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子どものQOL尺度 その理解と活用診断と治療社 | 書籍詳細:子どものQOL尺度 その理解と活用
心身の健康を評価する日本語版KINDLR

青山学院大学教育人間科学部教育学科

古荘 純一(ふるしょう じゅんいち) 編著

聖心女子大学文学部心理学科

柴田 玲子(しばた れいこ) 編著

昭和大学医学部小児科

根本 芳子(ねもと よしこ) 編著

跡見学園女子大学文学部臨床心理学科

松嵜 くみ子(まつざき くみこ) 編著

初版 B5判 並製 144頁 2014年08月15日発行

ISBN9784787820907

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定価:3,850円(本体価格3,500円+税)
  

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子どものQOL(quality of life)を評価する尺度として,現在20か国語以上に翻訳されている「KINDLR」.子ども自身がその日本語版「KINDLR」である「QOL尺度」の質問に答えることで,身体的健康、精神的健康,自尊感情,家族,友だち,学校生活についての満足度を測ることができる.本書はその具体的使用方法・評価方法から全国各地での調査結果,その結果にみる子どもたちの現状や問題点について解説.医療現場だけでなく学校教育にも役立てられ,また子どもの支援につなげるための指標として有効活用されるべき「QOL尺度」の今後の可能性について紹介する.

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目次

はじめに   古荘純一  
編著・執筆協力者一覧  
序章   柴田玲子  

第1章 基礎編
1.子どものQOL   柴田玲子  
2.KINDLRの紹介   柴田玲子  
3.幼児版QOL尺度/幼児版QOL尺度(親用)   根本芳子 
4.小学生版QOL尺度   柴田玲子  
5.中学生版QOL尺度   松嵜くみ子  
6.小・中学生版QOL尺度(親用)   柴田玲子  
7.QOL尺度の実用化   柴田玲子,松嵜くみ子  

第2章 臨床編
1.生活習慣とQOL   根本芳子  
2.子どものQOLと親からみた子どものQOL   根本芳子  
3.子どものQOLと母親のQOL   柴田玲子  
4.小児慢性腎臓病とQOL   伊藤雄平,柴田玲子  
5.アレルギー疾患とQOL  根本芳子  
6.喘息児健康教室前後のQOL   松嵜くみ子  
7.発達障害とQOL   古荘純一,磯崎祐介  
8.抑うつ,不安,不登校とQOL   古荘純一  

第3章 事例編
1.チーム医療による支援   松嵜くみ子  
2.発達障害   古荘純一,磯崎祐介  
3.気分障害(うつ病),不安障害   古荘純一  
4.対人関係の問題   古荘純一  
5.身体疾患   古荘純一  

付 録
子どものQOL尺度(日本語版KINDLR)  
 幼児版QOL尺度
 幼児版QOL尺度(親用)
 小学生版QOL尺度
 中学生版QOL尺度
 小・中学生版QOL尺度(親用)
「小学生版QOL尺度」「中学生版QOL尺度」の使い方   松嵜くみ子  
用語解説  
よくある質問  

索引

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序文

はじめに

 本書は子どものQOL(quality of life)に関しての,専門家だけでなく広く一般を対象とした本邦ではじめての書籍であると思います.そもそもQOLとはどのような概念でしょうか? QOLは“生活の質”と訳されることや,そのまま“QOL(キュー・オー・エル)”,もしくは“クオリティ・オブ・ライフ”と表現されることが一般的です.QOL尺度とは,心身の健康度,良好な人間関係,仕事や家庭生活の充実感,レクリエーションやレジャー活動など様々な観点から,その人がどのくらい生活に満足しているのかを尺度(指標)として捉えることです.
 子ども向けのQOL尺度には,「CHQ(Child Health Questionnaire)」などがありますが,主として何らかの障害のある子どもに用いられてきました.子どもが元気に楽しく活動している様子も,QOLという指標で捉えることができないだろうか.病気の子どもだけでなく,すべての子どもの心身の健康を包括的にみることはできないだろうかと考え,1998年,ドイツの研究者BullingerとRavens-Siebererが作成したのが「KINDLR(キンドル・アール)」です.彼らは,ドイツ語で作成したこの尺度を英語に翻訳し,2か国語で使用し研究報告を行ってきました.その研究は,海外で広く評価され,現在は20か国語以上に翻訳されています.

