HOME > 書籍詳細

書籍詳細

ADHD集中できない脳をもつ人たちの本当の困難診断と治療社 | 書籍詳細:ADHD集中できない脳をもつ人たちの本当の困難
―理解・支援そして希望へ―

久留米大学医学部小児科学講座准教授

山下 裕史朗(やました ゆうしろう) 監訳

久留米大学非常勤講師,臨床心理士

穴井 千鶴(あない ちづる) 監訳

エール大学医学部精神科

Thomas E.Brown 著

初版 B5判 並製 228頁 2010年12月01日発行

ISBN9784787818089

定価:本体3,800円+税
  

立ち読み機能は、ただ今準備中です  


ADHDの様々な年齢の人々が経験する広汎な困難を脳科学的に理解し,効果的に治療する方法を紹介した.多くの事例が記されており,患者とその家族にも読みやすく役立つ書.

関連書籍

ページの先頭へ戻る

目次

1章 注意集中と意志力についての誤解
 注意と意志力
 注意がもつ多面性
 不注意は多くの要素からなる
 障害としての不注意
 ADHDと実行機能障害
 実行機能のたとえ話
 実行機能と知能
 実行機能と自覚
 実行機能と脳のシグナルシステム

2章 複雑な症候群の六つの様相 
 第1群:課題の整理,優先順位づけ,取りかかり
 第2群:課題に対する注意の焦点化,維持,移動
 第3群:覚醒レベルの制御,努力の維持,処理速度
 第4群:欲求不満の管理と感情の調整
 第5群:ワーキングメモリの活用と想起
 第6群:行動のモニタリングと自己制御
 複雑なプロセスのスナップショット
 
3章 ADHDと脳の働き
 ニューロンのネットワーク
 神経伝達物質が脳の情報伝達を促進する
 三つのタイプがある処理センター
 相互関連する二つの大脳半球
 中央マネージメントネットワーク
 前頭前皮質のワーキングメモリ回路
 記憶の長期貯蔵
 ワーキングメモリ:脳の検索機能
 危険と報酬を認識する脳はどこなのか
 覚醒と認知の微細調整をする脳センター
 実行機能には相互作用する回路が必要である
 脳の実行機能の発達
 実行機能発達への環境の影響
 実行機能と青年期
 実行機能の衰退
 ヒトの脳の複雑さを垣間見る
 実行機能ネットワークは,ADHDでは異なっている
 ADHDを緩和する化学物質

4章 児童期:セルフマネージメントにおける悪戦苦闘 
 慎重に行動する大人や仲間と協力する
 挑発的で反抗的な行動
 他者と効果的にコミュニケーションをとる
 読み書きを学ぶ
 不注意は読字や計算の学習を妨げる
 ADHDによる文章表現力の障害
 実行機能と児童期の課題

5章 青年期:自立に向けての新たな挑戦 
 時間と宿題の管理
 性的感情と恋愛関係
 金と車のために働く
 家を去る
 青年期の課題に含まれる実行機能

6章 成人期:責任を果たし,適所を見出す
 家庭を切り盛りし,家計を管理する
 関係を育みながら,仕事に従事する
 子育てと夫婦関係の維持
 成人期に用いられる実行機能 

7章 ADHDは単なる不注意とどう違うのか 
 “成功”なのか“失敗”なのかは決してよい診断指標ではない
 大半のADHDの人は“多動”ではない
 行動の問題はADHDに必須ではない
 ADHDの症状は必ずしも幼児期に目立つわけではない
 ADHDの人たちに抑うつや不安症状が認められる場合がある
 頭脳明晰なADHDの人たちは見過ごされがちである
 ADHD成人の症状数は少ない場合がある
 実行機能を検査する神経心理学的テストの限界
 臨床面接:一番感度の高い評価手段
 子どもの面接
 ADHDの評価尺度 
 青年と成人の面接
 有用な標準化尺度
 ADHDを引き起こす,もしくは複雑にするそのほかの障害
 患者教育
 評価のための重要な論点
 矛盾する意見を解決する
 症状は本当にADHDが原因なのか?
 どの評価尺度で障害が判断がされるのか?
 診断に統合した情報を使用する
 ADHD症状の重症度と正確な診断
 症状がどれだけ日々の生活に支障をもたらしているか?
 診断決定
 患者と診断について検討する

8章 ADHDの併存障害 
 学習障害と言語障害
 覚醒と動機づけに関連した障害
 対人感情調整の障害
 対人感情調整障害の類似性
 ADHDが頻繁にほかの障害と重複する理由
 ADHD以外の実行機能障害の原因
 実行機能障害を起こす多数の経路

9章 薬物療法とほかの治療法 
 薬物療法は完治ではなく症状軽減をもたらす
 薬物療法だけでは十分とはいえない
 薬物療法はどのように役立つのか?
 多数の薬物研究
 ADHDの成人に対する薬物療法
 脳画像研究が示す刺激薬の効果
 ある刺激薬がほかの刺激薬よりもよく効く場合がある
 最も効果のある投与量を見つける
 学校や職場以外での薬物療法
 効果の持続が長い薬剤
 長時間作用型刺激薬の開始投与量
 どのような副作用でも緩和される
 過量投与とリバウンド(反跳現象)に関する認識
 有効性の決定
 チックの問題
 成長率
 ADHDのための非刺激薬
 ADHDの行動療法
 ADHDの子どもの育児訓練
 行動療法にあまり反応しない子どもたちもいる
 学校における行動的介入
 ADHDの青年を育てる方法
 薬物療法と行動療法の比較:MTAの研究
 両親,よき指導者,コーチ,治療者の役割
 認知行動療法
 ADHDの子どもを育てる親の対立
 学校や職場における適応
 より専門的な治療法
 ADHDの人とその家族のためのテイラーメード治療

