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書籍詳細

膵外分泌不全診療マニュアル診断と治療社 | 書籍詳細:膵外分泌不全診療マニュアル
膵性消化吸収不良と膵性糖尿病の診断と治療

弘前市医師会健診センター所長/ 弘前大学名誉教授/ 東邦大学医学部客員教授

中村 光男(なかむら てるお) 編集

日本膵臓学会名誉理事長/ 東京女子医科大学名誉教授

竹内 正(たけうち ただし) 監修

帝京大学医学部特任教授/ 埼玉医科大学消化器肝臓内科客員教授

一瀬 雅夫(いちのせ まさお) 監修

初版 B5判 並製ソフトカバー,2色刷(一部カラー) 200頁 2017年10月01日発行

ISBN9784787823243

定価:5,280円(本体価格4,800円+税)
  

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本書は,膵臓病学の一大テーマである膵外分泌不全の診療について,同領域の第一人者である編者らによって企画された.編者らのグループは,早くから膵外分泌機能・消化管運動に着目し,慢性膵炎の膵性糖尿病の治療や膵切除術後の膵内外分泌不全のコントロールを得意としている.本書では,正確な病態把握を基盤に,①食事,②消化吸収,③栄養の三者に配慮した食事療法,膵酵素補充療法,インスリン療法を駆使することで,予後を改善し得ることを明らかにしている.

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目次

巻頭カラー口絵
監修の序  竹内 正
編集の序  中村光男
執筆者一覧
編集・監修者紹介

第1章 総論―膵外分泌不全診療の基礎
1 食事,消化吸収,栄養の三位一体  中村光男
2 膵外分泌不全の診断
 a 糞便による膵外分泌不全診断  柳町 幸,中村光男,町田光司,今村憲市
 b PFD試験  松本敦史,中村光男,今村憲市,町田光司
 c 呼気試験①―全般  野木正之,中村光男
 d 呼気試験②―13C-BTA呼気試験  松本敦史,中村光男
 e 呼気試験,糞便中脂肪排泄量を測定せずに膵外分泌不全を診断するには  丹藤雄介
3 膵外分泌不全の治療
 a 膵外分泌不全の食事療法①―食事調査表を用いた正確な食事評価
  三上恵理,横山麻実,石岡拓得,中村光男
 b 膵外分泌不全の食事療法②―食事摂取量(指示量)の考え方
  田中 光,松本敦史,三上恵理,中村光男,柳町 幸
 c 膵外分泌不全の食事療法③―酸素消費量をもとにした基礎代謝の応用  石岡拓得,柳町 幸,中村光男
 d 膵酵素製剤  黒田 学,洪  繁
 e 膵性糖尿病におけるインスリン製剤の使い方  丹藤雄介
 f 消化吸収不良の考え方①―脂肪,たんぱく質,炭水化物  野木正之,中村光男
 g 消化吸収不良の考え方②―腸内細菌過剰症候群  柳町悟司,中村光男
 h 膵酵素補充療法と栄養評価―栄養指標の考え方  田中 光,松本敦史,三上恵理,中村光男,柳町 幸
 i 食事ができないときの補助療法  丹藤雄介

第2章 各論―膵酵素補充療法の実際
1 慢性膵炎
 a 膵酵素補充療法が有効であった慢性膵炎・膵性糖尿病症例  丹藤雄介
 b 膵内外分泌不全症例で,膵酵素補充療法が有効だと血糖は上昇する  松本敦史,中村光男
 c 13C-BTA呼気試験と出納試験の結果が解離していた場合の解釈
 ―慢性膵炎を伴う糖尿病例での検討  松本敦史,野田 浩,中村光男
 d 有痛性末梢神経障害,自律神経障害を伴った膵性糖尿病(アルコール性石灰化慢性膵炎)例
  松本敦史,中村光男,今村憲市
2 膵切除術後
 a 脂肪便を改善するために必要な膵酵素量  松本敦史,中村光男,今村憲市,町田光司
 b 良好な栄養状態を保つには適切な膵酵素補充療法の継続が必要
 ―膵切除術後10年の長期経過例  松本敦史,中村光男
 c 膵全摘例に対する膵内外分泌補充療法の実際  松本敦史,中村光男
 d 糖尿病を合併しても膵外分泌不全とはかぎらない  柳町 幸,中山弘文,中村光男,今村憲市
 e 脂肪便が改善されなくても,脂肪吸収量が増加すれば栄養状態は改善する  松本敦史,中村光男
3 胃切除術後
 a 胃全摘例での膵酵素補充の考え方  柳町 幸,中山弘文,中村光男
 b 糖尿病を合併した胃切除術後症例―膵酵素補充療法で血糖は上昇するか  松本敦史,佐藤衆一,中村光男
 c 胃全摘術後の問題点―食事摂取量の低下に伴う低血糖と栄養障害  松本敦史,中村光男
4 酵素補充療法後にもかかわらず栄養状態が悪化した例  松本敦史,中村光男
5 小腸切除と膵疾患の差  柳町 幸,町田光司,中村光男
6 膵酵素補充療法の問題点―ベリチーム®とパンクレリパーゼを中心に  松本敦史,中村光男
7 長期生存例の特徴―慢性膵炎例および膵切除例  佐藤江里,丹藤雄介

