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チーム医療に活かそう! 緩和ケア評価ツールSTAS診断と治療社 | 書籍詳細:チーム医療に活かそう! 緩和ケア評価ツールSTAS
―緩和ケアの成果とケアの質を客観的に評価するために―

さくさべ坂通り診療所院長

大岩 孝司 (オオイワ タカシ) 著

さくさべ坂通り診療所副院長

鈴木 喜代子(スズキ キヨコ) 著

初版 B5判 並製 128頁 2016年02月28日発行

ISBN9784787822215

定価:本体2,500円+税
  

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患者視点に立ったケアの実践,評価のためのスコアリングツールが「STAS」である.症例をあげて「患者の言葉」を「聴く」ということを丁寧にわかりやすく解説.「客観的な共通ツール」STASを使うことで,刻々と患者の症状や気持ちが変化する毎日の,緩和ケアの現場で活かせるヒント,コツが満載.多職種がかかわる現場で,ケアの実践,評価に困っている医師,看護師,医療従事者にぜひ読んでほしい1冊.

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目次

はじめに
1章 STASについての概説
1 全人的ケアとトータルペイン―患者と総合的に向き合うということ
1) 全人的ケアとは  
2 患者の主観に近づくということ
1) 緩和ケアと一般医療  
2) 緩和ケアにおける家族の存在   
3) 終末期ケアにはスピードが求められる―残された時間と身体状況の変化  
4) WHOの緩和ケアの定義  
3 トータルペインとSTAS
4 他者評価ということ―STASの特徴
1) 評価ツールを使うときの注意点  
5 STAS-Jは,患者と家族の状況を評価する9項目で構成されている
1) スコアリングの考え方  
2) 9つの評価内容  
6 STAS originalは,環境要因を含む16項目で構成されている
7 クリニカル・オーディットとしての役割をもつ

2章 STAS-Jとそのスコアリング
1 STAS1 痛みが患者に及ぼす影響
1) “痛み”が患者の日常生活に与えている影響を評価する  
2) 全身状態の低下によって,変化しているADLは区別して考える  
3) “痛み”の緩和における患者の意向を確認する  
4) 家族との関係性の中での“気がかり”に着目する  
5) “痛み”が患者の心理状態に与えている影響(不安や疑念等)を評価する  
2 STAS2 痛み以外の症状が患者に及ぼす影響
1) 患者は何が辛いと言っているのか,に耳を傾ける  
2) 治療を必要としている症状かどうかは,患者の辛さの視点で評価する  
3 STAS3 患者の不安が及ぼす影響
1) 患者は話をすることで,自身の不安の対象に気づく  
2) “漠然とした不安”が“具体的な心配事”に変化するまで,話を聞く  
3) 患者の表現した言葉から評価する  
4) 医療者の対応は患者の不安に大きく影響する  
4 STAS4 家族の不安が家族に及ぼす影響
1) 一番,傍にいる家族を評価する  
2) 話すことで,家族も自身の不安の対象に気づく  
3) “痛そうで…,苦しそうで…”は,見ている家族の不安の表現,かもしれない  
5 STAS5 患者の病状認識
1) スコア<0>を目指すのではなく,どのように考えているのかを理解する  
2) 非現実的な希望を抱いている場合は<1〜4>  
3) 医師の説明内容ではなく,患者がどのように理解しているかで評価する  
4) スコアリングのために患者に質問はしない  
6 STAS6 家族の病状認識
1) 予後予測を医師から伝えられていても,病状認識があるとはいえない  
2) 家族の話から家族の理解がわかる  
3) 家族の行動決定の根拠を知ることで,家族の認識が理解できる  
4) 家族は“生きていてほしい”と願っている,だから病状を認識したくない  
5) 家族は行動を変えることで,“死が近い”と患者に伝えてしまうことを恐れている  
7 STAS7 患者と家族とのコミュニケーション
1) 今後の生活について,患者と家族で率直な相談がされているかを評価する  
2) 患者と家族が互いの気がかりについて,どれだけ共有しているかを評価する  
3) 予後予測の伝え方によって,患者と家族は率直な話ができなくなる  
8 STAS8 職種(スタッフ)間のコミュニケーション
1) 主要スタッフは,主治医と中心となる看護師  
2) 関係スタッフは,ある程度定期的に患者と関わっている職種  
3) 在宅緩和ケアにおいてはケアマネジャーの存在が大きい  
9 STAS9 患者・家族に対する医療スタッフのコミュニケーション
1) 患者・家族と最初に関わる時のスコアリングが重要  
2) 個々の患者・家族によって求めている情報は異なる  
3) ケア提供者のペースではなく患者・家族の求めに応じる  

