幅広い範囲の中から,50の症例を厳選し,各疾患の専門家による概説を加えた日本先天代謝異常学会編集による症例集.経験することの少ない疾患への診断・治療法のエッセンスがこの1冊に凝縮されており,小児科医必読の書.
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目次
A 糖代謝異常症1(肝型糖原病)
Meet the Expert
…………………………………………………杉江秀夫
症例1 頻回の低血糖を呈し,当初ケトン性低血糖症と考えられた2歳5ヶ月男児
…………………………………………………高谷具純,他
症例2 低身長精査の際の肝機能障害を指摘された1歳4ヶ月女児
…………………………………………………深尾敏幸,他
症例3 感冒罹患時に著明な肝腫大を指摘され,起床時の機嫌の悪さが特徴的な1歳3ヶ月女児
…………………………………………………酒井哲郎,他
症例4 腹部膨満を主訴に来院した1歳5ヶ月男児
…………………………………………………酒井規夫
B 糖代謝異常症2(筋型糖原病)
Meet the Expert………………………………………乾 幸治
症例5 偶然高クレアチンキナーゼ血症を指摘され,後に褐色尿を反復した11歳1ヶ月男児
…………………………………………………福田冬季子
症例6 運動時の筋痛,筋硬直を認めた14歳2ヶ月女児
…………………………………………………福田冬季子
C 糖代謝異常症3(その他)
Meet the Expert……………………………………岡野善行
症例7 新生児マススクリーニングでガラクトース高値を
指摘された新生児(1)…………………………佐倉伸夫
症例8 新生児マススクリーニングでガラクトース高値を
指摘された新生児(2)…………………………岡野善行
症例9 登山合宿中低血糖,けいれん重積を呈した10歳女児
…………………………………………………大浦敏博,他
D アミノ酸代謝異常症1
Meet the Expert……………………………………新宅治夫
症例10 新生児マススクリーニングでフェニルアラニン高値を
指摘された男児………………………………麻生和良,他
症例11 先天性心疾患・知的障害を合併した
マターナルフェニルケトン尿症の1例………大平智子,他
症例12 新生児マススクリーニングにて高フェニルアラニン血症を
指摘された日齢56女児………………………小川真司
E アミノ酸代謝異常症2
Meet the Expert………………………………………呉 繁夫
症例13 新生児マススクリーニングでロイシン高値を
指摘された新生児例……………………………渡邊順子
症例14 肝の多発性腫瘍が認められた5ヶ月男児………伊藤哲哉
症例15 日齢2より筋緊張低下,無呼吸を呈した男児
………………………………………………高柳俊光,他
症例16 小児期より軽度の知的発達障害,水晶体亜脱臼が
認められ,21歳で脳梗塞をきたした症例…坂本 修,他
F 尿素サイクル異常症
Meet the Expert……………………………………遠藤文夫
症例17 出生後早期に意識障害を伴う進行性の中枢神経症状を
認めた男児 ……………………………………岡田純一郎
症例18 急速に進行する意識障害で入院,短期間で死亡した
成人・思春期男性の2症例 ……………………原田英明
症例19 生後数日より高アンモニア血症をきたした新生児例
…………………………………………………坂本 修,他
G アミノ酸キャリア,トランスポーター異常症
Meet the Expert …………………………………大浦敏博
症例20 新生児肝内胆汁うっ滞症の2症例…………大浦敏博,他
症例21 精神運動発達遅滞,成長障害を主訴に来院した
1歳5ヶ月児……………………………………野口篤子,他
H 有機酸代謝異常症1
Meet the Expert……………………………………山口清次
症例22 胃腸炎罹患時に意識障害を呈した1歳10ヶ月女児
…………………………………………………虫本雄一
症例23 哺乳開始後の多呼吸,哺乳不良,低体温から著明な代謝
性アシドーシスに気付かれた新生児例……小林弘典
症例24 急性胃腸炎を契機に急激な意識障害を起こした
9ヶ月男児…………………………………浦澤林太郎,他
I 有機酸代謝異常症2
Meet the Expert……………………………………芳野 信
症例25 出生直後から多呼吸,代謝性アシドーシスを認めた女児
…………………………………………………横井暁子,他
症例26 頭囲拡大をきたした生後4ヶ月女児………藤岡弘季,他
症例27 新生児タンデムマスパイロット研究にて
異常を指摘された新生児例…………………但馬 剛,他
J 脂肪酸代謝異常症(カルニチンサイクル異常症)
Meet the Expert……………………………………高柳正樹
症例28 急性胃腸炎症状に引き続いて意識障害,
肝機能障害をきたした10ヶ月男児…………藤岡弘季,他
症例29 肝炎で発症し,思春期に横紋筋融解症をきたした男児例
…………………………………………………渡邊順子
症例30 Reye様症候群で発症した9歳女児……………野口篤子
K 脂肪酸代謝異常症(β酸化系)
Meet the Expert……………………………………重松陽介
症例31 新生児期より無呼吸発作を繰り返し,1歳過ぎに意識障害
となりやっと診断のついた1歳3ヶ月女児………大竹 明
症例32 反復する横紋筋融解症を呈した16歳男児…長谷川有紀
L ミトコンドリア,高乳酸血症
Meet the Expert………………………………………大竹 明
症例33 1歳で肝不全となった兄をもち,体重増加不良,
軽度胆汁うっ滞と軽度発達遅滞を主訴とする8ヶ月男児
…………………………………………………梶 俊策,他
症例34 新生児期早期に心拡大,心不全を呈し死亡した症例
………………………………………………内藤幸恵,他
M ライソソーム病1
Meet the Expert……………………………………井田博幸
症例35 乳児期に筋緊張低下,心拡大を認めた男児例
…………………………………………………依藤亨,他
