2134皮膚科研修ノート
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第2章 皮膚科医の基本皮膚科の診察A79る」.このように正しく皮疹の記載ができるようになれば,これが尋常性乾癬であることは簡単にわかるようになる. 熟練した皮膚科医は読んだだけで実際の皮疹がイメージできるような皮疹の記載法を身につけており,逆に熟練者の書いた記載を見れば,皮疹を見なくても正しい診断に到達できることが多いものである.読者諸君には発疹学の重要性を理解し,正しい記載皮膚科学を身につけていただきたい.  写真を撮っただけで皮疹の記録ができたと考えてはならない.  アトラスの写真をたくさん見れば,皮膚疾患が診断できるようになると思ってはならない.DON’Ts聖マリアンナ医科大学皮膚科 相馬良直 母斑や母斑症の皮疹は,しばしば線状,列序性に配列する.この現象に注目したベルリンの皮膚科医Alfred Blaschkoは,これら線状の母斑を多数収集し,それらがある規則をもって配列していることを発見し,そのパターンを人形図上に書き込んだ.この研究は1901年に発表され長く注目されずにいたが,1976年に再発見され,以後Blaschko線とよばれるようになった. Blaschko線は母斑の走行であるので,胎生期に皮膚が形成される過程で,皮膚の細胞が増殖進展していくラインに相当するものと推定され,種々の証拠から,今日ではこの推定が正しいことがほぼ証明されている.Blaschko線は,神経支配領域を示すdermatomeや皮膚割線を示すLanger線とよく似ているが,詳細にみるといくつか異なる特徴がある.すなわち,背部中央でV字,側腹部でS字,上胸や上背で逆U字を示し,これは他に類例がない独特の走行である. その後の検討で,線状苔癬や線状扁平苔癬(似た病名だが別疾患である)などの後天性疾患のなかにも,Blaschko線に沿って出現するものがあることがわかってきた.線状強皮症は小児に多い線状の皮膚硬化を示す原因不明の疾患であるが,筆者らの検討により,これもBlaschko線に沿って出現することが示されている.これら後天性疾患がなぜ母斑と同じ走行を示すのかはわかっていないが,ある皮膚疾患を発症しやすい遺伝子変異を持った細胞が先天性にBlaschko線上に並んでおり,後天性に何らかのトリガーが引かれることにより発症するためではないかとする説が有力である.皮疹の分布から,これら原因不明の疾患のpathogenesisが推定できるという点が興味深い.(聖マリアンナ医科大学皮膚科 相馬良直)Blaschko線

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