第37回産婦人科漢方研究会学術集会で発表された講演内容を収載.「西洋医学的立場からみた漢方薬」をはじめ、2本の総説と18本の原著,19本の症例報告、全39本をまとめた.
関連書籍
ページの先頭へ戻る
目次
巻頭言
千石 一雄
総説
西洋医学的立場からみた漢方薬:妊娠子宮筋収縮と漢方生薬成分の抑制効果
安田 勝彦
はじめに
Ⅰ 対象と研究方法
Ⅱ 結果
1.芍薬甘草湯の子宮平滑筋収縮抑制効果
2.子宮平滑筋の弛緩にかかわるcAMPならびに
cGMPに対する芍薬甘草湯の効果
3.芍薬甘草湯と甘草湯の臨床効果
4.芍薬甘草湯の2段階抑制効果
5.芍薬甘草湯の水溶性画分と脂溶性画分
6.漢方薬由来成分の胎児移行(症例報告)
Ⅲ 考察
おわりに
放射線治療による下痢に対する半夏瀉心湯の効果
―味の観点から半夏瀉心湯の炎症性消化管粘膜障害に対する作用機序を推察し,
生薬構成から半夏瀉心湯を再考する
佐藤 泰昌 相京 普輔 細江 美和 坊本 佳優
野老山麗奈 森 崇宏 鈴木真理子 横山 康宏
山田 新尚 森重健一郎
はじめに
Ⅰ 対象および方法
Ⅱ 結果
Ⅲ 考察
おわりに
原著
更年期障害治療法の選択―漢方and/or HRT,エクオール―
佐藤 智子
はじめに
Ⅰ 対象と研究方法
Ⅱ 結果
Ⅲ 考察
酸化ストレスによる免疫異常不妊症に対する女神散の効果検討
小塙 清
はじめに
Ⅰ 方法
Ⅱ 結果
Ⅲ 考察
Ⅳ まとめ
不正子宮出血に対する漢方薬の有効性についての検討
米澤 理可 鮫島 梓 齋藤 滋
はじめに
Ⅰ 対象と研究方法
Ⅱ 結果
1.全症例での止血率
2.原因別の止血率
Ⅲ 考察
結語
PMS/PMDDの治療として漢方療法を希望する女性の背景に関する検討
小川真里子 片山 紗弥 小笠原 淳 山口 緑
板井 侑里 井上 治 橋本 志歩 吉丸 真澄
小川 誠司 杉山 重里 吉田 丈児 髙松 潔
はじめに
Ⅰ 対象と研究方法
Ⅱ 結果
Ⅲ 考察
Ⅳ まとめ
有効な漢方製剤から考える月経前症候群(PMS)の病態
塩田 敦子 秦 利之
はじめに
Ⅰ 対象と研究方法
Ⅱ 結果
Ⅲ 考察
加味逍遙散の無効症例に対する抑肝散による治療について
田中 栄一 丸岡 喬
はじめに
Ⅰ 対象と研究方法
Ⅱ 結果
Ⅲ 考察
漢方外来ではない一般産婦人科診療で止血剤として投与された芎帰膠艾湯の
有効性と起こりうる有害事象に関する報告
鶴田 統子 深澤 喜直
はじめに
Ⅰ 対象と研究方法
Ⅱ 結果
Ⅲ 考察
Ⅳ まとめ
帝王切開後の硬膜穿剌後頭痛に対する五苓散の早期投与
佐野 敬夫 郷久 鉞二
はじめに
Ⅰ 対象および方法
Ⅱ 症例
1.症例1
2.症例2
3.症例3
4.症例4
Ⅲ その後の予定帝王切開患者の状況
Ⅳ 考察
おわりに
冷えにより症状が悪化する下腹部愁訴等に対する五積散の効果
関口 由紀 中村 綾子 前田 佳子 藤崎 章子
平本有希子 河路かおる 二宮 典子 矢尾 正祐
緒言
Ⅰ 方法
Ⅱ 結果
1.症例1
2.症例2
Ⅲ 考察
Ⅳ まとめ
漢方医学的「証」に関する簡便な問診票を用いた
機能性頭痛患者における病態像の検討
牧田 和也 北村 重和 稲垣美恵子
立岡 良久 團野 大介 仁平 敦子
はじめに
Ⅰ 対象および方法
Ⅱ 結果
1.患者背景
2.質問4-1と4-2に関する回答結果
3.質問5-1と5-2に関する回答結果
4.質問6-1と6-2に関する回答結果
5.質問7-1と7-2に関する回答結果
