1849内分泌代謝臨床研究マニュアル
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174 診断研究●●●第2章 臨床研究の研究デザインの種類基本概念診断研究*1 診断研究は症候や検査の検査特性を報告する研究である.検査特性としては妥当性や再現性が報告される.妥当性(あるいは正確性,validity,accuracy)として感度,特異度,陽性予測値,陰性予測値,尤度比,receiver operating characteristic curve(ROC曲線)が報告され,再現性(あるいは信頼性,精密性,reliability,reproducibility,precision)としてκ係数が報告される.これらは臨床検査や画像診断のみでなく,病歴・身体診察やこれらを組み合わせたスコアでも報告される. 臨床現場である診断方法が役に立つか否かを検討するために,ランダム化比較試験(RCT)で検討されることは稀だが,患者のイベント発生をアウトカムとしてRCTを行うことはできる.たとえば癌のスクリーニングの有効性は癌死亡率減少をアウトカムとしてRCTで検討される.検査特性を調べる診断研究は,検査をすべきかどうかという点ではなく,患者の症状・徴候・検査などと疾患との関連の強さ,検査の限界,あるいはどれぐらい予測に役立つかを検討する.感度,特異度,陽性予測値*2,陰性予測値*3 表1に計算方法を記載した.感度や特異度は,研究対象集団での疾患の有病率(疾患群と非疾患群の人数の比)に影響されない.一方,陽性予測値,陰性予測値は有病率に影響される.感度と特異度は検査で陽性と判定される基準(閾値)を動かすと変化する.感度と特異度はトレードオフの関係にあり,感度が高くなると特異度が低くなる.このため検査特性を考察するとき,感度と特異度を両方同時に評価する.完璧な検査は感度・特異度がそれぞれ100%である.一方,感度と特異度を足して100%になる検査は全く意味がない検査といえる(たとえば感度95%,特異度5%の検査). 感度の高い検査は陰性予測値が高くなるため,陰性時に疾患の可能性を除外するのに有用である(SNout).特異度の高い検査は陽性予測値が高くなるため,陽性時に疾患を確定するのに有用である(SPin).診療現場で感度や特異度の詳細な値を用い,疾患確率の予測はしないかもしれない.しかし感度や特異度が概ね高いか低いかを理解しておくことは,診療の中で極めて重要である.尤度比*4 尤度比は,特定の検査結果を示す疾患群の中での割合を,非疾患群の中での割合で除したものである(表1,2).2×2表ではなく2×3表以上の複数の検査結果に応じて尤度比を細かく計算できる.感度・特異度は検査結果が陽性か陰性かでしか解釈できないが,尤度比は検査結果の細かい程度まで解釈に反映させられる利点がある.ROC曲線 ROC曲線は,検査の陽性基準となる閾値を変化させたときの感度と特異度の変化をグラフ化したものである.縦軸が感度,横軸が(1⊖特異度)であり,優れた検査ほど左上の点に近く,劣った検査ほど対角線に近づく.しばしば曲線下面積でROC曲線の形状を要約する.ROC曲線を用いて複数の検査間の優劣を比較できる. しばしばROC曲線は検査の陽性基準を定める閾値の決定に利用される.そしてYoudenʼs index(感度+特異度-1)を最大とするROC曲線上の点に対応する検査値がベストな閾値として報告され1234第2章 臨床研究の研究デザインの種類――B 観察研究4診断研究太田西ノ内病院 新保卓郎臨床医のためのPoint❶診断研究では検査特性の指標として,妥当性(正確性)や再現性(信頼性)が用いられる.❷妥当性の指標として,感度,特異度,陽性予測値,陰性予測値,尤度比,ROC曲線などが用いられる.❸再現性の指標としてκ係数が用いられる.❹ROC曲線を用いた閾値設定のためにYoudenʼs indexを用いるには,前提条件が必要である.*1診断研究:検査特性を検討し,症状や検査結果が疾患の診断にどの程度役に立つかを定量的に調べる研究.*2陽性予測値(positive predictive value):陽性的中率と同義.ある検査が陽性の場合に対象とする疾患である確率.*3陰性予測値(negative predictive value):陰性的中率と同義.ある検査が陰性の場合に対象とする疾患でない確率.*4尤度比(likelihood ratio):ある疾患において特定の検査値が陽性(陽性尤度比)または陰性(陰性尤度比)を示す割合と,非疾患群における割合との比率.検査が陽性,陰性であることの診断的意義を表現.

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