1909不随意運動の診断と治療 改訂第2版
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36第1部 不随意運動子から立ち上がりにくい,車から降りにくい,寝返りがしにくいなどの症状が現れる.したがってこれらの広義のbradykinesiaは自動運動の低下・消失,運動の開始の遅延,運動の振幅の減少を意味している. 初期の他覚所見として指や足のタッピングの一側性の振幅の減少や拙劣などがみられる.また,二つの動作を同時に行うことも困難になる7,8).しかし,運動のきっかけとなる外的な感覚入力(特に視覚入力)は一時的に症状や歩行を改善する(kinesie paradoxale,paradoxical gait〈奇異性運動・歩行〉(DVD 12-1)).3)筋固縮(rigidity) 重要なパーキンソニズムの徴候である.関節を他動的に動かした際にみられる抵抗が特徴であるが,上位運動ニューロン障害でみられる痙縮(spasticity)とは異なり運動の早さに関係なく一定の抵抗がみられる.後者では,早く動かすとより抵抗が増し,突然抵抗がなくなる(折りたたみナイフ現象〈clasp knife phenomenon〉).Parkinson病では特徴的には,関接の全可動域において細かな鉤つき歯車を操作するような抵抗の規則的な減少(ratch)がみられる(歯車様筋固縮〈cogwheel rigidity〉).上肢近位部の診察では,立位で肩を他動的に揺らして左右差をみる方法がある(Wartenberg徴候).また体幹の固縮をみるには臥位にして膝立てをした状態で両膝を左右に同時に揺する診察方法があり,揺すった方向と反対の肩が挙上してくるようであれば,その肩の側の体幹の固縮が疑われる. 次第に病期が進行すると,屈曲姿勢がみられるようになる.これは,特に頸部,胸部,肘関節,股関節,膝関節で著明で,歩行時には患者は前腕を屈曲して体幹の前にもってくる姿勢をとり,手の振りは少なくなる.膝はやや屈曲しており,足を引きずるような歩行になる.これは,屈曲位ジストニアともいわれ,下肢ジストニアと異なり,前歩きよりも後ろ歩きのほうが困難である(後述).最近,他のパーキンソニズムの徴候はみられないが歩行時の極端な前方屈曲姿勢と腰背部痛を主徴とするカンプトコーミア(camptocormia)く自覚症状としては通常,振戦が最も多い.しかし,運動の緩慢,歩行障害,肩こり,小字症(micrographia)(字が大きく書けない)やうつ状態で発症することもある.初期には自覚症状・他覚所見は片側に限局していることが特徴である.以下にその臨床的特徴について述べる.1)振戦(tremor) 手足の遠位部や口部において安静時にみられる(安静時振戦〈resting tremor〉)(DVD 2-1).母指と他の指が反対方向に交差性に収縮するpill-rolling(丸薬をこねる)様(DVD 2-6)や手関節の屈曲・伸展,前腕の回内・回外をきたす場合もある.実際には,完全な安静時よりも計算の負荷など精神的に緊張したときに増強し静止時振戦とも呼ばれる.また,歩行時にも増強し,発声時の声のふるえとなることもある.姿勢をとってからしばらくして安静時と同じ周波数の姿勢時振戦をきたすことがありre-emergent tremor(再来性振戦)と呼ばれる(DVD 2-4,5).通常,片側の手または足から始まり,同側の手足に及んでから対側に波及するのが特徴である(DVD 2-2). この振戦は,姿勢時や動作時にのみ現れる本態性振戦や小脳性振戦と区別しなければならない.安静時振戦は,頭頸部では振戦は口唇や顎,舌に現れることが多く,頭部全体または頸部の振戦は本態性,小脳性やジストニアによる振戦に多くみられる.本態性振戦では声(声帯)のふるえもみられる(DVD 2-8).薬剤性パーキンソニズムにおいて口唇にウサギの口のような振戦を示す病態をrabbit症候群という(DVD 7-7).2)無動・寡動・動作緩慢(bradykinesia) これらはいろいろな微候から判断できる.顔面に現れれば仮面様顔貌(mask-like face,hypomimia)となり,瞬目の回数の減少,軽度の上方視や輻輳の障害,小声症(hypophonia),声の抑揚の消失(aprosody),唾液の嚥下回数の減少による流涎などが観察される.四肢においては,手足の運動の緩慢,身振りの減少,小字症が起こり,歯磨きや,髭剃り,化粧などの動作が拙劣になったり,手の振り(arm swing)の減少した小股でゆっくりとした歩行(小歩)を呈する.体幹では畳や椅
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