3章 STAS-Oとそのスコアリング
1 STAS10 計画
2 STAS11 実質的支援
3 STAS12 経済的支援
4 STAS13 時間の浪費
5 STAS14 スピリチュアル
1) スピリチュアルケアと自律支援  
2) スピリチュアルと患者中心のケア(patient centered care)  
6 STAS15 医療スタッフの不安
7 STAS16 スタッフへの助言・指導

4章 STASの実践と活用
1 スコアリング(ケアの評価)の根拠を明確にする
1) STAS1(痛みのコントロール)をスコア<1>としたときのコメント例  
2) STAS2(痛み以外の症状)をスコア<2>としたときのコメント例  
3) STAS3(患者の不安)をスコア<3>としたときのコメント例  
4) STAS4(家族の不安)をスコア<4>としたときのコメント例  
5) STAS5(患者の病状認識)をスコア<3>としたときのコメント例  
2 スコアリングの根拠は,患者が語った言葉(ナラティブ)に基づく
1) 患者の言葉をそのまま記録するために  
2) スコア<7>としたときのコメント例  
3) スコア<8>としたときのコメント例  
4) スコア<9>としたときのコメント例  
3 生活に支障をきたしているかどうかの視点でスコアリングする
4 記録はSOAP形式を採用し,STASと連動させる
1) 患者が語った言葉(ナラティブ)からSデータを整理する  第1段階  
2) Sデータを裏づけるOデータを確認する  第2段階  
3) スコアの高い項目に注目して,アセスメント(A)する  第3段階  
4) 患者の意向に沿って方針(P)を立てる  第4段階  
5) 提供したケアの結果を評価する  第5段階  
5 スコアリングは,チームミーティングでの話し合いをもとに行う

5章 症例でみるスコアリングの実際
1 Sデータ 患者の語った言葉(ナラティブ)からSデータを整理する 第1段階
1) 緊急往診の現場で実践したことから考える  
2) 患者の“心の叫び”に応える  
3) コメントの記載によってケアの質は高くなる  
2 Oデータ Sデータを裏づけるOデータを確認する 第2段階
1) 専門的な視点による診察所見——専門職の視点で客観的な事実を記録する  
2) 家族の話を大切なOデータとして記録する  
3 アセスメント スコアの高い項目に注目して,アセスメント(A)する 第3段階
1) スコアの高い項目の因果関係からアセスメント  
2) 身体的な問題(痛み)をOデータからアセスメント  
3) 患者の全体像を丸ごと捉えて言語化  
4 プラン 患者の意向に沿って方針(P)を立てる 第4段階
1) 患者の体験をありのままに理解する  
2) アセスメントに基づき潜在している問題を解決する  
3) 患者と相談してプランを立てる  
5 結果の評価 提供したケアの結果を評価する 第5段階
1) 患者自身の評価を大切にする  
2) 生活の視点で評価する  
3) 痛みは何によって緩和したのかは患者が教えてくれる  