10章 おそれ,偏見,現実的希望
 ADHDに対する過激な攻撃
 ADHDに対するより穏やかな批判
 ADHDは悲劇的で長期の苦しみを引き起こす
 ADHDの甚大な代償
 不適切な理解により生じるおそれ
 治療と診断に関する適切な資源の欠如
 主たる原因が遺伝であるということに対する偏見
 “意志力の欠如”とみなされるものの治療に対する偏見
 現実的希望と非現実的希望

参考文献
索引

ページの先頭へ戻る

序文

日本語版出版によせて
 日本は何世紀にもわたり,学校教育やビジネス界において懸命に努力することに根強い伝統をもつ国である。このような伝統は,ほかの文化圏と同様,日本に多大な成功と偉業をもたらした一方で,成功を収めたいと切望しても仕事に集中し続けることができないという慢性的な困難のため,その願いが叶わない子どもや成人が常にいた。本書は,注意欠陥障害(ADD)もしくは注意欠陥多動性障害(ADHD)という名前で知られている集中に問題をもつ症候群についての新しい理解について記したもので,山下裕史朗医師とその同僚の皆様によって英語から日本語に注意深く翻訳されている。
 数十年にわたって,世界中の親,教師,心理学者,医師は,ADD/ADHDが単に行動の問題と考えてきた。研究の結果,現在では,ADHDは行動障害ではなく,脳の認知機能を管理するシステムの発達障害であることがわかった。多くのADHDの人には,重篤な行動障害はない。小児期に行動の問題をもっていた人でも,不注意とワーキングメモリの問題のほうがはるかに大きな障害をもたらす。その障害は,特に思春期から成人に達し,難題に遭遇する機会が増えると顕著になる。ADHDは,高い知能の人を含め様々な知的レベルをもつ人すべてを苦しめることが研究からわかってきた。ADHDには,学習障害,気分障害,不安障害,睡眠障害などのほかの問題も併存しやすいこともわかっている。
 本書の中でADHDの様々な年齢の人々が日常生活で経験する広汎な困難を紹介する。科学的研究から得られた知見を用いて,ADHDの人々が強く興味をもつ活動にはよく集中でき,重要でないと思う課題には集中できない理由を説明する。また,本書を読むことで研究に基づいた方法によって,ADHDがいかに認識され,効果的に治療されるかがわかる。
 久留米大学医学部の山下裕史朗医師と同僚の皆様が時間をかけ,日本の読者にわかりやすいように注意深く翻訳していただいたことに感謝する。日本語に翻訳された本書の情報によって,親,教師,心理学者,医師が,ADHDに苦しむ人々の複雑な問題をより深く理解し,その人々が必要とし,受けるべき効果的治療法や支援を提供できることを願うものである。
 Thomas E. Brown, Ph.D.
 エール大学医学部精神科臨床講師


監訳者あとがき
 著者のBrown先生との出会いは,アメリカ最大で1万6,000人の会員を有するADHDの人の支援団体であるCHADD(Children and Adults with AD/HD)の7,8年前の定例会でした。先生の“New understanding of ADHD”というタイトルにひかれて拝聴し,わかりやすい講演に感動しました。日常生活の中で実行機能障害がどのような形でADHDの人を苦しめているか,リアルストーリーを話されました。たとえ話が記憶に残るお話でした。日常診療の中で,ADHDの子どもや家族からお話を伺うとき,まさに先生の話されていたのはこのことだと実感することがたびたびあります。その後,個人的にもお付き合いさせていただき,先生のADHD評価尺度の日本語翻訳にもかかわりました。大変温厚なお人柄で,CHADDのサポートを長年続けられ,世界中を飛び回っていらっしゃいます。奥様が良きアドバイザー役で,先生の実行機能は奥様なのかもしれません。先生からは,「患者さんの話を十分聴くことが,実行機能障害をつかむのに最も重要」ということを学びました。そのためには,ADHDの人の実行機能障害の特徴をよく理解していなければいけません。本書がADHDの患者,ご家族,支援者に広く読まれることによって,日本におけるADHDの理解が深まることを願っています。翻訳にあたっては,監訳者の山下や穴井氏と関係が深い多くの方々に大変お世話になりました。特に穴井氏には,私の実行機能障害を補っていただき感謝の言葉もありません。根気強くお付き合いいただいた診断と治療社の柿澤美帆氏,中村 裕氏に深謝申し上げます。

 山下裕史朗

 2005年,「ADHDの子どものための『Summer Treatment Program;STP』を日本ではじめてやります。手伝ってくれる人いませんか?」という山下先生の「この指とーまれ!」に,オッチョコチョイの血が騒ぎとまってしまったのが山下先生との出会いでした。以来,同様に「山下丸」に乗り込んだ医療,心理,教育の仲間とともに,発達障害児とその家族支援のためにオールを漕ぎ続けています。2009年夏,山下先生から原著の翻訳のお誘いがありましたが,忙しさのあまり一度はお断りしました。しかし,原著を読んでその面白さに驚きこれは是非翻訳し,多くの方に読んでいただくべき本だと確信し翻訳チームを結成しました。翻訳チームには各分野の専門知識と多様な経験を持つ方々が参加してくださいました。翻訳チームメンバーには,丁寧かつ質の高い翻訳をしていただき心より感謝申し上げます。本書の内容の豊富さと記述の面白さに魅了されると同時に,ADHDの理解と支援にかけるBrown先生の情熱に打たれ,メンバー一同熱意を持って取り組んだ翻訳・監訳だったと思います。本書の出版に携われた喜びを翻訳チームメンバー並びに診断と治療社担当者の方々と分かち合いつつ,多くの方にお読みいただけることを願っています。

 穴井千鶴