胸膜疾患のバイブルとして,世界中の臨床医に親しまれているLight RWの著作の最新版を翻訳したものである.この新版には,旧版に記載されていた内容に加えて,2007年以降の胸膜疾患に関する学術情報の進歩で重要な事象がすべて含まれている.全体として,およそ10~15%の新しい引用文献が追加された.胸膜の解剖から生理学,臨床に至るまでを網羅している.呼吸器科医必携の一冊.
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目次
翻訳者一覧
監訳者序文
原著者序文
Chapter 1 胸膜の解剖…大搗泰一郎
Chapter 2 胸腔の生理…栗林 康造
Chapter 3 気胸と胸水の生理学的影響…三谷 明久
Chapter 4 胸膜研究における動物モデル…城 大祐
Chapter 5 サイトカインと胸膜…和田 裕雄
Chapter 6 画像診断…寺田 貴普
Chapter 7 臨床所見と診断に有用な検査…祢木 芳樹
Chapter 8 患者へのアプローチ…田中 康隆
Chapter 9 漏出性胸水…三上 浩司
Chapter 10 転移性の悪性腫瘍による胸水…家城 隆次
Chapter 11 胸膜の原発性腫瘍…野木 佳孝
Chapter 12 肺炎随伴胸水と膿胸…本多紘二郎
Chapter 13 結核性胸膜炎(結核性胸水)…藤田 明
Chapter 14 真菌感染症,放線菌症,ノカルジア症に続発する胸水…大西 健児
Chapter 15 寄生虫感染による胸膜滲出液…中村(内山)ふくみ
Chapter 16 後天性免疫不全症候群(AIDS),その他のウイルス,Mycoplasma pneumoniae,
リケッチアによる胸水貯留…味澤 篤
Chapter 17 肺塞栓症による胸水…斉藤恵理香
Chapter 18 消化器疾患によって生じる二次的な胸水…江川 直人
Chapter 19 心疾患に伴う二次性胸水…家城 恵子
Chapter 20 産科と婦人科における胸膜疾患…家城 隆次
Chapter 21 膠原病,血管炎による胸膜疾患…田中 良明
Chapter 22 薬物反応に起因する胸水…太田 智裕
Chapter 23 様々な疾患による胸水…石井 晴之
Chapter 24 気 胸…河野 光智
Chapter 25 血 胸…鬼塚 正孝
Chapter 26 乳び胸と偽性乳び胸…堀之内宏久
Chapter 27 その他の胸膜疾患…山根 章
Chapter 28 胸腔穿刺(診断的・治療的)と胸膜生検…臼井 亮
Chapter 29 胸腔ドレーン…堀尾 裕俊
Chapter 30 胸 腔 鏡…堀之内宏久
和文索引
欧文―数字索引
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序文
■■■ 監訳者序文
胸膜疾患のバイブルとして世界中の臨床医に親しまれているRichard W. Lightの著書である『Pleural Diseases』は1983年に初版が出版され,その歴史はすでに30年を越えている.前回の第5版から5年以上が経過し,胸膜疾患の分野にも大きな進歩が認められる.そのような状況から新たに『Pleural Diseases』の第6版が出版され,その訳本である『胸膜疾患のすべて』も今回で第3版となった.今回の改訂により,全体としておよそ1割強の引用文献が新たに追加され,また2色刷りが採用され,見出しもわかりやすいものとなった.
胸膜疾患に関する著書のなかで,これほど広範かつ詳細な記述がなされたものは他に類をみない.胸膜の解剖から始まり,生理学,生化学,実験動物……胸腔鏡に至るまで,まさに胸膜のすべてを網羅している.そして,胸膜という限られた臓器における病変の多彩さを,過去から現在までの様々な論文を引用し,病因から診断,治療までを詳しく取り上げて検討している.さらに,その検討のなかで現在までに解明されたこと,不明な点や問題点などを明らかにし,豊富な文献をもとに著者の意見が述べられている.
この原著のすばらしさをそのままに,いかに読みやすくするかを心がけて翻訳したつもりである.訳者はいずれも各分野の専門家であり,原著の内容を十分に吟味して,科学的,論理的に間違いのないように翻訳したものである.用語に関しては,できるだけ呼吸器学用語集などを参考に,適正でよく使用されている訳語となるよう努めた.また,日本語としてなじみのないものについては,日本語と英語を併記するようにした.これらの翻訳作業の過程で,翻訳分担の先生方には誠に非礼ながら必要に応じて監訳者が独断で変更を行い,統一され正確で理解しやすい日本語を保つように心がけた.こうしたことから,もし翻訳内容に間違いや不都合な点があれば,その責任の大半は監訳者代表の私にあることを了解している.翻訳にあたっていただいた先生方および診断と治療社の努力と情熱に心から感謝いたします.
この著書の内容については申し分のないことから,多くの医療関係者にとって,よい教科書となり参考書となって役立つものと信じている.
2015年5月
監訳者代表
兵庫医科大学呼吸器内科 教授
家城隆次
■■■ 原著者序文
今までの『Pleural Diseases』の全5版はすべて好評であった.2007年に第5版が出版されてから胸膜疾患の学術情報に急速な進歩があったことから,出版社から第6版を執筆するように要請された.2007年以降の胸膜疾患に関する学術情報の進歩で重要なものを以下に示す.
肺高血圧症に伴って生じる心不全により時々,胸水貯留が起こることが明らかになった.NT‒proBNPは,心不全による胸水の診断に重要な役割を担っている.胸膜中皮腫の診断における生物学的マーカーについて多くの論文が執筆された.胸膜中皮腫の外科的治療法に関する勧告が修正された.心臓傷害後症候群(PCIS)のための新たな定義が提案された.コルヒチンの投与により,冠動脈バイパス術後の胸水発生率とPCISの発生率を減らすことが証明された.デオキシリボヌクレアーゼ(DNase)と組織プラスミノーゲン活性化因子の組み合わせは,どちらか単剤あるいはプラセボと比較して,複雑性肺炎随伴性胸水の改善率を著しく向上させることが示された.悪性胸水の管理に用いる留置カテーテルは,広く一般的に使用されるようになった.肺炎随伴性胸水の胸腔チューブドレナージ処置に細径チューブを用いる場合は,6時間毎に生食液で潅流しなければならないが,細径チューブ(9‒12Fr)が大径チューブ(20Fr)とほぼ同等の有効性があることがいくつかの論文で証明された.胸腔穿刺術を行うときは,超音波を使用することと,十分なトレーニングが重要であることが示された.気胸や胸部手術後における長引く気漏(air leak)の治療として,血液パッチ技術は安価で,簡単で効果的であることが示された.抗白血病薬であるダサチニブ(dasatinib)の投与により頻繁に起きる胸水貯留について議論された.超音波画像やCT画像のガイド下での胸膜針生検は,ブラインド針生検よりも有効である.人工呼吸管理下の患者における胸腔穿刺排液術は酸素化を改善し,人工呼吸の期間を短縮させる.初めて胸腔結石(thoracoliths)と胸膜実質性線維弾性症(pleuroparenchymal fibroelastosis)が記載された.
この新版には,上記のすべての事象における進歩の詳細が含まれている.全体として,およそ10〜15%の新しい引用文献が追加された.
この第6版が,胸膜疾患患者の診療を行う医師にとって実用的な,最新の参考図書となることを希望する.
リチャード・W・ライト
テネシー州ナッシュビル