2131脳性まひの療育と理学療法
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第1章 脳性まひの(リ)ハビリテーション治療―日本における流れ3第1章おける痙縮抑制の意義を認識してきました.そして近年では,ボツリヌス療法を通し,改めてその意義を理解してきました.近年,痙縮抑制に関しては,レーザー治療や髄腔内バクロフェン持続投与療法,選択的脊髄後根切断術なども,極めて少数の施設においてですが行われています.これらは,「痙縮の減少・改善を直接目指すことが,痙縮による運動障害の改善の基礎である」ことを物語っています.療育の現状と今後21. 誰が日々の療育者・リハビリテーション施行者になるべきか? 子どもに効率的な療育を行う上では,多くの例で“母親”がその役割を担う立場にならざるを得ない状況が続いてきました.例えば,十分な療育効果を得るのに週3回療法士がかかわる必要があったとし ても,それに必要な療法士の数が足りないのです.このような現状から,これまで多くの家庭で母親が療法士の肩代わりをする対象として想定されてきました.2.母子入所と社会変化 今から約20年前,「母子入所」が多くの施設で行われていました.約2~3か月の間,母子で病院に入所し,医師の診断のもとで毎日理学療法士や作業療法士がついての療法がなされ,母子保育の時間が設定され,療育を受ける,というものです.集中リハビリテーション入院の中で療法士によるリハビリテーション効果を目論むわけですが,もう1つの大切な目的としては,母親をよきリハビリテーション施行者・保育者・支援者,つまり療育者として育ってもらう,そして家庭で療育者として活動してもらう,という狙いがありました.以前はこの母子入所は申し込みから半年待たなければならないほど,多くの家族からのニーズがありました.しかし現在では,核家族化の中で長期の母子入所が可能である条件をもつ家族は激減しています.そして,母親を引き合いに出すこと自体,許されないような時代になっています.女性の社会的進出,つまり母親が当たり前に仕事をもつ時代にあって,母親だけに療育者の役割を押し付け,家庭内に押しとどめる構図になるからです.母親に療育者として育ってもらい活動してもらうことは「不当」との意見も成立するかもしれません.共働きの核家族が増え,母子入所できる条件をもつ家族が減る中で,この療育入院への希望が激減した流れは,時代的には必然と理解できます.一方,療法士の人数が増えないといった療育の社会的供給が遅れている中では,児への療育密度の低下も懸念されることになります.3.療育環境の未熟さ しかし,このような時代的変容があっても,「主に◉日本における早期療育の流れと上田法との出会い 筆者が療育現場に入るまでに,日本に導入された考え方・療育方法には,ボイタ法,ボバース法(ボバースアプローチ)があります. ボイタ法は,医師のためのコースに参加した際,ボイタ先生から直接講義を受けることができました.ボイタ先生の講義は魅力的で,得がたい経験の1つとなっています.講義内容は,その時点の姿勢反射・反応から発達年齢を割り出すもので,そのような観点で子どもの発達を診たことがなかったため非常に新鮮かつ魅力的でしたし,発達年齢・暦年齢の推測ができることに驚嘆しました.また,デモンストレーションの中で,ボイタ先生からドイツ語で話しかけられた乳児がニコニコと笑顔をつくる姿に感動を覚えました.理学療法としてのボイタ法の講義内容は考え方のみであったため,具体的に詳細を学習する機会はもてませんでした.治療効果をうまく実感できない中で,「熟練理学療法士ならではの職人技を必要とする方法がボイタ法であり,特別にトレーニングされた理学療法士のみ,その技術を持っているようだ」という認識が現在も続いています. ボバース法に関しても,医師向けのコースに参加しました.ボイタ法と同じく,理学療法士の長期研修コースのように療法技術を学んだ後に効果を論じるという機会をもたないままに,時間が経過しました.しかし,ボバース法の治療効果を実感し,有用と考え,この方法をベースに理学療法を行っている理学療法士が日本には多く存在し活動していることは知っています. これらの方法を学んだ後でも,子どもたちの状況をより一層よい方向に変えることができる治療法はないのだろうかと日々感じていた中,上田法と出会ったのです.ちょっと一言一休み1

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