6章 スコアリング集―4つの症例から―
症例1 身動きができず3日間,水も飲めずにいた患者Bさん
1 Sデータ Bさんの語った言葉(ナラティブ)からSデータを整理する 第1段階
2 Oデータ BさんのSデータを裏づけるOデータを確認する 第2段階
1) 専門的な視点による診察所見——専門職の視点で客観的な事実を記録する  
2) 家族の話を大切なOデータとして記録する  
3 アセスメント Bさんのスコアの高い項目に注目して,アセスメント(A)する 第3段階
1) スコアの高い項目の因果関係からアセスメント  
2) 身体的な問題をOデータからアセスメント  
3) 患者の全体像を丸ごと捉えて言語化  
4 プラン Bさんのプラン:患者の意向に沿って方針(P)を立てる 第4段階
5 結果の評価 Bさんに提供したケアの結果を評価する 第5段階
症例2 残された時間が短い状況で退院した一人暮らしの患者Cさん
1 Sデータ Cさんの語った言葉(ナラティブ)からSデータを整理する 第1段階
2 Oデータ CさんのSデータを裏づけるOデータを確認する 第2段階
1) 専門的な視点による診察所見——専門職の視点で客観的な事実を記録する  
2) 家族の話を大切なOデータとして記録する  
3 アセスメント Cさんのスコアの高い項目に注目して,アセスメント(A)する 第3段階
1) スコアの高い項目の因果関係からアセスメント  
2) 身体的な問題をOデータからアセスメント  
3) 患者の全体像を丸ごと捉えて言語化  
4 プラン Cさんのプラン:患者の意向に沿って方針(P)を立てる 第4段階
5 結果の評価 Cさんに提供したケアの結果を評価する 第5段階
症例3 高齢者施設で暮らす患者Dさん
1 Sデータ Dさんの語った言葉(ナラティブ)からSデータを整理する 第1段階
2 Oデータ DさんのSデータを裏づけるOデータを確認する 第2段階
1) 専門的な視点による診察所見——専門職の視点で客観的な事実を記録する  
2) 家族の話を大切なOデータとして記録する  
3 アセスメント Dさんのスコアの高い項目に注目して,アセスメント(A)する 第3段階
1) スコアの高い項目の因果関係からアセスメント  
2) 身体的な問題をOデータからアセスメント  
3) 患者の全体像を丸ごと捉えて言語化  
4 プラン Dさんのプラン:患者の意向に沿って方針(P)を立てる 第4段階
5 結果の評価 Dさんに提供したケアの結果を評価する 第5段階
症例4 痛みのスコアリングができない患者Eさん
1 Sデータ Eさんの語った言葉(ナラティブ)からSデータを整理する 第1段階
2 Oデータ  EさんのSデータを裏づけるOデータを確認する 第2段階
1) 専門的な視点による診察所見——専門職の視点で客観的な事実を記録する  
2) 家族の話を大切なOデータとして記録する  
3 アセスメント Eさんのスコアの高い項目に注目して,アセスメント(A)する 第3段階
1) スコアの高い項目の因果関係からアセスメント  
2) 身体的な問題をOデータからアセスメント  
3) 患者の全体像を丸ごと捉えて言語化  
4 プラン Eさんのプラン:患者の意向に沿って方針(P)を立てる 第4段階
5 結果の評価 Eさんに提供したケアの結果を評価する 第5段階

7章 緩和ケアチームにおけるSTASの活用
Q1 クリニカル・オーディットは,STASの大事な役割とのことですが,
   具体的にはどのように行うのでしょうか。
Q2 チーム全体のケアの質の評価は,STASをどのように活用していますか?
Q3 STAS1とSTAS2のスコアが<1>以下ということは
   薬を増量していないということですか?
Q4 死亡前日にスコアリングができるということは,
   コミュニケーションがとれているということですか?
Q5 緩和ケアの質を評価するために,STASの他に何か方法はありますか?

8章 明日からの実践に生かすために
1 スコアリングを習慣づけることから始めましょう
2 症状コントロールは“薬物治療だけではない”と思うこと
3 患者を“主語”にしたミーティングを心がけましょう
4 自律支援を基本に考えましょう
5 多職種連携ではSTAS-Oを意識しましょう
6 スコアリングができない時は,スコア<7>でよいのです