第3章 附 録
1 薬剤一覧  石岡拓得,中村光男

監修を終えて  一瀬雅夫
和文索引
欧文-数字索引

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序文

監修の序

 この度,『膵外分泌不全診療マニュアル―膵性消化吸収不良と膵性糖尿病の診断と治療』が出版された.本書の執筆陣は,弘前大学名誉教授/弘前医師会検診センター所長の中村光男先生と中村先生のグループの逸材によるものである.
 中村先生の専門はおもに消化器病(特に膵臓病)と糖尿病であるが,それに関連する膵外分泌不全,消化吸収障害,消化管運動,腸管感染症,胆汁酸代謝,栄養学など多岐にわたる.そのような背景から,糖尿病と慢性膵炎の診断と治療,研究のグループが生まれた.多くの糖尿病専門医は内分泌・代謝疾患を中心に診断と治療,研究にあたっているが,中村先生のグループはこれに加えて,消化器疾患として膵外分泌機能,消化管運動にも着目し,慢性膵炎の膵性糖尿病の治療や膵切除術後の膵内外分泌不全のコントロールを得意としている.
 本書の内容には,最新知見として,膵外分泌機能検査の進歩について中村先生が主導した13C-安定同位元素を用いた呼気試験や,膵外分泌不全の治療における膵酵素補充療法の適応などが含まれているので,ぜひ注目していただきたい.
 中村先生がこれまでに集積されてきた膵外分泌不全症例とその脂肪消化吸収試験(balance study)などの分析データは国内随一である.すでに先生は1998年に『臨床医のための膵性脂肪便の知識―栄養障害・消化吸収不良改善のために』(医学図書出版社)という類書のない啓発書を出版されているが,これは内科医として多くの患者と接しながらも研究に打ち込み,その成果をまとめて膵性脂肪便について解説したものである.本書の発刊はその延長線上にある集大成ともいえよう.
 中村先生は2013年に弘前大学を退官されており,図らずも本書が時宜を得て退官記念誌にもなったことは大変喜ばしい限りである.筆者が中村光男先生との出会いの運に恵まれてから約30年もの時が流れた.今回本書を前にして,あらためて彼のもつ持続的な知的エネルギーを感じている次第である.
 本書を多くの臨床医,研究者の手元に置いていただき,膵臓病学の一大テーマである膵外分泌不全の診療について関心を持たれ,日本の膵臓病学のさらなる発展に寄与されることを願うものである.

