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クリニカルクエスチョン

漢方診療クリニカルクエスチョン50診断と治療社 | 書籍詳細:漢方診療クリニカルクエスチョン50

大阪医科大学健康科学クリニック

後山 尚久(うしろやま たかひさ) 編集

初版 B5判 並製 160頁 2015年10月20日発行

ISBN9784787822192

定価:本体4,200円+税
  

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「未病医学」である漢方ならではのさまざまな疑問を,①漢方全般,②処方,③診療,④患者からの質問の4章に分けて50個精選.それらに経験豊富な漢方診療のエキスパート達が明快に回答,丁寧に解説した.忙しい診療の合間に,どこからでも読めて,すぐにポイントがつかめる実践的な1冊.漢方初心者から長年漢方を使用している医師まで役立つ,漢方診療のQ&A集決定版.

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目次

序文−漢方が未病医学であるがゆえのクエスチョン−
執筆者一覧

Chapter Ⅰ
「漢方」全般に関するクリニカルクエスチョン 
 Q1 東洋医学と漢方の考え方を教えてください
 Q2 中国医学と漢方は違うのでしょうか? また国際的に伝統医学のガイドラインなどはありますか?
 Q3 民間医療としての薬用植物(生薬)と漢方薬の違いを教えてください
 Q4 生薬や漢方薬は中国産よりも日本産のほうが安全でしょうか?
 Q5 漢方薬のみで現代社会の種々の疾患に対処可能でしょうか?
 Q6 漢方の勉強法,また参考になる教科書,参考書,ウェブサイトなどもあれば教えてください
 Q7 代表的な漢方の古典の利用法,実際の診療への取り入れ方を教えてください
 Q8 漢方を処方するからには,日本東洋医学会に入って漢方専門医の資格を取っていたほうがよいでしょうか?
 Q9 これから漢方診療を始めようと思います.準備すべきものはありますか?
Q10 これから本格的に専門医の取得のために漢方の勉強を始めたいと思いますが,
   何をどのように学べばよいのでしょうか?
Q11 診療に役立てるために漢方理論はどのようなものを勉強すればよいか教えてください

Chapter Ⅱ
「漢方」処方に関するクリニカルクエスチョン 
Q12 漢方薬は保険診療が可能でしょうか? またカルテにはどのように記載すればよいでしょうか?
Q13 まだ「証」を診ることに自信のない漢方初心者です.不定愁訴が多い患者に対してどのように処方してよいか
   わかりません.よい方法はないでしょうか?
Q14 「証」がわからなくても,症状や症候から処方が可能な漢方薬があれば教えてください
Q15 漢方薬か西洋薬かの選択の基準はありますか? どのようなときに漢方薬が適応となるのか教えてください
Q16 漢方薬と西洋薬を同時に処方したいときに注意すべきことはありますか?
Q17 特にこれだけは注意すべきという漢方薬の副作用があれば教えてください.
   また瞑眩は副作用とどう違うのか教えてください
Q18 風邪は症状が人によって違いますが,どの漢方を選べばよいのですか? 
   また罹りはじめといつまでも症状がとれないときは,どのような使い方をすればよいか教えてください
Q19 漢方薬に入っている生薬の数が処方によって違いますが,なぜでしょうか?
Q20 2〜3種類の漢方薬を同時に処方する際の注意点を教えてください
Q21 小児に漢方を服用してもらう場合に服用法の工夫があれば教えてください

Chapter Ⅲ
「漢方」診療に関するクリニカルクエスチョン 
Q22 初心者にもわかる「証」の診かたを教えてください
Q23 漢方診療での問診のコツを教えてください
Q24 舌診の正しい診かたを教えてください
Q25 腹診の正しい診かたを教えてください
Q26 循環器疾患の診療での漢方の使い方のコツや特色を教えてください
Q27 呼吸器疾患の診療での漢方の使い方のコツや特色を教えてください
Q28 産婦人科診療での漢方の使い方のコツや特色を教えてください
Q29 小児科診療での漢方の使い方のコツや特色を教えてください.また服用量についての注意点も教えてください
Q30 皮膚科診療での漢方の使い方のコツや特色を教えてください
Q31 心身症の診療での漢方の使い方のコツや特色を教えてください
Q32 消化器疾患の診療での漢方の使い方のコツや特色を教えてください
Q33 これからの老年医療における漢方の使い方のコツや特色を教えてください.
   また高齢者の漢方服用量は減らすべきですか?
Q34 初診時(問診時)に必ずしておくこと,また注意すべきことを教えてください.
   具体的な問診票があれば例示をお願いします
Q35 食養生(食事療法)の具体的な指導方法を教えてください
Q36 鍼灸師との連携はどのように行えばよいでしょうか?
Q37 漢方四診を実施した際に,証診断で舌診,脈診,腹診に食い違いが出た場合はどれを優先すべきでしょうか?
Q38 妊娠女性や授乳期の女性への漢方の使い方を教えてください
Q39 運動器に関わる症状の診療での漢方の使い方のコツや特色を教えてください
Q40 がん医療での漢方の使い方のコツや特色を教えてください
Q41 慢性疾患や難病の診療の際の漢方の使い方のコツや特色を教えてください

