2131脳性まひの療育と理学療法
7/8
第6章 脳性まひや健常人における筋緊張の定量的評価の試み43第6章減少変化に気づかないことがあります.悪化に気づかない理由として,ROM角度の計測は,経過の評価ならびに動作分析上,必要不可欠な評価項目ではないとされてきたこと,実際の歩行は股関節や膝関節の角度の小さな振れ幅の中で行われる中,これらのROMが低下することで運動機能の悪化につながるイメージが支援者・療育者側に学習されていないこと,の2つが考えられます. これらから,s-a値を定期的に観察することが必要であり,病的筋緊張状態を反映するs-a値がある程度に維持されていることが必要と考えることができます.4. 乳児期から150か月以下の学童期の脳性まひ児のspasms-angle値は,運動機能別(独歩と寝たきり)に差があるか 個人の経過を追う方法ではなく,個人のs-a値の測定データを運動機能別に多数集積し,まとめました. F,S s-a値の平均値(表14)では,独歩群は寝たきり群に比し多くの項目(F,SによるSLR,HAM,F−SLR↓ S−SLR↘F−HAM↓ S−HAM↘F−ABD↘ S−ABD↘~020406080測定月齢100120140slow stretch806040200-20020406080測定月齢100120140fast stretchs a値(度)-rt SLRlt SLRrt ABDlt ABDrt HAMlt HAM図19⑥ 症例6:脳性まひ―寝たきりのspasms-angle値の経過知的に正常なアテトーゼ主体の混合型四肢まひ児の1歳代~6歳までの5年弱の経過.上田法は未施行.本例は核黄疸が原因ではなく,原因不明例.純粋アテトーゼに近いタイプ.比較的ROMが保たれやすいアテトーゼ主体型でも,関節可動域制限・筋粘弾性の低下・筋緊張の亢進を示す例があることを示した.fast stretch:Fによるs-a値の減少が,SLRとHAMで目立っていた.HAMの経過は不安定だった.slow stretch:Fと同様に,Sによるs-a値の減少が,SLRとHAMで目立っていた.HAMの経過は不安定だった表12 独歩と寝たきり例でのspasms-angle経過の比較独歩例寝たきり例・寝たきり群に比し,s-a値は高い例が多かった・ 寝たきり群に比し,横ばい例が多い印象をもったが(図18症例5~10),急減低下を示した指標(HAM)が混在していた・ 独歩群の中でも,急激低下指標(SLR,HAM,ABD)が目立つ例(図18症例1~4)があった・独歩群に比し,s-a値は低い例が多かった・ 指標の急激な低下を示した例があり.特にSLR・HAMで目立った(図19症例1,2,6)・ fast stretchによるHAMはマイナスを示し,筋緊張亢進を示した例が目立った(図19症例1,3,4)・ 指標経過が横ばいに近かった例もみられた(図19症例4,5)表13 痙直型脳性まひにおけるspasms-angle値の推移(健常児・人との比較を通して)SLR s-a,HAM s-a,ABD s-aなどの角度は健常児・人と比し極めて小さい,つまり筋群の伸張制限,病的筋緊張状態を示す人が多い加齢により急速に角度(s-a値)の減少を示す例が多い(健常人の角度減少速度は遅い)運動機能の低下に気づかれないとき,つまり一見運動機能が維持されているときにも,角度減少が急速に起こっている例が多い.その後の運動機能低下を準備していると推測できる場合がある(p.29図13症例7,図18③症例3)加齢でs-a値低下を示していたが,低下程度の軽い例は少数だった(その中に上田法治療継続例があった.図18⑦~⑨症例7~9)上田法施行例ではs-a値改善がみられた例(例えばp.29図13症例7)が存在したが,上田法未施行例にs-a値の改善例はなかった
元のページ