 2017年9月吉日
監修
日本膵臓学会名誉理事長/東京女子医科大学名誉教授
竹内 正


編集の序

 本書は,1998年に出版された『臨床医のための膵性脂肪便の知識』(医学図書出版)の続編である.同書の出版から20年近くが経過し,その間には膵外分泌不全の診断と治療にも著しい進歩と発展があった.そこで改訂版を出そうと考えていたところ,時宜を得て,一瀬雅夫先生と,診断と治療社の相浦健一氏から本書出版の勧めがあり,お引き受けすることにした.おふた方の叱咤激励もあり,ここに上梓できることは感謝の念に堪えない.
 膵疾患の機能的末期像は膵内外分泌不全であり,より具体的には膵性消化吸収不良(脂肪便)と膵性糖尿病がおもな病態となる.前者は膵酵素分泌不全(膵外分泌不全),後者はインスリン分泌不全(膵内分泌不全)に由来する.
 膵酵素分泌不全では,脂肪,たんぱく,炭水化物の3大栄養素の(消化)吸収不良のほか,コレステロール,脂溶性ビタミン,胆汁酸などの吸収不良も相まって,複雑な病態を呈する.そのため,膵酵素分泌不全の診療では適宜の栄養評価が不可欠となる.
 栄養を規定する大きな因子は十分量の食事摂取であることに異論はない.しかし,現在のわが国では,栄養過多に基づく生活習慣病の考え方が広く行きわたっており,膵性糖尿病に対しても,いわゆる一次性糖尿病(2型糖尿病)と同様に,血糖評価に基づく極端な食事制限が指示されていることも稀ではない.
 本書では,慢性膵炎に基づく膵内外分泌不全に対して,①十分な食事摂取が必要であり(食事摂取),不全という病態に対しては,②膵酵素補充療法(消化吸収不良)とインスリン療法を行うことで低血糖,栄養障害を引き起こさず,③良好な栄養状態(栄養評価)のもとでQOLが維持されれば,予後が改善し得ることを明らかにしている.また,慢性膵炎以外に,近年診断・治療法の著しい進歩がみられる膵癌,膵内胆管癌などに施行する膵全摘を含む膵切除後の膵内外分泌不全状態に対して,前述した十分な食事摂取とともに,膵酵素補充療法,インスリン療法が有用であることも随所に示した.
 筆者らは,これら3つを統合して,膵内外分泌不全に対する「三位一体」と名づけている.この三位一体の考え方を基本とすることで,チーム医療,特に栄養サポートチーム(nutrition support team; NST)を行っている各病院において,患者にとってより有益な結果をもたらすことができると考えている.
 本書は,臨床医(研修医はもちろんのこと,消化器専門医,糖尿病専門医の先生方も),(管理)栄養士,臨床検査技師,看護師などを読者対象とし,膵内外分泌不全の病態を理解し,治療を含む三位一体の考え方を習得するのに最適な書となったと考えている.さらに,病院薬剤師にとっては,服薬指導(膵消化酵素製剤とインスリン製剤)を含め,膵機能不全を正しく理解するのに役立つ.本書が広く読まれ,患者の予後,QOL改善に寄与することを期待したい.
 最後に,本書の編集にあたり,極めて多忙な診療や研究の時間を割いて原稿をお寄せくださった先生方に感謝するとともに,長年にわたり私達をお導きくださった竹内 正先生に,この場を借りて深甚な感謝の意を表す.

 2017年9月吉日
編集
弘前市医師会健診センター所長/弘前大学名誉教授/東邦大学医学部客員教授
中村光男


監修を終えて

 病巣の積極的摘除を試みる外科系医療は別にして,内科系消化器医療を俯瞰した際に,病態の進展に果敢に介入する医療,あるいは病態に介入できないまでも良好なQOLを維持し,予後を改善する治療に関しては,未だ道遠しの感を禁じ得ないというのが,多くの消化器内科医が共有している感情であろう.この本の編集者である中村光男先生は,糖尿病を中心とした内分泌・代謝疾患の診療・研究の第一人者であられるが,早くから膵外分泌機能・消化管運動の重要性に着目し,優れた研究グループを率いて精力的な活動を展開してこられている.すなわち,症状改善という皮相的な目標達成に満足せず,膵機能不全症例の病態改善に長年取り組まれてきた.糞便中脂肪含量の測定はいうまでもなく,膵外分泌不全の診断を目的に独自の呼気試験を確立し,病態の正確な把握を基盤に,食事,消化吸収,栄養の三者に配慮したうえで,食事療法・膵酵素補充療法,インスリン療法を駆使した治療を展開されている.小腸上皮のトランスポーター,腸内細菌叢,腸管免疫などの研究により,今でこそ,消化管は栄養コントロールの中核として糖尿病,脂質異常症,自己免疫疾患に深く関与していることが明らかになり,新たな注目を集めているが,先生のグループはそのような流れとは全く独立した形で,孤高を保つが如く地道な研究を積み重ねられ,別ルートを辿って早い時期から上記の見解に達せられている.先生のグループの現在の到達点を示す本書の内容は,現状の消化器内科診療に感ずる不全感を多少とも軽減してくれるものである.特に各論の項などで御理解いただける通り,まさに内科の本道ともいうべき栄養学を組み込んだ診療の姿を示しており,今後の展開に大いなる想像力を膨らませる読者も多いことと思う.
 精力的に膵機能不全の病態を見据え,その改善を追及し続ける執筆者達が書き上げた本書が放つ独特のオーラの中に尋常ならぬ気迫,集中力が混じっていることを感じるのは私だけではないと思う.なぜなら,本書は武道の達人であり,ハンターでもある中村光男先生の小宇宙とでもいうべきものだからである.そして,この小宇宙はその領域をさらに拡大させる確かな兆しを示している.中村先生,そして御一門の先生方の今後益々の御活躍を期待申し上げたい.
 また,本書に啓発されて内科の本道を目指し,ユニークな臨床医学の領域を創成する多くの若い人材があとに続くことを願ってやまない.
 最後になったが,本書が世に出るうえでは良きパートナー,診断と治療社の相浦健一氏を得たことが大きいと思う.この場をお借りして氏のこれまでの御尽力に対して心よりの敬意と謝意を表させていただく次第である.

 2017年9月吉日
監修
帝京大学医学部特任教授/埼玉医科大学消化器肝臓内科客員教授
一瀬雅夫