Chapter Ⅳ
患者からの答えにくい質問にどう答えるか 
Q42 「漢方薬は効くのですか? 自然治癒力で治ったのでは?」と言われたら……
Q43 「漢方薬は何日ぐらい飲めば症状がとれますか?」と言われたら……
Q44 「調子がいいのでこのまま漢方薬を飲み続けていたいのですが?」と言われたら……
Q45 「漢方薬を飲んでいるが全然治らない.いつまで飲むのですか?」と言われたら……
Q46 「別の漢方医からは全く違う漢方薬を処方されたのだが?」と言われたら……
Q47 「漢方薬局の薬剤師と先生の説明の内容が違うのですが?」と言われたら……
Q48 「漢方薬は食前に服用するよう医師に言われましたが,ついつい忘れてしまうのですが」と言われたら…… 
Q49 「漢方のサプリメントというものを飲んでいるのですが,医学的には効果はどうなのでしょうか?」
   と言われたら……
Q50 「漢方薬局で煎じ薬を買ったのですが,これは顆粒の漢方薬と違うものでしょうか?」と言われたら…… 

索引

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序文

−漢方が未病医学であるがゆえのクエスチョン−

 漢方の原則あるいは医療としての方向性のひとつに“未病の治”があります.このことは漢方をよく学んだ諸氏には常識のひとつとなっていると推察します.未病という言葉は純粋な漢方医学用語であり,広辞苑には「漢方で,はっきりとした病気に陥る以前の軽微な予兆がみられる状態」と書かれています.ありがたいことに“漢方で”と明記してあり,つい最近までは漢方世界での特殊な表現でした.ところが今や未病は一般用語となり,テレビCMでも聞こえてくることは承知しておられるでしょう.
 漢方はすでに病気(已病)になっている人を対象とする医療体系に留まらず,未病医学・医療を対象に含んでいることや独特の証診断システムを有するからこそ,なかなか理解できないことや誤解を生じやすい部分があり,医療を受ける側のみならず医療を施す側からもクエスチョンが寄せられる機会が多いようです.漢方は難しいと感じる医師もおられるようですが,これは漢方の宿命といえるでしょう.
 私たちは黄帝内経の中に「未病の時期を捉えて治すことのできる人が医療者として最高医(聖人)」という一文をみつけることができますし,「未病を治すとは,病がまだ起こざる時,かねて慎しめば病なく,もし飲食・色欲などの内慾をこらえず,風・寒・暑・湿の外邪を防がざれば其冒す事は少しなれども,後に病をなす事は大にして久し」という記載もあります.すなわち「暴飲暴食,不規則(偏り)生活,男女の過ぎる行為,睡眠不足,仕事中毒(過労),遊び中毒(過労)は,最初はわずかな体調変化でたいしたことはないが,放置すると取り返しがつかないほどの大きな病気になり,長い闘病生活が待っていますよ」ということなのです.また,未病医学の基本的な考え方には,気候への対処不足,暑寒を無視した服装や季節感のない食物摂取なども病気につながる体内環境を作り出すとされ,未病の温床とされます.ただし,未病の温床は画像検査や血液のデータには異常所見として感知されることのないものです.漢方医学ではこのような未病状態や未病の温床の存在もまた病人像の一部として,あるいは病人形成要因として,病態把握項目やいわゆる“証”に組み入れています.虚証とか実証とか,気逆や水毒,あるいは肝気鬱結とかいう漢方所見(診断)がこれです.このことも漢方へのクエスチョンがたくさん出てくる理由といえます.
 適切な漢方での医療介入を適時行うことが「未病の治」,すなわち聖人,上医の医療だと思われますが,クエスチョンをできるだけ氷解させて臨床に当たってください.その一助として本書を編集いたしました.
 全部で50の質問に,専門の漢方医師が答えるというスタイルです.漢方全般に関する章,処方に関する章,診療に関する章および患者さんからよく受けるが答えにくい質問という章に分かれています.50の質問の内容を分析すると,なぜそういう質問が出てくるのかという理由には,次に示す漢方の特徴や姿があるためと思われます.

