発達障害医学の進歩 26診断と治療社 | 書籍詳細:発達障害医学の進歩 26
京都教育大学教育学部発達障害学科
郷間 英世(ごうま ひでよ) 編集
日本発達障害連盟(にほんはったつしょうがいふくしれんめい) 企画
日本発達障害学会(にほんはったつしょうがいがっかい) 企画
初版 B5判 並製ソフトカバー,1色刷 88頁 2014年04月01日発行
ISBN9784787820815
定価:3,850円(本体価格3,500円+税)冊
本書は「発達障害の幼児期からの理解と支援」というテーマで企画された.幼児期は発達障害のある子どもとその家族にとって,最も重要な意味をもつ時期のひとつである.家庭の外で同世代の子どもとかかわったり,集団のルールを初めて経験する時期である.また,親にとってもほかの子どもの親や様々な支援者と出会い,関係を築く時期である.本書では,気づき,診断,受容,親支援,療育,脳科学など幼児期の発達障害の支援について多角的に論じる.
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目次
■最近の幼児の発達のアンバランスさと発達障害
―「新版K式発達検査」の標準化資料の
分析と“気になる子”の調査結果などから―郷間英世
「新版K式発達検査」の標準化資料からみた現代の子ども
幼児期の“気になる子”と発達障害
発達の性差についての検討
子どもの発達に影響を及ぼす要因
ま と め
■幼児期の療育とその成果
―横浜市中部地域療育センターでの実践―原 仁
精神運動発達遅滞(PMR)児の予後
広汎性発達障害(PDD)幼児の早期療育の効果
発達障害のある4歳児対象の出張型療育支援の成果
ま と め
■幼児期からのことばと
コミュニケーションの支援―自閉症児の
コミュニケーションの発達と模倣との関係から―川合紀宗
コミュニケーションの発達と模倣との関係
自閉症児の認知的特徴と“心の理論”
ミラーニューロンシステムと模倣および社会性の関係
自閉症児の模倣
模倣指導がコミュニケーション能力の向上に与える影響
今後の展望
■作業療法からみた不器用な子どもの
理解と支援―加藤寿宏
作業療法の対象としての発達障害
発達障害児の不器用とは
不器用・協調運動の評価
JPAN感覚処理・行為機能検査を用いた不器用・協調運動の評価
作業療法による不器用・協調運動の支援
■医療機関における発達障害の診断と治療―安原昭博
発達障害とは
発達障害の分類
発達障害の診断の特徴
注意欠陥/多動性障害(ADHD)の診断と治療
学習障害(LD)の診断と治療
自閉症スペクトラム障害(ASD)の診断と治療
ま と め
■発達障害と虐待の脳科学―友田明美
性的虐待による脳への影響
暴言虐待による脳への影響
厳格体罰による脳への影響
両親間の家庭内暴力(DV)曝露による脳への影響
被虐待と脳発達の感受性期との関係
被虐待児の“こころ”のケアの重要性
“生態的表現型”という疾患概念
■発達障害とエピジェネティクス
―環境と遺伝子をつなぐ新しいみかた―久保田健夫
先天性の発達障害疾患とエピジェネティクス
後天性のエピジェネティクス変化と発達障害
エピジェネティクスの医療的有用性
■発達障害の保護者支援―幼児期―若子理恵
幼児期と家族支援
法律に明記された“家族支援”
保護者支援の実際―家族とのスクラム
専門家として支援するために―対人援助職の心得
ま と め
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序文
この『発達障害医学の進歩26集』は,「発達障害の幼児期からの理解と支援」というテーマで企画されました.幼児期は,発達障害のある子どもにとっても,またその子どもの家族にとっても,ライフステージのなかで最も重要な意味をもつ時期のひとつです.
まず,障害に気づかれるのは幼児期が多く,その後の診断に至る過程も様々です.保護者がほかのきょうだいと比べて,ことばの遅れを心配して相談機関や医療機関を受診するケース,保育園や幼稚園で他児とうまくかかわれず,巡回相談などから診断に至るケース,乳幼児健診や5歳児健診の場で社会性や行動の未熟さを指摘され,精検のために受診した機関で診断されるケースなどです.診断は一般に医療機関や療育機関で行われます,本書では,多数の発達障害児の診療を行っている安原先生に医療機関における診断や治療について御執筆いただきました.
また,気づきから診断に至るまでの間,親や家族は障害の診断への心配や将来への不安をもちながら時を過ごさざるをえません.診断のあとも,障害を受容しながら,子どもへの対応の仕方を学んでいく必要があります.したがって,幼児期の親支援は診断の前から大切な意味をもちます.保護者支援については臨床経験の豊富な若子先生にお願いしました.
そして,診断された子どもは発達支援のための療育を受けます.療育では,医師,看護師,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士,視能訓練士,保育士,心理士,教員など,様々な職種がかかわり,子どもの特性に応じた様々な療育プログラムがなされます.ここでは,療育と発達支援について原先生に,コミュニケーション支援について川合先生に,感覚統合などの作業療法について加藤先生に,それぞれの専門の立場からまとめていただきました.
一方,近年,養育などの環境因子が遺伝子の発現に影響を与えるというエピジェネティクスのメカニズムや,虐待などのマルトリートメントが子どもの脳の発達や行動に影響を与えることなど,注目すべき多くの研究成果が得られつつあります.本書では,発達障害とエピジェネティクスの関係について久保田先生に,発達障害と虐待の脳科学について友田先生に,第一人者の立場から御執筆いただきました.
また私は,近年の子どもの発達がアンバランスに変化してきており,そのことと発達障害の増加が関連していると考えています.そのことについて調査データをもとに述べました.
本書が,発達障害の子どもとその家族への支援に日々尽力されている方々にとって,お役に立てば幸いです.
2014年3月
京都教育大学教育学部発達障害学科 郷間英世