6.質問8-1と8-2に関する回答結果
7.質問9-1に関する回答結果
8.質問9-2に関する回答結果
Ⅲ 考察
Ⅳ まとめ
皮膚トラブルと卵巣機能に関する漢方薬の使用経験2017
木下 哲郎
はじめに
Ⅰ 対象と方法
Ⅱ 結果
Ⅲ 考察
おわりに
ジエノゲストの不正出血に対する芎帰膠艾湯の止血効果
高木 弘明 高田 笑 大阪 康宏 坂本 人一
柴田 健雄 藤田 智子 高倉 正博 笹川 寿之
はじめに
Ⅰ 対象および方法
Ⅱ 結果
Ⅲ 考察
不妊治療中の女性が受ける精神的ストレスに対する大柴胡湯エキスの有用性
中井 恭子 越田 光伸 堀江 延和
蔭山 充 古山 将康 今中 基晴
はじめに
Ⅰ 対象と方法
Ⅱ 結果
Ⅲ 代表的な症例
1.症例9
2.症例4
Ⅳ 考察
V まとめ
終末期がん患者における胸水貯留に対する漢方薬の治療効果の検討
鮫島 梓 米澤 理可 島 友子 齋藤 滋
はじめに
Ⅰ 対象と研究方法
Ⅱ 結果
1.胸腔穿刺の間隔
2.効果良好群と不良群の比較
3.五苓散群の投与前後での比較
Ⅲ 考察
蜂窩織炎を反復するリンパ浮腫患者に対する漢方薬の効果
小林 範子 藤野 敬史 櫻木 範明
はじめに
Ⅰ 対象と方法
Ⅱ 結果
Ⅲ 考察
Ⅳ まとめ
『清暑益気湯』(TJ-136)と『補中益気湯』(TJ-41)
吉岡 郁郎 窪田 文香 宮下 昭太
はじめに
Ⅰ 対象
Ⅱ 症例
1.症例1
2.症例2
3.症例3
4.症例4
5.症例5
6.症例6
7.症例7
8.症例8
Ⅲ 考察
おわりに
足底の痛み,熱感に漢方薬が効いた4症例
山内 祐樹 小屋松加奈子 原 浩一
はじめに
Ⅰ 症例提示
1.症例1
2.症例2
3.症例3
4.症例4
Ⅱ 考察
1.漢方を選択した理由
2.効果があった理由
Ⅲ まとめ
妊娠中の便秘症に対する漢方療法の試み
―大建中湯および大黄を含有する処方について
中山 毅 西原富次郎 石橋 武蔵
鈴木 京子 中野 史織
緒言
Ⅰ 方法
Ⅱ 結果
Ⅲ 考察
Ⅳ 結論
症例報告
ストレスが原因と思われる月経不順に大柴胡湯が奏効した1症例
平野奈保子 平野 剛 蔭山 充
はじめに
Ⅰ 症例
Ⅱ 治療経過
Ⅲ 考察
Ⅳ まとめ
月経前期のイライラ感に女神散が有効であった3症例
堀江 延和 蔭山 充 古山 将康
はじめに
Ⅰ 症例
1.症例1
2.症例2
3.症例3
Ⅱ 考察
Ⅲ まとめ
「怒り」と便秘を主症状とする月経前症候群に対し,
桃核承気湯が有効であった3例
佐道 俊幸 小池 奈月 小林 浩
大野木 輝 吉田 昭三
はじめに
Ⅰ 症例
1.症例1
2.症例2
3.症例3
Ⅱ 考察
Ⅲ まとめ
苓姜朮甘湯と生活指導で冷えが改善した1症例
杉山(針田)伸子 蔭山 充 堀江 延和 名和 清彦
はじめに
Ⅰ 症例
Ⅱ 経過
Ⅲ 考察
Ⅳ まとめ
低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)の
休薬期間中の頭痛に漢方薬内服が奏功した1例
山田 恵子 武田 卓
はじめに
Ⅰ 症例
Ⅱ 考察
高齢者の原因不明の外陰部痛に竜胆瀉肝湯が功を奏した1例
八重樫 稔
はじめに
Ⅰ 症例
Ⅱ 竜胆瀉肝湯について
Ⅲ 考察
Ⅳ 結論
原因不明の外陰痛に対する漢方治療の経験
増﨑 雅子 高野 玲 吉田 敦 増﨑 英明
はじめに
Ⅰ 症例1
Ⅱ 症例2
Ⅲ 考察
Ⅳ まとめ
温補剤無効の“上腕の冷え”に奏効した漢方治療の1例
大澤 稔 高山 真 石井 正 八重樫伸生
