LD(学習障害)を症状,診断,検査の実際,支援プログラムの実際についてわかりやすく解説しました.医療関係者の方をはじめ,LDに関わるすべての方へおすすめです.学習困難の検査・評価・支援のプロセスがわかり,LDの症状やまぎらわしい鑑別疾患がわかります.ケース紹介で支援のポイントやタイミングがわかりやすく解説されています.
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目次
●監修の序 玉井 浩
●編集の序 若宮英司
●執筆者一覧
●本書の用語について
第1章 LDとは
A 診断基準と定義 若宮英司
B 視覚関連機能,注意集中,協調運動が学習に及ぼす影響 柏木 充
C ID,ADHD,ASDと学習 柳生一自,岩田みちる
D 言語障害と学習 永安 香,福井美保
E 脳の発達と脳機能 関あゆみ
第2章 LDの具体的症状と診断・検査の実際
A 読字・書字障害の特徴 関あゆみ
B 算数障害 若宮英司,栗本奈緒子
C 診察の実際 若宮英司
D 協調運動の診察 柏木 充
E 聴力に関する訴えと言語障害の診察 福井美保,永安 香
F 視覚関連の機能に関する訴えの聞き取り方と症状の整理 奥村智人,三浦朋子
G 診断年齢別の対応のポイント 田中啓子
H 本書における各検査のカテゴリーと位置づけ 奥村智人,三浦朋子
Q1 保護者から「言葉の発達が遅いことが心配だ」と相談を受けました.
どのように対処すればよいでしょうか 田中啓子
Q2 保護者から「子どもがLDではないか」と相談を受けました.
どのように対処すればよいでしょうか 田中啓子
Q3 発達障害で受診している子どもの保護者から,学習面の相談を受けました.
どのように対処すればよいでしょうか 島川修一
Q4 学習困難の評価に関する紹介先の選択のポイントについて教えてください 若宮英司
Q5 子どもの学習困難をほかの家族(父,祖父母,きょうだい)が理解しない
という相談への対応方法を教えてください 中尾亮太
Q6 保護者が子どもの学習困難を学校に相談する際の医療者の役割を教えて
ください.診断を伝えてその子どもが不利になることはないでしょうか 中尾亮太
Q7 投薬の適応と効果的な使い方について教えてください 島川修一
第3章 LD児の支援プログラム
A 大阪医科大学LDセンターでの取り組み 西岡有香
ケース1 幼児期より,読みの弱さを疑われていたAくん 竹下 盛
ケース2 小学校入学後に,担任に読みの困難を指摘されたBくん 栗本奈緒子
ケース3 視覚認知に弱さがあり,漢字書字の習得がむずかしかったCくん 水田めくみ
ケース4 意味理解に弱さがあり,正しい漢字が書けなかったDくん 水田めくみ
ケース5 読み書きの弱さが主訴で言語の弱さがあったEくん 栗本奈緒子
ケース6 文章問題や長文読解が困難だったFくん 水田めくみ
ケース7 数概念の弱さから計算に困難があったGちゃん 栗本奈緒子
ケース8 文章問題理解に弱さのあったHくん 竹下 盛
ケース9 学習困難を主訴として受診した中学生Iさん 栗本奈緒子
ケース10 視写が苦手であったJちゃん 三浦朋子,奥村智人
ケース11 形を捉えることが苦手であったKちゃん 三浦朋子,奥村智人
ケース12 姿勢保持や机上操作が苦手であったLくん 芳本有里子
ケース13 ADHD(不注意優勢)による学習困難のあったMくん 栗本奈緒子
ケース14 ASDにより文章表現に困難のあったNくん 竹下 盛
●COLUMN 発達障害の特性を考慮した学習指導について 水田めくみ
第4章 家庭生活・学習環境づくりと学校生活における支援
A 子どもとの接し方 金 泰子
B 二次障害への対応 金 泰子
C 教育機関との連携 鳥居深雪
D 療育施設との連携 松尾育子
E 作業療法士との連携 尾藤祥子,丹葉寛之
F 生活活動の管理・長期休暇の過ごし方 中尾亮太
Q1 本人への告知について留意点を教えてください 金 泰子
Q2 受験準備や就職,社会適応の相談にどう対処すればよいでしょうか 中尾亮太
●COLUMN 専門機関と学校との連携の重要性 竹下 盛
資料
●相談機関・ウェブサイト 若宮英司,鳥居深雪
索引
※本書に記載されたWEBサイト(URL)は2016年5月現在のものであり,更新されていることがございます.ご了承下さい.
