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書籍詳細

再生医療シリーズ

膵島の再生医療診断と治療社 | 書籍詳細:膵島の再生医療

公益財団法人先端医療振興財団理事長/京都大学名誉教授

井村 裕夫(いむら ひろお) 監修

神戸大学大学院医学研究科分子代謝医学特命教授

清野 進(せいの すすむ) 監修

大阪大学大学院最先端医療融合イノベーションセンター特任教授

石井 秀始(いしい ひでし) 編集

初版 B5判 2色(口絵あり) 200頁 2015年02月23日発行

ISBN9784787821331

定価:本体5,600円+税
  

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重症糖尿病(特に1型糖尿病)治療において,画期的な医療として注目されているのが,膵臓あるいは膵島の移植と膵β細胞の再生医療である.この画期的な治療法の研究は,どこまで進んでいるのか.また臨床応用へ向けての課題とは何か.膵β細胞の発生,分化誘導など,これらの項目を各学術領域を代表する第一線の先生方が「現状と今後の展望」について解説.

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目次

監修の序   井村裕夫,清野 進 
編集の序   石井秀始

A 膵島再生のサイエンス(基礎系)

第1章 消化器再生の総論
1 膵臓を臓器として作出する―blastocyst complementation法
 宮本竜之,中内啓光   
2 膵β細胞と臓器再生   豊田太郎,長船健二   
3 iPS細胞を活用したヒト器官の創出に向けた開発戦略   谷口英樹,武部貴則  
4 腸管幹細胞と臓器再生   杉本真也,佐藤俊朗  

第2章 膵臓再生の新技術
1 膵β細胞再生研究の歴史   川本弘一,今野雅允  
2 iPS/iGutからの膵β細胞の再生誘導   山田高嗣,中島祥介  
3 β細胞分化―モノアミントランスポーターによる分化制御   坂野大介,粂 昭苑  
4 膵β細胞の直接リプログラミング   江口英利  
5 疾患iPS技術を活用した遺伝性糖尿病の解明と再生   矢部茂治,大河内仁志  
6 間葉系幹細胞と膵再生   今野雅允  

第3章 再生医療を支える周辺技術
1 多能性幹細胞を用いた消化器臓器作製   川口義弥  
2 間葉系幹細胞の検出法   松崎有未,宮本憲一  
3 肝幹・前駆細胞の存在意義の理解から再生医療への応用可能性まで
 勝田 毅,落谷孝広  
4 体性幹細胞とMuse細胞の位置づけ  若尾昌平,出澤真理  
5 細胞初期化技術のがん研究への応用   柴田博史,山田泰広  

第4章 細胞機能の新しい制御法
1 組織幹細胞と糖鎖   豊田雅士,梅澤明弘  
2 膵臓幹細胞と糖鎖   三善英知,寺尾尚子,森脇健太,鎌田佳宏  
3 膵島細胞の傷害機序と液性因子による膵島防護作用   池本哲也,島田光生  
4 移植と制御性T細胞   森川洋匡,坂口志文 

B 新技術の臨床への展開(臨床系)

第1章 消化器疾患への臨床応用1 膵臓β細胞再生研究の現状   宮塚 健,綿田裕孝 
2 幹細胞を用いた膵疾患への臨床応用   細川吉弥,下村伊一郎 
3 次世代型膵島移植(大動物実験)   松本慎一 
4 脂肪組織由来幹細胞を応用した次世代型膵島移植の確立   種村匡弘 
5 国内外における臨床膵島移植の現状と展望   川本弘一,伊藤壽記,永野浩昭 

第2章 将来展望
1 膵島の再生医療の実現に向けて   南 幸太郎 
2 膵島および再生膵島様細胞移植における移植技術の新構築   角 昭一郎 
3 膵島細胞シート―皮下新生膵島組織の構築   清水裕史,後藤満一,岡野光夫 

C 最近のトピックス
1 疾患特異的iPS細胞研究の最近の動向   飛鳥井 慶 
2 臨床応用を目指した種々の幹細胞誘導法   大橋朋史 
3 非翻訳RNAの医療応用   西田尚弘,石井秀始 
4 インシリコ創薬の現状と展望   小関 準 

