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書籍詳細

発達障害医学の進歩 28診断と治療社 | 書籍詳細:発達障害医学の進歩 28
発達障害とトラウマ

浜松医科大学児童青年期精神医学講座

杉山 登志郎 (すぎやま としろう) 編集

日本発達障害連盟 (にほんはったつしょうがいれんめい) 企画

日本発達障害学会(にほんはったつしょうがいがっかい) 企画

初版 B5判 並製ソフトカバー,1色刷 108頁 2016年04月15日発行

ISBN9784787822451

定価:本体3,500円+税
  

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本書は「発達障害とトラウマ」というテーマで企画された.発達障害とトラウマには相互に複雑な絡み合いが認められ,被虐待の既往は発達障害の最大の憎悪因子になる.後遺症にはASDやADHDなどの併存が認められ,その他にも解離性障害なども高頻度で現れる.多くの親の側にも発達障害や被虐待の既往があり,親子併行療法も行われている.現在では,向精神薬の少量処方と漢方薬の使用,簡易トラウマ処理の組合せにより親子共に安全に治療できることもわかってきた.本書では,このテーマに関する全体像と,現時点での臨床の最前線を紹介している.

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目次

■発達障害とトラウマ 総論―杉山登志郎
 発達障害とトラウマの複雑な関係
 発達障害へのトラウマ治療

■乳児院では今―山崎知克
 はじめに
 児童福祉施設における乳児院の役割
 これからの乳児院が目指していくべきもの

■児童自立支援施設の子どもたちの実態―望月直人
 はじめに
 児童自立支援施設における子どもたちの生活
 児童自立支援施設の子どもたちの特徴
 今後の支援について

■発達障害と「感情障害」―吉川 徹
 発達障害の「二次障害」
 「感情障害」とは
 「感情障害」の現在

■発達障害とトラウマの遺伝学
 ―遺伝と環境をつなぐエピジェネティクス――江川 純
 はじめに
 エピジェネティクスとは
 トラウマティックストレスが遺伝子にもたらす影響
 神経発達障害とエピジェネティクス
 自閉スペクトラム症(ASD)のエピジェネティクス
 おわりに

■発達障害の子どもへのトラウマ治療―吉川久史
 はじめに
 トラウマ治療
 トラウマ処理
 おわりに

■発達障害と子ども虐待の入院治療―山村淳一
 はじめに
 天竜病院児童精神科
 浜松方式による病診連携と入院治療,学習保障の概要
 入院治療の実際
 今後の課題

■発達障害と子ども虐待の親子併行治療―藤江昌智
 はじめに
 【症例】心理的虐待を受けていた,嘘が止まらない少年
 子ども虐待への親子トラウマ治療
 おわりに:親子併行治療の課題

■強度行動障害の治療―井上雅彦
 はじめに
 強度行動障害の支援施策とその概念の変遷
 強度行動障害の状態像
 強度行動障害への有効な支援とシステム
 強度行動障害の支援に対する研修と専門家養成
 今後の課題
 おわりに

■ASDとトラウマ―ASD青年へのEMDR――大羽美華・杉山登志郎
 はじめに―ASDとトラウマ―
 Aの生育歴
 EMDRによる治療経過

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序文

 筆者は2001年に開設された子ども病院,あいち小児保健医療センターに児童精神科の部長として赴任し,子ども虐待の専門外来を開いた.最初に驚いたのは,受診した子ども虐待の症例のなかに発達障害と診断される児童が多いことであった.多いというレベルではない.過半数を超えたのである.その大半が,知的な遅れのない児童であった.いわゆる軽度発達障害は子ども虐待の高リスクになるのである.しかしここには成因を巡る問題が浮上する.極めつきのネグレクト環境に育ったときに重度の自閉症のような状態になることが生じる.一方,それほどひどくない愛着障害の場合には,誰彼かまわず人にくっつく落ち着きのない子どもになり,ADHDと区別が困難な状態を示すのである.一方,被虐待の既往は発達障害において最大の増悪因子になる.筆者の自験例のASD,ADHDともに,素行障害の併存に高い相関を示す要因は子ども虐待の既往であった.

 われわれはこの数年間,ある児童自立支援施設の継続的な全入所児調査を実施してきた.従来の方法では指導ができないことが問題になっていたからである.はじめわれわれは子ども虐待の結果生じた解離のために,健忘が生じるのだろうと考えていた.しかしながら要因はそれ以外のところにあった.発達障害のチェックを行うと,ASD陽性者は全体の4分の3,ADHD陽性者が半数,どちらかの発達障害を基盤に有する児童は実に8割であった.ここには発達障害と愛着障害を巡る論議が当然浮上する.われわれは1人ひとりの児童について,その家族の問題を含めて症例検討を行ってきた.ASD陽性の児童の大半の家族には,自分もかつて子ども虐待を受けていて,昔から非社会的行動を繰り返す親が存在していた.つまりこうして世代を重ねたとき,発達障害が一次的なものか二次的なものかという鑑別は極めて困難になる.

 われわれは必要があれば親の側のカルテも作成し,親子併行治療を行ってきた.親の側は精神科未受診の症例はむしろ少数派であるのに,治療に成功した者がほとんど存在しなかった.その理由を探ってみると,1つは親の側の発達障害の見落としと,もう1つはトラウマの既往の無視であった.大半の親の側に凸凹レベルを含めた発達障害が認められ,現在の問題としては気分障害を生じている症例が多かった.この親には被虐待の既往があった.つまり親の側がトラウマを抱えていて,現在は親から子どもへの加虐が生じていた.

 この親子とは次のようなパターンになる.子どもの側は発達障害の診断を受けており,難治性の行動障害が認められ,周囲はその対応に困難を生じている.親の側は様々なレベルの発達障害が認められ,気分変動と多彩なトラウマ由来の症状を呈している.親子とも,社会的行動の苦手さ(ASD),多動性行動障害や衝動的な傾向(ADHD),および複雑性PTSDの症状を併せ持っている.多数を診ると実は同じパターンがほとんどであることに驚かされる.

 試行錯誤するなかで,向精神薬の少量処方と漢方薬の使用と簡易トラウマ処理の組み合わせによって,親子ともに安全に治療できることが明らかになってきた.

 発達障害とトラウマとの複雑な関係は,発達障害臨床のみならず,精神科臨床の見直しを迫る大問題である.

 本号では,このテーマに関連する全体像と,現時点における臨床の最前線を紹介する.


     2016年3月

 浜松医科大学児童青年期精神医学講座 杉山登志郎