症例36 成長発達遅滞,退行,眼振,肝脾腫を認めた
1歳0ヶ月女児…………………………………神戸太郎
症例37 脾腫,血小板減少,発達遅滞,眼球運動失行を認めた
3歳男児………………………………………平岩里佳,他
N ライソソーム病2
Meet the Expert……………………………………奥山虎之
症例38 発語の遅れと特有の顔貌を指摘された2歳6ヶ月男児
…………………………………………………鈴木康之
症例39 腰椎後彎,運動発達遅滞を認めた1歳4ヶ月女児
…………………………………………………奥山虎之,他
症例40 原因不明の発熱,足趾の疼痛,低汗症を主訴に
来院した12歳男児………………………………大橋十也
O ライソソーム病3
Meet the Expert……………………………………酒井規夫
症例41 歩行障害を主訴とした2歳6ヶ月女児………濱田悠介,他
症例42 心因性視力障害としてフォローされていた男児
………………………………………………大友孝信,他
P ライソソーム病4
Meet the Expert…………………………………田中あけみ
症例43 新生児聴覚スクリーニング異常,眼振を認めた
生後7ヶ月男児 ……………………………高柳正樹,他
症例44 音にビックリすることを主訴に来院した症例…村山圭,他
Q 金属代謝異常症
Meet the Expert……………………………………清水 教一
症例45 EBウイルス感染症にて肝障害を認め,その後遷延する
肝障害を認めた12歳女児 ………………井上美沙子,他
症例46 手指の振戦と構音障害を認めた43歳女性
…………………………………………中村浩章,他
症例47 けいれんを主訴に受診した4ヶ月男児……木田和宏,他
R ペルオキシソーム病
Meet the Expert……………………………………下澤伸行
症例48 成績低下,行動異常から心療内科を受診していた
11歳男児………………………………………菊池正広,他
症例49 出生時から著明な筋緊張低下,哺乳不良に特異な顔貌を
認めた生後2ヶ月男児 ………………………下澤伸行,他
S 糖鎖合成異常症
Meet the Expert……………………………………大野耕策
症例50 精神遅滞,小脳失調,内斜視,肝障害,末梢神経障害を
認めた男児……………………………………岡西 徹,他
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序文
序 文
若い小児科医の中に先天代謝異常症を学ぼうとする人たちがどれくらいいるのか? 実は先天代謝異常学会セミナーを始める前にはまったくわかりませんでした.手探りの状況の中で2005年8月に東京慈恵会医科大学講堂で第1回の先天代謝異常学会セミナーを行いました.予想に反して多くの小児科医が参加してくれました.参加者の熱意に勇気つけられるように2006年第2回(駒場エミナース),2007年第3回(砂防会館),2008年第4回(パシフィコ横浜)と開催いたしましたところ,回を追うごとに参加者が増え(2008年には350人以上),日ごろあまり遭遇しない病気にもかかわらず,高い勉学の意欲を持った若い小児科医が多いことに少し驚きをもっております.このセミナーで一緒に勉強した経験の中から,症例中心の教材を作成してみようということになりました.
本書の基本的なアイディアは,編集委員の一人である岐阜大学の深尾教授の提案にもとづいています.まず先天代謝異常症の症例を広い範囲から50症例を取り上げることにしました.症例の疾患グループごとに各分野の専門の先生から,Meet the Expertというタイトルで疾患の解説をしていただきました.本書の構成として原則的にMeet the Expertがまず記載され,それに続いて関連した症例が紹介されています.それぞれの症例の構成は大きく「初診から精査開始までの経過」「確定診断までの経過」「診断名」「確定診断後の治療と経過」「本症例を経験して」となっています.「初診から精査開始までの経過」を読みながら読者はそれぞれが担当医になったつもりでどのように考えて何を検査するかを考え,そして「確定診断までの経過」のところで鑑別診断を考えながら診断に至るという構成になっています.このような構成で,広い分野の専門家に参加していただくことで,これまでにない先天代謝異常症のテキストが出来たのではないかと考えています.
先天代謝異常症(Inborn Errors of Metabolism)は,今からおよそ100年前にイギリスのDr Archibald Garrod が造語した言葉です.彼は臨床の中で症例を中心に尿中化学物質の研究(当時としては最先端科学)を開始し,アルカプトン尿症を発見するに至るのです.彼はこの病気の発見から「生体内には物質のダイナミックな代謝が存在し,その代謝は酵素によって動き,個々人は異なる代謝の状態を有している」という画期的な考えに行き着くのです.Dr Garrodは,英国科学界の第一人者だけに許された名誉ある講演「The Croonian Lectures」を1908年に行っています. その内容はTHE LANCET誌に「The Croonian Lectures on Inborn Errors of Metabolism」というタイトルで記載されていて,これがInborn Errors of Metabolismという言葉が公式にあらわれた文献とされています.およそ100年前に一人の優れた医師が患者の観察から切り開いた先天代謝異常症の分野はフェニルケトン尿症とその治療方法の開発などを経て,今では多種多様の疾患の治療方法が開発され広く患者に応用されています.酵素補充療法などの先端医学の応用も進み,臨床医学の中で重要な分野になりました.
本書のタイトルは「症例から学ぶ先天代謝異常症〜日常診療からのアプローチ〜」としました.本書は日本先天代謝異常学会のメンバーが経験した症例を提供しました.多忙な中で短時間に準備していただきました先生方には心から感謝申し上げます.また,読者の皆さんには日々の診療に役に立つテキストとして本書を利用していただきたいと思います.
2009年7月 日本先天代謝異常学会
理事長 遠藤文夫