索引

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序文

監修の序

 再生医療は,傷害された臓器・組織の機能を回復させる究極の医療として,研究が進められている.多くの臓器・組織が研究の対象となっているが,なかでも期待が高いものの一つに膵島の再生がある.それは膵島のβ細胞の障害によって起こる糖尿病が,極めて数の多い疾患で,しかも血管障害などの合併症を起こして生命の危機を招くからである.
 糖尿病のなかでも1型糖尿病は,主として自己免疫によってβ細胞が破壊されて起こる重い糖尿病である.食事後の追加インスリン分泌のみでなく基礎分泌も障害されるので,インスリンを補充して血糖をコントロールすることが極めて困難である.しかも小児など若年者に多く,本人のみでなく家族を苦しめることになる.また網膜症,腎症,神経障害などの合併症も多い.もし膵島を再生することができれば,血糖の変動に応じてインスリンが分泌されるので極めて良好なコントロールを維持でき,合併症を防止できることは疑いがない.現に手術または脳死患者から得られる膵島の移植によって良好な結果が確認されているが,数が限られていること,数年おきに移植を繰り返す必要があることなどから,現実的な治療法とはなっていない.
 最近幹細胞とその分化の研究が進んでいるにもかかわらず,血糖の変化に応じて高濃度のインスリンを分泌できるβ細胞の作製はなお困難である.それは膵島がα細胞など複数の種類の細胞と一つの小器官をつくっていることと関係していると考えられる.幹細胞から膵島への分化を試験管内で実現する研究は,大変チャレンジングである.本書は,そうした複雑で困難な研究の現状を,紹介することを目的として編纂されたものである.
 一般財団法人代謝異常治療研究基金では,再生医療を特定課題として公募によって研究者を選び,研究終了時に研究の現状を一冊の本として出版することとしてきた.血管の再生,神経の再生に続いて本書は第3冊目となる.編者の大阪大学石井秀始教授は,脂肪組織幹細胞から消化器系の組織の分化を研究している新進の研究者である.本書が,現在進行中の膵島再生の研究の未来を照らす一条の光となることを願ってやまない.
 最後に一般財団法人代謝異常治療研究基金のご支援に感謝したい.
 