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序文
監修の序
医療と教育,福祉の狭間で取り残されている学習障害(LD)児に医療からの光を当て,診療への新しい切り口を開く本書は,大変意欲的なガイドブックに仕上がっているものです.
これまで医療は治療法のある疾患には,症状,検査,鑑別診断,そして治療に至るまで医療体系がしっかり整備されていますが,まだ治療法のないものに対しては症状と病名のみの記載にとどまっていることが多く,正確な診断がなされていないばかりか,その誤った診断をもとにした指導がされている可能性もあります.これは多くの医師が学生時代には学習してこなかった領域であり,卒業後も学習する機会もなく自分たちの領域ではないと思っていたからです.
一方で,認知科学の進歩はめざましく,発達性ディスレクシアを含む学習障害についても,新しい知見が見出されています.しかし,診断基準,疾病分類が複数存在し,用語の混乱も加わって,LDは混沌としたまま放置されていたのが現状です.
本書は,認知の知識をベースにLDの症状からはじまって,診断,検査の実際,支援プログラム,学習環境,家庭生活への支援のあり方まで述べていて,この分野ではこのような成書はまったくなかったものです.医療スタッフにとっては,聞きたいことだが,どこに/だれに聞いたらいいかわからなかったことが本書には盛り込まれています.ぜひ多くの医療関係者に手に取っていただきたいと思います.
2016年4月
大阪医科大学小児科/LDセンター長
玉井 浩
編集の序
医療に携わるものにとって「学習障害」は馴染みがうすい障害です.「ADHDやASDなら知っているし,実際に診療している.学習障害? 名前は知っているけれど,内容はよくわからない.そもそも学習障害は学校が対処すべき問題で,医療は関係ない」というのが一般的な感想ではないでしょうか.他の発達障害に比べて病態に関する知見が少ない,使われる用語が認知に関するものでわかりにくい,知的障害やASDの症状を学習障害と呼ぶ混乱がみられたなど,学習障害の理解を阻む状況が長いあいだ続いたことが,医療関係者の学習障害に消極的な姿勢につながったかもしれません.
幸い(?)クリニックで学習の問題の相談を受けることはあまりないかもしれません.ADHDやASDなどの診療中に「何か困っていることはないですか?」と問いかけると,本人や保護者の頭の中には「学習の悩み」が浮かんでも,一般的に学習の話題はクリニックの場にふさわしくないという暗黙の了解のもと,スルーされてしまいます.もし「勉強のことでお困りではありませんか?」と突っ込んで尋ねたら,「とても困っています」という答えが返ってくることは少なくないはずです.
最近になって,学習障害の概念がわかりやすく整理されてきたこと,わが国でも学習技能を客観的数値として測定できるツールが出てきたことなど,学習障害の診療環境が整ってきています.学習は子どもの成長過程でかなり大きなウェイトを占めています.単に成績のよし悪しではなく,学校適応や成人後の生活に直接大きな影響を及ぼします.学習の悩みに医療の立場から応えることができれば,それも子どもの健やかな成長の手助けのひとつではないでしょうか?
一般的には発達障害の診断を前提として,診断名から学習困難を理解しようとすることが多いのですが,そうすると関連性に矛盾が生じ,よくわからなくなってしまいがちです.いったん,診断名と距離をおいて,機能単位,たとえば「文字と音韻の関係性」や「上肢の巧緻性」から学習の問題を考えると理解しやすく,理解を進めていくうちに診断との関係がわかってきます.
本書は,医療関係者の学習の問題点への「取っつきにくさ」を少なくしたいという考えのもとに編まれています.子どもたちに医療が手を差し伸べる領域がひとつ増えることを祈って.
2016年4月
藍野大学医療保健学部看護学科
若宮英司