 本書の編著者の一人である柴田は,英語版の「KINDLR」にいち早く着目し,日本の子どもたちに使用できないかどうかを検討しました.また,子どものQOL尺度研究に着手するように積極的に促したのは,当時,昭和大学医学部小児科の教授だった故飯倉洋治先生です.飯倉教授は,臨床現場で喘息やアトピー性皮膚炎などアレルギー疾患のある子どもに多く接しながら,単なる疾患の治療のみでなく子どもの包括的医療の重要性を強く認識されていました.飯倉先生の下,臨床心理士として活動していたのが,同じく本書の編著者である根本と松嵜です.飯倉先生の指導で,ドイツの原作者の承諾を得て,柴田,根本,松嵜の3人を中心に,翻訳ならびに尺度の信頼性,妥当性の調査を2001年に開始しました.
 一方,私は当時,飯倉先生の下で小児科の医局員として,主に神経・精神疾患の子どもの臨床を行っていました.2002年から青山学院大学の教員として赴任することになった後も,非常勤として昭和大学の小児科で診療,教育に努めていました.しかし2003年,研究成果をまとめた論文報告の準備を行っている段階で,飯倉先生が急逝され,QOL研究成果の報告と医学的側面へのコーディネートを,私が引き継ぐことになったのです.経歴の異なる本書の4名の編著者の共通点は,「飯倉先生の門下生」ということになります.
 その後,2003年にはじめての論文報告を行い,また厚生労働省から研究費の助成を受けることができ,現在まで研究を継続してきました.様々な子どもを広く対象とし,学校での調査を行っていた関係などで,医療・心理関係だけでなく,学校関係者や教育,保育,福祉関係の人々にも関心をもっていただけるようになりました.また,QOL尺度に関しての問い合わせも多くいただくようになりました.
 2009年,研究結果の一部を『日本の子どもの自尊感情はなぜ低いのか』というタイトルで光文社新書として発刊したところ,予想以上に多くの方に読んでいただくことになりました.現在では,大学入試問題やいろいろな論文などの引用文献としても使われているようです.
 本書は,そのような子どものQOLに興味をもたれている方を対象に,原作者に日本語での出版の承諾も得て,QOL尺度の概念や使用方法について解説し,また,4人の編著者がこれまで様々な論文などで発表してきた研究結果を書籍用に編集し直して,一冊にまとめたものです.4人それぞれの研究に対する強い思い入れがあり,尺度の解説以上の読み応えのある内容であると自負しています.ただ,多くの方々にQOLについて理解を深めていただくには,難解なところもあるかもしれません.そのようなときは,事例や実際の質問内容などを先に読んでいただくことをおすすめします.本書が子どものQOLについてイメージを深めること,また,たくさんの子どもたちのサポートにつながることを祈念しています.

 これまでの研究では,多くの先生方にご協力,ご援助をいただきました.研究当初からご支援をいただいた国立成育医療研究センターの奥山眞紀子先生,昭和大学江東豊洲病院の田中大介先生,当時,昭和大学助教授であった故小田島安平先生.そして厚生労働科学研究主任研究員としてお世話になった,当時,昭和大学小児科の渡邉修一郎先生,佐藤弘之先生,神奈川県立保健福祉大学の前川喜平先生.さらに,うつ尺度との関連性についてご示唆いただいた,当時,西南学院大学教授で精神科医の村田豊久先生.身体疾患のデータ開示をご承諾いただいた久留米大学医学部小児科永光信一郎先生,当時,日本医科大学小児科の桑原健太郎先生.また,調査を承諾いただきコーディネートいただいた品川区立第二延山小学校,当時,宮下和子校長はじめ,学校関係者の方々にもお礼を申し上げます.
 そして,本書の企画を快諾いただいた診断と治療社の堀江康弘編集部長,原稿の遅れや細かい確認作業にも丁寧に対応いただいた編集部の皆さまに深謝申し上げます.
 なお,当初,柴田・根本・松嵜・古荘の4人で編集,執筆を企画しましたが,久留米大学の伊藤雄平教授(現・いとう小児科)と青山学院大学大学院教育人間科学研究科教育学専攻博士後期課程の磯崎祐介君に,一部ご執筆をいただきました.また数名の方にご承諾をいただき,研究内容を紹介させていただきました.

 この本を,4人の恩師である故飯倉洋治教授に捧げます.

