2154EBウイルス 改訂第3版
5/8

147部分も多く,この点におけるEBVの関与に興味がもたれる.3EBVとピロリ菌 今後の胃疾患におけるEBVとピロリ菌の相互作用の検索の土台となるのは臨床研究である.双方を検討した報告は多くないが,Shukla SKらはnon—ulcer dyspepsia(NUD)100例・消化性潰瘍50例・胃がん50例において胃生検切片等での検討を行っている.EBVはEBNA1のDNA定量PCRで検索し,その結果,ピロリ菌陽性症例でEBV DNA量が多かったと報告している4).また,Cardenas—Mondragon MGらは,慢性腹痛の小児333例の胃生検標本を慢性胃炎の国際標準評価法であるシドニーシステムで評価している.EBVとピロリ菌は血清抗体で検索した.その結果,EBVのみ陽性例では軽度の単核球浸潤で多核白血球なし.また,ピロリ菌のみ陽性例では中等度の単核球浸潤と軽度の多核白血球浸潤.これに対して,EBVとピロリ菌の共陽性例では,有意に高度の胃炎がみられている.特にCag A+のピロリ菌とEBVの共陽性例では,非常に高度な単核球浸潤と多核白血球浸潤がみられたと報告しており,興味深い5). これらの報告からは,EBVとピロリ菌の双方に慢性感染している個体においては,EBVとピロリ菌が,胃粘膜における慢性炎症の高度化に関して何らかの相互作用を有している可能性が示唆される.4EBV関連胃がんの背景としての慢性胃炎 EBV関連胃がんの多くは,胃体部に存在する,リンパ球浸潤に富む未分化型主体の腺がんである6,7).このような特徴は,通常のピロリ菌陽性の慢性萎縮性胃炎を背景とした前庭部主体の分化型胃がんと異なるため,EBV関連胃がんは,一見,慢性萎縮性胃炎との関連のない発がん経路を辿るかのように見える.しかし意外なことに,自験例の検討では,EBV関連胃がんの大部分は中等度に進展した萎縮性胃炎(木村-竹本の分類でC3—O1)を背景として胃体部の胃粘膜萎縮境界近傍の萎縮側に発生していた8)(図1).このような存在部位の特徴は,EBV関連胃がんの発生が,ピロリ菌による慢性萎縮性胃炎の進展の過程において,炎症細胞浸潤などの炎症性変化の激しい場であるとともに腺管改築などの萎縮性変化のフロントでもある胃粘膜萎縮境界と強い関連を有している可能性を示唆している. では,EBVは,慢性萎縮性胃炎のどの時期に胃内のどのような部位に出現するのであろうか? EBV関連胃がんの発見後早期に,非がん胃粘膜上皮細胞におけるEBV感染細胞の検出が検討されたが,明確な結果は得られていなかった.このため筆者らは,感染細胞種の同定はできない方法ながらも客観的評価が可能な定量PCR法を用いて,慢性胃炎胃粘膜でのEBV検出を行った.Hiranoらの慢性胃炎35症例での検討では,全体の65.7%(23症例)において,5点生検のうち少なくとも1点がEBV陽性と判定された(表1).ピロリ菌検出率が高く以前の検討でEBV関連胃がんの背景にも多くみられた中等度に萎縮性胃炎の進展した例に限ってみると,92.3%(13例中12例)が生検1点以上でEBV陽性であった.さらに,そのような症例のすべての生検切片での検討では,EBV陽性切片では陰性切片に比較して好中球浸潤・単核球浸潤・萎縮が有意に多くみられた9). 一方,EBV関連胃がんの発生へとつながると考12.消化管の慢性炎症図1 中等度に進展した萎縮性胃炎(O1)を背景として発生したEBV関連早期胃がん病変M, Less, 0—Ⅱc, 34×34 mm, por1≧tub2(CLS), SM2, INFb, int, ly0, v0, pPM0(27 mm), pDM0(130 mm), pN0, ピロリ菌(+), EBER1(+).カラー口絵16参照.本来の腺境界胃粘膜萎縮境界萎縮中間帯胃底腺領域(胃体部) 幽門腺領域(前庭部)

元のページ  ../index.html#5

このブックを見る