文 献
付 録
索 引
おわりに

本文内の斜字の部分は,STAS-Jからの引用を示す

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序文

 がん終末期に限らず自身の死を現実のものと実感したときに,人はそれまでになく生を,生きることを強く意識し,渇望します。緩和ケアの本質は,この生を,生きることを支援することにあります。すべての患者はその人の状況・苦悩がどうあれ,今この時を生きているのです。生を支援することは決して人生哲学を語ることではありません。緩和ケアはがん終末期の患者が何に苦悩しているのかを知ることがその始まりです。患者が抱えている問題・苦悩を受け止め,具体化して一緒に考え,患者が今を生き,前を向いて生きることの支援をすることが緩和ケアです。
 がんと診断されると,治る可能性のあるなしにかかわらず,がんという病気とその治療に向き合い,生きていかなければなりません。まして治る可能性がなくなった患者は,生きている間ずっとがんという病気と向き合うことを余儀なくされます。病院での治療中も,在宅療養中も,患者は自身の病状・治療の内容を理解していなければ,今の,そして今後の生活設計・人生設計が立てられません。
 多くの患者・家族は治療方針や治療計画は医師が立てて,医療者にいわれたとおりにしていれば問題ないと医療を信頼し,医療者に任せて病気の治療を受けています。ところが,がん終末期では治療の選択は医療的な問題だけではなく,患者自身の価値観に大きくかかわることから,患者が医師から治療の選択を求められる事態が起こります。医療を信頼し医療者の判断に委ねていた患者はそれまでに経験したことのない状況に戸惑います。“「どうしたいですか?」と医師から聞かれても,わからないです”と話される患者は少なくありません。患者は医師に“聞きたいことが聞けない”,“説明は受けたけど意味がわからない”と自分で決めるための情報の整理ができません。治療経過の中での患者の病状理解が不足しているために,大切な場面で,医師とうまく話ができずに困ってしまうようです。
 緩和ケアにおける医師・看護師の役割は,大切な時間をその人らしく生き抜くための支援です。がんと診断された時に安心して治療を受けられるために患者・家族の“気がかり”に耳を傾け,抱えている問題の解決に向けて,がん治療あるいはがん治療後の様々な苦痛の緩和を図ります。がん治療の終了を告げられた時にも,その人の意志を尊重したケア,家族へのケア,多職種間の調整を含めたチームケアが必要です。緩和ケアチームは,患者・家族が最善の選択をできるために,患者・家族の自律を支援します。
 緩和ケアは,“患者と家族に寄り添う”,“患者の意志を尊重する”,“その人らしい生き方を支える”などの全人的ケアという表現で共通理解されています。しかし,実践の場ではどのようなケアが提供されているでしょうか。それぞれの緩和ケアチームがそれぞれに実践し,それぞれに評価しているのが実情ではないでしょうか。実践のケア基準の共有がなければ目指す方向が定まらず,緩和ケアの質は評価できません。この問題を解決しなければ,緩和ケアを医療・ケアとして定着,普及することはできません。
 現実に,患者視点に立った緩和ケアの質の評価がされていないために,家族・遺族へのアンケートなどが代理指標として使われていることが多くなっています。患者の評価と家族の評価は同じではありません。むしろ,患者と家族は相対した立場にいることも少なくありません。そのため家族・遺族へのアンケートで,患者が受けた緩和ケアの質を評価することには慎重でなければなりません。
 筆者はがんのホームドクターとして診療をするなかで,患者・家族から多くの問題を突きつけられてもきました。一つひとつの問題を何とかして解決したい,解決の道筋を見つけたいと,考えてきました。そうした中でSTAS(Support Team Assessment Schedule)に出会い,緩和ケアの実践に活用し大きな可能性を感じています。
 われわれは2005年からSTAS—Jを導入して10年を超えますが,チームの共通言語として定着するとともにその成果は想定を超える形で現れました。まず看護師・医師を含めたケアスタッフのアセスメント力が向上したことがあげられます。さらに,STASという共通言語を用いることでチーム内での患者・家族の状況に対する共有理解に役立ち,認識のズレが少なくなりました。
 STASは緩和ケアを実際に提供するツールとして,日本緩和医療学会でも推奨しています。日本語版としてはSTAS—J(STAS日本語版)スコアリングマニュアルがあり,項目として「痛みのコントロール」「痛み以外の症状コントロール」「患者の不安」「家族の不安」「患者の病状認識」「家族の病状認識」「患者と家族とのコミュニケーション」「職種間のコミュニケーション」「患者・家族に対する医療スタッフのコミュニケーション」の9項目からなります。
 STASの開発者であるHigginsonが提示した原型(以下STAS original版)1)は全部で16項目あり,STAS—Jはそのうちの上記9項目を採用していて,残りの7項目はSTAS—Jで活用(翻訳)されていません。7項目の内容は,「チームミーティングによる計画」「実質的支援」「経済的支援」「患者の望まない時間の浪費」「スピリチュアル」「医療スタッフの不安が患者・家族に与える影響」「スタッフへの助言・指導の遅れが患者・家族に及ぼしている影響」(以上筆者による日本語訳)です。
 STAS original版では各項目に番号をつけていませんが,本書ではSTAS—Jで活用(翻訳)されていない7項目についてはSTAS—Jに引き続いてSTAS10~16と番号をつけ,この部分を独自にSTAS—Oと表現しています。STAS—Oについては筆者らが独自の日本語訳で内容を確認した時に,以前から活用していた独自の在宅緩和ケアの基準とほぼ一致していることに気づきました。
 緩和ケアにおけるチームケアをより充実させるために,STAS—Oの活用を加えることはとても有意義であると高く評価し,2010年からSTAS—Jの9項目とSTAS—Oの7項目を合わせたSTAS original版全体の活用を始めました。したがって本書では,STAS—JだけでなくSTAS—Oを加えた16項目が活用できるように,STAS originalのすべての項目について述べることとしました。

 本書でのSTAS—Jの日本語訳は「STAS—J(STAS日本語版)スコアリングマニュアル2)」に従い,STAS—Oの日本語訳は筆者によるものです。STAS—Oについては,付録の英語原文を参照してください。