2014年 盛夏,4名の編著者を代表して  古荘純一



編著者からのお願い
各尺度を使用される際には,必ずKINDLRのホームページ(http://kindl.org/)で使用上の留意点をご確認ください.なお,わが国の子どものQOL研究の発展のため,尺度使用時には下記連絡先までご一報をいただけますと幸いです.

古荘純一(furujun@ephs.aoyama.ac.jp),柴田玲子(shibata@g.u-sacred-heart.ac.jp)
松嵜くみ子(k-matsuza@atomi.ac.jp)




序章

 子どもが元気に楽しく活動している姿を,“指標”として捉えることができないだろうか.子どもの心身の健康を包括的にみるために注目したのが,子どものquality of life(以下QOL)でした.

 QOLという用語は,産業革命の頃,炭鉱労働者の生活水準を表すものとして出現しましたが,20世紀になると医療分野に導入され,当初はがん患者の疼痛ケアなど医学治療の効果を評価する,アウトカム研究における判断基準として使われていました.

 1948年4月7日,正式に発足した世界保健機関(WHO:World Health Organization)は,その前年に発表したWHO憲章(WHO Chronicle:The constitution of the World Health Organization. 1947)において,健康について次のように記しています.“Health is a state of complete physical, mental and social well-being, and not merely the absence of disease or infirmity”.この憲章では,人々の健康を捉える上で身体的側面や精神的側面,社会的な側面にも焦点をあて,健康とは単に疾病がないことや病弱ではないだけではなく,心身ともにそして社会的にも満足している状態であると概念化した点で,その意義は非常に大きく,QOLの概念と結びついたといえます.

 昨今,慢性疾患を抱えながら生活する人々が増えたことや,より健康に生きることが追及される時代となったことから,QOLは盛んに取り上げられるようになりました.医療分野で発展してきたものは,従来の社会環境を中心としたQOLとは区別され,「健康関連QOL(health related-QOL)」とよばれています(なお,本書で扱っている「QOL」は,すべてこの「健康関連QOL」を表します).健康関連QOLは複数の領域から構成されており,その定義を一言で述べるのは難しいですが,「個人の日常的な機能とwell-beingにかかわる主観的な評価を反映したもの」とされています.健康関連QOLを測定する尺度の開発も進み,WHOが開発した「成人用WHO-QOL基本調査,短縮版26項目」は,東邦大学の田崎美弥子教授ら日本の研究者も加わって開発された,国際的に標準化されたQOL尺度です(田崎氏には,このとき同僚であった「KINDL」の開発者のBullingerを後に紹介していただくことになりました).国際的に標準化され日本語版も作成されているQOL尺度としては,他に,アウトカム研究の先駆けとなったMedical Outcomes Study(MOS)が開発した「SF-36(MOS Short-Form 36-Item)」,ヨーロッパ5か国(イギリス,フィンランド,オランダ,ノルウェー,スウェーデン)が中心になって開発した「EuroQoL質問紙」などがあります.

 一方,子どものQOL研究は,次章から詳細を述べますが,「子どものトータルケア」の概念の浸透とともに広がったと考えられています.小児がんの医療における「トータルケア」は,各種慢性疾患児へのアプローチにつながり,子どものQOL向上という観点が重要となりました.わが国でも,1986年久留米大学の山下文雄教授会頭の「第89回日本小児科会学術集会」のシンポジウムに,「慢性病のトータルケア」がありました.そして子どものトータルケアの重要性を強く認識し,子どものQOL向上のための活動に積極的であったのが,昭和大学医学部小児科の飯倉洋治教授です.飯倉教授は,子どもを取り巻く環境という総合的視野から子どもの心・体と環境を考える会(現:日本子ども健康学会)を発足し,さらに,大学に隣接する公立小学校に「健康相談室」を開設し,自ら出向いて医療と教育の連携を図り実践活動を試みました.その結果,子どものトータルケアや包括的医療を志した際,子どもの生活全般の健康度や満足度を知るための指標が必要となり,子どものQOL尺度研究を強く後押ししたのです.

 第1章は基礎編として,健康な子どもと疾患を抱える子どもの両方に使用できる包括的QOL尺度である「KINDLR」を紹介し,その日本語版を検討した結果を述べます.第2章では臨床編として各調査結果を記し,子どものQOLについて各QOL尺度の調査結果から得られた知見を解説します.さらに第3章は事例編として,臨床場面での事例から子どもの問題点とQOLについて述べます.

柴田玲子