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書籍詳細

日常診療における子どもの睡眠障害診断と治療社 | 書籍詳細:日常診療における子どもの睡眠障害
Sleep problems in children and adolescents

大阪大学大学院連合小児発達学研究科

谷池 雅子(たにいけ まさこ) 編集

初版 B5判  256頁 2015年04月30日発行

ISBN9784787821690

定価:6,380円(本体価格5,800円+税)
  

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子どもがかかえる睡眠関連の症状に対して,かかりつけ医である小児科で,診断・治療ができるよう必要な情報を盛り込んだ.検査の種類,方法,治療の実際,訴えからどうアプローチするかなどがわかりやすく解説されている.睡眠のエキスパートが,実際の「睡眠・覚醒リズム表」を指し示し,患者とのやり取りや聞き取り内容の重要度,見るべき視点など,「睡眠・覚醒リズム表」の活用方法を伝授する!

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目次

口絵
序文……谷池雅子
執筆者一覧

第1章 概 論
1 子どもの睡眠の特徴……谷池雅子
2 ICSD‐3の中の小児睡眠関連疾患……立花直子
Column スリープリテラシーとスリープヘルスを考える
~眠らない・眠らせない・眠れない・眠れていない~……三上章良

第2章 子どもの睡眠関連疾患各論とその治療
1 乳幼児期の不眠……平田郁子
2 パラソムニア(睡眠時随伴症)……岩谷祥子
3 睡眠呼吸障害……加藤久美
4 レストレス・レッグズ症候群……毛利育子
5 思春期の不眠・過眠~小児神経科医の立場から~……友田明美,野路恵里佳,三池輝久
6 思春期の不眠・過眠~精神科の立場から~……谷口充孝
7 睡眠不足症候群(Insufficient sleep syndrome:ISS)……松澤重行
8 概日リズム睡眠覚醒障害……粂 和彦
9 ナルコレプシー……本多 真
10 歯ぎしり……加藤隆史
11 稀だが知っておくべき睡眠関連疾患……谷池雅子,岩谷祥子
Column 夜泣き……福水道郎

第3章 身体・精神疾患に合併する睡眠障害
1 先天異常症候群・染色体異常症……岡本伸彦
2 骨系統疾患・内分泌疾患……北岡太一
3 心疾患……澤田博文,大橋啓之,三谷義英
4 アレルギー疾患……谷河純平
5 神経筋疾患……富永康仁
6 脳性麻痺,重症心身障害児……北井征宏
7 新生児フォローアップ……安積陽子
8 てんかんと中枢神経疾患……下野九理子
9 発達障害……中西真理子
10 精神疾患……宮川広実
Special Lecture 小児睡眠関連疾患診療のために必要な睡眠の神経生理・神経解剖の基礎知識
……西野精治

第4章 訴えからのアプローチ
1 いびき・無呼吸……加藤久美
2 昼間の眠気……松澤重行
3 乳幼児の不眠……谷池雅子
4 思春期の不眠……松澤重行
5 寝ぐずり……毛利育子

第5章 一般外来での検査
1 問診……松澤重行
2 ホームモニタリング①パルスオキシメトリの使い方・見方……加藤久美
3 ホームモニタリング②ホームビデオの使い方・見方……加藤久美
4 子どもの眠りの質問票(日本版幼児睡眠質問票)の見方・使い方……毛利育子
5 睡眠・覚醒リズム表の使い方……松澤重行
6 睡眠・覚醒リズム表の見方・考え方①……三池輝久
7 睡眠・覚醒リズム表の見方・考え方②……立花直子
8 睡眠・覚醒リズム表の見方・考え方③……谷池雅子
Column PSGと簡易モニター……中内 緑

第6章 一般外来での治療
1 睡眠教育 今昔~明治から平成へ~……星野恭子
2 薬物療法……谷池雅子
Column 不眠に対するCBT(認知行動療法):これからの不眠症治療~〝CBT‐I〟の広まり~……吉崎亜里香