 実際の活用はこれら16の項目をそれぞれ評価して,その結果を数字で表現します。この数字で表現することをスコアリングといいますが,筆者はスコアリングおよびその結果の活用に独自の工夫をしています。
 工夫の第一は患者・家族にかかわる項目をスコアリングする際の根拠を,徹底して患者・家族の話した言葉に求めることにしたことです。
 第二の工夫は,多くの職種の記録方式として広く使われているSOAP(S:Subject,O:Object,A:Assessment,P:Plan)と連動させたことです。SOAPのSデータに着目し“患者発信の話”を軸に展開します。Sデータは,患者が表現した生の言葉で記録しますので,患者本人と話をしなければ記録は書けません。患者本人と話をすることは,緩和ケアの基本の“き”であり,STASを活用するための第一歩としています。患者本人が感じることは,ケア提供者にとっては抽象的であり実体がみえないもので,ケア提供者が代って表現することはできません。そのため患者が自身の言葉で表現しない限り誰にもわかりません。何よりも患者と家族の話を重視することでの患者・家族の納得と安心は大きく,自律支援をより確かなものにしたことも大きな成果です。
 第三の工夫は,各項目を別々に捉えてケアするのではなく,それぞれの項目の関連性に注目して,因果関係から状況をアセスメントすることです。スコアの高い項目はケアが不足しているという評価で,ケアが必要です。しかしスコアの高い項目ごとに対応するのではなく,相互の項目の因果関係に注目して,原因となっている項目のスコアを下げるケアを提供します。その判断が適切であれば全体のスコアが下がります。
 それぞれの項目の関係性から患者・家族の状況をアセスメントすると,患者の全体像(“丸ごとみる”/トータルペイン)を捉えることができます。STASは全人的ケアを実践する具体的な道筋を明確にするツールとして,とても優れていることがわかります。
 当診療所のチームは,2005年にSTAS(Support Team Assessment Schedule)—J2)を導入し独自の工夫を積み重ね,患者のあらゆる問題を“丸ごとみる”という考え方で全人的ケアを実践しています。
 本書は,実践に役立つことを目指しているのでSTAS(STAS—J,STAS—O)の活用を実践に即した形で記述しています。スコアリングまでのプロセスを大切にしていますので,患者・家族の話を引き出すためのコミュニケーション(対話)やカウンセリングの実際を具体的な対話の形で記述しています。
 本書の構成は,はじめにSTASについて概説(1章)およびSTAS—J(2章),STAS—O(3章)について述べ,次にSTASの実際の活用のしかた(4章)を解説しました。5章・6章では,症例を通して,患者とのコミュニケーション,STASのスコアリングの実際を理解してもらえるように構成にしました。
 使い方としては,本書を順序通り読み進めていただかなくてもよいです。たとえば5章の症例から読んでSTASのスコアリングの実際を体験したのち,なぜ緩和ケアにSTASが有効かという理論について1~3章を読んでいただいても,十分にご理解いただけると思います。
 さらに,7章でSTASのクリニカル・オーディットとしての役割の実際について,8章でSTASを導入し実践に活かすためのポイントについて述べています。
 本書を読むにあたって,すでにSTASを活用されて基本的な理解をされているのであれば,5章・6章の症例を通してのスコアリングの実際から読みはじめてもかまいません。
 STASについての理解を深めるなかで,あらためて緩和ケアの概念の再整理を行い,深化していただくことも本書の大きな目的です。
 最後に,用いる用語についての確認をしておきます。緩和ケアは,ホスピスケア,ホスピス・緩和ケア,緩和医療など様々な表現がありますが,本書ではケアという言葉は「求めに応じてその人にかかわること」という意味に捉えて医療をも包含していると位置づけ,“緩和ケア”に統一をしました。
 なお本書の書籍化にあたり,STAS—Jについては日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団に,STASについてはI. J. Higginson教授に了解をいただいています。
 では,STAS(STAS—J,STAS—O)が緩和ケアにおける共通の言語として広がることに少しでも貢献できることを願って,本書の扉を開けることにいたします。

2016年2月  大岩孝司,鈴木喜代子

文 献
1) SUPPORT TEAM ASSESSMENT SCHEDULE DEFINITIONS AND RATINGS. 〔http://www.kcl.ac.uk/lsm/research/divisions/cicelysaunders/attachments/Tools—STAS—Support—Team—Assessment—Schedule.pdf〕(2016年1月閲覧)
2) STASワーキンググループ・編:STAS—J(STAS日本語版)スコアリングマニュアル 第3版.日本ホスピス・緩和ケア研究財団,2007〔http://plaza.umin.ac.jp/stas/〕(2016年1月閲覧)