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書籍詳細

エビデンスに基づく
乳幼児保育・発達障害トピックス診断と治療社 | 書籍詳細:乳幼児保育・発達障害トピックス

お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科教授

榊原 洋一(さかきはら よういち) 著

初版 A5判 並製 168頁 2012年05月30日発行

ISBN9784787817556

定価:本体2,500円+税
  

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月刊誌「チャイルドヘルス」にて連載中の「海外文献」から,学力・知力,栄養・食事,発達障害,虐待,眠りなどの分野の文献をピックアップし,さらなる解説を加えた.子育ての疑問や常識と思われていたことを海外の研究論文から“エビデンス”に基づいて一刀両断.さまざまな研究結果によって導き出された子どもにとってためになる育児とは何か,がこの一冊に隠されている.

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目次

Contents

まえがき
Part1 子どもの成長と習慣
 1 おしゃぶりと早期母乳中止,赤ちゃんの泣きの関係について
 2 トイレトレーニング開始年齢と完了年齢,トレーニング期間との関係

Part2 学力・知力
 3 6カ月の乳児は,普通の身振り(身体言語)より手話を好んで見る
 4 中耳炎と小学校低学年での言葉と学力の関係
 5 乳児期の頭囲の増大の程度と,4,8歳の知能との間には関係がある
 6 母親の認知能力を勘案すると,
   妊娠中の喫煙の子どもの知能低下作用は消失する

Part3 栄養・食事
 7 母乳育児は子どもの知能に良い影響を与えるのか?
 8 母親の食事のしつけは子どもの肥満に関係する
 9 母乳栄養児は,言語発達,運動発達上の気がかりが少ない

Part4 テレビ・ビデオ・ゲーム
 10 母親の肥満とうつ傾向は,子どものテレビ長時間視聴と関係がある
 11 テレビやビデオゲームの時間を減らすと子どもの暴力行動が少なくなる
 12 テレビ視聴時間と子どもの問題行動との関係
 13 テレビ長時間視聴あるいは身体活動の少なさと,精神的不安の関係
 14 小児期のテレビ視聴は,青年期の集中力に影響するか
 15 ビデオゲームで消費エネルギーを増加させることができる
 16 乳幼児のテレビ視聴の影響についての系統的レビュー
 17 3歳児以下の教育的番組視聴は,その後の集中力の問題を起こさない
 18 テレビ視聴による子どもの発達への影響は,視聴年齢によって異なる

Part5 虐待
 19 乳幼児早期にネグレクトされた子どもは,小児期に攻撃的行動が多い
 20 母乳栄養期間とネグレクト発生率は反比例する
 21 お産の入院期間の長短は,その後の母子愛着関係の成立に関係しない
 22 ティーンエイジの母親は子どもと愛着関係を結びにくいか?
 23 幼児期に虐待を受けた子どもは青年期に心理的問題を起こしやすい
 24 2歳以前の体罰と6歳児の問題行動の関係について
 25 暴力を目撃した子どもの不安と学力
 26 乳児の硬膜下出血の最大の原因は虐待

Part6 発達障害
 27 注意欠陥多動性障害への薬物療法は,
   小学校での成績向上につながる
 28 注意欠陥多動性障害の子どもは大きなケガをしやすい
 29 多動性障害の症状とテレビ視聴の間には意味のある相関はない
 30 中枢神経刺激薬投与で,ADHDの二次精神障害は減少する
 31 2歳から7歳までの多動性行動の変化と,その予知因子
 32 アメリカの小児の自閉症スペクトラムの有病率は1.1%
 33 低出生体重児は自閉症のハイリスクグループである
 34 出生時体重2,000gの子どもの5%が自閉性障害になる
 35 出生間隔が短いと自閉症の発生率が著明に上昇する
 36 アメリカの子どもの10人に1人は何らかの精神疾患に罹患している

Part7 母と子
 37 妊娠後期の母親の不安やうつは,
   子どもの4カ月時での否定的な行動を増やす
 38 ダイオキシン類への胎内での被曝は幼児期の認知能力を障害する
 39 妊婦の間接喫煙は死産や子どもの奇形を多くする
 40 母親の脳は,わが子の笑い顔にもっとも強く反応する
 41 ビタミンD欠乏症は,現在でも多くの母子にみられる

Part8 言葉の発達と社会性
 42 幼児期の言葉の発達スクリーニングを受けた子どもは,
   その後の言語発達が良好
 43 子どもは大人との会話を通じて言葉が発達する
 44 いじめ・いじめられっ子は,社会的適応に障害をきたしやすい
 45 乳幼児期の社会情緒能力のスクリーニング検査は
   学童期の不適応行動を予測できる
 46 小学校入学時の行動特徴と17歳時の学業成績の関係
 47 小学校での自由時間は,子どもの社会性を伸ばす
 48 カンが強く気が散りにくい乳児はよく泣く
 49 ストレスは子どもの構造(海馬)に影響を与える

