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書籍詳細

明日の医療のための医学教育診断と治療社 | 書籍詳細:明日の医療のための医学教育

元 横浜市立大学医学部長/医療法人博俊会春江病院 名誉院長

嶋田 紘(しまだ ひろし) 編著

初版 A5判 並製 84頁 2013年05月25日発行

ISBN9784787820167

定価:本体2,200円+税
  

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物質文明と超資本主義による秩序の崩壊を防ぐために,大学は日本の将来を任せられる人材を育成しなくてはならない.ますますグローバル化の進む社会においても活躍できる幅広い教養を持つ国際人が求められている.本書では,筆者の臨床外科医,医学教育者としての豊富な知識と経験から,日本と世界各国の医学教育の歴史と現状を対比し,わが国における医学教育の課題について提起する.医学教育に携わる方々にとって必読の啓発書.

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目次

緒 言

第1章 世界の大学と日本の高等教育の歴史
世界の大学の歴史
  ■ 大学の自治とは何か
  ■ 大学の自治の崩壊と国家の管理
  ■ 社会貢献型のアメリカの大学の光と影
近代日本の高等教育(一般,医学)
  ■ 富国強兵のための教育
  ■ 学理主義中心のドイツ医学の採用

第2章 戦後日本の大学教育と医療制度
大学教育(一般)
  ■ 専門教育の重視と教養教育の衰退
  ■ 教養とは何か
  ■ 曖昧な大学教育の目的
医療制度,医学教育
  ■ 医療制度の変遷
  ■ 医療制度の国際比較
  ■ 患者中心のアメリカ医学教育へ
  ■ メディカルスクール構想


第3章 21世紀に起こった大学,医学教育と
医療の問題
物質文明,資本主義の発達と弊害
  ■ 文明の発達と環境破壊
  ■ 超資本主義と社会の崩壊
国公立大学,病院の独法化
  ■ 大学と医療の変質
  ■ 曖昧な大学の運営体制と教員採用,評価制度
  ■ 大学への期待
医療のパラダイムシフトと医学教育改革
  ■ 医師のプロフェッショナリズムの再確認
  ■ 時代の変化についていけない医学教育改革
  ■ 高齢化社会と総合診療医の育成
  ■ 医学部学生の定員増とその将来
  ■ 医学部教員の採用基準と評価制度
  ■ 教員の責務とは何か―教育重視と研究重視
  ■ 新初期臨床研修制度と医療の混乱
  ■ 認知されない専門医制度

結 言
参考文献
著者紹介

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序文

緒 言

 17年間にわたって,医学部の外科学教授として,そして最後の3年間は医学部長として医学教育に奉職した私にとって,国民の関心事の上位にいつも医療問題と教育問題があることは甚だ遺憾なことであった.退任後は父が創設した地方の140床の中小病院で総合診療医として地域医療に従事する一方で,管理者として隔年毎に発表される診療報酬に一喜一憂し早3年の歳月が流れた.
 その間に患者中心主義へと移行した医療のパラダイムシフトに乗り遅れた医学教育の側面が見えてきた.また,福島原発事故の国会事故調査委員会の報告で事故原因が人災であることを知るに及び,医学教育を含めた日本の高等教育の抜本的改革の必要性を強く感じ,自戒の念も込めて筆を執ることとした.私は教育学の専門家でも基礎研究者でもない.ただ5代続いた医師の家系で育ち,医学部卒業後は教員という肩書で長い間医学部に籍を置いた臨床外科医として感じたことについて,参考書を傍らにしつつ書き留めたものである.
 世界に冠たる日本の国民皆保険制度も,その確立以来50年が経過した.2011年度の国民医療費は37.8兆円と膨らみ,国家財政を圧迫している.そのうち70歳以上の老人医療費が約半分を占める.団塊の世代が後期高齢者になる2025年のことや増加一方の介護保険料のことを考えると,誰もがこの保険制度を財政的に維持できるかどうか心配になる.
 医療現場も崩壊寸前である.2004年から義務化された新医師臨床研修制度によって,地方の医師不足が顕著となった.さらに,地方の小児科救急医療や産科患者に不幸な事件が相次いだ.2006年に起きた福島県立大野病院産科医逮捕事件は,医師の職業規範を大切にしていた医師にとってはショッキングな事件であった.経済不況,社会の混迷,さらには大学の教養教育の衰退,国公立大学や病院の独立行政法人化のなかで,日本の高等教育の目的は霞んでしまった.市場原理の横行により,医師は単なる労働者になりつつある.また,高給によって若い医師のモラルは崩壊し,医療の質の低下を招き,医療現場は変容している.
 遅まきながら,医師の臨床能力の向上を目指して,アメリカに倣った医学教育改革が始まった.医師不足を打開すべく,国は医師数抑制政策から増加政策へと舵を切った.しかし,これまでと変わらず大学付属病院のように急性期疾患だけを扱う特定機能病院中心の教育を行った場合,高齢者に多い慢性期疾患を扱う機会の多い地域医療はどうなるのか? 研究志向の強い教員が新しい医師のプロフェッショナリズムもないままに優れた臨床能力を持つ医師を育成できるのか? 医師教育は,本来,医学部教育,卒後医師臨床研修教育,専門医・生涯教育と一貫性を要するものであるが,医学部を担当する文部科学省と医師国家試験以降の医師教育と医療制度を所管する厚生労働省の関係は縦割りのままである.
 教育と医療が滅びれば国は滅びるとまで言われる.これまでのような小手先の改革でうまくいくはずはない.教育には時間がかかる.患者のニーズに応えられる医療の担い手を育成することは喫緊の課題である.
 医学教育関係者は,いつまでも批判や提言だけでよいのか.本書では,医療崩壊を防ぐためには何をなすべきかについて,医学教育の観点から考えてみた.

2013年5月

嶋田 紘
元 横浜市立大学医学部長
医療法人博俊会春江病院 名誉院長