はじめに
Ⅰ 症例
Ⅱ 方針および経過
Ⅲ 考察
結語
子宮留膿症が漢方薬で消失した1例
山際 三郎 長谷 光洋 太田 俊治 加藤 順子
伊藤 直樹 友影 龍郎 竹中 基記
はじめに
Ⅰ 経過
Ⅱ 考察
パニック障害と思われる症例に苓桂朮甘湯と
甘麦大棗湯を同時投与した3例報告
中原 恭子 中原 章徳 吉本真奈美
はじめに
Ⅰ 症例1
Ⅱ 症例2
Ⅲ 症例3
Ⅳ 考察
禁煙補助薬としての甘麦大棗湯の可能性
志馬 千佳 志馬 裕明 中井 恭子
蔭山 充 江川 美保 万代 昌紀
はじめに
Ⅰ 症例
Ⅱ 経過
Ⅲ 考察
1.PMS/PMDDについて
2.ニコチン依存について
3.甘麦大棗湯の効能について
4.甘麦大棗湯の薬効について
5.PMSとタバコ依存,そして甘麦大棗湯について
Ⅳ まとめ
7回のIVF-ETと1回のICSIで妊娠に至らなかった難治性不妊で
2回目のICSI治療周期に合わせて漢方薬を使い分け妊娠に至った1例
高橋 浩子 鎌田 周作 鎌田ゆかり 蔭山 充
はじめに
Ⅰ 症例
Ⅱ 考察
Ⅲ まとめ
胎盤遺残に駆瘀血剤を使用した5例
徳毛 敬三 佐藤 靖
はじめに
Ⅰ 症例
1.症例1
2.症例2
3.症例3
4.症例4
5.症例5
Ⅱ 考察
Ⅲ 結論
抑肝散加陳皮半夏が有効であったパニック障害合併妊婦の1症例
福田 功 中田 英之 松田 秀雄
川上 裕一 小菅 孝明
緒言
Ⅰ 症例
Ⅱ 考察
結語
外陰部掻痒症3症例に対する漢方治療
武田 智幸 谷垣 衣理 杉尾 明香 明石 英史
塚本 勝城 鈴木 静雄 明石 祐史 明石 大輔
渡辺 廣昭 佐野 敬夫
はじめに
Ⅰ 対象および方法
Ⅱ 症例
1.症例1
2.症例2
3.症例3
Ⅲ 考察
結語
随証治療が奏効した咽喉頭違和感症の2症例
錦織 恭子
はじめに
Ⅰ 症例
1.症例1
2.症例2
Ⅱ 考察
1.咽喉頭違和感症と漢方
2.漢方薬とself-efficacy
3.動作法
Ⅲ まとめ
桂枝茯苓丸の内服で冷えを改善することにより
有効陣痛を得られた11症例の検討
岡村 麻子 小倉 絹子 田中 奈美
柴田 衣里 長田 佳世 星野 朝文
高橋 晶 玉野 雅裕 加藤 士郎
はじめに
Ⅰ 対象および方法
Ⅱ 結果
1.症例1
2.症例2
3.症例3
4.症例4
5.症例5
6.症例6
7.症例7
8.症例8
9.症例9
10.症例10
11.症例11
Ⅲ 考察
Ⅳ まとめ
治打撲一方の使用経験
斎藤 仁美 宇山 圭子 前原 将男 中西 隆司
明石 貴子 小川 恵 奥 正孝
はじめに
Ⅰ 症例
1.症例1
2.症例2
3.症例3
Ⅱ 考察
おわりに
月経前のイライラ感に対し漢方治療が奏功した,精神疾患を有する2症例
木村 光宏 土肥 直子 沖津 修
はじめに
Ⅰ 症例
1.症例1
2.症例2
Ⅱ 考察
Ⅲ まとめ
プロシーディング投稿
遺伝性乳癌卵巣癌症候群に対するリスク低減卵管卵巣
摘出後の漢方療法に関する検討
平沢 晃 牧田 和也 岩田 卓
堀場 裕子 横田めぐみ 小川真里子
弟子丸亮太 柳本 茂久 青木 大輔
はじめに
Ⅰ 対象と研究方法
Ⅱ 結果
Ⅲ 考察
編集後記
苛原 稔
ページの先頭へ戻る
序文
巻頭言
平成29年8月27日第37回産婦人科漢方研究会を北の国旭川で開催いたしました.これまでの研究会の中では最も多い47題の一般演題の発表があり,産婦人科領域の漢方医療が注目され新たな時代を迎えていることを実感いたしました.
