,インド,中東,アフリカで著明に増加しており,流行(epidemic),あるいは津波(tsunami)という言葉が用いられるほどであります.それらはやがて心筋梗塞,脳梗塞,腎疾患などの病気の増加につながり,個人にとっても社会にとっても大きな負担になると予想されます.しかも先進諸国では出生率は低下しており,高齢者の医療と介護をどう支えていくかが大きな社会問題となりつつあります.急速に少子高齢化が進んでいるわが国にとって,それは極めて大きな課題であります.
 慢性疾患は一般に徐々に進行し,ある時点で臨床症状が現れて病気と診断されます.発症前の病気のプロセスも次第に明らかになってきました.病気によっては発症してから治療しても十分な効果が得られないものもありますし,発症したときにはすでに他の疾患を合併していることも少なくありません.したがってこれらの疾患については予防が第一の対策でありますが,従来の予防法には限界があって満足すべき状態ではありません.JST-CRDSでは議論を通して新しい予防法が必要であると考えるようになりました.それが本書の目的である「先制医療」であります.先制医療という言葉はまだ一般化していませんが,遺伝素因によってある程度層別化し,発症前にかなりの確度で診断して治療介入しようとするものであります.先制医療が確立できれば,従来の発症してからの治療医学と異なってそれは究極の医療となり,個人にとっても医療制度を支える社会にとっても,計り知れない利益がもたらされるものと期待されます.
 最後に本書の刊行にあたって短い期間に執筆していただいた著者各位,支援していただいたJST-CRDSの方々,そして診断と治療社の編集者に感謝します.

2012年12月

京都大学名誉教授
公益財団法人 先端医療振興財団理事長
前科学技術振興機構 研究開発戦略センター首席フェロー
井村裕夫