Part9 眠り
 50 スウォドリングされた乳児はよく眠るが,目は覚めやすい
 51 喫煙後の授乳は,乳児の睡眠時間を短くする
 52 幼児期に睡眠時間が短い子どもは成人(32歳)になると肥満が多い
 53 睡眠障害のある幼児は,行動上の問題や注意欠陥障害が多い
 54 子どもの睡眠の問題を抱える親は,
   精神的・肉体的な健康状態が不良である
 55 テレビを長く見る3歳以下の幼児は,
   睡眠リズムが乱れていることが多い
 56 添い寝と一人寝では,睡眠中の親子の動きには差がある

おわりに
 57 子どもは医者の白衣を怖がらない?

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序文

まえがき
 医者のさじ加減,という言葉に真っ向から対立する「エビデンス・ベースト・メディスン」という言葉が,医学雑誌や学会の場で語られるようになって久しい.今や,このエビデンス・ベースト・メディスンは臨床の医師にとって,自らの医療を行う際のもっとも重要な規範になっている.また医学雑誌などに投稿される医学論文によって明らかにされた結果についても,その結果を導き出す方法論によって,その信憑性にランク付けが行われるようになってきている.治療法でいえば,医師自身の個人的体験や,ある一施設での治療効果などは,その事実としての価値は低いものとされ,もっとも事実としての価値が高い臨床的研究は,RCT(Randomized Controlled Trial:ランダム化比較試験)で行われたものであることが常識になっている.そして毎年何万と発表される膨大な臨床論文の中から,RCTの原則にしたがって研究が行われた数少ない貴重な論文を拾い出し,同じテーマについて遂行された多数のRCT論文の結果をまとめたコクランライブラリーなどが編纂されるようになっている.
 小児科医のおもな仕事は,子どもの病気を診断し,治療することだ.しかし,同時に多くの小児科医は,子どもの身体や精神の発達から育児に至る幅広い小児保健の分野で,子育て中の親の相談役というこれも重要な役割を果たしている.ことに育児相談では,予防接種や乳児の栄養と言った,小児科学の範疇に属する事柄だけでなく,早期教育の意義や,テレビやゲームなどのメディアへの接し方,挙句の果てには子どもによいおけいこ事などについて,「専門家」として意見を求められる立場にある.
 私自身そうした相談に乗りながら,一方でエビデンス・ベースト・メディスンといった厳密な科学的知識に基づいた行動規範を守りながら,一方でそうした厳密な検証のない説明をしなくてはならない自分の矛盾が気になるようになっていた.
 そのような思いでいるときに,私の大先輩である巷野悟郎先生と故・今村榮一先生からお声がかかり,小児保健分野にかかわる多くの専門家に情報を提供する雑誌である「チャイルド・ヘルス」の編集を手伝わないかというお誘いがあった.さまざまなアイデアを出し合って雑誌はスタートしたが,海外の医学雑誌に掲載された子どもの発達や子育てにかかわる研究論文の抄録を紹介する欄を担当することになった.最初は,とくにテーマを決めずに,手当たり次第に小児科,小児保健関連の海外文献を渉猟し紹介を行っていた.
 そんな中,偶然に手にしたのが,イギリスの心理学者であるSchafferの「子どもの養育に心理学がいえること」(佐藤恵理子〈訳〉,新曜社,2001年)である.子どもの養育環境が子どもの発達にどのような影響を与えるかという課題について,Schafferは自説を述べるのではなく,個々の課題についてのできるだけ事実に基づいた研究論文を数編選び,それを解説する形で適切な解答を導いていたのである.
 それから私はできるだけエビデンスに基づいた研究方法を採用した論文を心掛けて選ぶようになっていった.同時にSchafferの著書のような本を,いずれ書いてみたいと思うようになった.
 紹介した論文が100を超えたころ,私は「チャイルド・ヘルス」の編集部に,Shafferの本と同じアイデアの本を,それまでに紹介した抄録をもとにして執筆したいと提案した.編集部の温かなご理解によって,ゴーサインが出されたが3年近く経過してしまった.
 ここまで辛抱強く原稿を待っていただいた診断と治療社,とくに担当の寺町多恵子さんに感謝するとともに,本書が日本の津々浦々で子育てに悩む親の相談を担当している医師,保健師など育児支援の専門家のお役にたつことを願う.


2012年5月吉日
お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科教授
榊原洋一