2015年2月

 公益財団法人先端医療振興財団理事長,京都大学名誉教授
 井村裕夫
 神戸大学大学院医学研究科分子代謝医学特命教授
 清野 進


膵島の再生医療
─膵β細胞の発生と再生をめぐる新展開─
編集の序

 血糖の変動と様々な合併症を主徴とし,生活の質と生命予後を極端に脅かす重症糖尿病(特にインスリン分泌が極度に低下した1型糖尿病)において,画期的な医療として注目されているのが,膵臓あるいは膵島の移植と膵β細胞の再生医療である.
 従来,膵臓は最も移植しにくい臓器とされ,虚血により急速に惹起される膵酵素の活性化による自己融解が移植を阻む壁と考えられてきた.しかし,膵臓内の血液を還流・洗浄し低温に保つことによって24時間程度は保存が可能であり,他の臓器と同様に移植医療が可能であることが示された.1960年代膵臓移植の臨床応用の基盤研究に立って1966年1型糖尿病の根治を目指した世界初の膵臓移植がミネソタ大学で実施された.現在,膵臓移植は1型糖尿病のごとく膵β細胞の荒廃により生じた内在性インスリンの回復と,糖尿病性血管病変の進展阻止・回復を目指した根治治療として定着した医療となっている.また膵臓自体の移植は大掛かりであることからβ細胞の主座である膵島の移植も考案され,すでに1965年にはMoskalewskiらにより膵島分離が試みられた.1972年Lacyらはラットで腹腔・筋肉内に移植した膵島で血糖制御が可能であることを示し,その後動物実験が繰り返され,1990年にはScharpらが1型糖尿病症例に応用し,約1か月のインスリン離脱例を報告した.現在でも移植片の安定生着と拒絶回避により複数回の移植やドナー負担の軽減を図るために移植膵島を保護する技術革新が続けられており,最近では様々な細胞療法を組み合わせた膵島移植が考案されている.その細胞療法の一つとして間葉系細胞の活用がある.たとえば,脂肪組織由来の幹細胞または前駆細胞に関しては乳房の形成術として手術後再建または美容の目的で1980年代から散発的に試みられてきた経緯があるが,移植膵島の保護や消化器臓器の再生に活用しようとする研究が進んでいる.間葉系幹細胞には骨髄由来も含まれており,米国では膵臓を含めて心臓や腎臓などの様々な疾患において再生応用を目指した臨床試験がある(Tissue Engineering 7: 211-228,2001).重症糖尿病の根治的治療法の一つとして,ドナーから膵島を外科的に採取してレシピエントに移植する医療と自己由来の細胞を活用する技術を融合できれば,感染症の回避やドナー負担の軽減など,医療的に大きなメリットを生むと期待される.誘導方法も様々な開発がなされ,転写因子をコードした遺伝子以外にも非コードRNAや化合物を応用できる可能性が示されている.さらに,細胞の癌化まで考慮しておくことが再生医療の安全性を担保しておくうえで必須であろう.
 現時点の膵β細胞を誘導する革新的技術は理解の積み重ねの段階であり,ES細胞(Nature Biotech 24: 1392-1401,2006; Nature Biotech 26: 443-452,2008)やiPS細胞(PNAS 107: 13426-13431,2010)からの膵β細胞の誘導,膵臓特異的な転写因子による直接リプログラミング等の複数の研究報告はあるが,臨床応用までの課題が残されている.何故に膵β細胞の再生が難しいのか.どのようなアプローチ法があるか.本書ではこれらの各項目をこの学術領域を代表する第一線の諸先生に現状と今後の展望を解説いただいた.
 周知のごとく,わが国における最近の再生医学分野の進捗は目覚ましい.特に2012年にiPS細胞を発明した山中伸弥先生(京都大学教授)がJohn B. Gurdon先生(Cambridge大学教授)とともにノーベル生理学・医学賞を受賞したことは記憶に新しいところであり,再生医学の知識が大きく塗り替えられた.各臓器の中で分化を遂げていったん多能性を喪失した細胞であっても,人為的な操作を加えることで再び多能性を獲得することができるという細胞リプログラミング現象は,私達の生命観を大きく塗り替える発見であった.それとともに個体の各臓器中に備わっている体性幹細胞や前駆細胞の中には相当レベルの可塑性があり,特定の刺激や条件下で細胞系譜が変化することも明らかとなってきた.そのような従来の常識からは図り知れなかった細胞可塑性の制御技術は,再生医学にとり強力な武器となりつつある.医療として自己の組織から誘導した細胞を出発点とすれば,感染の危険性や受精卵を破壊して再生に転用しなければならない医療上のジレンマを回避できる可能性を秘めている.このような技術には未知のメカニズムを応用可能なレベルにまで掘り下げた理解が必要であることは言を待たない.
 iPS細胞の臨床応用に向けて,加齢黄斑変性症,網膜色素変成症,血小板減少症,重症心不全,脊髄損傷等を対象疾患とした準備が走り出している.トランスレーショナルリサーチとして臨床応用を加速化するためには,細胞数を104程度で移植できる研究デザインや,技術的には単細胞レベルで安全性を評価できる体制の整備が急がれる.再生医学は医療として若い領域であり,分野横断的に各領域を理解できる複眼視が必要であり,従来の基礎研究が分野別の単一のグループで掘り下げて行く過程が主体であったのとは対比的である.横断的研究では,各領域で自立した研究者の成果から全体を齟齬なく統合し検証するプロセスと,その作業を可能にするシステムの存在が重要である.現代社会のグローバル化の深化は相当な速度で進んでおり,トランスレーショナル医療を支える新技能とその知見をコミュニティーで共有しながら伝承していく仕組みの重要性は強調してもし過ぎることはなく,本書がその一助となれば幸いである.今回の特集は,公益財団法人先端医療振興財団理事長の井村裕夫先生(京都大学名誉教授),清野進先生(神戸大学特命教授)の監修を賜り,この学問領域の進むべき道を照らしていただいた.先端医科学の一日も早い臨床現場への展開に向けて,森正樹教授,土岐祐一郎教授,伊藤壽記教授,永野浩昭病院教授(大阪大学)から新しいスタイルの研究事業であることを踏まえて,本領域の現状を編纂するための編集に協力をいただいた.この機会に深謝申し上げるとともに,本領域が大きく開花することを願ってやまない.

2015年2月

 大阪大学大学院最先端医療融合イノベーションセンター特任教授
 石井秀始