第7章 提 言
日本の子どもの睡眠の現状について―早寝早起き運動が教えてくれたもの……神山 潤

付 録
睡眠・覚醒リズム表……谷池雅子
子どもの眠りの質問票……谷池雅子

索引

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序文

 草木も眠る丑三つ時,わが家の廊下でヒクヒクという音が聞こえる.何ごとかと見に行くと,愛犬が手足をときどきピクッとさせながら,眠っている.よくみると閉じた瞼の下で,眼球が横や縦に忙しく動いている.彼は,レム睡眠中らしい.一体どんな夢を見ているのやら….
 よくよく考えると,人間を含めたすべての恒温動物は眠る.完全に睡眠を奪うとすべてのラットが19日前後で死亡するという実験結果は,恒温動物にとって睡眠が生存に欠かせないものであることを示唆している.
 神経科学研究では,脳における睡眠や覚醒の開始・終了のメカニズムが少しずつわかってきており,昨今では,睡眠と高次脳機能との関連についての研究がトピックである.一言でいうと,「睡眠は脳によって司られる,脳機能にとって非常に重要な事象である」といえる.
 ところが,睡眠は,文化,風習によって容易に犠牲にされやすく,実際に,1960年(昭和35年)から2010年(平成22年)の50年の間に,日本人成人の平日の夜間睡眠時間は約1時間短くなっている.また,日本人の睡眠時間は西欧諸国と比較して短いことが知られており,多くの調査研究は日本の子どもの睡眠時間が不足していることを示している.熱心な啓発活動も子どもの睡眠不足解消には至っていない.子どもの睡眠不足が20年後の日本にどのような影響を及ぼすかについて,私たちは確かな答えをもっていないが,おそらくネガティブな影響があるだろうということを示唆する研究が蓄積されている.
 また,子どもの睡眠関連疾患*についての研究は世界的にも遅れている.たとえば,閉塞性睡眠時無呼吸症候群や乳幼児の不眠のようなありふれた疾患についても,子どもの治療ガイドラインはない.遅れの理由の一つとして,子どもの睡眠の評価が取っ付きにくいことがあげられる.とりわけ,睡眠の精密検査として有名な終夜睡眠ポリグラフィは子どもには施行すること自体が難しく,さらに,子どもの睡眠脳波に習熟して正確に所見をとることも難しい.おそらくこの取っ付きの悪さこそが,一見,〝直接命に関わらない〟と思われる睡眠の問題が「様子を見ましょう」で片付けられてしまう一因ではないかと思う.さらに日本においては,睡眠医学が,医学教育に体系的に組み込まれていないことも睡眠の問題に取り組みにくい一因ではないかと思う.
 しかしながら,特別な施設や機器がなくても,ある程度,睡眠の問題のスクリーニングは可能であり,これは子どもの健康を考えるうえでたいへん重要であると考える.
 この本の特徴は二つある.一つめは対象の読者を,睡眠の専門家ではなくて,子どもの診療を第一線で担う一般の小児科医と定めたこと.日々の診療の合間に通読していただけるように,診療に役立つ知識を優先し,できるだけ平易な文章で,カットを多用するように努めた.もう一つの特徴は,小児科のサブスペシャルティごとに睡眠の問題を取り上げたこと.この目的に沿って,小児睡眠の専門家はもとより,睡眠に造詣が深い臨床神経学,循環器,新生児,臨床遺伝の専門家に執筆をお願いすることにした.
 多方面での専門家に寄稿いただいた結果,教育的であるのみならず,予想以上に〝面白い〟本になったとうれしく思っている.睡眠研究は日進月歩であり,定期的な改訂が必要にせよ,おそらく日本で最初の実地臨床に沿った「子どもの睡眠」本が世に出たことを言祝ぎたい.
 この本により,多くの小児科学を専門とする先生方に,子どもの睡眠に興味をもっていただき,ひいては,日本の子どもの睡眠の質と量の改善につながれば,これに勝る喜びはない.
 最後に,大阪大学の「小児睡眠医療」を実質的に支えているのは,乳幼児をはじめとして,難しい子どもの睡眠検査を泊まり込みで遂行してくださっている医学部附属病院臨床検査部神経生理部門の技師(寺岡,寒川,麦居,潁原,宮本,湯田さん)である.彼女たちに心からの謝意を伝えたい.

平成27年3月
大阪大学大学院
 大阪大学・金沢大学・浜松医科大学・千葉大学・福井大学
 連合小児発達学研究科 教授
 附属子どものこころの分子統御機構研究センター センター長
谷池雅子

*「睡眠障害」という用語が市民権を得ているが,症状か疾患か紛らわしいので,疾患を意味するときには,「睡眠関連疾患」で統一する.