特別講演およびワークショップは『漢方と妊娠』にテーマを絞り,関西医科大学総合医療センターの安田勝彦教授に「妊娠子宮筋収縮と漢方生薬成分の抑制効果」に関し特別講演をいただき,ワークショップでは妊婦の様々な症状に対する漢方の有用性を取り上げました.
今回上梓する「産婦人科漢方研究のあゆみ No.35」にも,特別講演を含め総説2題,原著18題,症例報告20題,合計40題の論文が掲載されております.特別講演のヒト子宮筋を使用した基礎研究から臨床へ展開する研究論文は,現在求められている漢方のエビデンが十分に示されており,今後このようなEBMに基づいた論文を数多く輩出することにより,産婦人科領域における漢方医療・医学のさらなる発展が期待できるものと確信しております.
このような現在の漢方医療の発展の要因として医学教育モデル・コア・カリキュラムに漢方の重要性が示され,医学教育に漢方が取り入れられるようになったことが大きいものと推測します.
しかし,日本における漢方医療の歴史を振り返りますと,決して平坦な道ではなく,むしろ荊の道が続いたといえます.1879年に明治政府により医制が発布され,1883年に医師免許規則により我が国で養成する医師の学習すべき項目から漢方が除外され,さらに,1895年には漢方医の資格が認められなくなったことにより漢方は本邦の医療から排除されるにいたりました.しかし,1910年頃より西洋医学を修得した医師達が漢方医学を再認識する動きが出始め,なんとか現在まで漢方医療が継承されてきました.1967年にようやく漢方医療の有効性,必要性が改めて認識された結果,漢方製剤が保険収載されるに至り,その後急速に臨床に普及しています.しかし,医学教育における漢方教育の重要性に関する認識は十分には浸透せず,体系的漢方教育は少数の施設のみで行われるにとどまっていました.
1990年代以降,西洋医学一辺倒の医療に対する批判とともに東洋医学への関心が高まり,ついには2001年に「医学教育モデル・コア・カリキュラム」の到達目標に「和漢薬を解説できる」という項目が明記され,100年以上経過しようやく医学教育に漢方医学が正式に認められるようになりました.2016年の「医学教育モデル・コア・カリキュラム」改訂版においても,「漢方医学の特徴や,主な和漢薬(漢方薬)の適応,薬理作用を概説て゛きる」という記載があり, 現在ではすべての医学部において漢方医学の講義が行われるようになっています.しかし,漢方教育は未だ十分なものとは言えず,カリキュラムのさらなる充実,標準化が課題として残されています.また,漢方教育ができる専門スタッフの人員不足も顕著であり,教育者の育成が喫緊の課題です.さらには,初期研修に漢方医学の到達目標が明示されておらず,卒後研修における漢方教育のあり方も問われています.
このように多くの課題が残されているとは言え,漢方医学教育が更に充実し,漢方医療を通じて西洋医学と東洋医学を統合した全人的医療の実践可能な医師が育つことにより,本邦の医療自体にも大きな変革が起きるものと考えます.理想的な医療の実現に向け,産婦人科医が漢方医療・医学の発展に大きく寄与することを期待します.
旭川医科大学産科婦人科学 教授
千石一雄