2154EBウイルス 改訂第3版
6/8

148えられる胃上皮細胞へのEBVの感染について,Yoshiyamaらは,組み換えEBVが薬剤選択下の条件で胃がん細胞株に感染し得ることを見出した10).さらにNishikawaらは,非がん初代胃上皮培養細胞が組み換えEBV感染により不死化し得ることを明らかにした11). このような基礎的な知見と筆者らの臨床例での経験から,筆者らは,ピロリ菌による慢性活動性胃炎の経過の中で,中等度の萎縮進展の時期に炎症に乗じてEBV感染B細胞が胃粘膜に出現し,ごく低い頻度で胃上皮細胞へと感染して不死化を生じ,腺管改築の場である萎縮境界近傍において低頻度ながら定着の場を得て,EBV関連胃がんの発がんへ関与するものと推定している(図2).5炎症性腸疾患とEBV 潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis;UC)やクローン病(Crohn’s disease;CD)は,欧米に多く日本でも増加しつつある消化管の原因不明の難治性慢性炎症性疾患であり,類似点の多い疾患群として炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease;IBD)とよばれる.IBDは20歳前後に発症し,再燃や緩解を繰り返しつつ長期に経過することが多い.UCは大腸の粘膜層中心の炎症であり,CDは回腸に多いものの全消化管に生じ得る全層性の肉芽腫性炎症である.治療においては,ステロイドなどが用いられることが多い.IBDの病因は不明であり,自己免疫や慢性感染の関与が疑われている12). 従来,抗酸菌や麻疹ウイルスの感染とIBDの関連については多くの検索がなされてきた13).サイトメガロウイルスやEBVに関してもPCR法などで検討されているが,他の多くのウイルスと同時に検索し,陽性のものもみられたといった不明瞭な報告が多かった.筆者らは,IBDが「原因不明で自己免疫機序や感染の関与が疑われる慢性炎症性疾患」であり,EBVの関与を検索すべき条件を満たすこと,ならびに,EBV感染細胞を排除できずリンパ腫を生じるある種の新世界霊長類がUCの自然発生モデル動物であることなどから14),EBVとIBDの関連に強い関心をもち,IBD症例の大腸手術標本におけるEBVのEBER1—ISHによる検索を行った.その結果,UCの5例中3例(60%)およびCDの11例中7例(63.6%)の大腸炎症部で比較的少数ながらEBER—1陽性Bリンパ球と組織球様細胞を同定した(図3)15).EBER—1陽性細胞は,対照とした大腸がん症例の非がん臨床表1 慢性萎縮性胃炎の進展程度とEBV感染およびピロリ菌感染慢性萎縮性胃炎の進展EBVピロリ菌陰性(-,±)陽性(+,++)陰性陽性軽度(n=3) 1 2 (66.6%) 2 1(33.3%)中等度(n=13) 112*(92.3%) 310(76.9%)高度(n=19)10 9 (47.4%) 910(52.6%)計(n=35)1223 (65.7%)1421(60.0%)EBVのコピー数…-:0, ±:102>, +:103~4, ++:105< コピー/μg.胃の5か所の生検のうち少なくとも1か所でEBV DNAが陽性の場合はEBV陽性とした.ピロリ菌陽性についても同様に評価した.*:中等度に進展した慢性萎縮性胃炎で有意に多くの症例でEBVが検出された(p<0.01).(文献6より改変)図2 EBV関連胃がんの背景としてのピロリ菌陽性慢性胃炎(筆者らの仮説)ピロリ菌持続感染による慢性胃炎↓EBVは胃粘膜萎縮中間帯(炎症細胞浸潤・腺管改築)でリンパ球から上皮細胞へ感染し発がんへ関与?↑EBERの関与?(IGF?)メチル化?

元のページ  ../index.html#6

このブックを見る