 1.漢方医学は治療学に収束する医学体系になっている.すなわち,病気を治すということに主眼を置いた本医学体系は,その時代の最新のエビデンスに加えて医師のプロフェッショナリズムとしての感性や直感を磨くことにより,病態を診断し,診断そのものが治療に直結する体系であることを意味する.そこで,漢方医は病者をよく観察する眼を持ち,「内なる身体の声」を聞きながら診療を行っている.病気の診断による病名医療ではなく,病態の診断による病者医療である.
 2.漢方医学は「個」の医学であり,個別医療という性格を持つ.個別化により得られる病者のバリエーションの情報が“証”という概念で表現される.その考え方は漢方四診という漢方診断学(個性の見極め)を熟成させ,それを基にした治療は「さじかげん」が関与する個別医療となっている.narrative based medicine(NBM)といわれている患者の物語と診察者の経験知をすり合わせて行う個別医療である.西洋医学のような標準治療ガイドラインが作成しにくい.
 3.漢方医学はQOL(quality of life,生活の質)の医学である.精神面と身体面での日常役割機能の低下を回復させ,社会生活機能がきちんと働くように作用する.そして全体的健康感を賦活する.QOLの低下や未病状態を,五臓六腑の失調や気血水の歪みとして捉えるのが漢方医学である.
 4.漢方治療の実践に当たっては“心身一如”を常に根底に置く.すなわち,臓器別の医療ではなく,精神活動と身体活動は切り離せず,また別々に考えるものでもなく,すべてひとつのものとして,またそれぞれの機能は互いに関連しているものとする.特に難病,不定愁訴症候群,慢性疾患や心身症の範疇に入れるべき疾患や病態では五臓六腑論の相生,相剋関係を駆使して診療に当たる.臓腑はそれぞれに相関を有し,清心と身体機能を併せ持つ.一方が他方の機能を生成,促進したり(相生関係),一方が他方を消滅,機能抑制したりする(相剋関係)ことで,体内環境を一定に保っている.
 5.漢方は複雑系世界の産物である.人を心身医学における“精神身体活動を行う人を社会と関わり揺れ動く心を持つ存在として理解しようとするbio-psycho-socio-ethical model”と考え,精神−精神,精神−身体,あるいは精神−身体−社会相互作用という概念で病態や疾患を理解する.そしてその治療に供する薬物もまた複雑系物質であり,さまざまな作用を持つ植物製剤(生薬)を複数混ぜ合わせて漢方薬ができあがっている.生薬構成がひとつでも異なると全く異なった効果を生むため,治療対象も大きく異なる.

 漢方医学は上記のような理由から,ある意味難しい医学体系ではありますが,西洋医学の苦手な部分をカバーする,現代人に求められる医療であることも疑う余地がありません.現代的な漢方医療の実践には,西洋医学の患者情報を無視することは不可能であると言わざるを得ませんので,漢西医学折衷あるいは融合という形での医療の実践となるでしょう.また,漢方医学は明確なサイエンスですから,その作用機序を代表とするエビデンスをひとつひとつ構築する必要があるでしょう.漢方の原則を基盤として,その科学性を確立し,そして積極的に西洋医学的なアプローチを取り込み,融合させながら人を救える,わが国の誇れる医療を作り上げるべきだと思います.
 本書に収載した50のクエスチョンとそのアンサーをお読みいただき,人を人として扱う暖かい医療,複雑系である人の精神・身体両面のバランスを考慮した医療,病人や病態をカオスとして捉える医療としての漢方医学に理解を深めて,臨床実践をしていただくことを希望します.
 本書が漢方医療を実践する多くの読者の迷いや疑問を少しでも減らし,自信を持って臨床力を発揮していただき,ひとりでも多くの病者の苦しみを解消していただければ幸いです.

 2015年9月
 大阪医科大学健康科学クリニック
 所長 後山尚久